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108 そろい踏み


「先輩、あの噂本当ですか?」

 唐突に世紀末風の後輩、ドルバが話を切り出した。


「‥‥急に本当ですか? って言われても何の事だか分からないよ」


「マシェルモビアで軍団が編成された事っすよ」


「そっちの事ね、聞いてるよ」

 俺のロリコン疑惑の噂だと思って少し身構えてしまった。


 

 我がハヤト隊が所属する中隊は、味方砦への増援に向かうため移動中、そして今は既に深夜、中隊は移動を止め野営をしている最中である。

 今、夜の番をしているのは俺とドルバを含めた数名で、あと1時間ほどで交代の時刻になる。


 俺の頭の上にはウサギの耳の形を模った、家一軒分の価値のある天然魔石が鎮座している。

 傍から見ると珍妙な恰好に違いない。

 しかしながら、これで『探知』の範囲が格段に広がると思えば安いものである、値段は高いが。


 一昨日まで俺は、夜番を殆どしていなかった。

 理由としてはソルセリーが、隊長となる人間は夜番をしないほうがいいと主張し、タクティアがそれに賛同したからだ。

 しかし、俺は今この中隊の隊長ではない、一分隊の一人でしかないし、それに当てはまらない事から夜番に入る事にした。


 だが、そこでソルセリーが

「隊長に夜番をさせるのは悪いから私も一緒にするわ」

 と言ってきたが


「ドルバと一緒にしたいから別の時間帯にして」

 そうお断りした。ソルセリーはその後むくれて、結局夜番はせずそのまま眠りについていた


 実の所、俺が夜番をしようと思ったのは、何かこう‥‥楽しそうだから、その一言に尽きる。

 ここ何年かしていなかったので、何となくやってみたくなっただけである、皆が寝静まった時に自分達だけが起きているというのは、妙にワクワクして楽しい物だ。


 チョコレートを取り出してドルバに渡す

「ほい、夜食だよ」


「うっす! あざっっす!」

 

「噂ってどころか確定らしいよ」


「ほんほっすか?」

 バリバリと音を立ててチョコレートを噛み砕き、一瞬で食べてしまう

 前から言ってはいるが、そうやって食べる物では無いと教えてあげているのに、頑なにその食べ方を止めない。

 美味しい物でも、あっという間に食べてしまう犬のようだ、少しは味わいなよ。


「諜報員からの確かな情報だってさ」

 

 最初その事を聞いた時、ハルツールにもいたの? と思った。

 マシェルモビアからハルツールに諜報員を送り込んできているのは、俺にも何となくわかる、多分軍の中に入り込んでいるんだろう、ソルセリーを助けに行ったあの時も必要以上に追いかけて来たし、中々に良い仕事をしていると感じる。


 ただ、ウチの諜報員はもうちょっと頑張って欲しい気がする、いつも後手後手にまわっているし‥‥‥いや、危険な真似をしろとは言ってないよ? あと少し、あと少しだけ頑張って欲しい。

 だって軍団の設立なんて、事が大きすぎて簡単に分かるでしょ?

 


「って事はっすよ、何かデカい事をやらかそうとしてるはずっすよね」

 ワイルドに指をなめているが、カチカチに冷やしてあるから指に付かないはずなんだけど?


「タクティアもそれは心配していたよ、どこから来るかで話が変わって来るからね」

 

 軍団ほどの数を機能させるためには、それなりの完成された指揮系統が必要になるし、それに、それだけ大掛かりな部隊だと物資だってかなり必要になる。

 これが2カ月ぐらいだったら問題ないが、それ以上となると物資の輸送という問題が出てくる、どのくらいの数なのかはっきりとしないが約3万から6万の大軍の補給物資となると‥‥‥


 タクティアが心配しているのは、その編成された軍団はどのくらいの期間の作戦行動を考えているのか? そしてどこから攻めようとしているのか? という事だった。


 軍隊が進軍出来るのはこの大陸の東部のみとされる、西部から中央そして東部の西よりに少し掛かる地域にかけては大陸深部と呼ばれ、かつてグースが通ったとされる場所がある。

 そこに現れる魔物は尋常ではない強さであり、幾ら軍団と言えども被害は計り知れないだろう。

 よって進軍するとなると大陸の東部しかないのだが、それでも広大な面積誇る。


 エネルギー関係で宇宙開発が出来ず、偵察衛星が無いこの世界では、偵察となると竜翼機の出番になる、『探知』魔法と目視によって偵察をしなければならない。

 もし軍団が動いたとなれば竜翼機をフル稼働し、この広い大陸東部を偵察の為に飛び回らなければならない。

 

 『召喚者殺し』があるせいで召喚獣が出せず、それを補うために竜翼機でサポートしているのに、軍団が動いたとなると竜翼機が偵察の方に引っ張られていく、ただでさえ海軍によって竜翼機が引き抜かれているのに、これ以上減らされたら陸での戦闘はその内容にもよるだろうが困難を極める部隊も出てくるだろう。


「ただ補給の問題で短期的な運用になるって言っていたね」


「へぇー、という事は移動とかも考えると‥‥ちょっとだけ削って帰って行くって事っすか?」


「うん、ただし海沿いを来るとなると、長期になるだろうって」


「‥‥船っすか?」


 軽く首を縦にふった


「陸軍の予算を削減して海軍を増強って聞いた時、何考えているんだろうって思ってたんすけど、結構上の方も考えてたんすねぇ」


 船での補給物資の輸送、そうする事によって大量の物資を運ぶことが出来る。しかし、もう何年も前からハルツールは海軍の増強をしており、今押され気味になっている陸軍と違い、海軍は敵を押しているという。

 ハルツールにしかない魔法『耐壁』が付与された竜翼機は、竜翼機同士の戦いでは圧倒的な強さを持ち、海戦はもちろんの事、敵軍艦の射程圏外の高高度からの偵察にも成功しているという。

 

 それにより、軍艦を使った輸送も発見しやすくなるが、それも完全ではない。

 相手の軍艦は『潜伏・隠蔽』はもちろん使っているだろうし、取りこぼすこともある、もし見つけたとしても当然補給物資を積んだ船には護衛が付いているだろうし、竜翼機だけでは落としきれるものでもない。

 

 タクティアは、もしも軍団が動くのだったら大陸東部の海沿いを進軍するだろうと、一応は考えている。

 これを見込して海軍を増強したのか? と聞いたら

「たまたまです」

 と、憎々しげに話した。

 タクティアの嫌いなクォーモリが発案したからだそうだ。

 

 俺もこいつの事は嫌いだ。こいつのせいでソルセリーがピンチになり、俺が助けに行かなければならなくなったから、あの時のしんどい思いは今でも忘れない。

 しかも最近このクォーモリは、4分の1ヴァンギエル族の血が入っているという事を聞き、ますます俺は嫌いになった。

 実際にあった事も無い人物だが、タクティアと「こいつすっごいやな奴」談義をした事もある、しかめっ面でクォーモリの悪口を言うタクティアの話に、うんうんと相槌をうつ俺、嫌な話をしているはずなのに何故か楽しかった。

 

 どことなく似たような場面を見た事があるなぁと思っていたら、学生時代に女子達がよくこんな話をしていたっけ

「ひどーい」

「さいてー」

 などとその場にいない人の文句を言っていたの思い出した。その時は余程頭に来ていたのだろう、でも陰口はどうなの?

 と思っていたのだけれどその理由がハッキリと分かった。

 

 楽しいからそうしている訳であって頭に来ている訳ではない、それは頭に来ているからそんな話をしているのだろうけど、半分は娯楽である。

 特に実害に合っていない人からしたら100%娯楽でしかない




「交代の時間です」

 交代の兵士に声を掛けられる、夜番の時間はもう終了のようだ。ドルバと話をしていたせいかやけに短く感じる


「うっす、後はよろしくお願いするっす」

「ハッ」


 簡単な引継ぎをしその場を離れようとした所


「ハヤト分隊長」

 交代の兵士に呼び止められた

「ん? どうした?」


「その‥‥戦況の事についてなのですが」

 交代の兵士は今現在の戦況が気になっていたらしい、ウチの部隊には参謀のタクティアがいるのでよくこういった事を聞かれる事がある、あの中隊長は話をはぐらかす所もあるので、中隊長に聞くよりも俺に聞いた方が正確な情報が分かると思ったんだろう


「今現在、陸軍は全体で見たらまだハルツールが押している状態だよ、ただし徐々にではあるけれど元の状態に戻りつつあるかな、海軍は圧倒的に優勢だよこんなんでいいかな?」


「はい、ありがとうございます」


 俺とドルバはその場を離れ、交代で来た兵士はそのまま持ち場に付いた

 

 そりゃこの兵士も不安になるだろう、今まで敵の砦や拠点の制圧とかばっかりだったのが、今度は自軍の砦の防衛に当たらなければならなくなったんだから。

 他の兵士達も薄々は気づいているだろうけれど、明らかに陸では負けている。

 今も』元の状態に戻りつつある』とは言ったけど、今の状態が続くのであれば間違いなく逆転されるだろう

 

 就寝の為ドルバは小さなテントに、俺は自分が作った部隊専用の一軒家に、同じ部隊なのに格差社会である。


「‥‥先輩、前から思っていたんすけど、先輩の部隊に入れて貰えませんかね」


「ドルバが召喚者じゃなかったら入れてあげてたよ、ただでさえ俺は召喚者扱いされてないのにお前が入ってきたらそれが決定的になるだろう?」


「先輩のあの家を見たらテントなんかで寝たく無いんすよ、それにあのソルセリーが朝食と夕食を作ってくれるんすよね? かなり美味いとか聞くんですよ、ホント羨ましいくて仕方ないんすよね」


 ソルセリーと長い事一緒に行動していたので忘れる事が多いが、ソルセリーはいい所のお嬢様である、戦国時代で行ったら信長の妹だとかそんな感じになる、‥‥その例えは間違ってる? まあ‥‥いいじゃないその例えで。

 なのでソルセリーに憧れをいだく男性兵士も多数いるとか、実際の所、性格はお嬢様というかお姫様だけれど。

 そのソルセリー手料理が食べられるとなるとかなり羨ましいそうだ。どうやらドルバもその一人らしい


 ただ‥‥俺甘い料理とか、ちょっと‥‥‥‥


 ソルセリーはどうやら巷では料理が美味いという事で通っているらしい、実際他の隊員達もうまそうに食べている、だからと言ってそれが万人に通用するかといったらそれは違う、正直俺には合わない。

 嬉しいよ? 食事を作ってくれるんだから普通は嬉しいと感じる、でもね‥‥


 俺からしたらラグナが作ってくれた料理の方が美味い、でも

「これから俺が食べる物はラグナに作ってもらう」

 なんて言ってしまったらどうなるか? 言えるはずがない


 一度ソルセリーが夕食の支度をしている所を見た事があるが、本当に楽しそうに料理をしていた。それを見てしまったら「俺の分は要らない」なんて考えることも出来なくなった。


 それでも最近は俺の分だけ甘さ控えめの食事を出してくれるようになった。控えめと言っても本当に控えめで、俺には違いが分からない


「どうかしら?」

 なんて感想を要求してくるけど


「う、うん、美味しいよ」

 としか言えない、笑顔でそう聞かれたらそう答える事しか出来ないじゃない


 最初ソルセリーが部隊の食事を作ってくれた時は、一時的な気まぐれからだろうと思っていた。だから今でも作ってくれるとは思って無かった。

 もしそれが分かっていたら

「砂糖が入っていない物か、味がない物が食べたいです」

 と言ったのに


 早く休暇を貰って、家で存分にラグナの料理を口にしたい



 羨ましそうに語るドルバに

「だったら今度ソルセリーにお願いしてみようか? 夕食にドルバを招待って事で」


「いいんすか!!」


 興奮するのはいいけれど、他の人は寝てるんだから静かにね


「うん」


「絶対っすよ! 絶対にっすよ!!」


 了解してもらえるかどうかわからないけど

「一応言って見るよ」

 

 最近ソルセリーの性格が丸くなってきたような気がするので、受けて貰えると思う



 ・・・・


 ・・・・



「嫌よ」


 次の日お願いしてみると一言で断られた。今でも丸くならず尖っているようだ。


 エクレール曰く、昨日から機嫌が悪いそうだ。

「機嫌が悪いのは隊長のせいだがな、ソルセリーの機嫌が悪いのは全て隊長のせいだ」


 エクレールは俺が悪いと言い出した。

 前まで人のせいにするような性格では無かったのに‥‥エクレールは性格が変わってしまった。







 ◆◇◆


「デカいな」


「そっすねぇ」


 防衛任務にあたる砦に到着したが、そこはもう砦とは言えなかった。

 要塞? もしくはキャンプ地なの? というぐらい巨大な物になっている、工作部隊が忙しく動いており、壁や防衛の為の対空砲の設置など、急ピッチで進められていた。


 忙しそうだな


 魔物相手の壁だったら『土』魔法を使い作れるが、魔法が使える人相手の壁だと俺の出番はない、作ったとしても直ぐに破壊されるだろうから。


 これだけ大掛かりな改修をしているという事はここが重要な場所だからか、それとも何としてでもこれ以上は押されないようにという事なのか?

 多分何としてでもここで食い止めたいんだろう、召喚獣が出せないというのがここまで深刻になるとは思っては無かった。


「「せんぱーい!」」


 大きく手を振りながらこちらに向かって走ってくるという、ベタな事をしてくる世紀末風の姿が二人ほど


「おっと来たな」


「あいつ等とも久しぶりなんで俺も嬉しいっすよ、おーい!」

 左手を口の横に当て、右手を大きく振るうというベタな返事をするドルバ


 この要塞(改修中)には俺の知っている人が二人、既に配置されていた。軍学校でドルバと同じ俺の後輩のユーロスとポンドラスだった。





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