102 最後の晩餐
「あれは攻撃能力とか全く無くて、本当に家事しか出来ないんです!」
必死に無害だと訴える
「わかったわかった、ワシからも言っておくから」
「ありがとうございます、絶対ですよ!? 絶対にお願いします!」
チン
通話機を静かに置いた。
「ふぅ‥‥何とか大丈夫そうだ」
口からは安堵のため息が出る
「申し訳ございません、私の為に」
召喚獣のラグナが深々と頭を下げた。
「もう謝らなくてもいいってば」
俺が必死になっている理由
それは一昨日にラグナに買い物を一人で行かせたことが原因になる、考えればわかる事だった。それ以前に何となくこうなる事は知ってた。
でもその日は色々な意味で疲れてしまって、そのまま行かせてしまった。
本来ならラグナと一緒に買い物に行って
「この姿だけど無害ですよ」とアピールし、近辺の住人がラグナの姿に馴れてから一人で行かせるべきだった。
どう見ても新種の魔物にしか見えないラグナ、しかもラグナの背中には小さな人の死体が張り付いている、そう通報されたラグナは町一体を混乱に陥れ、軍本部から兵士が派遣されるなど大変な騒ぎになった。
「私は召喚獣で魔物ではありません」
兵士に囲まれたラグナはそう主張した。しかし、その異様な姿に中々信じてもらえなかったうえに、ラグナのような姿の召喚獣はいない、数時間前までは存在しない召喚獣だったのだ。
言葉を話し、自身を召喚獣と名乗る目の前の化け物に、出動した部隊の隊長はラグナを取り囲んだまま、様々な方面に連絡を取り事実を確認したところ、今日、タスブランカの『ネルコ』の召喚魔法陣の施設でそのような形の召喚獣が契約されたと説明が受けられた。
そこで、ラグナを取り囲んでいた兵士の一人が
「もしかして、おもしろ召喚者の‥‥」
で、俺の所に連絡が来た、最初は「やっぱりなー」と軽い気持ちでいたが、いざ現場に行って見るとこんな大事になっているとは思っても見なかった。
取りあえず頭を下げてから、その後は普通にラグナと買い物をした
「ほっほっほっ、旦那様も神経が太いですね」
なんてラグナは言っていたが
そこで思い出したのが召喚獣を使った移動を禁止する都市条例、俺を狙い撃ちにしたこの条例は非常に迷惑でありとても不便である
もし、今回の騒ぎで「召喚獣を使った買い物を禁ずる」なんて条例が出来てしまったら、たまったものではない、それに対して先手を打つべく俺は動いた。
イディ主席や現タスブランカ代表に陳謝した上で、そんな条例が出来ないように圧力を掛けて欲しいとお手紙を出し、軍本部にはタクティアを通じてお願いした。
「ハヤト隊長は意外とやらかしますね、出来ればあまり仕事を増やしてほしくないのですが」
メンゴメンゴと謝り何とかしてもらう手はずは完了、そして今、ゴルジア首相に直談判が終了した所だった。
「ひーぃっひっ、なにやらお疲れですねぇ、お茶をいれてきましたよぉ」
カチャカチャカチャカチャ
お茶がこぼれるんじゃないか? というくらいカップを鳴らして持ってくる、みすぼらしい服装の魔女風の婆さんメイド、付けた名前は『ふぅ』。
3人の婆さんメイド達は、ノームと違って見分けがつきやすい、まずは笑い方、それぞれ笑い方に特徴があるのと、受け持つ仕事が大体わかれている
「ひーぃっひっひっ」と笑うのが『ひぃ』で主に衣服関係の家事をしてくれる
「ひーぃっひっ」が今お茶を入れて来てくれた『ふぅ』で食事などに関して
「ひっひっ」と笑うのが『みぃ』、家の掃除をやってくれる、あと何だか一番気持ち悪い、なんとなーく性的に狙われている気がする。
そしてこの3人の老婆に共通していることが
「ここにお茶置いときますね」
ふぅは机の上にお茶を置くと、その手で俺の手を触りさすってくる
この老婆達3人は事あるごとに俺の体を触って来ていた
ゾワワワ!
触られた瞬間、背中に寒気を覚える
「ひーぃっひっ!」
笑いながらふぅは部屋を出て行く、何かにつけて俺の体を触ってくる、ホント堪忍して欲しい
ラグナとこの3人の老婆のしている仕事、特に洗濯は『洗浄』魔法があるから毎日同じ服でも構わない、要は俺一人でも十分足りている、昨日それをラグナに伝えたら
「それだと『ひぃ』仕事は無くなってしまいますね、でしたら夜のお相手に回しましょう」
などと、とんでもない事を言いだしたので、服は脱ぎ散らかすようにしている
本体? でいいんだろか、ラグナの方は庭の手入れと調理を担当している、それと将来的には買い物。
天才料理人だったラグナナさんから貰ったレシピを参考に、ラグナに作ってもらったが、まだまだその味には追いついていない、ゆっくりでいいからラグナには精進してもらい、あの天上の味をまた味わってみたいものだ。
部屋を出ていくふぅの後ろ姿を見て思った、貧乏くさいと、服を用意しようかな?
「ラグナ」
「はいなんでしょうか?」
「あの3人の服を買いに行こうか、流石にあれは無いわ」
ボロボロの粗末な服を着ている3人を見ていると、何となく老婆をこき使っている悪い主人みたいで嫌だ。
「それでしたら、ひぃが服を作成できますので、布や糸などを用意していただければよろしいかと」
「自分で作れるの?」
「はい」
便利だな
「今日はどのみちオヤスの所に行かなければならないし、ついでで後で買ってこようかな」
「でしたら私が購入してきましょう」
「いやそれは駄目」
一昨日騒ぎが起きたばかりだから無理だろう、ほとぼりが冷めないうちは。
・・・・
・・・・
昼が過ぎ買い物や用事を済ませに外出した。
まずは買い物、必要な布などを購入、老婆だからあまり明るい色は似合わないだろうと考え、暗い色の生地を選んでいく、選んだ色は赤・緑・茶の出来るだけ暗い色、エプロンも必要なので白の生地、その他色々買い込んだ後目指した場所は、召喚獣の研究所、新しく契約したオロチとラグナを紹介
「3人の小さなお婆ちゃん‥‥‥いいかもしれない!」
などと言っていた変態達をスルーして、次に向かったのはオヤスの食品工場。
オヤスからは会議がある時は、時間があったらでいいので出てほしいと前々から言われていた。
そして今日、初めて会議に参加する、もう会議の予定時刻は過ぎているので始まっているだろうけれど
お菓子を食べていた事務の女性に挨拶をし、会議室に通される。会議室と言ってもプレハブのような事務所なので大して広くもなく、会議に参加する人数も俺を含めて6人しかいない
「遅れてごめんねぇー」
ガチャリとドアを開けると
「だから言ってるでしょう! もうこっちは限界なんだよ!」
ドアを開けるといきなり怒声が響いてきた
「だったら人をもっと増やせばいいだろう」
「増やしても直ぐに使えるわけないだろ! それくらいは親父も知ってるはずだ!」
おおっとぉ、修羅場ですよ
オヤスとその息子で工場長のモランが怒鳴り合っていた。
この親子が言い争っている原因は既に知っている、オヤスは新工場の設立を目指し、息子のモランは、新しく工場を建設しても人材が足りず、尚且つ、やっと今の工場の機械が不具合などを克服出来てイイ感じに動き始めたばかりなのに、新しい機械を導入したりすると安定してきた生産が落ちる、だからもう少し時間を欲しいという事だった。
俺が入ってきた事も知らずに二人は言い争う中、本店の喫茶店を任されているウエールは苦笑いしながら
「どうぞ」
と椅子をすすめてくる同じくオヤスの息子ウエール、その隣には喫茶店の2号店を任されているオヤスの娘婿と、俺の前の席には、モランの息子でオヤスの孫に当たるトリスが座っていた。
トリスは前まで働いていた会社を無理やり辞めさせられ、自身の父親であるモランの下で働かされていた。
まだ働いて半年くらいのはずだが、父親のモランと同じように憔悴しきった顔をしている、実家がブラック企業だとはトリスも思わなかっただろう。
会社が儲かり、大きくなるにつれてオヤスは金に執着するようになってきた。そのうち脱税とかしそうだ。
俺はオヤスとモランの喧嘩が終わるまで、椅子に座り待っていた
◆◇◆
「どうぞ、空いてますよ」
「お邪魔するぞー‥‥‥っと、凄い書類だな」
ベルフがドアを開けると、そこには書類に埋もれたタクティアがいた。
「ええ、中々終わらなくて、しかもハヤト隊長が昨日仕事を増やしてくれましたから」
「召喚獣の事だろう?」
「ええ、新しい都市条例が出来ないように軍からお願いするようにしてくれと‥‥ベルフは知ってたんですか?」
「その日に召喚の契約に立ち会ったし、報道でもどうやら召喚獣らしいて言っていたしな、ハルツール全体ではどうかは分からないが、サーナタルエに住む者だったら、ああ、なるほどなって思うんじゃないか?」
「それもそうですね、そうだベルフも見ますか? ハヤト隊長の新しい記号です」
「記号? ああ、その他のやつか」
「はい、ハヤト隊長が自分で考えて、これにしてくれって言ってきたんですよ」
机の隅に置いてあった一枚の資料をベルフに差し出した
「前から気にしてたからなあいつ」
ベルフは差し出された資料を受け取り、それに目を通す
「これは‥‥花か何かか?」
「隊長がいた世界にある花らしいですよ、結構有名な花みたいです」
「何で花なんだ? あいつはそんなに乙女だったのか?」
「さあ? でもこの記号は通りましたから今度からはこれに代わりますね」
「その他って、もうからかう事が出来なくなるな」
ベルフとタクティアは、あの時の泣きそうになっていたハヤトの顔を思い出し思わず笑ってしまった。
「それで、今日俺を呼んだのは? 今日じゃ無ければダメだったのか?」
「そうですね、次の任務に付く前にこの場で話した方がいいと思って」
「ふむ、それで内容は?」
一呼吸おいてからタクティアは話し出した
「今後の隊列と、戦闘での役割についてです」
「‥‥‥‥続けてくれ」
タクティアは机の上に一枚の紙を出す
「まず隊列はこのように」
それは最初タクティアが考えていた隊列だった
「そして戦闘ではハヤト隊長とライカを組ませようかと思っています」
ライカは魔法が使えない為、必ず誰かの補助が必要になる、今まではベルフがその役割を担っていたが
「俺では役不足だと?」
「そこまでは言っていません、確かに以前ベルフが言ったように、ハヤト隊長には自由に動いてもらう方がいいでしょう、そちらの方が実力を発揮できると思います。
一方でライカも補助があればどんな場所でも斬り込んで行けます、‥‥ですがベルフ、そのせいで貴方にはかなりの負担が掛かっています」
「‥‥それを役不足と言うのではないのか?」
少し考えたのち
「‥‥そう、かもしれませんね、ただ、このままではベルフは━━」
「大丈夫だ! 俺にも意地があるし曲げる事は出来ない、ライカの補助は俺がやる」
「・・・・」
「・・・・」
ベルフとタクティアは真剣な顔で、お互いを暫く見ていたが
「ふぅ‥‥わかりました、ではベルフには引き続きライカの補助をお願いしましょうか」
最終的にはタクティアが折れることになった
「問題ない任せてくれ」
「ライカには私もあまり突出するなとは言っておきますが‥‥私の話は以上です、すみませんね呼び出したりして」
「いや、大丈夫だ他の用事もあったからな」
ベルフはその髭面でニコッと笑った間からは白い歯が見える
「そうだベルフ、隊長行きつけの喫茶店に行きませんか? 最近仕事のせいで全く行けなかったんですよ」
「おっ! いいな、最近家族サービスで行けなかったからな、ならハヤトを呼ぶか? 優先席に入れて貰えるしな」
「ハヤト隊長は顧問をしている会社の会議に出たり忙しいみたいです、なので無理でしょう」
「うーん、そうするともしかしたら並ばなければならないかもな」
ハヤトがいた場合、彼は顧問をしているので並ばなくても直ぐに個室に通してくれていた。しかし、ハヤトがいなかった場合、時間によっては並ばなければならなかったりする
「任せて下さい! これでもしょっちゅうハヤト隊長と行っていますから、結構顔を覚えられているんですよ、もしかしたら個室に通してくれるかもしれませんよ?」
「そうか! なら時間はどうする?」
「今すぐ行きましょう、今日は私も店じまいしますよ、ちょっと待っててください直ぐに片づけますから」
書類を片付け、ウキウキで出かけたベルフとタクティアだったが、店に行って見るとそこにはソルセリーとエクレールがいた。
二人に気が付いたエクレールは
「助かった!」という表情をする
二人はそれですべてを察した。
ソルセリーはまだ自分達に気が付いてはなく、前を見ているが、その顔は間違いなく機嫌が悪いと‥‥‥
タクティアの顔を覚えていた喫茶店の店員は個室の方に通してくれたが、一緒にソルセリーとエクレールもくっついてきてしまった。
ちゃんと味わって食べる事が出来るだろうか?
個室に通してくれた店員さんを少し迷惑に感じつつ、ベルフとタクティアは不安になっていた




