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5話 魔王軍の申請書は不備がありません

魔王軍の申請書を確認します。

敵味方は、審査項目ではないようです

5話 魔王軍の申請書は不備がありません


「……不備がありませんね」


俺がそう言った瞬間、辺境神殿の受付が静まり返った。


勇者アレクシス・グランヴェルは、信じられないものを見るような顔で俺を見る。


「魔王軍の申請だぞ!?」


「はい」


「敵だぞ!」


「はい」


「なぜ審査している!」


「申請が来ていますので」


「敵の申請など見るな!」


「敵味方は審査項目ではありません」


受付の空気が、さらに冷えた。


リナリアが小さく呟く。


「敵味方は、審査項目ではない……」


「感心するな!」


アレクシスが怒鳴った。


聖女ルシアは青い顔をしている。


賢者セドリックは、水晶板の画面を横から見て、眉を寄せた。


「……添付資料が揃っているな」


「セドリック!」


「事実だ。地図、避難計画、被害予測、撤退条件、事後報告書式まである」


戦士ライネルも低く言う。


「俺たちの申請より細かい」


「お前たちまで何を言っている!」


アレクシスは顔を赤くした。


俺は申請内容を確認する。


対象は王国軍の補給拠点。


民間区域は対象外。


持続時間は十二分。


白旗確認時は即時停止。


治療施設への延焼も禁止されている。


全面承認はできない。


だが、条件付きなら通せる。


俺は水晶板を操作した。


《黒炎結界:条件付き承認》


《条件一:民間区域への拡大禁止》


《条件二:持続時間は十二分以内》


《条件三:白旗確認時、即時停止》


《条件四:治療施設への延焼禁止》


《条件五:使用後六時間以内に被害報告》


《条件違反があった場合、以後の大規模権能申請を停止》


送信。


水晶板が淡く光った。


《承認されました》


「お前!」


アレクシスが一歩踏み出す。


「本当に魔王軍の攻撃を通したのか!」


「条件付きです」


「そういう問題じゃない!」


「民間区域への拡大は禁止しています」


「敵を助けたんだぞ!」


「申請内容が適正でした」


「適正なら何をしてもいいのか!」


その言葉に、俺は少しだけ黙った。


適正なら何をしてもいいのか。


それは、簡単な問いではない。


だが、今の答えは決まっている。


「いいわけではありません」


「なら!」


「だから条件を付けました」


アレクシスは言葉を失った。


その時、水晶板が震えた。


魔王軍からの返信だった。


《条件付き承認、確認》


《条件を遵守します》


《使用後六時間以内に報告します》


《審査に感謝します》


リナリアが画面を覗き込む。


「お礼、言ってますね」


「言わなくていい!」


アレクシスが叫んだ。


「魔王軍だぞ!」


「でも、お礼を言ってます」


「そこじゃない!」


俺は返信を閉じた。


これで、この申請は処理済みだ。


次の書類に手を伸ばそうとした時、また水晶板が震えた。


今度は神殿省本庁だった。


《緊急通達》


《魔王軍第三軍団による黒炎結界の承認について》


《承認者ロレンツ・アシュフォードは、至急説明を提出してください》


リナリアが不安そうに俺を見る。


「ロレンツさん……大丈夫なんですか?」


「説明を求められています」


「怒られてませんか?」


「怒られる可能性はあります」


「ええ……」


俺は返信欄を開いた。


《申請内容に不備なし》


《民間区域への拡大禁止、持続時間制限、撤退条件、事後報告義務を付した上で条件付き承認》


《現時点で条件違反なし》


送信。


少し考えて、もう一文を加えた。


《敵味方は審査項目ではありません》


水晶板の光が消えた。


勇者は俺を睨んでいる。


聖女は俯いている。


賢者は考え込んでいる。


戦士は黙っている。


リナリアは、受付机の上の申請書を見つめていた。


俺は次の書類を取る。


『橋の補強願い』


申請理由。


橋が危ないので何とかしてください。


俺は、少しだけ息を吐いた。


世界は、思ったより忙しい。


ここまでありがとうございます。


魔王軍の攻撃ですら、権能を使うには申請が必要でした。

では、その申請を受け付けている神殿省とは何者なのか。


少しずつ、そのあたりも見えてくる予定です。


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