104 俺は
敵との遭遇を知らせる信号弾が上がる、その直後に鳴り響く爆発音
「ここで出会うのか~」
「今日は運が悪いっすね」
隣にいるドルバの顔が険しいものになる、木々が生い茂る森の奥からチカチカと魔法による光が漏れてくる
敵砦まで何事もなく行けるかと思ったが、そうは甘くなかったようだ。
「ハヤト隊長! 召喚獣を!」
後ろから駆けてきたタクティアが俺に忠告する、ソルセリーとエクレールも俺との差を詰める
「おっとそうだ」
警戒に出してあったノーム達を戻って来させる。
マシェルモビアの持つ穂先が黄色に光る武器『召喚者殺し』、それで消滅させられた召喚獣は今の所、二度と召喚出来なくなることが分かっているため、敵との戦闘になった場合、その武器が無いと確定するまで、もしくはどうしても召喚獣が必要になった場合以外は、召喚獣を出さないという事が決められていた。
それにより、召喚獣をうかつに出せないハルツール軍は戦闘で苦戦する事が多くなっていた。
今の所全体ではハルツール軍はマシェルモビア軍を押している、しかし、少しずつではあるが戦況が逆転されるようになってきていた。
「何とも、もどかしいっすね」
「まあね」
召喚獣を呼び出し援護したいがそれも今はまだできない、『召喚者殺し』が無いと確認できるまでは
互いに『収納』から武器を取り出す、ドルバは長い刀を、俺は万が一敵召喚者がいた場合を配慮して、ただ単に黄色く光る槍を取り出す、もしも敵召喚者が近づいてきた時に、コレを見て引いてくれればいいんだけどと思いつつ。
もし敵兵と遭遇した場合の個々の行動は、タクティアがあらかじめ決めているとはいえ、時折中隊長のと思われる声が前方で微かに聞こえる、細かい指示を出しているのだろう。
ここで『探知』を発動させてみると、『探知』範囲ギリギリの所にその内の2つがあった、その2つがベルフとライカだ。
以前ソルセリーの力で破壊した砦攻略の際、敵兵との混戦となった時、魔法の爆発による煙で視界が悪くなり、『探知』で追っていたにも関わらずライカも姿を見失ってしまった。
そのせいでむやみに手を出す事が出来なかったことがある。
それを解消するためにに考えたのがマーキング
あらかじめ位置を把握しておきたい人間に印をつけておく
その方法は印をつけたい人間に対し、反転した『探知』魔法を『付与』する事、簡単に言ってしまうと相手に発信機を付けるのと一緒
出来るかな? と思ったら意外にも出来た。これにより通常の反応とは違う反応として感じ取る事が出来た。
この通常とは違う反応は、『付与』をした本人にしか感じ取る事が出来ず、他の『探知』持ちにはこの反応は感じ取れない
この方法で特定の相手の場所が分かると実証された時、公表しようかと思ったが、何となく悪い事に使われそうな気がしたので公表する事を止めた。
もしかしたらだが、この方法を知っているもしくは使っている人がいるかもしれない、だが同じような理由で公表していないのかもしれない
このマーキングのやり方として、相手の体に直接触れ『探知』の『付与』を行う、肉体への『付与』は装備や道具と違い、いずれは消えてしまうが、大体1ヵ月は持った。
ハヤト隊の隊員達には直接体に触れ『付与』してある、しかし、隊員達は俺がそんな事をしているのは知らない
俺がタスブランカでフェルドとして、リテア様の護衛をしていた時、館に住む人全員にコレをしていた。
「宜しくお願いします」と言って握手を求めた時に、こっそりしておいたので館に住む住人全ての場所が把握できた。
しかし、問題はリテア様だった。
握手とかしてくれなさそうな感じだったので、目力で何とか『付与』を飛ばそうと思ったが駄目だった、当たり前である。仕方なくその時はポッポを召喚しリテア様に付けていたが
暫くベルフとライカの反応を伺っていたが、その一つの反応が急に動き出し、もう一つの反応が追うようについて行く、そして『探知』圏外に消えた。
『探知』の反応は50メートルまで、大した距離では無いが木が邪魔をして視界ではとらえられない、ベルフとライカにはあまり前に出ないようにタクティアからの指示が出ているはず、にもかかわらず2つの反応は圏外へと消えていった。
『収納』から『探知』に使うためのうさ耳人工魔石を取り出し、それを使った所、一気に『探知』出来る範囲が広がり、戦場となっている場所の敵味方全ての配置が見えることになる、その中に真っすぐ敵の中心に向かって進む反応が2つ、間違いなくベルフとライカだった。
明らかに突っ込み過ぎている2人を止めに追うかどうか、俺は迷ってしまった。
ソルセリーを守る為に当初の決められた行動に沿ってこの場に残るか? それとも二人を追うか?
結果としては後者が正しかったことになる‥‥‥‥
◆◇◆
「ふん!」
ライカが刀を振るうだけで、糸が切れた人形のように敵兵が崩れ落ちていく、そのまま奥に突き進むライカは明らかに敵兵の中に突出しすぎているが、それと同時に敵兵の陣形をかき乱しているという事も意味している。
ベルフはそのライカの補助の為、ライカに必要以上の敵兵が群がらないよう、飛んでくる魔法にライカが阻まれないように立ち回る、それと同時にベルフ自身に降りかかる攻撃もかわさなければならない、とは言っても、ライカの後ろに控えライカの補助をしている限り、彼がベルフの道を作ってくれる、言わば安全地帯となっている、それでもベルフの額には魔法の爆発で何かの破片が当たり、そのせいで血が流れていた。
これくらい、あの時に比べたらなんて事は無い!
流れてくる血を手で拭い、べフルは突き進むライカに遅れぬようにと、必死で食らいついて行った。
◆◇
ベルフが隊長のハヤトに出会ったのは、ベルフが絶望の極致にいる時だった。
自身の所属する部隊が自分とソルセリー以外全滅した際、昼夜問わず敵から逃げ続け、肉体的にも精神的にも限界に来ている時だった。
食料はあったが、水はもう底をついており、唾液を飲み込むだけでも辛くなるほどカラカラだった。
もちろん睡眠も取れておらず、気が付けば疲労で地面に倒れている程、気を失っていた僅かな時間が睡眠を取ったと言えるならそれは一応睡眠になるのだろうが‥‥
ソルセリーは以前の作戦で二人の姉を失ってから生きる気力を失っており、まともに走ろうとはしない、そのソルセリーの手を引き、ひたすら南に向かい走り続けた。
ソルセリーはハルツール軍でも最も重要な一人、今の自分はその彼女を連れ無事にハルツールに戻らなければならない、それは破壊の一族の部隊に所属する隊員なら誰もが分かっている事、これが自分ではなく他の者でもそうしただろう、ベルフも当然最初ははそう思っていた。
しかし、自身に余裕がなくなってくると別の考えが顔を出してくる
なぜ自分がここまでしなければならないのか? と
自ら走ろうとしないソルセリーを、何故ここまで守らなければならないのか? このままソルセリーを置いて自分だけ逃げてしまえばいいのでは?
彼女は食料を持っていない、このまま置いて行けばそのうち力付きるのでは? もしそうでなくても敵兵に撃たれるのでは?
そうすればソルセリーを見捨て、自分だけがが無事にハルツールに一人で逃げ帰った後でも、言い訳が聞くのではないだろうか? 「ソルセリーは敵に撃たれた」と
ベルフはこみ上げてくる思いを何度も抑え込みつつもひたすら走った。ただ、走ると言っても歩いているのと全く変わらない速度、気は早るが体力が続いて行かなかった。
「ダブ小隊の方ですね」
そんな時だった、頭上から人の声が聞こえたのは
ベルフは「ああ、終わった‥‥」と声を聞いた瞬間思った‥‥だがそうでは無かった
「救援に来ました」
その一言で今まで張りつめていた心が瞬時に解放され、脱力する
救援だと?
それが最初にベルフが思った事、そしてその後すぐ気が付く。声の主は上空におり何かにまたがっていた、軍では‥‥いや、ハルツールではずっと前から知られていた存在だった。
「竜騎士だ‥‥‥‥」
思わず口から出た言葉、そして同時に涙が出そうになる、極限まで追い詰められた自分達に差し伸べられた希望、その希望はとてつもなく大きなもので、ベルフはその場にへたり込んでしまった。
助かった‥‥
その時の召喚獣にまたがっているハヤトの姿は、今でも忘れることが無い、その姿はベルフが思い浮かべる『英雄』であり、まさに竜騎士だった
◆◇◆
その時の経験からかベルフは口には出さないが、今でも隊長のハヤトに感謝をしていた。敵地のど真ん中と言える場所にたった一人で来てくれたことを
だからこそベルフはこの部隊の役に立ちたいと思っていたし、何より隊長のハヤトを助けたかった。
タクティアに、ライカの補助をハヤトと変わってもらうか? と言われた時ベルフは拒否した。自分がライカの動きに付いて行けてないのは自分でも分かっていた。
ハヤトが十二分にその力を発揮できるのは、一人で自由に動いている時、だからこそベルフはその役を買って出たのだ、少しでもハヤトの役に立ちたいと
故にベルフは言えなかった、いや、言わなかった。
ライカが前に出過ぎている事を、本来ならライカを止めるべきだった筈なのに
ベルフは焦っていた、自分も役に立つ事を証明したいと
その焦る気持ちのせいで、ベルフはライカを補助する事だけに思考の殆どを割いていた。
だからその時が来てしまった
パリン!
ハヤトに掛けてもらっていた『耐壁』が砕ける音がした後
ドン!
ベルフは腰に強い衝撃を受け体は宙を舞った
「ベルフ!」
ライカが叫ぶと同時にベルフは地面に叩きつけられる
しまった!
直ぐに立とうとしたが足に力が入らない
「足を‥‥やられたか」
「あああああ!!!!」
ライカが飛び込んで来て、ベルフを攻撃した相手に刀を打ち込む、そこには双頭の召喚獣ミオロゼがいた。
召喚獣にやられたのか‥‥‥‥
召喚獣ミオロゼには強力な牙が付いており、その牙は金属でも楽々粉砕する、ベルフはミオロゼにやられてよく自分でも無事だったと思った。
まずい‥‥ライカの補助をしないと‥‥‥
意識が薄れそうになっていく感覚を味わいながら、ベルフは魔法を発動しようとする
「ベルフ動くな! そのままでいるんだ!」
そうは言うが補助の無くなったライカは、敵兵士の魔法攻撃を刀で弾き飛ばしながらも召喚獣と対峙しなければならない、ましてや今ここは敵兵の真っただ中、敵兵は囲むようにライカを攻撃する
「ティンパー後ろから突け! オレっちが抑え込んでいるからよぉ!」
「分かってる! クソッ、こいつは後ろにも目があるのかよ、フロルド足を狙え!」
「あいよ!」
召喚者らしき人物はライカに向けて『水』魔法を放つ
「くっ!」
ライカは足を狙えと予告されながらも、召喚獣と兵士の相手で手一杯になり、水流に足を取られ体制を崩した
マズイ!
ベルフは咄嗟に兵士に向け魔法を放つ、それは見事に兵士の背中に着弾した。しかしそれはベルフが思っていたほど威力が無く、魔法を放つと同時に急激に体から力が抜ける
「うっ! こいつまだくたばって無かったか!」
その言葉と同時に放たれる『火』魔法、それがベルフに直撃した
「ぐぁぁぁっ!」
力の入らない腕で火を振り払う、頭の中が真っ白になりかける、体が燃える事が防げたがその時ベルフは自分の体を見て言葉を失った。
俺の・・足が・・・
ベルフから見えた自分の体は、腹から下がついていなかった
は・・はは・・どおりで足が動かない訳だ・・
腹の部分からは赤黒い物が出ている、普段なら発狂でもしていただろうが、薄れゆく意識のせいでそれを見てしまってもベルフは何とも思わなかった。
「フロルド! ティンパー! 加勢する!」
「助かる!」
「こいつしつけぇんだよぉ!」
だめだ・・ライカが・・・
魔法で援護したいが、致命傷を受けたせいなのか、魔力が体から逃げていく
これを・・使うか・・
ベルフは白い粉の入ったカプセルを『収納』から取り出し、それを口に入れようとしたが、その手からするりとカプセルは落ちていった。
クスリが・・・
取ろうとしても手がもう動かなかった
パリン!
『耐壁』が破られる音が響く、ライカの『耐壁』が消えたのだろう
「終わりだぁぁぁ!」
完全に体制を崩されたライカの背後から敵兵の刀が振り下ろされる
ラ、ライカ・・・すまない・・・
ライカを助けたいがもう体を動かす事も出来なくなったベルフは、ライカが切られる瞬間にも何も出来なかった。
ビリリッ!
何かがほとばしり
ドン! ドドドドン!!
それは次々にライカを取り囲んでいた敵兵に向かって降り注いだ
魔法・・か・・?
「ぎゃぁぁあ! イテェ! イテェよ!」
「クッ・・フロルド!」
召喚者らしき敵兵の腕には、肩口から槍が刺されており、手の甲から槍の穂先が現れていた。
「どこから! ハッ!」
敵兵の一人は上空を見上げた後、槍が肩に刺さり苦しそうにする召喚者を見て顔をしかめ
「また‥‥いや駄目だ今は無理か、下がるぞ! 援護を頼む!」
「分かった!」
「フロルド引くんだ!」
下がっていく敵兵に対し、なおも上空からは執拗に魔法が放たれていた。
ベルフはゆっくりと視線を上に向けると、太陽を背にし、あの時と同じように翼の生えた召喚獣に乗っているハヤトがいた。
「りゅう・・きし・・・」




