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夜明けの空に、有明の月が薄っすらと浮んでいる。
東の空が、徐々に白みかけていく。
日の出とともに太陽の光が大地を眩しく照らす。
屋敷の正面玄関の前には、十台の高級車がズラーリと横付けして駐車されてあった。
白衣にコック帽を被った数人のコック達が、一際高いコック帽を被った白衣姿のコック長代理の深冴が、眼の回るような忙しさでただただ只管寡黙にパーティー用の料理を作っていた。
入れ替わり立ち代り執事の大橋やメイド服姿の家政婦達が、厨房に入ってきては料理をダイニングルームへと運んでいた。厨房の中は騒然としていた。
ダイニングテーブルの上座に英雄が、その真向かいの下座の席には、志音が座っている。
英雄の斜め横にはひふみが座り、向かい側には伊織と凛が並んでいる。凛の横には招待された伊織の三人の友人達が座っていた。
瑰と美里と一成は、志音の斜め横の末席に並んで座っている。
二十席の残りの椅子には、小奇麗に着飾った英雄の招待客達で埋まっていた。
部屋を満席に埋め尽くした二十人は、ワイワイガヤガヤと賑やかに談笑したり雑談したりしていた。
「永承君とは」
志音が訊いた。
「仕事仲間です」
瑰が答えた。
「どんな仕事をしてるの?」
「依頼されればそれが仕事です」
「どんな依頼でも?」
「はい。と言いたいところですが。出来ない仕事もありますので、一応、我々が出来る範囲内であれば、どんな依頼の仕事でも」
「ここでの仕事のことは内密にお願いできる?」
「もちろんですわ」
美里が、口元に笑みを湛えて言った。
「ありがとう」
「奥様もご存知なのですか?」
一成が言うと、志音がコックンと頷いた。
深冴は、大皿に載せたデザートに丸カバーで蓋をして、ワゴンを押して厨房を出て行った。
「ハッピィバースディ、ディア、伊織」
誕生日の祝賀歌が唄われている中に、深冴がワゴンを押してやってきた。
「ハッピィバースディ、トゥ、ユー」
歌が終わってすぐに深冴が、
「お坊ちゃま、お誕生日おめでとうございます。今日のバースディケーキは、趣向を凝らしてご用意させていただきました」
と、持ち手を握って丸カバーを取った。
「イギリスのクリスマスケーキ、プディングでございます。このプディングは蒸し上げる前に」
生地に指輪やコイン、指貫などの小物を混ぜ込む儀式が行われる。この儀式は十二夜でケーキの中に護符を入れる習慣に由来しており、切り分けられたとき当たった小物を見て将来の運勢を占う。
「皆様の運勢を占う12個の誕生石が、このケーキの中に入っております」
部屋の中にざわめきが起こった。
「どなたに当たるかは……。私にはもちろんわかりません。誕生石が当たった方はラッキー。当たらなかった方は……」
がっくりと肩を落す、深冴。
「おいおい、脅かすなよ」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦」
「占いなんて気にしない」
「出来れば当たりたい」
と、皆が口々に言って笑った。
「それではお願いします」
深冴が言うと、大橋が窓のカーテンを閉めて、部屋の明かりを消した。
プディングにブランディをかけて火を点けた。
仄かな灯火が暗い部屋の中を照らした。
灯が消えて、深冴はケーキを人数分切り分けた。
大橋と家政婦達が、小皿に載ったケーキを客の前に置いた。
英雄がプディングを口にしたが何も入っていなかった。ひふみの中にも、伊織のも、そして、凛と志音のケーキにも誕生石は入っていなかった。
フォークに載ったプディングの一欠けらを口に運び入れて噛んだ瞬間、
「あッ」
美里が、声を漏らした。
「入ってたの?」
志音が言った。
「はい」
美里が言った。
「見せて」
志音に言われて、美里は口の中から取り出した。
指と指の間に挟まれた誕生石は、燃えるような真っ赤なルビーだった。
そのルビーを見た志音の顔色が、変わった。




