41 ライカ 中編
「なので、魔物の集落自体、発見出来てないんですよ」
一枚の曇りガラスの向こうでグースはそう言ってきた。
間に『幻惑』の付与された曇りガラスを挟むことで、グースの姿がぼやけ、少し恐怖が和らいでいた、ほんの少しだが凄く助かる。
グースことハヤト曰く、この砦‥‥というよりはもう要塞だろう、でも彼が言うには砦らしい。
この砦から10㎞地点までは魔物の集落は見つかっていない、これまで何度か魔物の襲撃はあったが、ただ1匹~4匹程度のごく少数、しかし全て変種。
村に来た魔物は必ず全滅させていたので、ここにコンセの村があることは、魔物にはには知られてないはず。
魔物達は夕方になると一斉に北の方角に向けて戻っていく、つまり10㎞よりも先に魔物の集落が存在するはず、一度この村を離れて探しに行こうと思ったが、村の人から、もしあなたがいない時に襲われたら自分達では守る自信が無いと言われ、集落を探すのは断念していたとの事だった。
「グース隊長、クオルシを入れてきました」
ちょっと、おい! 本人の目の前でグースとか言ってるよ、何を考えているんだウチの弟は!
フレックス隊の皆も、本人の前で「グース」と言い放った弟のレンダルの言葉で、目を泳がせている、弟が喰われないか? と考えると嫌な汗が噴き出してくる
「おっ、ありがとう」
しかし本人は気にもしてないようで、仮面の口の部分をパカッと取り、クオルシを一口飲む
「それで、フレックス隊の方々が今日から交代をしてくれるなら、これから集落に戻ろうとする魔物の後を付けて行きたいんですよ」
クオルシを飲んだよな? 何も入れなかったよな? 何で飲んでも平気なんだ?
「‥‥‥‥あのフレックス隊長? どうしますか?」
「あ、ああすまない、どうしようか? ポージュ」
「なんであたしに聞くのかねぇ、あんたはどう思ってるんだい?」
「悪い案ではないと思う‥‥、だが付けて行くと言ってもどうやって行くんだい?」
「召喚獣で飛んで行きますよ」
「ああ、あんたは飛べたんだったね」
羨ましいねぇ、とポージュは小声で呟いていた
「しかし~‥‥うん、正直に言おう、我が隊では留守を預かる事は出来ない、もし君が出払っている時、魔物達が襲ってきたら我が隊では対応できないよ」
えっ? と、耳を疑った、さっきだってサイクロプスの変種2体を倒したのに
「あの最初に落ちてきた『雷』は君なんだろ? あれでサイクロプスはかなり弱った‥‥アルフレッド、君はポージュに次いで魔力が高いし『雷』魔法が使えるけど、「アレ」を君は出来るかい?」
アルフレッドは、この隊の中で一番、魔法契約をしている数が多い、回復と魔法攻撃を得意としている、それと、毎日自分はアルフレッドの『洗浄』魔法にお世話になっている。
「無理だね、あんなの見たことないし、既に弱り切ったサイクロプスを倒すだけで、俺は魔力を殆ど使い果たしたんだ、そんな俺にアレを打てるとは思えない」
自分には信じられなかった、隊長や他の隊員達が、魔法の打ち過ぎでふらついている時に、アルフレッドは常に飄々としていた。
長いこと一緒の隊にいて、彼の魔力はかなりの物だと思っていたから。
「戦闘をすることは無いですよ、ただ単にこの村の人を安心させるのが目的ですから、それと魔物が今からこの村にに来ることは無いですよ」
「そう言い切れる根拠は?」
フレックス隊長が珍しく、睨むような視線で問いかける
「どうやら規則正しい生活を心がけているみたいで、夕方になると帰っていくんですよ」
「ぶふっ!」
ポージュが吹いた
「ふふっ、あはははは、なら行ってきたらいいよ! アタシらでここを守ってるからさ、別にいるだけでいいんだろ?」
「おいおいポージュ!」
「はい、ここ使ってもらってもいいですから、そこの戸棚にトロン茶とクオルシもいっぱい常備しているんで、好きに使って下さい」
「いや、それは結構だよ」
少しだけ嫌な顔をしてやんわり断るポージュ
「ちょっとちょっと、この隊だけで守れるはずないでしょ? 軍に追加の隊を派遣してもらって来てからでもいいじゃないか」
フレックス隊長は戦闘で生き残るための勘に優れている、今までも危ないところを寸前で回避したり、退却したりしてきた。
だが、自分がお願いしてこの任務に携わる様にしたとき、隊長は嫌とは言わなかった。
「フレックス、それはアンタの勘がそう言っているのかい?」
ポージュはそんな隊長を半目で見ながら問いただす
「勘‥‥ではないけど、あれは無理だって、どうしようもないって」
勘ではないというなら、ただヘタレているだけだ、隊長の悪い病気だ。この隊長の勘は素晴らしいが、基本はヘタレだったりする。
その後も、あーでもない、こーでもないと、この隊以外の人が3人もいるのに、みっともなくダダをこねていた。
「ちょっとあんた、こんなのはほっといて行ってきな、いつもの事だから」
ポージュがやれやれとため息をつく
「いえ、最終的にはその部隊の隊長が決めますから、フレックス隊長の了承が得られないと行くことが出来ませんよ‥‥‥‥」
グースは座ったまま、自分で間にあった曇りガラスを移動させた。
その姿がハッキリと見えた時
グワッ!
先ほどの押しつぶされそうな感覚が一気に戻ってきた。
マークとレンダルに、手で隣の仕切りの後ろにいるよう指示する
ポージュでさえ足が震えているのに、グースに直接見つめられている隊長は、見ていて気の毒になるくらい震えていた。自分もそれどころじゃない サッと顔を反らし、グースを見ないようにする
「はぁ はぁ はぁ」
隊長の呼吸が聞こえてくる、正直隊長のいる場所には居たくない、自分じゃなくて良かった‥‥隣に座っていたポージュは「スススッ」と横にずれていた。
自分もこの場から離れたいが、足が動かない
「フレックス隊長‥‥このままだといずれ大量の魔物が攻めてくるかもしれないんです、その場合、この村は壊滅します。軍からの追加の派兵はまず無理でしょう、7ヵ月も待って貴方の隊しか来なかった‥‥」
ガタッ
グースの椅子が音をたてる、グースが立ち上がった事が分かった
「この村が滅ぶ前に、こっちから打って出るしかないんですよ」
あくまで優しい声で、そっと、隊長の肩に左手を乗せる
「だから‥‥ここをお任せしてもいいでしょうか?」
そう言って、グースは右手で顔に掛けてある仮面を━━
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・・・・・・
・・・・
この世の出来事ではないような━━
━━とても恐ろしい体験をした
思いだしたくもないし、記憶が飛んで思い出せない。
トイレに行っておいて良かったと、心からそう思える
あれから10分程は経っているだろうか? もうここにあのグースはいない
「それじゃあ後はお願いしますねー」
と言い残し、召喚獣に乗って飛び去って行った。
グースが仮面に手を掛けた瞬間、今までの恐怖がお遊戯みたいだったような‥‥仮面を取った時、威圧どころか殺気まで加わっているようだった。
真正面からそれを受け止めたフレックス隊長は、うんうんと、二回顔を縦に振っていた。
そして今は白目を向いて動きもしない、本当に本心で首を縦に振ったのか?
あの時、隊長の首と一緒にグースの手も動いていたような‥‥今となっては確認のしようが無い。
「緊張して喉が渇いたでしょう、普通のお茶でも入れましょうか? それとも気付け薬代わりにも使えるクオルシにしますか?」
気遣いの出来る弟だと思う、兄として鼻が高いよ
「「「 クオルシを頼む(よ) 」」」
気を失っている隊長以外、全員クオルシを頼んだ
クオルシが出て来ても、隊長は白目を向いたままだった。ポージュがそっと隊長の手を取り、脈があるか確認しているのが印象的だった。
グースが帰ってきたのは、時計の針が深夜を回ろうとしていた時
「見つけました、魔物は洞窟を住処としています、これから洞窟内を調査したいので『探知』が使える人と、あと召喚者のポージュに付いてきて欲しいんです」
と、お願いしてきた
そのグースは何故か、右手で仮面をポンポンと軽く叩くような仕草を見せていた。




