103 不安
「そしてこのルートを通り、この敵砦に向かう事になります、既に別の部隊が攻略に掛かっていますが進展は思わしくなく、我々はその増援という形になりますね」
今の時刻は夜、野営の準備を済ませ、ハヤト隊の隊員達は明日以降の作戦の内容を確認していた。
ハヤト隊は今、前回共に敵砦を落とした中隊と行動を共にしており、今回もその中隊と作戦を共にすることになった。
これはタクティアの提案が軍本部に承認された事が反映している、どうしてもこの部隊と共にしたいと願ったからだった。
タクティアがこの中隊と行動を共にしたいと思った理由としては、この部隊を自由に指揮できるからである
ソルセリーの力を軍の許可も無く使用しようとしたこの中隊長、本来ならば降格ものの所業だが、タクティアが秘密にしてあげるからと説得(脅し)し、この部隊の指揮権を奪った。
指揮権を奪われた中隊長だが、功績は自分の物になるので嫌々ながらもタクティアに譲る事となった。
中隊の皆は各自テントで夜を明かすが、ハヤト隊の隊員達だけは、隊長が自ら魔法作った2階建ての戸建てで夜を明かす、その戸建ての中でハヤト隊はタクティアから詳しい説明を受けていた。
「増援で向かうこの砦も、隊長のあの魔法で何とかで来るんじゃないんですか?」
ライカは前にハヤトが使用した、女神から賜ったという魔法の事を思いだしていた。あの時の魔法の威力は凄まじく、その場にいたライカ含め3人は身動きも取れなかった程だった。
「それは無理でしょう、あの魔法の発動条件は難しく、立地や天候などを配慮しないと打てませんから」
「タクティアはやけに詳しいのね、何故そんな事までしっているのかしら?」
「直接聞きましたから」
「教えてもらったのか!」
ベルフが身を乗り出す
「はい、ただし教えてもらっても我々には使えませんから、以前からハヤト隊長の話を聞いている私だって、イマイチ理解出来ない所とかありますからね、まぁ、『女神』の魔法ですから、そうそう私達が出来るような事では無いんですよ」
そこでライカは気づいたように周りを見渡す
「所で隊長はまだ戻って来てはいませんが?」
「後輩の召喚者に用事が有ると言っていましたから、そちらにいると思いますよ」
「そうですか」
「ふーん」
ベルフは建物のドアの方にに視線を向けた
◆◇◆
「この前の給料に手当てが付いてたんですよ」
「へぇーよかったじゃん」
「マジ大助かりっすよ」
俺は後輩のドルバに頼みごとがあり、すこし付き合ってもらっていた。
その頼み事が終わるまでの間、『土』魔法で椅子を作りドルバと談笑している、ドルバに対しての頼みとは、俺達の目の前にいる召喚獣2体の事、俺のラグナと、ドルバの召喚獣、互いに見つめ合ったままさっきからピクリとも動かない
なぜこうなっているか?
それはラグナが
「他の方の召喚獣と話をして見たいのですが」
と言ったのが切っ掛けだった。
ラグナが何故そうしたい思ったのかは分からないが、丁度ドルバがいた為お願いをした。
話をしたいと言ってはいたが、さっきから全く話をしていない、見つめ合ったままだ。
なんか‥‥こう、召喚獣同士通じるテレパシーみたいなものがあるんだろう。
一方ドルバの方は、仮とはいえ自身の所属する中隊が「破壊の一族の部隊」となり、それに伴い、特別手当が支給されたと喜んでいた。
「あのー、ところで先輩」
「なに?」
「今の戦況って一体どうなってるんすかね?」
「どうなってるって‥‥お前のトコの中隊長からは何にも聞いてないの?」
「いやぁ‥‥聞いてはいるんですが、本当の所はどうなんだろうなって、先輩のトコって本部の参謀がいるじゃないっすか」
「ああ、なるほど」
末端の人間には詳しい事は伝わらないから、ドルバとしては不安があるんだろう、ハルツールでの報道でも悪い事はまず伝えない、逆に少しでも良い事だとそれを大げさに伝えるのが日常の報道になっている
この報道で俺はとてつもない被害をつい最近受けた。
『現代の竜騎士と呼ばれた人間は、小さい子供にしか愛情を注げないのでは?』
芸能コメンテイターが言った事から、それが何故か本当の事のように噂されてしまった。
要するに『ロリコン』呼ばわりである、関係があるとすれば間違いなく次期タスブランカ代表のリテア様の事だろう
本当にいい迷惑である
この部隊に再合流した時
「あの! 自分の親戚に年は俺の一個下なんすけど、子供と同じ位背の低い従妹がいるんすけどどうすか?」
なんてドルバに言われた。
そんな事言われても迷惑だけど、成人した背の低い女性というのは正直嫌いではない。
話を戻すと
召喚者というのは優遇はされてはいるが、所詮は一人の兵士、当然軍の詳しい情報など知る事も出来ないのだ。
「タクティアの話だと、大陸東部緩衝地帯の全体から見たら1割程押しているそうだよ」
たかが1割だと思うかもしれないが、日本で例えたら九州1つ分にもなる、日本の国土全体よりも広い緩衝地帯ともなるとその面積は相当なものになる
魔物が生まれ、領土としては機能しない緩衝地帯だが、それでも国土が広がったのはとても大きい
「そうなんすか? うちの中隊長もおんなじこと言ってましたから、嘘はついてなかったんすね」
安心した様で胸を撫でおろす
「あんまり考え込むなよ、考えても損するだけだぞ」
「そっすね、でも先輩からその話が聞けて安心したっすよ」
世紀末風の風貌からは考えられないくらい、心は繊細だったようだ。
「旦那様」
ドルバの召喚獣との話は終わったのか、召喚獣のラグナが話しかけてきた
「もういいのか?」
「十分に確認することが出来ましたので、ドルバ様もありがとうございました」
ドルバに対して一礼する
「いいっすよいいっすよ、先輩の役に立てたんっすから」
「はっ‥‥旦那様、出来ればドルバ様に感謝の意味を込めてお茶をお出ししたいのですが」
俺は別にいいけど
「だって、どうする?」
「うっす、頂くっす!」
「じゃあ頼むよ」
お願いすると
「はい」と言ってラグナは自身の『収納』からテーブルを取り出し、そのままスッと姿を消した。
「えっ? 消えたっすよ、帰還させたんすか?」
「させて無いよ」
それは魔法陣に帰ったのではなく、自身の『収納』の中に入って行ったのだ。
ラグナが契約した魔法の1つの『収納』、『火』や『水』など戦闘に使える魔法も契約出来たが、威力自体は低く戦闘には不向きだった。
ただラグナの『収納』魔法は異常ともいえる広さを持っていた。
通常の『収納』魔法はクローゼット1つ分が当たり前、俺が知っている一番大きい『収納』を持つデュラ子とハン子でも特大の洋服ダンスの広さだった。
ラグナの『収納』の広さはデュラ子よりも更に広く、何と! 普通の民家が一軒、すっぽりと入る程だった。
ラグナのオプションで付いてきた老婆メイド達は、『収納』魔法のスペースを共有しており、メイド達はラグナが召喚されている間切り離され、その『収納』魔法の中で待機している場合が多い、そこで各自の仕事をし、必要とあればそこから出てくる
3人の老婆の薄汚れた服装も俺が買ってあげた布を使い、老婆の一人のひぃが『収納』魔法の中で新しくメイド服を作り、今では小奇麗な老婆に変わっていた。
デザインもかなり良く、その内に俺の服も作ってもらおうか? と考えている。
「おまたせしました」
『収納』から出て来たラグナは、俺とドルバの前に設置したテーブルの上にお茶とチョコレートを乗せた。
「チョコレートじゃないっすか! 俺まだ1度しか食べた事が無いんすよ!」
大興奮のドルバ、そのチョコレートはカチカチに冷えており、口に咥え歯を立てると「パリン」と音を立てて割れた。
俺はチョコレートを持ち歩くときは『氷』魔法で凍らせて『収納』に入れている、しかし、このラグナは『収納』の空間の一部を、『氷』魔法で冷やし冷凍・冷蔵室を作り出している。
それを聞いた時、俺も真似してみようと思い挑戦したけど無理だった。説明は何度も聞いたがサッパリ分からない
その他にもラグナは『収納』の中で家庭菜園をしているらしい、なので頼めばいつでも新鮮な野菜が食べられる、どういう原理でそんな事が出来るのか不思議だが、箱庭ゲームみたいで何だか楽しそうだと感じた。
少し羨ましい
「美味いっす! マジで美味いっすよ!」
バリバリと音を立ててかみ砕いていく、口の中で少しずつ溶かした方が美味しいのにと思いつつ俺もチョコレート(グース仕様の特別品)を味わった。ラグナも料理の腕はもちろんの事、お茶の入れ方もうまくなっているので嬉しくある
チョコレートを食べ終わり、まだ物欲しそうにしていたドルバにもう1枚追加で渡し、そろそろ‥‥といった時
「おう、ハヤトここにいたか」
ベルフがやってきた
「取り込み中だったか?」
何となく話があるようだというのは分かった
「いえ、俺の方はもう終わってますから大丈夫っすよ、先輩これで俺は失礼するっす、チョコレート美味しかったっすよ!」
一度頭を下げドルバは戻って行く、それと同時にラグナも魔法陣の中に消えていった。
ドルバの「チョコレート」にベルフは反応したが、見なかったことにする
「どうしたの? タクティアが呼んでた?」
「いや、そうじゃない、その‥‥少し話がしたいんだが」
表情から察するにあまり楽しい話ではないようだ、思い詰めている感じが伝わってくる
「どんな話だろ?」
少しだけ間があった後
「‥‥俺はこの部隊に必要か?」
ベルフが何を言っているのか、直ぐには理解出来なかった
「‥‥何でそんな事を急に言いだす? その質問にたどり着いた経緯は?」
「ライカはこの部隊には必要だと思う、あれほどの腕前の奴は中々見つからないだろう」
「そうだね」
正面からツッコミ、次々に敵兵を討ち取るその能力は異常だとも思える、そんなライカがこの部隊に配属されたのは俺からしても助かっている
「だが、魔法が使えないライカには必ず補助が必要になってくる、だから今俺がライカの補助に当たっている」
多分、自身が無くなってきた‥‥という事が言いたいんだろう、確かにベルフには付いていけてない部分もある、タクティアからもそう聞いている
「ハヤト、お前から見て俺はどうだ? この部隊の役に立てているか?」
ベルフの目は真剣だった、役に立つとかはそれ以前の話で
「ベルフはこの部隊には必要だよ、俺にベルフの代わりをしろと言われても難しいんだけど」
情けない事に俺はライカの動きにはついて行けない、どんなに頑張っても無理なのだ。その点ベルフは何とか付いていけている、そりゃベルフにもかなり負担があるのは分かっているが
「ライカの補助はもう無理だって言うなら、仕方なく変わるしかないけど? ただもう一度言わせてもらうけれど、ベルフはこの部隊には必要だ」
それまで硬かったベルフの表情だったが、その一言でそれも和らいだようだ
「そうか、俺は必要か」
最後にちょっとからかっておこうか
「あれ? あれあれ? ベルフ、ベルフには荷が重かったかな? なら俺が変わってやってもいいぞ」
人が見たら腹が立つであろう顔で、ちょっとだけ馬鹿にするような態度で挑発してみる
「冗談言うな、周りを無視してバカスカ魔法をばらまいてるお前には無理だ、俺みたいな繊細な心配りが出来る奴じゃないとな」
「ぷっ! 繊細って‥‥その髭面とその無駄にデカいガタイ持ってるやつが繊細って! 髭を剃り落としてから出直してこい!」
「この髭は真の男としての象徴だ、お前みたいなひょろっとした体格のなんちゃって召喚者はずっと後ろに待機してればいいんだ。敵兵なんて俺みたいな真の男一人で充分なんだからな!」
ええ、出来ればずっと後ろに居たいです。楽したいです、でもハヤト隊のみで行動する時は俺が一番前なんですよ、そこ辺り可笑しいと思いませんか?
ベルフはその拳で俺の胸を突く
「おまえのような召喚者が前に出るまでも無い、俺とライカで全部こなしてみせるさ」
俺もベルフの胸を拳で突く
「頼りにしてるよ」
「「‥‥くっ! ふっふっふっ‥‥‥‥」」
そしてお互いに笑いあう
いやぁ~なんとも男らしい会話と臭いセリフ、一度はこんな事をして見たいとは思っていた。お互いの友情と信頼を確かめるこの一連の動作
少年漫画で見た!
・・・・
・・・・
翌日
日が昇り、朝食を済ませた中隊は目的地に向けて移動を開始する
「まぁ~楽ですわ」
何から何まで俺がしていたハヤト隊だけの移動とは違い、この中隊にはちゃんとした『探知』を担当する兵士がいる、その人がいるおかげで何も考えず、移動中はぼーっとしている事が多かった。
一日中、気を張っていたあの時とは違い、今はのんびりとドルバと話をしながら移動している
「そっすね、俺も最初の頃は忙しかったっすけど、今では楽できるようになりましたよ」
ドルバも最初の頃は、俺が教えた『探知』方法(3種類の探知を4回を1セットにして『探知』を行う方法)を覚えソレが出来た為、召喚者でありながら『探知』も担当していたが、ドルバが入隊する前に『探知』を担当していた兵士がドルバのやり方を覚え、更に魔力の消費を抑えるように調整した結果、ドルバは『探知』担当から外れる事が出来た。
元の担当者も、自分の仕事を奪われるのが嫌だったのだろう、かなり努力したようだった。
前に攻略した砦で、俺とベルフとライカと共に付いてきてくれた兵士がその人だったりする。
敵砦に近づいてきたのでうさ耳天然魔石を取り出し
「これ使います?」
と聞いてみたところ、物凄く嫌そうな顔で拒否された。ただし楽だとは言ってもちゃんと自分の仕事はしている、ノーム達を呼び出し部隊の周りを囲むように移動させている。
同じハヤト隊であるが、ベルフとライカはかなり前の方を移動、ソルセリー、タクティア、エクレールは俺のすぐ後ろの方にいた。
時折
「この草は始めて見ますね」
『成長促進』の魔法を契約する事が出来たタクティアが、ニコニコ顔で採取をしている様子を、微笑ましそうな顔で見ているソルセリーとエクレール。
このまま砦までは何事もなく行けるか? と思われた矢先、前方で爆発音が鳴り響き、そして‥‥
『敵遭遇』を知らせる信号弾が上空に打ち上げられた




