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オークの歌で、現場が泣いた。――数字で傷つけた元商社マン、解散寸前の異種族アイドル七人を武道館へ  作者: 他力本願寺


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第21話 純白の王者

大型モニターに映し出されたその光景は、息を呑むような完成度だった。


 純白の衣装に身を包んだ五人の少女たち。彼女たちのダンスは指先の角度から毛先の揺れに至るまでミリ単位で制御されており、複数人で踊っているにもかかわらず、まるで一つの完璧な機械時計を見ているかのような錯覚に陥る。


 歌唱には一切のブレがなく、フォーメーションの転換速度は肉眼で追うのが難しいほどだ。さらに、曲の合間に挟まれるファンサービスすらも緻密に計算され、会場の熱狂を完全に支配していた。


 五洲エンターテインメント所属の人間女性五人組トップアイドル、『CROWN LILY』。


 そのパフォーマンス映像を事務所のモニターで見ていたユニティのメンバーたちは、深い沈黙に包まれていた。


「……これが、私たちのライバル」


 シルヴィアが腕を組み、険しい表情でモニターを睨みつける。彼女の目には、かつてないほどの強い焦りが浮かんでいた。


 CIR予選の通過条件は、ブロック内で十二位以内に入ること。五万ptはすでに参加資格の判定に使われ、ここから競うのは予選期間中の応援行動とライブ評価を合算した別のスコアだ。


 五万ポイント作戦で生まれた支持が新たな応援行動へ繋がり、現在のユニティの順位は十八位まで上昇している。しかし、このままの勢いだけで突破できるほど、CIRの壁は低くない。


「隙がないわね。歌唱力もダンスも、私たちより遥かに上よ」


 カレンが珍しく弱音を吐き、ニコはプレッシャーからか、尻尾を足の間に挟んで小さくなっていた。ゴルガもまた、自分の大きな手を見つめながら言葉を失っている。


 個性の強さだけなら、ユニティは誰にも負けない。しかし、純粋な「アイドルの完成度」という土俵において、CROWN LILYは圧倒的だった。


「マネージャー、このままでは勝ち目がありません」


 ミラが触角を青ざめさせながら、ユウトにタブレットを突きつけた。


「彼女たちのパフォーマンスの誤差係数はほぼゼロです。対して、私たちは毎回のライブで誰かしらがリズムを外し、立ち位置を間違えています。この圧倒的な品質の差を埋めない限り、十二位以内への浮上は論理的に不可能です」


 ユウトはミラのタブレットを受け取り、静かに首を振った。


「品質で勝負してはいけない」


「えっ?」


「相手の土俵に上がって、完成度を競うような真似はするな。俺たちは、絶対に彼女たちのようにはなれない」


 ユウトの言葉に、メンバーたちが顔を上げる。


「俺たちは、揃わない七色だ。不格好で、毎回トラブルが起きて、それでも互いの違いを消さずにステージに立っている。その『歪さ』こそが、俺たちの最大の武器なんだ」


 ユウトはモニターに映るCROWN LILYの映像を指差した。


「彼女たちは、完成された美しい舞台を作る。だからこそ、俺たちは『生身の人間』として勝負する。相手を貶したり、比較して自分たちをよく見せようとする比較宣伝は一切禁じる。観客が、なぜ完璧な彼女たちではなく、不揃いな俺たちを選ぶのか。その理由を磨き上げるんだ」


 ただし、『揃わない』と『練習不足』は違う。


 ユウトは映像を冒頭へ戻し、今度はCROWN LILYの歌やダンスではなく、曲間の十五秒を再生した。


 五人は客席へ手を振りながら、水を受け取り、呼吸を整え、次の定位置へ音もなく移動している。スタッフが機材を入れ替える間も、観客の集中は切れない。


「見るべきはここだ」


 ユウトが映像を止めた。


「他人の音と混ざらないことと、合図に遅れることは別だ。自分の動きを選ぶのと、次の人へ見せ場を渡せないのも別だ。型は真似しない。だが、転換の正確さと、客席を置き去りにしない技術は学ぶ」


 メイプルは、無音で進む機材交換を見て腕を組んだ。


「ステージの音を殺さない裏方だ。これは価値がある」


 ルナは、五人が位置を変える直前に、必ず視線で合図していると指摘した。ニコはそれを聞き、自分たちの『視線のバトン』を、もっと確実に渡せると顔を上げた。


 七人はデビュー曲を繰り返した。振付は揃えない。それでも、次のメンバーへ視線が渡るまでは自分の見せ場を終えない、トラブル時の停止サインを見落とさない、舞台を降りるまで観客へ表情を届ける。三つの基準を確認する。


 初回は十七秒かかった曲間の転換が、五回目には十二秒まで縮まった。整然さのために個性を削ったのではない。個性を客席へ届け切るために、共通の技術を磨いたのだ。


 その日の午後、ユウトはCIR予選のスケジュール表と、CROWN LILYの映像分析を並べていた。完成度の差は一朝一夕には埋まらない。それでも、相手を貶める比較広告に逃げず、七人を選ぶ理由を舞台の上で磨くしかなかった。


 その時、レッスンスタジオの重い防音扉が開いた。


「失礼します」


 真っ白なレッスン着に身を包んだ、CROWN LILYの不動のセンター、白鳥さくらが立っていた。


 王者自身の予期せぬ訪問に、スタジオの空気が一瞬で張り詰めた。

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