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109 悩み


 エクレールは自身の所属する隊長がはしゃぐ姿を、微笑ましく見ていた。

 軍学校での後輩召喚者らしく、隊長を含むその他3名も皆笑顔である、同じ中隊で一緒に行動していたドルバは知っているが、その他の2人は始めて見る顔だった


 それにしても‥‥

 あの3人はどうしてあんな恰好なのか?


 軽鎧の隙間から出ているインナーが何故か不自然に破れていたり、肩当に棘の様なものが付いていたりと、その装備が独特というか不思議というか、極めつけはその髪型だった。

 真ん中を除いて髪を剃っていたり、逆に真ん中だけ剃って横だけ伸ばしていたり、隊長とよくいるドルバなんかは頭の防具を外した途端、すぐさま櫛を使って髪を逆立てる、それに何の意味があるのかは理解できないが彼らなりの意味というものがあるのだろうと一人納得する。


 それはひとまず置いといて、エクレールには悩みの種が一つあった。

 

 その悩みとは

 ソルセリーの機嫌がすこぶる悪いという事だった。


 つい先日の事、隊長のハヤトがソルセリーとの夜番を断った事から始まる、気は強いが奥手の彼女が勇気を振り絞って言った一言をあっさりとハヤトは断った。


「ドルバと一緒にしたいから」

 そこから不機嫌になったソルセリーはその後私を呼び出し、朝まで彼女の愚痴に付き合わされた。


 次の日の朝、久しぶりに蒸かしたパナンだけがテーブルの上にあった。


 当初は、ソルセリーと隊長をくっ付けてしまえばソルセリーの不機嫌担当である自分の負担が減ると思っていたが、最近ではいくらソルセリーが勇気を振り絞って行動しても、それを事前に知っていたかのように直前に躱すハヤトに、空振りをしているソルセリーが段々と不憫に思って来て本気で陰ながら応援するようになった。


 もう少し素直になって積極的に行けばいいんだが‥‥‥‥


 どうも育ちのせいか、それとも家の名がそうさせるのか、ソルセリーはいつも上から目線の言葉を掛ける、本人からしてみたらそのつもりはないのだろうが

「仕方ないから私が━━」

「しょうがないからしてあげるわ」

 など、もう少し柔らかく話しかけた方がいいと言っているのだが全く変わらない、もしかしたらソルセリーからしたら最も柔らかい言葉なのかもしれない


 どうしたものか? 


 忙しそうに動き回る工作部隊の間をすり抜けるようにその場を離れる。


 それにしても凄いな


 エクレールは次々と運び込まれる資材と、工作部隊の数に圧倒される、以前はただの砦だった場所が、周りの木々は全て伐採されそこに立派な防壁が建ち、防空兵器や兵士の宿舎などの建設も急ピッチで進められていた。


 タクティアが言ってたな、ここは落とされると困ると、ここを落とされると地形的になだれ込むように奥地にまで入り込まれるから何としても抑え込まなければいけない、つまりここは戦場の最前線になる訳だ‥‥‥。

 タクティアはソルセリーが最前線に出るのを嫌がっていたが、いざとなったら隊長に頼みソルセリーを後方に退避させる気なのだろうな‥‥まぁ隊長なら無事にソルセリーを連れて逃げる事が出来るだろう、そういうのが得意な人だからな、

 ‥‥‥おや?


 歩いていると、初等部の小さい子供が珍しい物を見つけしゃがみ込んでいるように、同じ体制でしゃがみ込んでいる人物がいた。


 タクティアか、着任の報告に行っていたと思っていたがまた自分の趣味に没頭しているのか、おおよそ報告の前に我慢しきれなかったんだろうな


 そこにしゃがみ込んでいたのはタクティアだった。

 遠くから見ても一目で分かるその姿、最初にタクティアと任務に付いた時は真新しい軽鎧に身を包み、いかにも新兵ですと言った格好で、鎧を着ると言うよりも逆に鎧に着られていると言った感じだった。

 だが彼の武器や防具は隊長ハヤトの玩具にされ、ハヤトが新しい魔法などを契約すると随時改造を施され、更にタクティアの要望によって、彼の尊敬する人物が身に着けていたとされる姿に変わっていた。


 元々は何の変哲もない軽鎧だったのが今はその面影は全く無い

 長いコートのように変貌を遂げており、その装備の裏側には大量の収納ポケット、そして魔石などもびっしりと引っ付いている。

 一応は動きやすいように長さは膝までになっているが、色が目立つ白色だったりと明らかに他の兵士と違い浮いていた。

 

 何よりその防具が凄いのがハヤトが付与した魔法の数だった。

 『耐壁』『硬化』『重力』『幻惑』『保護』『風』『氷』

 7種類の魔法を付与されたその防具は、実際に対価を払ったらかなりの金額になる、それに付け加えて彼の持つ武器も様変わりした。

 以前は金属を板状にした状態で、片方に刀の刃が付いていたのが、今はその武器にヒュケイの若鳥の羽が両面に付けられており、もう武器には見えない形になっている。


 そんな色物(・・)装備をしているタクティアは周りから『歩く高級品』とよく揶揄されたりする、実際にタクティアの装備一式は、ごく小さい民家が1軒買える位の金額になるだろう。


 タクティア自身その装備を気に入っているので『歩く高級品』と呼ばれても大して気にしていない、それにこの装備はタクティア自身の成長にも役立っている。


「戦闘中以外は『重力』の付与を切っておくように」

 

 人工魔石の節約もあるが、ハヤトの指示で戦闘中以外は装備に付与してある『重力』を切ろと言われたタクティアは、その魔石などがぎっしりと付けられた重い装備を着て移動などをしなければならない、なのでタクティア自身が契約で獲得した『重力』魔法を使い、装備の重さを軽くしなければならなくなった。

 

 最初はすぐに自身の魔力が切れフラフラになっていたが、それが毎日続くと彼の魔力量も上がり、今では丸一日移動しても魔力切れを起こす事が無くなっていた。



 


 タクティアを見つけると「そうだ!」と思いつき、ソルセリーの事でタクティアに相談しようと思った。

 タクティアもソルセリーの『血を残す』という使命の事を心配している事があり、彼ならこの話に乗ってくれるだろうと考えた。


「タクティア少しいいだろうか?」


 私が話しかけるとタクティアは声だけで分かったのか

「いいですよ、後ちょっとだけ待ってください」

 振り返りもせずノートに目の前の植物の記録を取っている。


 『成長促進』

 緩衝地帯で見つけたこの魔法陣でタクティアは隊長のハヤトと一緒に契約が出来た。ハルツールでもほんの数百人しか契約出来ていないこの魔法、今ではその付近には大きな要塞が建設され、今でもマシェルモビアから守られている


 『成長促進』が契約出来たハヤトとタクティアはその後、植物についてそれぞれノートを作った。

 

 ハヤトは食べられる植物の検証、炒めて・煮て・蒸して、それで美味いか不味いかをノートに取っている


「『防病の契約』のおかげで腹を下したりしないから嬉しいね、植物は味で勝負だよ」


 美味いと感じた植物は種を採取してそれを収集してゆき、最近では召喚獣が自身の『収納』の中でそれを育てているらしい。

 珍しい植物を見つけると取りあえず食べてみるハヤトを見て、周りの者はいつしかハヤトの事を


 

 『草食い』と呼ぶようになった



 一方タクティアは、珍しい植物があるとそれを採取しひたすら種を集め、その植物に付いて記録を残している、特に珍しい花などを見つけると少女のように目を輝かせ


「見て下さいキレイな花ですよ」

 まるでその花を慈しむように採取する姿から彼の事を周りの者達は

 

 

 『花屋』と呼ぶようになった



 事細かくノートを取っているタクティアを大人しく待つことにする、邪魔をしては悪い


「もういいですよ、どうしました?」

 ノートを取り終えたが、タクティアは私の方を見ずその視線は植物に向いている


「ソルセリーの事だがな、知っての通り彼女が隊長の事を思っている事は知っているだろう?」


「知っていますよ」


「それでな、ソルセリーの事を応援してやりたいんだが、タクティアにもそれを手伝って欲しいんだ」


 それを聞いたタクティアは視線を植物から私に向ける

「女性はそういった話が好きですよね」


「ん‥‥ああ、私も嫌いでは無いが‥‥それは今はいい、タクティアは以前ソルセリー家の『血』の心配をしていただろう? 多分、隊長はソルセリーの思いに気付いてないんだろう、だからタクティアがその場を作って欲しいんだが、何でもいい、二人きりになれるような任務や同じ夜番でもいい。

 もしそれで上手くいき、隊長とソルセリーが恋仲になって二人が所帯を持つことになればソルセリーは後方に下がる事になるし血は残すことが出来る。

 次の破壊の一族が生まれることになるなら、軍の参謀としての立場のタクティアとしても協力してもらえると思ったんだが」


 タクティアはしばし無言だったが

「うーん‥‥‥‥」

 少し考えるように唸り、植物の方に目を向けた


「以前の私だったらエクレールの考えに乗っていたでしょうが」

 植物に『成長促進』を掛け種を採取し、それを自身の『収納』に保管した


「何か問題があるのか?」 

 反応が思った以上に悪かったので少し不審に思う


「ハヤト隊長の相手にソルセリーだと不足していると思うんです」


 そのタクティアの発言に怒りが湧いてくる、自然と声が低い物になる

「タクティアそれはどういう事だ? 不足とは一体なんだ!?」

 私の声の違いに気づいたのか

 

「あ」と、自分の今の発言にタクティアは訂正する


「今のは私の失言ですね、取り消します」


「なら今の言葉の意味は何だ?」


「‥‥‥えー、まずハヤト隊長は多分ほとんどの魔法を契約出来るんでしょう、出来ると思います、これは素晴らしい才能だと思います」


「そうだな、あれだけの才能の持ち主は世界広しとしても隊長だけだろう」


「ええ」

 タクティアが肯定し頷く

「私が思うにハヤト隊長は1人でも分隊クラスの力はあると感じています」


 それは同感だ、実際間近で見ている者は同じ感想を抱くだろう


「更にグラースオルグになった場合、今までのハヤト隊長の戦闘の情報を見るからには小隊では対処不可能でしょう、尚且つ相手が恐慌状態になった場合は中隊でも圧倒出来ると思います、ですがもしソルセリーと結婚し子が生まれたとすると間違いなく『破壊の一族』の血に上書きされた子が生まれてくるでしょう、つまり父親の才能が潰れてしまうという事です」


 そこまで聞いてタクティアの言いたい事が分かった

「しかしタクティアは『破壊の一族』の血が残る事が最優先なのではないか? 軍にとっても参謀としても」


「軍にとってはソルセリーの血の方が大事です、ですが参謀としてはハヤト隊長も『破壊の一族』とほぼ同格だと思っています、それは身近にいたからこそ分かった事で私はそう判断しました。

 ただ、ハヤト隊長がもしソルセリー以外の他の女性と一緒になり間に子を残した場合、その能力が必ず遺伝するとは限りません、ましてやグラースオルグの力なんて遺伝するかも未知です、それでもその才能が受け継がれる事があれば‥‥と思います。

 ですが、ハヤト隊長がソルセリーと一緒になりたいと言うのであれば私は別に止めようとはしません、むしろ祝福するでしょう」


 いつもの朗らかな顔では無く、真剣な表情のタクティアに私は少し圧倒されていた

「‥‥祝福すると言うならせめて少しだけでも━━」

 それでもそれに対し反論しようとしたが、私の言葉は途中で遮られた


「それに、ハヤト隊長とソルセリーが一緒になるのは、私個人が困るんですよ」


「え?」


「私は軍の参謀ですが欲の強い男です、軍もしくは国家と自分の欲が被った場合、間違いなく自分の欲を優先します、参謀失格でしょうけれどね」


 ははは、と軽く笑い普段のタクティアの顔にもどった


「なら私は中隊長と着任の挨拶に向かわなければならないので失礼しますよ」


 タクティアはそう言って私の側を離れていった。

 タクティアがいた場所には種を取り出され、枯れはてた植物と私だけが取り残された。


 そして私はその場から動けなかった


 

「まさか・・・」

 まさかだとは思うが、タクティアはソルセリーの事を? 

「いや、でも・・・」

 隊長とソルセリーが一緒になるのは個人で困ると言っていたし、欲が強いとも言っていた。


 それはつまり‥‥タクティアは

「ソルセリーの事を‥‥」


「私がどうかしたのかしら?」

 いきなり後ろから肩を叩かれた


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁ!!」


 後ろから肩を叩かれ声を掛けられたのは驚いたが、更にその声がソルセリーと瞬時に分かったのでそれ以上に驚き悲鳴を上げてしまった。

 それにつられソルセリーも悲鳴を上げた。

 

「何よ! いきなり! 何を騒いでいるのよ」


「ソルセリー! いきなり驚かすような事は止めてくれ!」 


「普通に話しかけただけでしょう何を一体‥‥え、ええ、分かったわよ」

 自分でも気づかなかったが、あまりの剣幕だったのだろう、常に強気のソルセリーが珍しく引いた


「何か用事があるのか? 無いなら失礼したい! どうしても、どうしても急ぎ考えなければならない事があるんだが!」


「特には無いけれど・・」


「そうか! なら失礼する!」


「え、ええ‥‥」


 困惑しているソルセリーを置き去りにし、自分をを悩ませることがまた増えてしまった事に頭を抱える


 タクティアがソルセリーを好きで、ソルセリーが隊長だと? 私は一体どうしたらいいんだ? ああ! 聞かなければ良かった。

 聞きたくなかった!

 


 


 頭を抱え体をグネらせ、エクレールはタクティアに話を持ち掛けた事を後悔した。


 だがそんな彼女も一人の女性、そういった話は元々大好きである。

 エクレール本人は気づいていないが。心の奥底では今の状況を面白いと感じている事をまだ分かって無かった。






 ◆◇◆


「なあ、むりなんじゃねぇか?」

 マシェルモビア兵の召喚者フロルドは隣を歩いているティンパーに聞いた。彼にも自分の考えの賛同を得たいからだ。


「無理では無いだろう戦況は我が軍が優勢、今は攻勢の時だ。何も恐れる事は無い」


「でもよぉ、敵さんはかなりの数が揃っているし、砦の強化をしているんだろぉ? そんなのを落とせって言われてもなぁ」


「そんな事考える必要もない、こっちもそれなりの数が揃っているし敵砦は強化途中であって未完成、やるなら今しかないだろう」


「そうは言うがな、なーんか嫌な予感がするんだよ」


 出発時からこの調子のフロルドに対してティンパーは少しうんざりしていた。


「嫌な予感てのは何だ? どうせ気分が乗らないだけだろう、第一その予感というのは当たった試しがあるのか?」


「今まで感じた事も当たった事もねぇよ、でもなぁー」


「でもなんだ? お前の予感てのは具体的に何なんだよ」


「具体的に? 具体的に‥‥」

 フロルドは腕を組み首を傾げ考える、そして思いついたのが



「あの腐れグースがいるとか‥‥かな?」

 

 

 

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