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43 ライカ 後編

 

 深夜に戻ってきたと思ったら、ポージュとアルフレッドを連れて行ってしまった。

 魔物の集落を見つけたと言っていたが、何故あの二人を‥‥


「う、う~ん、‥‥‥‥あれ? ここどこだっけ?」

 失神して白目を剥いていたフレックス隊長の目に、ようやく黒目が帰ってきた。


「覚えてないんですか?」


 少しだけ考える様子を見せてから

「村に来たことは知ってるんだけど~」


「そこからですか」

 駄目だこの人

  

 取りあえず大体の出来事を隊長に教える


「なるほど魔物の集落が出来ていて、それが見つかったんだね、今は交代で夜番をしていると‥‥分かった今日の夜番は僕ががやろう」


 フレックス隊長は塔の下にある屠殺場へと降りて行った。

 あの場所は、囮として誰か一人居なければならないらしく、交代で村の人間が担当をしていると聞いている、


 村の人がいるから、ここで待っていてもいいと言われたんだけどな、記憶が無くても、多分隊長の「勘」がここにいるなと警告しているんだろう。


「レンダ」

 自分以外の隊員は寝袋でもう就寝している、起きているのは自分と弟のレンダル、丁度いいので気になったことを一つ聞いてみた

「なに? 兄貴」


「世話係ってなんだ?」


「目や耳を使った広域探知をしている時、誰かが来たら教えるのと、あとは強制的に威圧に慣れるため、かな?」


「最初はお前も、自分達みたいになったのか?」


「ふふ、そりゃあもちろん、怖くて窓から飛び降りようかと思ったよ」


「そうか、大変だったな‥‥」

 レンダルはウチの兄弟では末っ子になる、今年でちょうど15歳になるのか? 家は一番上の兄貴が継ぐとして、他の兄弟は他所に就職をしている、自分は軍に入ったし、でも、こいつはどうするんだろう? まだ決めてないのかな


「レンダ、お前は将来どうするんだ、もう決めてるのか?」


「そうだね、軍に入ろうかと思ってるんだよ」


 一応は考えてはいるんだな

「なら一緒に任務を受ける機会があるかもな」

 無いとは思うが


「陸軍になるとは限らないだろ? 兄貴と違って俺は魔法契約が出来なかったら素直に海軍に行くよ」


 そんなこと言われると、自分が素直じゃないみたいじゃないか


 その後もレンダルとは家族の事、そしてレンダルの今後の事などについて色々と話をした、何年振りかの再会で会話が弾み、あっという間に時間が過ぎていった。

 そして、時間は午前3時くらいだったか? 突然窓からグースが戻ってきた。


 窓から入ってきた瞬間、またあの威圧に圧倒される


「ん? レンダル起きてたの? 寝てても良かったのに」


「何かあった時のために一応は待機してました、調査はどうでした?」


「ああ、失敗した」


 失敗した!? 見つかったってことか‥‥なら!

「ポージュとアルフレッドは!」

 二人はまだ帰って来ていない、あの二人に何かあったんじゃ


「あの二人は今こっちに向かってますよ、俺は空を飛べるから一足先に戻ってきただけです、レンダル、『探知』に入るからもう少しここにいてもらえるかな? 場合によっては目と耳を使うかもしれないから」


 グースは鳥の召喚獣を呼び出し、鳥が纏っていた布をはぎ取り、背中に皿の形をした魔石を乗せ、窓から放り出した。


 ・・・・・・・・・ 


 ・・・・・・


 ポージュとアルフレッドが戻って来たのは、少しだけ空が明るくなってからだった、調査が失敗した理由は、夜中にトイレに行こうとしていた魔物に、自分の召喚獣が蹴飛ばされたから、どことなく間抜けな理由で聞いた時はアルフレッドと一緒に笑ってしまった。

 ただ、ポージュは何やら複雑そうな顔をしていたけど。


 自分はそのまま日中の監視任務に当たる、よく考えてみると昨日の朝目覚めてからずっと起きていることになる、昼食を取った辺りからもう限界に来ていたけど何とか交代の時間まで乗り切った。ポージュとアルフレッドは、今日も調査に向かうらしい、夕方には出発すると言っていた。


 自分は二人の見送りも出来ず、交代の時間と同時にそのまま深い眠りに付いた。


 ・・・・・・・・・・


 次の日の朝、フレックス隊の全員が監視塔の最上階にいた。


 曇りガラス越しに、昨日調査した結果の報告を受ける


「洞窟の中はかなり広く、いくつかの空洞がありました。一方で魔物の方ですが、メスは戦闘自体は大したことは無いと思っていましたが、実際に目にして思った事は、オスには劣るものの、あの体付きからしてかなりの力を持っていると思います。

 つまりメスも戦力に入るって事です、戦闘に参加できるであろう個体全てを入れると、数は約250体ほど、一番の最下層には20体の子供もいました。

 まともにやり合うなら、分隊・小隊では不可能です、最低でも中隊、出来るだけ被害を出さないようにだったら、大隊クラスじゃ無ければ無理でしょう」


 絶望的な数がグースから告げられた、250体という数字がもうすでにおかしい、一般的な魔物の集落は大きい物で100~150体になる。

 しかし今回の変種が作った集落は、戦闘が出来るであろう個体だけで250体だ。


「全体の数になると300以上になるでしょう、ここコンセの村で『探知』を始めてから変種以外の魔物は発見できませんでした。つまり餌は変種以外の普通の魔物などでしょう、その魔物も食い尽くしたのか、段々と外に行動範囲が広がりつつあります、今現在は一度に数体までしか現れませんが、そのうち本格的にコンセの村も魔物の行動範囲に入ってくるでしょう」


 レンダルが手を上げる

「でも、魔物を仕留めるための屠殺場もあるし、壁だってあの厚さだし、そんなに心配はないと思うんですが」

 

「あの罠はせいぜい4体、無理をして5体程しか一度に処理できない、これが連続で来られると処理追いつかなくなる。

 それまで人を囮にして魔物の注意を引きよせ、罠に落としていたんだ。これが一気に来られて処理しきれなくなると、魔物の注意は壁に向く、ライカンスロープぐらいなら抑えられるけど、サイクロプスになるとあの壁は持たない、一か所でも破られたらこの村は終わりだよ」


 自分で作った物だからよく分かっているんだろう、グースは丁寧に説明してくれた。


「フレックス、本部に連絡してくれないかね、要請しても来ないとは思うけどね」


 ポージュが言った通り、軍は動かないと思う、最近の軍は損得で動いている、価値が無いとなると非情に切り捨てるだろう、自分の育った村だが今回ばかりはどう考えても無理だと思う、昨日のサイクロプス2体を倒すのに10分もかかった、これが魔物の集落を潰すとなったらこの人数では到底不可能だ、もしそれで村が襲われるとしても今の軍に、村一つのために大隊を出すとは思えない、せいぜい後方に避難しろと言うくらいだろう、後方には移転門の要塞がある、そっちのほうがしっかりとした作りになっているし、兵の数もそろっている。


「取りあえずは連絡してみるよ、でもな~、無理だろうな~、‥‥ライカ、その時は一緒にこの村の人に説得してくれるかい?」


「分かりました」

 自分に出来るのはこの村を捨て、逃げるための説得をすることしかできない、この村を守る為に軍に入ったんだけどなー‥‥、流石にあれは、まともにやったら村の人どころかこの隊に被害が出る


 隊長は本部と連絡を取るため、塔を降りて行った、ここに来る時に乗って来た軍用車両に備え付けの通信機を使うためだ


「ライカ、あんた随分あっさりしてるんだね、自分の村だろ?」


「出来るなら何とかしたいんですがね、それに軍が動いてくれるかもしれないでしょ?」


 言ってはみたが、軍が動く可能性は少ないだろう、弟のレンダルはさっきからずっと下を向いていた、軍に入隊すると言っていたが‥‥、軍がこの村を捨てたとなった時、その考えは変わらないだろうか?


 仮面を掛け、曇りガラスの裏にいるグースの表情は分からないが、軍が動く動かないとは全く関係ないようなそぶりで、鳥型の召喚獣を『探知』に向かわせていた。


 ・・・・・・・・ 


 ・・・・・・



「‥‥‥‥やっぱりかい、そんな気はしていたんがだねぇ」


「マシェルモビアにそこそこ動きがあるから、人員は割くことが出来ないんだってさ~、全くイヤになっちゃうよね‥‥」


 予想通り軍は動こうとはしなかった、これでこの村の運命は決まってしまった。残りの時間、魔物の行動範囲が広がり、この村がその範囲に入る前に、何とか村の人達を避難させなければならない。


 若い人はまだいいけど、年寄り達は嫌がるだろうな‥‥どうやって説得するか。


 「では、俺達で何とかしましょうか」

 皆が一斉に発言した人物の方を見る、発言したのは曇りガラスの裏にいるグースだった。


「‥‥何とかって言ったって、どうするのさ? あんたが最低でも中隊じゃなきゃ無理だって言っただろうに、‥‥あんたまさか、あの姿になろうとしているのかい?」


 ポージュのその言葉で、その場にいた全員が息を飲む、この国のすべての国民が恐怖したあの姿を思い出し。


「あの姿?‥‥ああ、あのイカした姿の事ですか、残念ながらあの姿には成れないんですよ、挑戦はしてみたんですがね」


 イカした姿? あれが?


「中隊・大隊ってのはまともにやり合った場合の話ですから、だからやり合わないようにするんですよ、うまくいくとは限りませんが、俺はこの村を守らなければならない理由がありますから」


 ずっと俯いていたレンダルの顔がぱぁーっと明るくなる、急にいそいそと、クオルシを入れだした、普通の人にそれをやったらただの嫌がらせだけど、グースは何やらクオルシがお気に入りらしいからな、しかし、何故かアルフレッドも「自分のもお願い出来るかな?」と言っている、クオルシを飲むの?


「ちょっと連絡を入れますので待っててください」


「軍に連絡するのなら、軍用車に連絡機があるから使ってもいいよ~」


 フレックス隊長が、グースにそう言った


 失神させられた相手にやけにフレンドリーだな、と一瞬思ったが、記憶が飛んでるんだったなこの人は。


「いえ、連絡は軍にではないので、ここにある通信機で大丈夫です」


・・・・・・・・・


 ・・・・・・


「‥‥ええ、なので3日以内に持って来てもらいたいんですが、竜翼機で━━え? それだと困ります、どうしても必要なんですよ‥‥いや、そうじゃなくてですね。あっ、なるほど、そういうことですか、誠意が足りないってことですね? 分かりました、これから直接そちらに行っ‥‥あ、そうですか、ではお願いします」


 ガチャリと通信機の受話器を置いた。


「首相とは話が付いたので、準備が出来るまで待っていてください、それとレンダ、村の人にお願いして木を4本ほど切って来てもらっていいかな?」


「分かりました」


「フレックス隊の人達もそれまで自由にしてください、ここ使ってもらってもいいですから、暇だったらそこの裏に小説とか入った箱があるんで好きに読んで下さい」


 グースは鳥型の召喚獣を出し「昼になったら起こしてね」と言った後、そのまま眠りについた。


 隊長は夜番だったから寝ると言い、アルフレッドと一緒に駐留部隊の宿舎に行った、他の隊員は屠殺場の方へ降りていき、自分はレンダルがいるからここに残ることにした。 

 一方でポージュは小説を漁っている


「あったよ、続巻をみつけたよ!」

 嬉しそうなポージュの声がする




 ◇◆◇◆◇



 準備が出来るまでの3日間、グース‥‥、いや、皆がハヤトと言っているのでこれからはハヤトと呼ぶことにする、ハヤトは何やら、やたらと作り物をしていた、人工魔石に付与をしたり、何に使うのか分からないが、細長い板? のようなものを作ったり、本人は台車だと言っていたがタイヤが無い。


 この3日間で現れたのは1体のサイクロプスのみ、落とし穴に落ちたとたん、アルフレッドが最初にここに来た時に見たあの『雷』魔法を放ったのは焦った。

「あとはよろしく」

 と言ってそのまま倒れたが‥‥、いつの間にあんな魔法を使えるようになったんだ。


 自分はこの日も見ているだけで何も出来なかった、魔法が使えないのはしょうがないが、流石にやることが無いと、ちょっとこたえる‥‥、なので倒した魔物を引き上げる仕事を手伝ったり、解体をしたりしていたが‥‥、正直、硬い。解体するのも一苦労だ、どれほど硬いか、許可を得て自分の愛用している刀で、死体を切りつけてみたが、肉には食い込むものの、一撃で致命傷を与えられるような深さには及ばなかった。

 こんな奴らが250体も‥‥、もし、ハヤトの策がうまくいかなかった時は、やはり村は捨てなければならいようだ。



 ◇◆◇◆◇



「『収納』は一旦全て空にして、これを入れてください」


 先ほど竜翼機で届いたばかりの荷物を、『収納』に入れている他の隊員達、自分は『収納』すら持ってないのでこのことは関係ない、しかし、今回は自分も出番がある、一応護衛だ。

 自分どころか『収納』持ちの村の人も数人同行する、荷物は結構な量を運ぶことになっている。


「ポージュは召喚獣の『トクポン』とも契約していましたね、『トクポン』にはこの木材を乗せてください」


 8本脚の『トクポン』を呼び出し、『水魔法』で水分を抜ききった木材を体に括り付けていた。

 ハヤトが台車だと言い切っていた、ただの板にも大量の木材が乗せられている。


 木材を乗せ終わると、ハヤトの目の前には黄色の魔法陣が浮かび上がり、中から茶色と黒色の小さなダイヤウルフのような生き物が召喚された。


 あっ、かわいい


「「あら~」」

 隊長とポージュの声がそろう、二人ともニッコリだ


「仕事だな主人」

「何なりと言いつけて下さい」


 フレックス隊全員の顔から表情が消え、真顔になった


 召喚獣って喋れたか? 誰もがそう思いチラリとポージュを見る、ポージュは口だけをパクパクさせていた。


 普通‥‥喋れないよな?


「今日は大事な仕事だぞ、この台車を引っ張って欲しいんだ、この仕事が終わったらお前たちが欲しがっていたご褒美を上げるからな、がんばるんだぞ」


「「ギャオン! ギャオン!」」


 これでもか、というくらい尻尾と尻を振って吠えまくっている


 普通に吠えてるよな、さっきのは聞き間違いか‥‥


 タイヤも付いていないただの板を、どうするのかと思ったが、ハヤトが板に手を当てるとフワッと浮き上がった、『重力』魔法を掛けているらしい、台車に触っている間は浮かんでいることが出来るようだ


「ではそろそろ出発しましょうか」


 こうして魔物の集落に向かい歩いていった



 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・


 ・・・・・



「ここから集落の圏内だと思ってください、声は出さないように、足音には気を付けてください」


 キラーラビットの、耳のような魔石を頭に乗せたハヤトがそう言ってくる、魔法が使えない自分でも分かる、アレは『探知』の能力を増幅する物だろう、でも分からないこともある、何であの形なのだろう? それにあれは‥‥天然魔石? いや‥‥まさか‥‥‥‥


「でもねハヤト、その洞窟の中にはどうやって入るんだい? 知能の足りない魔物でも見張り位はいるだろう?」


「見張りはいませんよ、自分達以外は食い尽くしたからでしょうね、安心して寝てますよ、中は大広間のような広い空間があり、その他に5つの空間、夜は大広間には一匹もいません、5つの空間‥‥もとい寝床部屋に皆で雑魚寝しています、そこに、この届けられた荷物を気付かれずに置くことが出来れば成功だと思ってください」


 ハヤトの『探知』に頼りながら、少しづつ洞窟の中にある集落に向かい進んで行った


 ・・・・・・


 洞窟の目の前までくると、流石に皆緊張の表情を浮かべていた。

 特に一緒に荷物を運んできた村の人達は、風の吹く音にさえ怯えているようだった。しかしそれは自分達も同じ、魔物と戦う機会が多い自分達も魔物の怖さは知っている、どこから出てくるのか? どこかに潜んでいるんではないか? そう考えただけで足がすくむことがよくある。

 

 その点、『探知』が使えるハヤトや、アルフレッドは感じることが出来る分、精神的に楽かもしれない、ハヤトはさっきのキラーラビットのような耳の形をした魔石を外し、軽装の兜のみになっていた。


「‥‥‥‥では、侵入します‥‥」


 ほんの少しだけ、足元を照らすように『照明』魔法が掛けられ、ゆっくりと洞窟の中に入っていく、中は徐々に下に向かうように傾斜が付いていた。

 

 魔物独特の匂いが鼻の中に入ってくる、徐々に濃くなる匂いに連れ、額から汗が噴き出してくるのが分かる、いくら魔物との戦闘は慣れてるとはいえ、相手は魔法が殆ど効かない変種、しかも刀が殆ど通らないという、そんなのとこの狭い洞窟の通路で出く合わしたら‥‥

 

 自分はフレックス隊の前衛を任されている、魔物との戦闘になったら真っ先に前に出て、戦わなければならない、はたしてその時、後ろの皆を守れるかどうか‥‥


 足元に気を付けながら進んで行くと突然開けた場所に到達する、大きな空洞になっている目的の場所はここだろう、左右を見渡すと通路らしきものが見える、これは自然に出来た物か? あの先に魔物達が‥‥


 ハヤトの召喚獣が、広間の中心までタイヤの無い台車を引っ張ってゆき、ゆっくりとハヤトは『重力』魔法を解除して台車を下ろした。

 その後、ポージュの召喚獣『トクポン』に積まれていた木材も、次々と降ろしていく。


「‥‥‥‥『収納』に入れてある荷物をここに降ろしてください‥‥」


 手を貸してくれている村人の物から先に降ろす、そしてフレックス隊、ハヤトと次々に『収納』から荷物を出した、その時


「動いた」

 との言葉と同時に少しだけ照らしていた『照明』魔法が消え、辺りは暗闇に包まれた、洞窟の右側の通路から


 タッ   タッ   タッ


 と、近づいてくる音がする、ここで見つかる訳にはいかない、村人もいるし、周りは250以上もの魔物の腹の中にいるのと一緒だ、もし助かるとしたら、召喚獣で逃げることが出来るハヤトとポージュ、そしてポージュの召喚獣に乗れる誰か一人、それ以外は全滅だろう


 ここは自分が向かってくる魔物を!


 身を乗り出そうとしたとき、腕をガッ! と掴まれた


「‥‥動くな、ライカ‥‥」


 隊長の声がして引き留められる、いつもの間延びしている声ではなく、頼りになる時の隊長の声だ、真っ暗な中、足音だけが響き、広間にまで足音がした時


 グッ!


 と小さな声がした


 声がした場所が少しだけ明るくなる、アルフレッドが『照明』を使ったのだろう、その場所が『照明』に照らし出させた時

 そこには、ハヤトがライカンスロープの口を後ろから鷲掴みし、紫色に光る武器で喉を掻き切った後だった。

 ハヤトはすぐさま殺した魔物を壁に押し付け、『土』魔法で埋める、その後すぐ辺りの飛び散っていた血を消す為に、アルフレッドが『洗浄』を掛けた。


「‥‥続けましょう」


 前からこの隊に居たかのように、自然な流れで魔物を倒すハヤトに感心する、自分以外のフレックス隊全員が、ハヤトが動くことが分かっていたかのようだ


 分かってなかったのは自分だけだった‥‥


 ・・・・・・・


 ・・・・・


「ライカ、君は前に出過ぎないで少し周りを見た方がいいかもね~」


 結構前にそう隊長から言われたことがある、自分は魔法が使えない、なので前に出て刀を振るうしか出来ない、だから前に前にと出て行っていた


「君が前に出過ぎるとね~、周りも君を補助するために前に出なきゃならなくなる、君はたま~にそんなところがあるから、その内大変なことになっちゃうよ~」



 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・



 なぜだろう? 急にそんなことを思い出した、もしさっき飛び出したらどうなっていたのだろうか? きっと魔物は殺せただろう、でも魔物は大人しく殺されただろうか? 死ぬ瞬間に声を出したりしないだろうか? その場合ここにいる人達は‥‥


 ハヤトは『探知』持ちだ、だから暗闇でも相手の位置が分かった。だから後ろから迫ることが出来た、そしてあの手際‥‥正直凄いと思う

 

 動こうとした自分だけが周りを見てなかった、動かなかった他の隊員達は周りが見えていた。


 そんなことを考えながら、作業が終わるのを待っていた。


 ・・・・


「‥‥帰還します、先に出てください」


 全ての荷物を広間に置き終わり、足音に気を使いずつ入り口に向かって移動する、列の最後はハヤトだ、ハヤトは他の人が入り口に向かって広間に全員移動したのを確認すると、荷物に向かって火弾数発を放った


 ボゥ!


 荷物の中身は油、ハヤト曰く物凄くしつこいくらい燃える油だそうだ、一瞬で火が広間に広がり、熱が入り口に向かって昇ってくるのが分かる


 ハヤトは火弾を放った後、土で壁を次々に作って入り口に向かう通路を塞いでいく、その他にも何かの魔法を使っているようにも見える、洞窟の入り口まで来た時


「お疲れさまでした、もう皆さんは帰ってもいいですよ、ゆっくり休んでください」


「帰ってもいいって、あんたはどうすんだい?」


「煙が漏れてないか確認しないといけないんで、暫くここら辺にいますよ」


「? そうかい、分かったよ、気を付けるんだよ」


 ハヤトがもういいと言っていたが、ホントにこれでいいのだろうか? 


ポージュが

「なら先に帰らせてもらうよ、本当にいいんだね?」


「ええ、後は様子をみるだけですから」


 ・・・・・・


 村へ帰る途中


「何で彼はわざわざあんなことをしたんだろうね~、魔物を燃やすなら『火』魔法でやった方が早いと思うんだけど~、アルフレッド、君はどう思う?」


「燃やすと言っても、罠に落ちた魔物に散々放っても駄目だったんだから、魔法自体を使っても無理なんじゃないかな?」


「う~ん、そうなんだよね~、結局あれは何が目的だったのか‥‥」


 そんなことを言っていた時、周りが異様に明るくなっていた


「おい、アルフレッド、どんだけ強い『照明』魔法使ってんだい、そんなんで村まで持つのかい?」


「え? 俺特に強くしたりとかしてないぞ‥‥、って何だこれ? 昼‥‥になったのか‥‥」


 あまりの明るさに自分は思わず空を見た、そこにはいくつもの光が自分達を照らしていた

「隊長、空、空見てください!」


「え~、空っ‥‥てなんだこれ!」


「昼間と変わんないじゃなか! まだ夜中なはずなのに、何が起きてるんだい!? ん? んん~‥‥‥‥なぁ、アルフレッド」


「オウ、俺もそう思う」


「あんた後で教えてもらいなよ、出来るかもよ?」


「イヤ、あれはだめだな、どう見ても力業でやってるだけだ、魔力が足りな過ぎて俺には出来ん」


「二人は分かるのかアレが」

 一瞬で昼間のように明るくなったこの状況を


「どうせハヤトだろうさ」

「あいつしかいないからな、そんなことより早く戻ろう、そのうちハヤトも帰ってくるだろう」


 この強烈な明るさは村まで届いており、自分達はより安全に村に帰ることが出来た。

 村に着いた時、あまりの明るさに村人全員が外に出て、光の元を見ていた、あの場所では木が遮蔽物になって分からなかったが、監視塔から見た光は一つではなく、100は超えるであろう数であった、それは大地を照らす太陽のように、辺り一面を真昼に変えていた。

 そして、ずっと奥には本物の太陽が昇り始めており、大地だけでなく空も明るく染めていった。


 その明るくなる空の下に、小さなものが辺りを旋回するように飛んでいるのが、微かに見えた。


 ◆◇


 2日後の正午、自分達は洞窟の前にいた


「では行きましょうか、もしかしたら生きているかもしれないので、準備はしていてください」


 そう言い、ハヤトは昨日魔法で埋めた洞窟の土を魔力に戻していった。


「『硬化』と『耐壁』も同時に掛けてたんで少し時間はかかりますよ」


 なんて言っていたが、かなりの速さで土にした場所を解除して行く、そして


「これが最後の場所ですね、ここを外せば火をつけた場所ですね、先に言いますけど驚かないでくださいよ」


 最後の場所を解除した時、解除した場所からサイクロプスが雪崩れ込んできた


「ハヤト下がれ!」


「いえ、もう死んでます」


 ハヤトに届くまでもなく、サイクロプス達は次々にその場に倒れた、その顔は苦悶に満ちた顔をしている


「少し入り口の方に戻りましょう、まだ入るのは辛いでしょうから」


 入り口に戻ると、ハヤトは洞窟の中に向かって『風』魔法を使い、洞窟内に風を送り込んでいた


「なぁハヤト、何であの魔物達は死んでたんだ? 『火魔法』を当てられても大丈夫な奴らだったんだぞ? お前はどうゆう仕掛けをしたんだ?」


 アルフレッドがどうやったか興味があるらしく尋ねる、自分だって興味がある、蒸し焼きにしたのかな?


「この俺達が呼吸して吸ってる空気ってね、種類があるんですよ、その内の一つをですね‥‥‥‥‥‥あー、んー‥‥‥‥」


 ハヤトは何やら少し考えていたが、納得のいく回答が頭の中に出てきたらしく、笑顔で


「 喰った 」


 バタリ!

 隊長が急に倒れ、その場にいた全員が真っ青な顔になる


「あんたがそれを言うとシャレにならないんだけどねぇ‥‥‥‥」

 ポージュが心臓を抑えている、ポージュももう年なんだからそのまま‥‥


 ギロリと睨まれたような気がするので考えるのをやめる


「それは俺達が習得できないってことだな?」


「誰でも出来ますけど、魔法が使えない魔物だからこの手が使えたわけで、逆に言ってしまうと、魔物にしか使えませんから、それに今回は条件が揃っていたし」


「しかし報告書にはなんて書けばいいんだ? 隊長が後で困るだろう」


 今現在困っていると思うが‥‥、あ、ポージュが脈を取ってるな。


「魔物の魂でも喰った‥‥‥とでも書いておいてください」


「それでいいのか?‥‥」


「まぁ、今更ですから」

 ふふふ、と笑う

「そろそろいいかな? 中に行きましょうか」


 隊員達はハヤトに続いて洞窟の中に入って行く、隊長を置いたまま


 ・・・・・・


「何でこいつらは入り口近くに集まってるんだ?」


「苦しいから外に出ようとしたんでしょう、苦しそうな顔しているでしょ? でも可哀そうだとは全く思わないですけどね」

 そう言ってハヤトは足元にいた魔物を蹴飛ばした


「全部死んでいるか確認してもらえますか? 一応死んでいる物でも急所に一撃を与えてください、こいつら本当にしつこいですからね」

 

 ハヤトは自分の『収納』から槍を取り出し、次々に魔物の目に突き刺し、更に魔法を流し込む

 

 入り口にいた魔物達は体力がある個体だと言っていた、その他の魔物は中央の広間以外、雑魚寝をしていただろう部屋に固まり、眠る様に死んでいた。

 

 結局、全て確認が終わったのが、それから3時間ほどした時、村のお土産に、幼い1体のサイクロプスをポージュの召喚獣に乗せ、他はハヤトの『土』魔法で洞窟自体を埋めてしまう、記憶が少し欠けた状態で復活した隊長も合流して自分たちは村に戻っていった。


 ◆◇


「では俺は今回の任務を全て終了します、フレックス隊の皆さんあとはよろしくお願いします」


 ハヤトはコンセの村の駐留を終え、首都のサーナタルエに戻っていった、帰りはあっさりしたものだった、協力してくれた村の人に挨拶を済ませ、クオルシを大量に購入して行った


 ハヤトが残してくれたこの罠と砦、そして壁のおかげで、自分達の任務はその後物凄く楽になった。

 そもそも集落の魔物が辺りの魔物を食い尽くした挙句、その集落の魔物もいなくなったから、やることが無い、皆で毎日のように屠殺場の壁の上でお茶を飲んでいる、アルフレッド以外は皆、普通のお茶だ。


 ハヤトと出会ったことで、フレックス隊の隊員が色々と変わった気がする、隊長は変わらずだが、ポージュが自分の召喚獣に言葉を教えようとしたり、アルフレッドがクオルシをやたらと飲んで、夜眠れなくなったとよくぼやいている。


 弟のレンダルは軍に入り、ハヤトの部隊に入ると意気込んでいるし、毎日のように自分に剣技の指導をお願いしてくる。


 いるだけでおっかない奴だったけど、色々勉強になることもあったし、自分が無理だと捨てようとした村を、結果的に助けてくれた。

 


 ‥‥‥‥もしハヤトに何かがあった時は


 今度は自分が






 ◇◆◇◆◇


「おい、タクティア、コンセの村の報告書見たか? 何だかとんでもないことが書いてあるんだけど」


 ここは軍の本部があるサーナタルエ、その本部の一室、タクティアと呼ばれた男は、肩下まで伸びる髪の毛を後ろでキレイに束ね、軍上層部だけが支給される服を着ている、彼の手に持たれているのはそのコンセの村での報告書だった


「ええ、見てる最中ですよ、実に興味深いですね」

 ニッコリとほほ笑む


「そうか、とんでもないよな、火であぶって弱った所を喰うなんて‥‥コンセの村を救ったのは確かだが、こんな恐ろしい奴がこの国にいるんだからな」


「そうですか? 逆に頼もしいじゃないですか、それに僕はこのハヤトに興味をもちましたよ、この報告書でね」


「いや、今はそうかもしれないが‥‥」


 タクティアの同僚がそう言っているなか、タクティア自身はこの報告書の事をさっきから思考を巡らせていた。

 

 この報告書はやはりおかしなところがある、300体近い魔物を火であぶり弱らせた‥‥


 でも魔法が効きにくいと、先の報告書には記載されている、だから罠を張った、援軍を求めた

 

 それを巣穴に油を放り込み火をつけて焼いて弱らせたなんて‥‥、魔法が効かない段階でその手も意味が無いだろうに、魂を喰った云々は‥‥まぁグースだから分からなくもないですが‥‥


 他にも変わった所がたくさんある、一度このグースの事を調べてみましょうか? 彼についての報告書とかは他にもあるのかな?



 タクティアは同僚に断りを入れ、資料室に向かって行った。




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