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瑰と美里と一成と英雄と志音は、歩み寄ってくる大橋を奇異に眺めていた。
「どういうことなんです?どうして大橋さんが」
瑰が、訊いた。
「深冴は、私の姪なんです」
瑰と美里と一成と英雄と志音が、吃驚した。
「どうして言ってくれなかったの?」
志音が言うと、
「申し訳ございません」
深冴が、頭を下げて謝罪した。
「お話をお聞かせ願えませんか?」
何か言いかけた志音の口を封じ込めるように、一成が促した。
「父親の店を手伝いたい、その一身で大学に通いながら料理教室に通う女生徒から相談を受けたのです。奥さまが手になさっているルビーのペンダントを返して欲しいと」
「そのためにはどうすればいいのかと、深冴が私に連絡を寄こしてきたのでございます」
「脅迫状を送りつけたのは」
瑰が、言った。
「私です。郵便物に混ぜて渡せば気付かれないと思ったのでございます」
「永承に依頼したのは」
世間体を気にする英雄は、事が大きくなる前に必ず誰かに依頼して事を納めようとするだろうと思った大橋は、
「彼になら、だんな様も快く依頼なさると思ったのでございます」
「小樽から郵送なさったのは?」
美里が言った途端、志音が鸚鵡返しに言った。
「小樽?」
「はい、小樽ですわ」
「凛さんは小樽の人よ。なのに、どうして、小樽から」
「何か関わりでも?」
瑰が訊ねたが、深冴も大橋も押し黙っていた。
「この件についてご存知なんですか?」
「いえ。何も知りません」
「なのに、何故、小樽から。そうしなければならなかった余程の理由が。おありなんですね。如何ですか?大橋さん。間違ってますか?」
大橋は、何も言わずに深冴を見た。
「凛さんは、女生徒の実の姉なんです」
驚愕する、瑰と美里と一成と英雄と志音。
幼い頃に別れ別れになった父と姉の存在を母親に聞かされたのは、女生徒が高校生の時だった。そしてその時に、父親が、女生徒の住む仙台に支店を構えたことも知った。
志音が、訊いた。
「伊織とはどこで?」
「昨年、彼女の通う大学の学園祭で」
女生徒は、学園祭で伊織に声をかけられ、その気はないと断ったが、伊織はそれを聞き入れずにしつこく迫ってきた。それでも断り続けると、高価なルビーのペンダントを贈りつけてきたという。
「またなの……」
志音がボソリと独り言を言って溜息をつき、情けない顔付きをして、深冴から眼を逸らした。
「返そうとしたが受け取って貰えず、どうしたらよいものかと、私に相談してきたのです。私がお屋敷でコックをしていた事を知って」
「私に直接返してくれれば済んだことなのに、どうして。……こんな事しなくても」
志音が、眼を逸らしたまま深冴を咎めるように言った。
「申し訳ありません。でも、こうでもしなければ……」
悔しそうに唇を噛む、深冴。その様子を見ていた瑰と美里と一成の脳裏に、借金のために屋敷に預けられた永承の顔が浮んだ。
「同様のことが」
独り言を呟いた瑰の言葉に反応して、深冴が口を噤んだまま相槌を打った。
「仙台の店の経営は、うまくいってなかったのですか?」
一成に問われて、一瞬、返答するのを躊躇したが、
「ああ」
と、英雄が答えた。
「借金してでも店を守ろうとしたのは、別れ別れになった娘の傍に。それが父親の願いだからなんです。そして、姉の婚約を破棄させようとしたのは、姉を守ってあげたい。姉を思う妹のそれが願いだからなんです」
深冴が、訴えかけるように言った。
それを跳ね除けるように、英雄が言った。
「私も同じだ。息子の将来を思って、それが父親の願いだからだ」
「無理強いするんじゃないよ」
と言いながら、ひふみがダイニングルームに入ってきた。




