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33 仮面のグース


「これ許可証です」

 ゴルジア印の許可証を見せる


「あ、あの‥‥その仮面は‥‥」


「これですか? 気にしないでください」


「いえ‥‥しかしですね‥‥ご本人かの確認が、その、必要で」


「別にこれを取ってもこっちは構わないんですが、前に漏らした人がいましてね、漏らしてもいいなら取りますが、着替えとか大丈夫ですか? 洗浄持ちですか?

 でも俺、仕事熱心な人は好きですよ、周りに人がいるのに漏らしてもいいなんて‥‥」

 

 仮面に手を掛け取ろうと‥‥


「い、いえ! 結構です!大丈夫、大丈夫です! ちょっと! 取らないで!」


 ・・・・・・


 新たな魔法契約のため、首相がくれた許可証を使い、大陸西の移転門付近の施設に来ている、契約出来る魔法は


『重力』


 これが契約出来ると、車のサスペンションに当たる部品の作成や、シャフトなんかも作れるようになる、ただし、『付与』魔法必須


 以前車の下を覗いてみたら、エンジンを掛けてない状態だと、ピッタリくっついていたサスペンションが、エンジンを掛けたとたん、フワッと浮き上がり空中で固定されていた。


 なるほどなー、と感心したものだ。


 サスペンションのようなショックを和らげる物もそうだが、回る箇所、シャフトやギアなど、歯車が必要な場所なんかも『重力』が使われる、回転させる物に、ちゃんと動力が伝わるらしい。

 


 ボロボロになってしまった兄さんのバイク、それを何とか修復したいので、この『重力』は結構欲しかった、あとはエンジンとか‥‥フレームとか‥‥、んー‥‥覚えなければならない魔法がまだあるし‥‥、 必要な部品も作らないといけないし、まだまだ先は長いな。


 バイクの事はそれでいいとして、先ほど骨とう品屋を覗いた時、中々よろしい物を購入出来た、それが今顔に掛けてある仮面だ。

 店主が怯える中、じっくりと吟味していた所、真っ白で陶器のような肌触りの仮面を見つけた。

 目の部分が開いており、鼻の部分は出っ張っていて、その下の所は何も無い、鼻から呼吸をするのに邪魔なものが無く、口の部分は取り外しがきくようになっている、要するに仮面を取らなくても食事ができる、それをぼーっと見ていたら閃いた。


 首相から魔法陣使用の許可証を貰って、一番最初に取った『幻惑』の魔法、この仮面に幻惑を貼ったらどうだろうか? 前から顔を隠せば俺だと分からないんじゃ‥‥と思っていたんだ。


 試しに仮面を購入し『幻惑』を付与してみた


『幻惑・認識阻害』


 実験台はこの店の店主だ、かなりの高齢みたいだけど宜しくお願いします。


 店主にお願いしたところ

「はひぃぃぃぃい!」

「は     い!」って言ってるな、よし許可は下りた。


 店主の体感では、仮面があった方が少しだけ楽になるそうだ、では服なんかはどうだろう? と思い服にも掛けてみたが特に変わりはないそうだ。

 要するに顔を隠し、隠した物に認識阻害を貼ると威圧が軽減されると‥‥


 顔か‥‥顔を隠せと‥‥何か微妙な気持ちだ。


 仮面を付け、少しだけ周りに優しくなった俺は、連戦連勝中の魔法陣に挑む。

 魔力を流すと同時に、魔法陣が光り出し、体の中に何かが入ってくるような感覚で満たされる、

 

 最近感じたことが、魔法契約が成功するたびに体がこう‥‥軽くなるような気がする、他の人たちもそうなのだろうか? 機会があったら聞いてみたい。


 契約も終了したし、あまりここに長居するのもよろしくないので、さっさと退室する、仮面を付けても多少の違いしかないので、ここの施設の人にも申し訳ない、

 さて、このあとはどうするか、一度首都のサーナタルエに戻ってオヤスの喫茶店に行こうか迷ったが、何となく帰るのが面倒になったので、このまま次の任務の場所に向かうことにした。



 次の任務はクジュ村の駐留だ、人口が300人程度の村で、村の主な産業は薬草、緩衝地帯まで入り込み採取しているらしい、薬草は回復薬の原料になり俺も所持している、俺が契約に成功した『癒し』魔法に効果があれば回復薬など必要ないが、未だにささくれも治せない。


 薬草はクジュ村付近でなくては取れない、という訳ではなく、どこでも取れる、東側の比較的安全な場所では大量に採取されている、つまり、危険とされている大陸西側のクジュの村で、そこまでして取る必要は無いのだ。


 それでもそうしないとクジュの村としては生きていけない、国や軍からしてみたら、そんな場所は捨てて他に移住してほしいだろう、なんて勝手に想像してみる。

 実際に他の場所に移動するように呼び掛け、移動してくれる人には補助金も出している。


 それでなくとも、クジュの村は税収が著しく低いため、一部免除されている、そんな場所に部隊でも駐留させるとなると、ハッキリ言って割に合わない


  軍は先月で部隊の駐留を一時取りやめることに決定した、これはクジュの村だけではなく、他の特に産業の無い村でもそういったことが良くあるそうだ。

 大陸西側でも魔物の間引きは行われてはいるが、最近クジュの村付近で魔物が出没するようになってきており、村は引き続き駐留を軍に願い出ていたが却下、村は次に政府に直訴をし、それをたまたまゴルジア首相が目に留め、俺にその任務が回ってきた、ということになった。


 着任予定日にはまだ早いが、もう向かってしまおう、どうせ駐留している隊はもういないんだから


 

 ◆◇◆

 クジュ村到着

 ・・・・・・


「予定日には一日早いですが、今日からクジュに駐留することになりました、ウエタケ・ハヤトです」


 村への駐留はこれで2度目、村長へ挨拶に向かうと、そこには4人村人がいた


「お、お待ちしておりました、今月に入ってから部隊の駐留がいませんでしたので、村の人たちも不安になっておりました‥‥えーその、宜しくお願いします」


 一度目は2カ月前、クジュの村と似たような状況の村へ


「では今日から任務に入ります、部隊の宿舎の方へ案内をお願いします」


 前の村は駐留してから3週間後に、代わりの部隊が来てくれた


「それでは私が案内します‥‥」


 俺は軽く頭を下げ、その人について行く、村長の家を出た時に家の中から聞こえてきた


「なんで代わりの部隊がグースなんだよ!」


 この言葉を聞くのもこれで2度目だ。


 村のはずれにある部隊宿舎に案内され、設備の一通りの説明を受ける、宿舎は村では一番大きな建物で、古いながらもよく掃除が行き届いていた。

 

 この村の人たちは、自分たちがどういう状況にいるかというのが分かっており、自分たちを守ってくれる軍の人間に感謝してきた、しかし最近になって、軍が部隊を駐留させるのを拒むような姿勢を取っており、とうとう先月部隊が引き上げられた。


 やっとのことで部隊が戻ってくると思ったら、やってきたのはたった一人、大陸西側は魔物の強さもかなりの物、最低2部隊が駐留するのが当たり前であったので、先ほどの言葉が出て来たのだろう。

 最初の駐留した村でもこんな感じだったので特に気にはしていない


 と言ったらウソになるけど


「いやだー! おか゛ぁさーん! たべられるぅー」


 ほら‥‥また泣かれた


 たまたま外を歩いていた子供と目が合っただけなんだけど、必ずこうなる


 まず子供は泣く、とりあえず泣く、絶対に泣く、「大丈夫だよ食べないよ」なんて言ったら、更に1オクターブ泣き声が上がってしまう、そうすると‥‥


「マロン!」


 ほら来た


「すいません! 許してください! この子は普段とってもいい子なんです!!」


 こんな感じで真っ青な顔のお母さんが登場する、そしてこの後は‥‥


 バタン!   バタン!


 周りの家じゅうの扉が閉まる音が聞こえ、その場に静寂が訪れる


「‥‥‥‥」

「す、すみません‥‥」


「いえ‥‥いつもの事ですから」


 案内してくれた人に気を使われてしまった、話をしたついでに聞いておきたいことがある

「ここらでよく出る魔物ってのは、どんなのでしょうか?」


「そうですね‥‥大型のオークに、コボルト、マンティコアとダイヤウルフでしょうか? ここは西側と言っても中央寄りなので、中央でよく見かけるような魔物が多いですね」


「村付近での発見はありましたか? それと村人の犠牲などは」


「ここ3年程ありませんでしたが、ただ、先々月辺りから村の近くまでくる個体が増えています、それと今年に入って、奥まで入り過ぎた人が1人、戻ってきませんでした‥‥」


「そうですか‥‥村に来た魔物は、全て村の北側からでしょうか?」


「ええ、そうなります」


「分かりました、では北側で常に待機しましょう」


「お願いします‥‥しかし、本当に一人で大丈夫なのですか?」

 心配そうに尋ねてくる、それは俺への心配なのか


「問題ないと思います」


 ただ村の心配をしているだけだろう



「そうだ、村の北側に柵を作っても大丈夫でしょうか?」


「柵ですか? 人手はあまり出せないのですが‥‥」


「一人で出来るので許可だけ貰えれば」




 ・・・・・・・・



・・・・・・・・


 【 マロン視点  】




 ものすごく怖かった‥‥


 あの仮面の人を見た時、食べられるかと思った


「マロン、いい? あの仮面人には近づいちゃだめよ、グースだから食べられちゃうんだから」


 でもあの人は食べないって言ってた


「私がいい子にしていないから、あの人は食べに来たの?」


「大丈夫! マロンはいい子だから食べられたりしないから」

 お母さんは私の頭を軽くたたいて笑っていた


「でもこの前、私は悪い子だからグースに来てもらうように、お願いしたって言ってたよ?」

 笑っていたお母さんは、変な顔になった


「だ‥‥大丈夫‥‥まだ向こうにはお手紙は届いてないはずから‥‥」


「お手紙はもう出したんなら、あの人じゃないの?」


「‥‥‥‥子供はそんなことは考えなくていいの‥‥いい? あの人には近づかないでね」

 そう言ってきたお母さんは、なんだか目が怖かった、このあと何か言ったら多分怒られるから黙っておく、怒りっぽいから。




 夕食の時、今度はお父さんが怒っていた


「あれだけお願いしてやっときたのがたった一人、しかもグースだぞ!」


 お父さんは村長さんの家であの人と会ったみたい、帰って来てからずっと怒っていた、いつもは静かなのに‥‥


「もう‥‥、食事の時はその話はやめてよ」

 お父さんの話にお母さんは何だかうんざりしている

「それでなくても、マロンがあのグースに近づいて、何かされると思って怖かったのに」


「なに! マロン何もされなかったな?!」


「うん、私の事食べないって言ってたよ」

 お父さんは少し安心した顔をしたけど、直ぐにお母さんに向かって怒り出した


「おい! お前がいて何でそんな危ないことになってるんだ!」


 その日は夜中まで二人は喧嘩をしていた




 次の日の朝・・・


「お父さん、お母さん、行ってきまーす!」


 村のはずれの、初等部と中等部が一緒になっている学校に行くために、両親に挨拶して家を出る


「行ってらっしゃい、グースがいる場所には近づかないでね」


「グースのとこには行くんじゃないぞ!」


「はーい」

 私もよくは分からないけど‥‥、あの人は何だか怖いのであまり近づきたくない、たしか、村の北の方にいるって言ってたなー。


 ふと、北の方に目線を向けた時


 ‥‥‥‥?‥‥?

 ゴシゴシ

 ‥‥?


 目をこすってもう一度見たけど、やっぱりある


 気が付いたら三軒隣で、同じ学校に通っているクリオ君も、グースがいる北の方を見て目をこすっていた。


 ふとクリオ君と目が合う。


 私とクリオ君は、そのまま自分の家に引き返していった


「ねぇ、お父さんお母さん」


「どうしたの、マロン忘れ物?」


「ううん、あのね、北の方に変なモノが立ってるんだけど」


「北の方って‥‥マロン! あれほど近寄るなって言っただろ!」

 またお父さんは怒り出した。






 【 マロン父視点 】



 マロンの奴、あれほど近寄るなって言ったのに、絶対に妻の躾がなってないんだ! 昨日もマロンがグースに近づいたってのに、クソッ!


「ううん? 近づいてないよ、そこで見たの」


 そこで? グースがいる北の方までそこそこ距離があるのに


「いいから来て」


「お、おいマロン」

 マロンに手を引かれ家の外に出る、


「あれ、クリオ君とお父さんもいるな」

 家とクリオ君の家とは、家族ぐるみの付き合いでかなり仲が良い、マロンとクリオ君が良く遊んでいるというのもあるんだろう、とりあえずは挨拶を。


「クリオ君のお父さんおはようございます」

 しかしクリオ君のお父さんからは返事がない。


 クリオ君のお父さんは、クリオ君と手を繋いだまま北の方をポカンとした顔で見ていた。


 ん? 北の方を見ているな、マロンが言ってたグースのいる‥‥ん?


 ‥‥?

「マロン‥‥」

 あれ? あんなのあったっけか?


「なに? お父さん」


「あれ、いつからあった?」

 

 少し首を傾げ

「昨日は無かったよ?」

 

「そうだよな、特に気にはしていなかったけど‥‥無かったよな」


 無かったよな?




 一夜にして北の方角には、部隊宿舎よりも高い、20メートルほどの櫓が組み立てられていた


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