↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/260

40 ライカ 前編


「嬉しそうだなライカ」


「え、そうですか?」


「そりゃあ久々の故郷だから当たり前だろ」


 自分が所属するフレックス隊は、自分の故郷であるコンセに向けて軍用車で移動をしている、フレックス隊は7人編成、その内の一人には女性の召喚者ポージュがいる、フレックス隊は召喚者を含む分隊だ。

 今まで数々の任務をこなし、誰一人として欠けることなく今日までこれた。


 これもフレックス隊長の判断能力のおかげだろう、しかし残念ながらこの隊も今年いっぱいで解散になる、理由は隊長の軍退役だ


「いくら任務でも死んだら遂行できないだろ~、だから逃げるんだよ、そうすれば次があるからな~」


 フレックス隊長がよく言う言葉、自分もそう思う、死んでしまったらもうそこで終わりだ。

 何としても生きて、次に備えればいい、実際に撤退した任務は多いが、無事に遂行出来た任務はそれよりも遥かに多い、他の隊よりも任務の数をこなしている、自分はこの隊に入り、フレックス隊長に会えて幸運だったと思っている。

 自分にはやらなければいけない事がある、だから必ず生き残らなければいけない


「ライカは帰るのいつぶり位だい?」

 女性の召喚者ポージュが問いかけてくる


 ポージュは御年、あ、いや、この言い方をすると怒るから止める、ポージュの年齢は今年で92歳になる、平均寿命が130~140なので、もう人生の半分は過ぎているが未だに現役だ。

 フレックス隊長が新兵だった頃から隊長の事を知っているらしく、隊長もポージュには頭が上がらない、戦闘に対する彼女の経験や知識は素晴らしい物があり、もし召喚者でなかったら、分隊長どころか小隊長にまでなったであろうと言われるほど。


 召喚者は隊長にはなれない、いや‥‥誰もなろうとしない、召喚者がいる隊で、もっとも重要なのは召喚者を死亡させないこと、数が少なく価値が高い召喚者は、部隊が危機に陥った時、真っ先に逃げなければいけない、逃がさなければならない。

 その命令は部隊の隊長がする、その隊長が召喚者だったら‥‥隊員を犠牲にして自分だけ逃げる‥‥となる、そんな理由があり、召喚者は部隊の隊長になりたがらない。


 ポージュに聞かれて少し考える

「えー、6年ぶりぐらいでしょうか」


「そんなに帰ってなかったのかい、なら親や兄弟に会うのは楽しみだろ?」

 ポージュは優しい笑顔で問いかけてくる


「そこそこは‥‥ですね」


「お前の所の村ってさ、軍の教科書にも載ってたよな?」

 他の隊員が聞いてくる


「ええ」


「俺初めて見るんだよな、ちょっとだけ楽しみなんだけど‥‥でさ、お前の村ってどんな感じなんだ?」


 自分の村のシンボルの事を言われ、少しうれしくなるライカ、あの村で生きる人間は誰もがあの壁の事を誇りに思っている、しかしあの壁のおかげで村の人間は腑抜けになったとも言える。


 ・・・・・・・・


 ライカの幼少時には、村に駐留する部隊が3部隊いた。

 村の安全は完全に守られ、村人は魔物に怯えることなく過ごすことが出来た、だから逆にライカは不安になった。

 もし部隊が守ってくれなくなったらどうしよう、この村には武器と言えるものが無い、大昔から兵士に守ってもらっていたので、自分たちが戦う必要が無いから武器その物がないのだ


 魔物を見ただけで腰を抜かす村人や、魔物の死骸にさえ怯える村人を見てライカは、自分がこの村を守ろうと決心した。


 両親に軍に入りたい旨を伝え、その時駐留していた兵士の人に剣技を教えてもらっていた、一番教えてくれた人は、剣技に関しては軍で1、2を争う腕らしく、今は学校で剣技の先生をしているらしい、その人達に教えられ、ライカはメキメキと力を付けてきた。


 しかし残酷な現実を突き付けられたのが18歳の時、ライカは全てにおいて魔法の才能がなかった。 唯一契約出来たのが誰でも契約できる『財布』のみ、必要な魔法契約が出来なかった者は自動的に海軍に入ることを強制させられる、しかしライカは諦めなかった。

 自身の剣技を高め、20歳の時にサイクロプス1体とライカンスロープ3体を倒すまでに成長していった、ちなみに「ライカ」という名前はライカンスロープのように強くなるようにと願って付けられた名前だ。

 それを当時駐留していた部隊の軍人に見届け人になってもらい、陸軍への入隊を許可してもらったのだ。


 ・・・・・・・


「で、マークってのがいて、虫も殺せない奴なんですよ、情けないといったら可哀そうですけど、基本マークに限らず村の人は大人しいっていうか‥‥優しい人ばかりで」


 マーク‥‥か、久しぶりだな元気にしてるだろうか?


「へー幼馴染か、そいつに会うのも今からたのしみだな」

「他に面白い物とかあんのか?」


 そう聞かれても、壁以外には何も無い所だし、他には‥‥そうだ!


「クオルシってのがあるんですよ、村の人間でも飲まないマズイお茶なんですけど、向こうに着いたら一度だけ飲んでみたらどうです? 話の種にもなりますよ」


「そんなにまずいのか? トロン茶よりも?」


「トロン茶なんか話にならないよ」


「はは、じゃあ一杯だけ試してみるか、一杯だけだぞ?」


 フレックス隊の人がクオルシを飲んだ時の顔を見るのが、今から楽しみなライカであった。


「おお~、コンセの村が見えてきたぞ~」

 軍用車を運転していた隊長の声がした、隊長の趣味はドライブなので軍用車両を運転する時は、主に隊長が運転する事になっている。

 

 村が見えた?


「へー立派な壁だな! こんなに凄かったのか」

「凄いじゃないのさ、ここまでとは思ってなかったよ」

 物知りなポージュでさえ驚いた声を上げる


 まだ見えるはずは無いんだが‥‥


 体を捻って窓から村のある方角を覗いてみる


 えっ?


 窓越しに見えた壁は、周りの木よりもはるかに高い、赤茶けた巨大な建造物がそこにあった

「何だあれは‥‥」


「何だって、お前の村の壁だろ?」


 そんなはずはない、あんなのはあるはずがない、違う‥‥確かにあそこは村のある付近だが


 コンセに何かあったのか? 不安だけが積もっていく


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・



「「「 うわぁー! 」」」


 何がどうしてこうなったのか? 自分でも分からない、コンセの村の壁はこんな場所にはない、多分ここ辺りには村の畑があったはず‥‥‥‥


「あんたの村は凄いねぇ‥‥」

「これじゃあ俺たちは必要ないんじゃないかな~ははは‥‥」


 自分の目の前には、20メートルはあろう赤い壁がそびえ立っていた、ぼーぜんと立ち尽くす隊員達


「あら? これ全部レンガだねぇ、‥‥それどころか、凄いよ縦一枚のレンガだよ!」

「なに、凄いのそれ?」


「ああすごいねえ! こんな高い壁を作るのには段階ってものがある、レンガってのは一つずつ積み上げていくものだ。それで高く積み上げることが出来る、でもこの壁は横のつなぎ目が無い、あるのは縦に伸びるつなぎ目だけ、ここから‥‥ここまで、幅5メートルぐらいか? そして高さが20メートルぐらい‥‥かな? それを一気に作ったってことだよ、普通ならこの高さになる前に途中で魔力が尽きる、魔力が尽きたらこんな一枚の壁なんて作れないよ!」


 いつもは落ち着いているポージュがやたらと興奮している


「よく見たらこれ、『硬化』はもちろんとして、『耐壁』まで付いてるね~、どれだけの労力と金をつぎ込んだんだろうね~」


「凄いなライカお前の村は! ここまでとは思わなかったぞ!」


  ‥‥違う、自分の知っている村はこんなんじゃない


 やんややんやと騒ぐ隊員達に、自分は軍用車でこの壁を見た時から声も出せずにいた。


「おぉーい! あんた達が明日から駐留予定の軍の部隊かー!」

 ふと、頭の上から声が聞こえてくる、見上げてみると壁の上には人がいた


「は~い! フレックス隊ですよ~!」

 隊長が間の抜けた返事を返す


「ちょっと待ってろー! 今門を開けるからー!」


 門? 門なんてどこにも見当たらないぞ


 と思っていたら壁の一枚が丸々上の方に浮き上がった


「「「 おおー! 」」」


 驚く一同が皆声を出す、自分も驚いた、だが声が出ない


 ワイワイと騒ぎながら、門になっていた壁をくぐる隊員達、自分もフラフラとなりながらそれをくぐる


「すごいねぇ、この壁の厚さは」

 ポージュが感嘆の声を上げる、門をくぐる時壁の厚さ自体がわかったが、壁の厚さは2メートル程あった、そして門をくぐり抜けた先には‥‥‥‥


 完全に巨大な壁にすっぽりと収まったコンセの村と畑があった、元々あった村の壁は、周りの巨大な壁と比べると柵のようにちっぽけな物に見える


「「「 すげぇー 」」」

「壮大な景色だな~」

「空想の物語に出てきそうな場所だよ」

「何だかここにいるだけでわくわくするな!」

 皆喜び、驚きの声を上げている


「じ‥じぶんの‥‥」


「ん、どした? ライカ」


「じ、自分の」



「自分の村はどうなっちまったんだよ━━━!」

 久しぶりに大声を出した気がしたライカだった


 




 ◇◆◇



「落ち着いたかかい? ライカ」


「ええ、すいません‥‥」


 一気に感情を爆発させたせいで、逆に今は誰よりも冷静になっている、自分がここまで取り乱したことを隊員達は理解してくれた


「この壁は元々なかったのか?」


 肯定する、こんなものは6年前は無かった、ならこの壁は何だ?



「あれ、ライカか? お前ライカなのか?」

 自分の家の後ろに住んでいるおじさんがそこにいた、収穫をするための台車を引いている


「おじさん久しぶりだね」


「ライカも元気そうだな、お前がいるってことは、もしかして新しく駐留してく部隊ってのは」


「自分がいる部隊ですよ」


「そうかそうか、駐留ってことは暫くはここにいれるんだな、お前の両親も喜ぶだろう」


 積もる話もあるが、それ以上に‥‥

「所でおじさん、この壁って‥‥」


「これか、立派な壁だろう? 村の新しいシンボルだよ、グース隊長が新しく作ってくれたんだよ」


「グース、隊長?」


「お前の隊もまずは隊長に挨拶してきな」


 おじさんは訳の分からないことを言い農作業に戻っていった、なにやら駐留しているグースは北の屠殺場(とさつじょう)の隣の塔にいるらしい、確かにひと際高い塔が立っているのがここからでも確認できる。


 屠殺場? 最近家畜でも飼いだしたのかな


 村の北側に向かうと、そこには階段があり、屠殺場はこの階段を上がった場所にあるようだ。 


 村全体を囲む壁よりも高い塔があるのが気になるけど‥‥まぁ今はいい、屠殺場とやらに行こう


 言われるまその場所に部隊全員で向かった。そして屠殺場近づくにつれ、少しその北の方が騒がしくなってきた。


「・・・!・・・z!」

「k・・・・・・・・・・め!」

「・・!魔物・・・・!」


 魔物だって!

「隊長!」

「ああ! いくぞ!」

 駐留予定日は明日からだが、魔物と聞いてほおっては置けない、村を守らなくては! 急いでその階段を駆け上がった


 バリバリバリバリ━━━━!!


 階段を上り切ろうとした瞬間、いきなり目の前が一瞬真っ白になる


「何だい! 今の魔法は? なんて強力な!」

 ポージュはその光と音の物凄さに声を出して驚いていた、自分もビックリした、今のは魔法だったのか!


「よし落ちた! 殺せ殺せ!」

 聞き覚えのある声が聞こえてくる、あれは‥‥マーク!


 マークは何やら下の方に向けて魔法を何度も放っていた。


 一体何をしているんだマークは


 急いで階段を登り切り、マークが魔法を放っている場所を見る、その場所は円形になっており、円の中心部分は大きな穴が開いているそしてかなり深い、マークはその穴に落ちている2体の魔物に向かって攻撃をしていた。


 あれはサイクロプスか! サイ‥‥サ‥‥

「デカい!」

 他の隊員もそれぞれ驚きの声を上げていた

「うわ~、これは‥‥」

「おっきいな」

「これが変種ってやつかい?」


 よく見るとそこにいたのはマークだけではない、マークの他に何人もの村の人たちが魔物に向かって魔法を放っていた。

 2体の巨大なサイクロプスはかなり弱っては来ていたが、致命傷には至ってないようだ


「こりゃ、私たちも加勢した方が良さそうじゃないかい?」

「だね~、ヨシッ! フレックス隊加勢するよ!」

「「 オウ!! 」」


 急に増えた放たれる魔法の数で、最初からいた村人たちはコチラに気付き驚くが、すぐさま魔物に意識を戻した。


「何て硬い魔物なんだい! 効きやしないよ!」

「ここまで硬いとは、変種ってこんなにすごいのか!」


 次々打ち込まれる魔法に流石にサイクロプスも膝を付いた、あとすこしだろう、自分も加勢したいのだが、魔法が使えないのでどうしようもない、少しだけ居心地の悪さを感じその場で見届けていた。


 ・・・・・・・


 10分程経過しただろうか? ようやく息絶えた2体のサイクロプスを、穴から引き上げる作業が始まった。

 サイクロプスの首に太いロープを巻き付けそのまま引き上げている、ポージュの話ではロープ事態に『重力』魔法が付与され、その力で引き上げられているようだ。


「先ほどはありがとうございました、新しくいらした部隊の方ですね? お待ちしておりました」

 

 幼馴染のマークが額に大粒の汗を流しながらも、にこやかに話しかけてくる


「この隊の隊長を務めるフレックスという、まずは村の代表と話がしたい」

 いつもの話し方とは違う、ハキハキした言い方で受け答えする隊長、いつもそうならいいんだけどな。

 

・・・・・・・


 隊長と村長が話をしている間、やっとマークと話をすることが出来た

「ライカは変わりないようで安心したよ」

 ニッコリとほほ笑む幼馴染


「そうか? というかお前は変わったな‥‥」


「え、そうかい?」

 マークは照れたように笑う

 

 ああ、変わったよ、虫も殺せないような奴が「殺せ殺せ!」とか言ってたし


「それでこの壁は一体何なんだ? グースが作ったとか聞いたけど」

 気になっていたことを聞いてみる


「そうなんだよ! 凄いだろ? この村の新しい壁だよ、隊長が1ヵ月かけてコツコツと作ったんだよ」


「隊長ってのは?」


「私たちが勝手に呼んでいるだけだから気にしないで」


「ああ、そう‥‥」



 詳しく聞いてみると、その隊長と呼ばれたグースが、召喚獣を使い一気にあの高さまで作り上げ、 グースが完成した所から順に『硬化』『耐壁』を掛けていったと、先ほどの円形の落とし穴には、『幻惑』の魔法が掛けられており、落とし穴とバレないように出来ている。

 人工魔石に『幻惑』を付与し、魔物をおびき寄せる時はスイッチON、すると落とし穴が隠れ普通の地面のように見える、落ちたらスイッチを切り、あとは先ほどのようにタコ殴りにするとマークは説明してくれた。


 屠殺場とは何か? との答えに、円形の落とし穴のすぐ横に小屋があり、そこで魔物を解体する、肉は雑食のペットや、家畜の餌用に加工して、売りに出すことを模索しているとの事、骨は細かく砕き畑の肥料にするみたいだ。


 自分が居た時は魔物の死骸にも怯えていたのに、変わってしまったなこの村は‥‥魔法を放っていた村人達はたくましく見えたし‥‥気のせいか? 笑っている人もいたような‥‥


 自分が軍に入ろうとしたのは、村の人たちが軟弱だから、自分はこの村を守るために軍に入った、何としてでも守ろうと。


 コンセが大昔、最初に魔物に襲われたとき、当時の貴族や衛兵達は命がけでこの村を守った、誇り高い先祖の子孫だったことを自分は嬉しく思っていた。

 だがその後は他所から来た人たちに守られるようになり、それが当たり前になって来ていた、そのためこの村の人達は戦う意思を失ってしまった。


 だからさっきのマークや他の人達が、魔物と戦うのを見て自分は嬉しくなった、自分たちが強く誇り高い先祖の子孫なのだと、ただ嬉しい反面少しだけ寂しい気もするが‥‥


 それもあの落とし穴があれば出来た事だろう、あの円形の落とし穴があればより安全に魔物を退治出来る、落として魔法を打つだけで処理できるのだから簡単な事だ


 ‥‥しかし、自分は魔法が使えないから、またさっきのように見ているだけなのか?


 ガチャ

「よし、グースの隊長とやらに会いにいくよ~」

 村長との挨拶が済み、フレックス隊長がドアから出てくる、いよいよグースとの対面だ、声には出さないが‥‥正直自分は怖い


 ・・・・・・・・


 ・・・・・・


「グース隊長はこの監視塔の一番上にいますから」


 さっき気になってはいたが、この上か?


「階段なんて見当たらないんだけどさ~、どうやって登るんだろ?」

 きょろきょろとフレックス隊長が周りを見ている


「フレックス、この床自体が上昇するようになってるんだよ、この床に『重力』が付与されてるんだろ?」

 ニヤリとポージュはマークを見る、マークはにこやかに笑い頷いた。


 流石ポージュ物知りだな、年の功‥‥


 ギロリとポージュに睨まれた気がしたので、考えるのをやめる


「この人工の魔石に『重力』が付与されてまして、これをココにはめると‥‥」

 床がふわりと浮き上がった

「このように上昇します」


 昇降機‥‥‥コレもグースが作ったのか? こんなのを作れるなら軍にいる必要なんかないだろうに、どこに行ったって重宝されるのに何故?


「へぇー多芸だねぇ、魔物を引き上げるあのロープを見た時にまさかとは思ったけど、ここまで出来るとはねぇ」


 軍本部にある物と比べ、かなりゆっくりだが、それでも少しずつ上に昇っていた


「それにしても、村を守る為に駐留しているはずなのに、魔物に対しても何もしない。それどころか、さっき出てもこなかったねぇ、何でだい? この村の住人を前に立たせるなんて、普通は軍人ならしないんだけどねぇ」


 それは自分も気にはなっていた、何故グースが出てこないのかを


「隊長は主に、召喚獣を使った広域探知の仕事をしていますから」


「広域探知だって!?」

 ポージュは目を見開き驚いている、自分には魔法の事がわからないので、後で聞いてみることにしよう。


「それに先ほどの魔物だって、一番最初に攻撃したのは隊長ですからね」


「あれはグースが放ったのか!」

 魔法を得意とする隊員、アルフレッドが驚きの声を上げる


「それと怪我をしているというのもあるし、‥‥怪我をしてもこの村を守ろうとする隊長を見ていると、守られているだけじゃ駄目だって思ったんですよ、元々1人でするなんて無理な話ですからね、だから村の人が交代であの場所を担当することになったんですよ、それにあの場所の担当って村の人に人気があるんですよ、だって、魔物を殺すのってスカッとするじゃないですか」


 虫も殺せなかったあのマークが‥‥‥‥


 今一度思い返すと、サイクロプスに魔法を放っている村の人達は皆笑っていたような気がする、思い違いでは無かった。

 この村は一体どうなってしまったのだろう‥‥



 ・・・・・・・・


 チンと流石に軍本部の昇降機のような音は出なかったが、塔の最上階に到達した、隊長達が降りようとしたので自分もそれについて行く、が‥‥


「あたっ!」

 前にいた隊長がいきなり止まった

「何ですか、どうしたんですか?」

 隊長の背中にぶつかってしまう、隊長は止まったままなので何だろうと思い、肩越しに前を見た時


 ドン!

 と、心臓を鷲掴みにされた感覚に陥った


 こ、これは! 前に映像を見た時と同じ感覚が!


 隊長が立ち止まったのは、動けなかったから、それは隊長だけではない、自分も含めて隊の全員が動けなかった。


「ささ、コチラにどうぞ」

 マークはそれを気にもせず中へと自分たちを誘う、マークは何ともないのか?


 そして目の前にいたのはこの村に駐留しているグース、椅子に座り仮面を顔に掛け、黙って外を見ていた


「わ、わ、わわわわわ私たちは、この村の後任の駐留部隊となる、フ、フフフレッ‥‥」

 恐怖で舌が回っていないフレックス隊長。


 だが目の前のグースは椅子に座ったまま、こちらに全く反応を示さない。


 普段なら

「失礼だぞ!」

 の一言でも言いたい所だが、自分もそれどころじゃない、さっきトイレに行っておけばよかった。


「すみません、グース隊長は今、広域探知の途中なので、もうしばらく待ってもらえますか?」

 と、声がかかり、仕切られた壁の向こうからもう一人出てきた、それは自分の弟の‥‥


「レンダ!」

 弟のレンダルがそこにいた


「兄貴!? 兄貴の部隊が駐留することになったのか?」


「あ、ああ、お前ここで何をしている?」


「何って、今週はグース隊長の世話係なんだよ」

 レンダはキョトンとした顔でそう答えた


「せ、世話って、お前大丈夫なのか?」


「大丈夫って?‥‥ああ、そういうことか、もう慣れたよハハハ」

 グースの威圧は慣れればそうでもないとは聞いていたが、コレが慣れるようになるのか?


 弟のレンダは、グースと自分達フレックス隊の間に間仕切りを用意する、そうすると心なしか気持ちが楽になった。

 

「皆さん、隊長が探知を終えるまで暫く掛かるので、お茶でもどうですか? 普通のお茶もあるし、隊長おすすめのトロン茶や、この村の特産のクオルシもありますよ」


「じ、じゃあ、クオルシを貰おうかね」

 いち早く立ち直ったポージュがクオルシを頼む

「「俺達もそれを」」

 同じく他の隊員もクオルシを頼んだ、この村に来る前に飲んでみると言ってたし、やめておけばよいものを。


「兄貴は普通のでいいよね」


「ああ、頼む」


「それでそちらの隊長さんは‥‥」


 涙目のフレックス隊長もクオルシを頼んだ


「では、そこに掛けて待っていてください、準備しますので、あー、それとトイレは昇降機の隣のドアがそうですから」


 ここはトイレまであるのか、漏らすといけないからちょっと借りて‥‥


 と思い立ち上がると‥‥フレックス隊全員が立ち上がった。


 ・・・・・・・


 ・・・・


「ぐわぁ! まずい!」

「うっぷ!」

「これは酷いねぇ」

「ここまでとは思わなかったよ~」


 本来なら、練乳と砂糖を目一杯入れても舌先に嫌な苦みが残るのに、あろうことかそのまま飲んでしまった隊員、砂糖と練乳はわざと出していなかったが。

 村の特産をここまで言われて普通なら「ムッ!」とするのだろうが、自分達でさえ飲まない不味い物だから、何とも思わない、むしろその顔を見て楽しんでいるのがこの村の人達だ。


 残しては流石にマズイと思ったのか、その後は後から出された練乳と砂糖を、これでもかと入れ無理やり流し込んでいた。


「ふぅ‥‥」

 さっきまでピクリとも動かなかったグースが、いきなりため息をつき動いた


 その動きに対し、フレックス隊全員がビクッ! と肩を震わせる、ついに動いたかと身構える


 間仕切りの向こうのグースは、そのまま通信機を手に取り

「あーあー、聞こえますかー」


『ハイ、どうぞ』と通信機から相手の声が聞こえてくる


 ん? 親父の声に似ているな‥‥


「魔物は6㎞地点まで後退し始めました、今日はもうないでしょう」

『分かりました、2人だけ残して後は仕事に戻ります』

「はい、お疲れさまでしたー」

 ガチャリ、と通信機を置く


「隊長、後任のフレックス隊の方々が来ています」


「えっ! ホントに?」

 グースはガバッと間仕切りを取り除いた、それだけで強風に煽られたような錯覚を起こす。


「いやいや、すみません気づかなくて、探知をしていたもので分からなかったんです」

 そう言って立ち上がり、とてもにこやかな明るい声で話しかけてきた。


 しかし自分達が感じたのは


 大きな岩が今にも自分達を押し潰すかのような‥‥そういった恐怖を感じ、フレックス隊の隊員達は無意識のうちに体をのけ反らせた。


 これが近い将来、自分の隊長となるハヤトとの出会いだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。