105 役に立てたか?
「ベルフ!」
コスモから飛び降りベルフの元へ駆け寄ると、ベルフは眼球を動かし俺の事を確認し口の端を吊り上げた
「ハヤト・・」
「喋るなベルフ! ライカ近づく敵兵を叩け!」
「は、はい!」
ベルフに走り寄ろうとした顔面蒼白のライカが、慌てて刀を構え直し少し離れた場所で俺達を守るように立つ
『収納』から回復薬を取り出し、千切れた胴に向けふりかけるがベルフの顔には何の反応も無かった。
体を治す回復薬でも傷口に触れれば沁みたり、不快感を与えるものだがベルフは表情を動かさなかった。
「コスモ、エクレールを呼んで来い!」
ヒヒーン!
コスモは地面を蹴り上げ、勢いよく上空に飛び立った
直後に西の方角からこちらに近づく反応が2つ、それを目視で敵と確認3つの魔法を放つ、2つは直接攻撃、もう一つは敵の手前の地面にわざと落とした。
爆発で土埃が舞う
「ライカ! 西の方向!」
俺が言い終わる前にライカは走り出した。
「ハ、ハヤト・・ライカを責めないでやってくれ」
こちらを見ているが焦点が合っていない、目がまだ見えているのかすら分からない
「喋るな」
回復薬をもう一本取り出し、下半身の付いていない胴にふりかける、でもやはりベルフの表情には変化が無かった。
「俺が行けると思ったんだ・・だからライカを止めなかった・・うっ・・ゴボッ・・はぁ・・はぁ」
「いいからもう黙ってろ!」
口から血を吐き出したベルフを制するため、頭を少し起こし回復薬を口に少しずつ注いだ。
「回復薬は苦いから苦手なんだよ」と前に嫌そうな顔で言っていたベルフ、しかし今のベルフは文句も言わず、ゆっくりと喉を通らせる、そして飲んだ回復薬はそのままベルフの上半身から垂れ流れ、地面に血と一緒に広がる
「はぁ・・はぁ・・、中々これで美味いもんだな・・」
「エクレールがすぐ来るから持ちこたえろ、大丈夫だこのくらいならすぐに治る」
北の方角から接近する3つの反応方角からして味方では無いと判断、目視で確認はせず、そのまま魔法を叩き込んだ。
と同時に俺とベルフを囲むように土で壁を作り、『耐壁』を付与したこれで1発ぐらいは敵の魔法でも持ちこたえられる。
そして魔法の爆発音と同時に、ライカの反応が魔法が爆発した場所に向かう
「・・お前に助けられたのは・・これで2回目だな・・はぁはぁ・・今回は少しドジをしてしまったが」
「ベルフいい加減にしろよ、喋るなと言ったんだぞ」
ありったけの回復薬を取り出しベルフの体に掛けていく、喋るなと言ってもベルフは止めなかった
「俺は、子供の頃から竜騎士の話が好きだった・・・軍に入ったのも、その影響からだ・・はぁはぁ、だ、だからお前が竜騎士と呼ばれた頃から注目していたし、お前が写った写真を見るためにわざわざ軍学校に見に行ったりもした」
回復薬のおかげもあってか、ベルフから流れ出る血が少なくなってきたような気がする、しかしベルフが喋ると出る血の量が微かに増える
「血が流れ過ぎている、頼むからこれ以上は口を閉じてくれ」
ベルフの目は既に俺を見ては無く、空中の一点だけを見ていた。
「タクティアからお前の新しい部隊の話があった時・・・俺は直ぐにその話に飛びついた。ソルセリーを置いて行くのは忍びなかったが・・・結果的にはソルセリーも付いてきたからな、はは・・」
ベルフは既に耳が聞こえないのか、俺の喋るなという言葉にも反応せず、自分の話だけを続けていた。
回復薬も全て使い切り、俺は『癒し』を発動させる
契約は出来たが全く効果の無い俺の『癒し』魔法、それでも、少しでも足しになればと思い・・
エクレール早く来てくれ!
「あの時・・・絶望していた俺達を助けてくれたお前の事を・・・はぁ・・俺は今でも感謝している、はぁはぁ・・・・少しでもお前の助けになればと今までやってきた・・・ソ・・ブ八ッ」
ベルフの口元から再び血が吹き出される
「もう同じ破壊の一族の部隊として・・・お前と関われなくなるのが残念だ・・・はぁ・・はぁ・・はぁ」
「ベルフもういいから! 喋るんじゃない!」
「隊長!」
頭上からエクレールの声
「来たか!」
コスモが急降下し着地する、同時にエクレールが飛び降りてきた
「これは‥‥」
ベルフの状態を確認したエクレールは顔が引きつる
「エクレール頼む!」
「ああ」
切断された箇所の少し上にエクレールは手を添えると魔法が発動し、次々とエクレールの手からベルフの体へと吸い込まれていった。俺も頼りない魔法をベルフの体に向けて流し込み続ける
エクレールの治療が始まってもベルフは会話を止めようとしなかった
「生まれ変わったら、またお前の部隊に入ってやるから・・枠は開けておけよ」
「縁起でもない事を言うな、大丈夫だ私が治すから助かる、気をしっかりと持て!」
「はぁ・・はぁ・・はぁ・はぁ」
呼吸が急に荒くなりベルフは一言も喋らなくなった
「エクレール、早くしろ!」
「今やってるだろう!」
互いに声を荒げ、今にも命が尽きそうなベルフに焦りを覚える、壁で塞いでいるため仲間か敵か分からないが、ライカの反応に一直線に向かっていく反応がある
こんな時にしつこい!
「召喚・オロチ!」
俺達3人を囲む壁の外に突如出現した8本の頭を持つ巨大な大蛇、高さ20メートルは有ろう巨体がうねり俺からの命令を待つ
「ライカを守れ、敵兵を近づけさせるな!」
その言葉を切っ掛けに、距離の近い敵兵に向かってオロチは口を開け威嚇、その直後に口から衝撃波が連続で放たれる、敵兵と思わしき反応は足止めを食らい、敵兵らしき反応にライカが追い付く、ライカが追い付いても援護の為オロチは衝撃波を撃ち続けた。
これで大丈夫だろう、後はライカの働きに賭けるしか‥‥
「ハ、ハヤト・・」
「う、うん? 何だベルフ」
外の様子に気を向けていた俺は、名前を呼ばれたベルフの方に意識を向ける
「ベル‥‥」
先ほどまで見えているのか、それとも見えていないのか分からない虚ろな目をしていたベルフが、しっかりと焦点の合った目で俺を見つめていた。
「俺は・・・お前の役に立てたか?」
・・・・
・・
その言葉を聞き俺は『癒し』の魔法を止めた
「隊長!?」
ほぼ俺の魔法は効果が無いとはいえ、魔法を止めた俺に向かってエクレールが驚く
俺はベルフの手を両手で取り握り締めた
「ああ、お前は最後まで立派だったぞ」
「そうか・・」
ベルフは安心した様にほほ笑み、手から力が抜け落ちていく
「直ぐに戻ってくるから・・いつか・・・またいつか・・・会おう・・・ハヤト」
「そうだな‥‥、またいつか‥‥‥‥ベルフ・ラーベ」
俺が言い終わる前にベルフの心臓は動きを止めた。
オロチの8本の首はそれぞれ別の方向に向いており、各個に衝撃波を放っている、その中をライカの反応が縦横無尽に動き回るなか、背後からは多くの反応が近づいてくるのが分かる、でもこれは味方の物だろう
ベルフとライカが敵軍の中心に開けてくれた穴のおかげで、敵兵は体制を崩しそこから味方が付け入る事が出来た。ただそのせいでベルフがたった今、命を落とすことになってしまった。
本来ならすぐに味方の援護に回らなければならないが、俺もエクレールもその場から動く事が出来ず沈黙していた。
今回の遭遇戦でハルツール軍の死者はベルフを含めて2人だけだったが、戦闘が継続できない程の怪我をしたものが半数以上超えた。
対するマシェルモビアは、怪我人よりも死者の方が多くそこら中に死体が転がっている、彼らはこれ以上の戦闘は不可能と判断し撤退をした。
消滅させられると召喚獣そのものがが呼び出せなくなる、召喚者殺しがあるせいで、召喚獣を使った戦闘が出来なくなるというハンデがあったにも関わらず、ハルツールは一応の勝利を収めた。
この勝利の立役者は間違いなくベルフとライカだろう、この二人が居なかったらハルツールの死者はかなりの数になっていたに違いない、二人が敵に切り込み、かき乱してくれた結果だ。
この中隊の隊長は参謀のタクティアと話し合い、これ以上の進軍は当然ながら不可能と判断、敵から奪った砦に帰還することになった。
俺がベルフに『付与』した印は、その時から二度と反応する事は無かった。
◆◇◆◇
「何故お父さんは死ななければならなかったんですか!?」
ベルフの6男である少年が、まるで俺が殺したかのような鋭い目つきで睨んでくる
砦に帰還後、俺は死亡した2人の棺と一緒にハルツールに帰還した。
敵の砦攻略中であったため、中隊長は帰還せず、部隊の中で帰還したのは俺一人、その他は全て砦に残っている
そして、ハルツールの軍本部敷地内ではその死亡した2人の葬儀が行われ、俺も参列している
「お父さんは隊長に任せておけば全部上手くいく、隊長の側にいるのが一番安全だって言ってました、その側にいるはずのお父さんが何で死ぬんですか!」
6男は最初あった時、俺に憧れているとベルフから聞いていた。確かにあの時キラキラした目で俺を見ていたが、今は違う、その目に映るのは憎しみだった。
父親が死亡した事に対しての辛さを俺にぶつけていた。
ベルフの妻や子供達はその6男を止める事はせず、ただ涙を流しているだけだった
俺はその6男の言葉を聞き、ただ俯き黙っているしか出来なかった。
トコトコと、小さな足取りでこちらに歩いてくる子供がいる、この子は召喚獣を契約した時にいて、オロチ・ラグナと2つの召喚獣で怯え泣いていた子だった。
その子が俺の前に立ち
「ねぇねぇ、お父さんは? いつ帰ってくるの?」
父親が無くなった事が理解出来ないのか、不思議そうな顔で俺を見上げてくる
こんな時、なんて言ったらいいのだろうか?
お父さんは夜空のお星さまになったんだよ、とでも言ったらいいのだろうか? 分からない、俺には分からない、誰か教えて欲しい
俺はその子の前で膝を着き、そしてその子を抱きしめ目を閉じ「ごめんね」と小さな声で呟く
俺は卑怯な人間だと思う、その子がもう話が出来ないように胸に抱きしめ、そして6男の厳しい目から逃れるために自分の目を閉じたのだから




