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何か言いかけた美里の手からルビーを奪い取った志音が、勢いよくスクッと椅子から立ち上がった。
英雄が、ビクッとして言った。
「どうした?」
「いえ、何も」
志音は険しい表情でそう返答して、深冴の腕を鷲摑みして、厨房へ引き下がった。
「どうしてあなたがこれを持ってるの?」
「これって、私が何を持ってるのでしょうか?言ってる」
「これよ!」
言葉を遮るように声を荒げて志音が言って、深冴の目の前で握り締めていた拳を開いた。
手の平の上に、燃えるような真っ赤なルビー。
「主人からプレゼントされたルビーだから、私にはわかるの。伊織が」
と言いかけて言葉を飲み込む、志音。
「お坊ちゃまが何か?」
「何でもないわ。兎に角、何故あなたが、これを持っていたのか、それが知りたいの」
「ここでは」
「どうして?」
深冴の目線の先に眼を向ける、志音。
数人のコック達が、厨房を片付けながら二人の会話に聞き耳を立てていた。
「ですので、ここでは」
「そうね、ここでは止しましょう」
突然、スイングドアが押し開けられて、ドキンとする志音。
「何をやってるんだ?」
英雄が、顔を覗かせる。
「どうかしました?」
「お客様のお帰りだぞ」
「すぐに行きます」
志音は、英雄の後を追うようにして厨房を飛び出して行った。
英雄と志音とひふみと伊織と凛、そして大橋に見送られて、招待客達が正面玄関からゾロゾロと表に出てきた。
「奥さんの誕生日は、七月でしたよね?」
招待客の一人が、言った。
「ええ、七月ですわ」
志音が答えると、別の招待客が言った。
「だから名乗りでなかったんだな。奥さんにルビーを取られると思って」
「まあ、ご冗談を。オホホホホ」
「ハハハハ」
笑う、一同。
笑っている志音の眼は、険しいままだった。
駐車された高級車に乗り込んで、招待客達が次から次と走り去って行った。
「伊織」
志音が、SUVの車に友人達と乗り込もうとしている伊織を呼び止めて
「凛さんも一緒に」
「勘弁しろよ!」
伊織が、不貞腐れて怒鳴るように言った。
「凛さん、行って」
「でも……」
渋る凛の背中を、志音が急かす様に押した。
それを見ていたひふみが、
「無理強いするんじゃないよ」
と踵を返して、玄関の中に入っていった。
凛は、急かす志音に断ることもできず仕方なく車に乗り込んだ。
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
大橋に見送られて、伊織と凛と三人の友人達が乗った車が、門から飛び出していった。
大橋の背後に立っている、英雄と志音。
「あなた。これを」
志音が、掌の上のルビーを見せた。
「君の中に入ってたのか」
「このルビーに、見覚えありませんか?」
言われてルビーを手に取る、英雄。
「あなたが私にプレゼントしてくれた、ペンダントのルビーです」
「ええ?……間違いないのか?」
「ええ。間違いありません」
「どういうことなんだ?」
「そうなの。どういうことなの?」
ダイニングテーブルの椅子に座ったまま、瑰と一成と美里は顔を寄せ合うようにして、小さな声で埒が明かない話をしていた。
「話し合っても埒が明かないのなら、訊いてみるに限るだろう」
「奥さんに?……それとも」
「私が」
瑰と一成と美里が、同時に声のした方に顔を向けた。
スイングドアを押し開けて厨房から出てきた深冴が、コック帽を頭から取りながら歩み寄ってきた。
「あのルビーは、だんな様が奥様にプレゼントなさったものです」
「そんな大事なルビーが、どうして私のプディングの中に?」
「奥様にお返ししたかったんです」
「お返ししたかった?」
美里が、鸚鵡返しに訊ねて
「まさか、あなた」
と、言った。
「いえ。そうではありません」
「そうでないのなら、どういうことなのかしら?」
「私も聞きたいわ。どうしてあなたが、あのルビーを返したかったのかを」
志音と英雄が、ホールから入ってきた。
「それは私が」
大橋が、二人の後を追ってホールからやってきた。




