44 休暇 ①
「何十カ月ぶりだろう‥‥」
久しぶりに、かなり久しぶりに俺は休暇を貰うことが出来た.
コンセの村で、大量にコーヒーに似た飲み物のクオルシを買い込み、クジュの村で大量に野草の塩づけを買い込んだ。
事前にクジュの村に連絡をしていたのでかなりの量を確保できた、まずそれを首相から与えられている俺の住居、庭付き一戸建て、しかも一等地にある。その家の冷凍庫に入れ、さっそくとある場所を目指す。
朝も早いし、客はあまりいないだろう
行く場所はバールとよく行ったオヤスの喫茶店、そして天使ネクターとの思い出の場所でもある。 俺だけのメニューを堪能するために出向くのだ、潰れてたらどうしようと少し不安もあったが、そんな事は全く無かった。行って見るとかなり繁盛していたみたいだった。
「店外に席がある‥‥」
まさかのオープンカフェ、真っ白なテーブルと椅子がズラリと店の前に並んでいる、その数10席ほど、そして隣にあった空き地の所まで店が伸びていた、増築である。
繁盛どころか大繁盛だ
カランカラン
店のドアを開け、入店する
「いらっしゃ‥‥キャー! ‥‥あっ、し、失礼しました、いらっしゃいませ」
ネクターと一緒に来た時にいたウエイトレスの女性だった、一瞬驚いたようだけど何とか持ちこたえ、その悲鳴で店の奥から店主のオヤスが出てくる
「こんにちは、新メニューを食べに来たんだけど」
「あ‥‥あ、ど、どうもどうも、お待ちしてましたよ」
本当? 本当に待ってた?
「その‥‥仮面はどうされたのですか?」
「これは威圧を和らげる効果が付いてるだけなので、気にしないでください」
「はぁ‥‥そうですか、中々いらっしゃらないので、どうしたのかと思いました、ささ、こちらにどうぞ」
店内には2人程お客がいて、じっと俺の方を見ていた、見ていたよりも動けないでいたが正しいかも、オヤスに店の奥に通され、そこにあったドアを開ける
俺がオヤスに頼んでいたことのの一つに個室がある、俺がいるだけでこの店の迷惑になるので、もし繁盛して店が拡張することがあったら作ってね、とお願いした、オヤスはお願いを聞き入れてくれたようだ。ただ単に俺を隔離するために作ったのかもしれないけど。
個室は何部屋かあり、その内の2人用の部屋に通される
「結構広いな」
思っていたよりも結構広い、椅子ではなくソファーだ、席に座りそのまま注文する、頼む品はもう決まってる
「グースセットと、トロンアイスで、アイスは後でお願いします」
俺がオヤスにお願いした専用のメニュー、何も入れないトロン茶と、甘さが超控えめの苦パナンサンド、店主自ら注文を取ってくれ厨房の方に戻っていった、何となく個室を見渡してみると
『店内でのみだらな行為はご遠慮ください』
と張り紙があった
張り紙があるってことは、そんなことする奴いるんだな‥‥、
‥‥俺もしてたな。
俺の場合は皆が見てる中でしたから人の事は言えない、しかたないね個室だから。
・・・・・
何て考えているとウエイトレスの人が、カチャカチャと激しく音をた立て、グースセットを運んできてくれた、さて、味はどうなったのか? 仮面の口の部分を外し、期待を込めて一口
「うん、甘い」
知ってた、やっぱり甘かった。
でもこれでやっとコンビニの超甘い菓子パン程度にはなっただろうか? でも依然と比べると中々いけると思う、そしてトロン茶を一口‥‥、
トロン茶と合わせたら‥‥ありかな?
そこそこ満足して、グースセットを食べ終わったと同じ頃、オヤスが自らトロンアイスを持って来てくれた。
「どうぞ、これがトロンアイスです」
少しオレンジ色をしたそのアイス、それをスプーンですくって口の中に入れる、オヤスは感想が聞きたいのか、俺が食べるのを待っている、しかし個室で俺と二人きりでは辛いのだろうか? 部屋のドアは大きく開かれていた。
無意識のうちだろうけど、いつでも逃げられるようにだろう。
「美味い」
その言葉で安心した顔になるオヤス、一礼をし個室から出て行った
美味い、本当に美味い、もう一個くらいは食べれそう、備え付けの呼び鈴を鳴らしウエイトレスさんにトロンアイスを注文し、それとオヤスにも来てもらいようにお願いする
数分後
オヤスがトロンアイスを持ってきた
「どうぞ、追加のアイスです」
「ありがとう、とっても美味しいよこれ」
ありがとうございます、とオヤス
「でも苦パナンサンドは、もうちょっと甘くない方がいいかな」
えっ、あれ以上? ちょっとだけ驚いている
「それでね、お願いしたいことがあって」
『収納』からクオルシの入った袋を取り出した
「これは?」
「コンセの村でしか栽培していないクオルシっていうんだけどね、これを店で扱ってもらえると嬉しいんだけど‥‥ともあれこれを一度飲んで欲しい、粉末になっているからお湯で溶かすだけで大丈夫だから」
分かりましたと、厨房の方に戻っていく、暫くして
ぶっへぇぇ!
と、おかしな声がしてオヤスが戻ってきた
「あの、これは流石にウチの店ではちょっと‥‥」
そう言ってくるのは分かってた、まぁ、ちょっと待ってよ、ちょっと聞いてよ
「このお店って朝方はお客さん少ないでしょ?」
「ええ、ウチは昼頃からお客さんが徐々に入ってくるので‥‥」
「これを出すことによって朝方に男性のお客が増えると思うけど‥‥、興味無い?」
キラリとオヤスの目が光る
「詳しくお願いします」
商魂たくましいオヤスの事だから乗ってくると思ってた。
クオルシには眠気覚ましの効果があること、そして飲むときは練乳や砂糖をたっぷり入れると苦みが和らぐこと、そしてその中毒性‥‥多分中毒性がると思う、それを伝えたうえで、働く男の朝の一杯をうたい文句として最初出すようにと伝えた
それともしそれで失敗したら申し訳ないので、一緒にコーヒーゼリーを教えた。クオルシだからクオルシゼリーだ。
何か‥‥ほら! ゼリーにクオルシと砂糖を入れて作ってよ、白いシロップみたいなのも上からかけてさ、多分オヤスなら出来るよ
全てオヤスに丸投げし、店を後にした。
オヤスの目に闘志がみなぎっているように感じたから多分大丈夫だろ、出来たら連絡しますと言われたのでゆっくりと待つことにする。
◆◇
さて、腹ごしらえも済んだし今日はというか、これから毎日のように足を運ぶ場所に行く、場所は女神を祀る教会、召喚獣の『ヤタ』を契約した場所でもある、何故行くのか?
今まではあまり人目に出るのは控えていたところがある、しかしクジュ・コンセの村で、慣れるとその威圧効果も薄れることが確認された。
なので毎日人前に出て、慣れてもらおうと考えた。
かなり迷惑行為だと思うけど、ごめんなさい慣れてください
そしてその足掛かりとして教会を選んだ。
この国の人は女神に対する信仰心が強い、そこにグースである俺が毎日のようにお祈りに行くとどう思われるか?
多分
「何て信仰心の強い人だ」
「これだけ信仰心が強いなら悪い人じゃない」
「多分いい人なんだ」
なんてことになるだろうと下心がある、俺自身女神に対する信仰心なんて無いけど、俺が安らかに日常生活を過ごせるようにするため、教会に行くと決めた。
迷惑? いえ、慣れてください
たのもぉ~、とまでは言わないがそんな意気込みを持ち教会の扉を開ける、信者の人に何やら有難いだろう言葉を掛けていた司祭が、俺の姿に気づき慌てて駆け寄る。
「あ、あの、今日はいかような用事でここに‥‥」
目が泳ぎまくっている司祭、ただ来ただけで「何しに来た?」である
「今日は、女神さまに祈りを捧げに来ました」
紳士的に、あくまで紳士的に言葉を返す、言ってしまえば祈りなんかどうでもいい、周りに良い印象を与えられればいいのだから。
「そ、そうでしたか、それではあちらでどうぞ‥‥」
司祭に場所を促される、そこには2体の女神像がありその隅の方に、我が愛しの天使、ネクターの像があった
司祭に促されるまま、祈りを捧げるため女神像の方に移動する、そこで最初からいた信者の人達は俺の姿に気づき、ギョッとした後
サー
と左右に割れた、というか逃げた、一番の特等席を得た俺は膝立ちで、両手を自分の胸の前に置き完璧な祈りのポーズを取っていた。
どう? 完璧でしょ? さぁ! 皆見てる?
チラリと左右を見たが誰もいない、後ろかなと思い振り返ってみると‥‥
もう既にその部屋には誰もいなかった。
その時点で今回の作戦の半分は失敗だが、ここに来たということは、いた人達には伝わっただろう。
また明日も来ますよ、嫌がらせではありませんからね
せっかく来たので祈りだけでも捧げていこうと思う、もしかして隠れて覗いているかもしれないし。
ただそこで「?」と疑問に思うことがあった。
祈りを捧げるって‥‥一体どうするんだろう? 今年も一年幸せでありますようにとか? 無病息災とかお願いするの?
イヤイヤ、それはお願いだろう、お祈りって普通何を考えてるの? キリスト教とかその他の宗教とか、何か祈ってるけどその時何を考えてるんだろ、無心か? 祈りって結局何?
色々考えた挙句、結局お願いをすることにした、天使ネクターが結構穏やかな性格だったし、そのネクターを作った女神だから、もし間違えていても怒られることはないだろう、大丈夫大丈夫
では何をお願いする? と考えていた時、視界にネクターの像がチラリと見えた‥‥そうだ!
「天使ネクターが、女性の姿で会いに来てくれますように」
ネクターがミラの姿になったあの日から、なぜか俺はネクターの事を性的な目でしか見ることが出来なくなってしまった。
いっそ男の姿でも‥‥ひと時思っていたことがあったけど、何とかその考えを振り切ることが出来た。
ネクターと一線を越えたいが、そっちの方の一線は越えたくない、ネクターは女の姿にもなれると言っていたので、出来ればそっちの姿で会いに来てもらいたい、俺が会いに行けるならこっちから出向くんだけど。
そんな、女神にお願いするような事では無いような内容を、怨念もしくは念仏のようにお願いしている時だった
フワリと、肩に手を置かれるような感触があった、誰かな? 反射的に目を開けると
黒髪で整った顔、長い黒のドレスのような物を纏っている女性が、目の前にいた。
空中に少しだけ浮いているらしく、足が地面に着いていない、そしてその女性は少しだけ全体が透けて見えていた、女性の後ろにあるはずの女神像が見える。
女性は俺の額の方に唇を寄せる
フゥー
と、息を吹きかける
女性は俺の肩から手を放し、ニッコリとほほ笑み━━
スッと消えていった。
・・・・・・
女性が消えてからすぐには動けなかった。
少しだけ動けるようになると、俺はゆっくりと立ち上がり、教会から出るため歩き出す、扉を開けると教会の外では司祭と信者の人達が待機していた。
待機というか避難だろうけど
教会から出て歩き出す、しかし段々と足取りは早くなり、その内に駆け足になり、最終的には全力で走り出した。
額には汗が滴っているこれは走っているから出てる汗ではない、走っている最中俺はパニックになっていた。
お、お化けだ! 変なお願いしたからバチが当たるかもしれない!
30年程生きてきて、初めて心霊体験をしてしまった。
一刻も早く、そして遠く教会から離れたいと願う気持ちが全力疾走につながる
急いで家に帰った俺はその日、家の中の照明を全て点灯した状態で就寝した。
寝ている途中で足をいきなり引っ張られるかもしれないと思い、足を曲げ丸まって一夜を過ごすことになる
◇◆◇◆◇
何もない場所、そこには一つだけ檻がある、人ひとりだけしか入れない小さな檻、中には一人の女性が目を閉じ、立ったままそこにいた。
整った美しい顔に、少しだけ茶色掛かってウエーブし、背中まで伸びた髪の毛、そして白のロングドレスを纏っている
コツ コツ コツ
そこに近づく足音が一つ、白いドレスを纏った女性は目を開け、その足音の主を見る、近づいてきた者は黒色で腰まで伸びた髪、そして黒のロングドレスを纏った美しい女性
黒のドレスの女性は軽く微笑み、白のドレスの女性を囲む檻の隣に立つ、すると黒のドレスの女性の上からスーッと檻が現れるように降りてきた。
檻の中で二人の女性は目を閉じ、ただ時間が過ぎるのを待っていた。




