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完成品を念入りに点検している、瑠璃旺。
永承と基季と春樹と琢磨が、強張った表情で緊張したように瑠璃旺のその真剣な眼差しをまんじりともせずに凝視している。
円卓を囲んで椅子に座っている、五人。
「師匠は、クラブか?」
瑠璃旺が、完成品を見つめたまま突如言葉を発した。
琢磨が、一瞬、戸惑いを見せる。
「え?……あ、はい」
「だろうな」
と琢磨を見る、瑠璃旺。
「怖い師匠でした。完全、完璧では駄目だ。本物だと思われてこその完成品。祖父の口癖でした」
クスリと鼻でにが笑いする、瑠璃旺。
「如何ですか?俺には本物にしか」
と、永承が琢磨を応援するように言った。
それには答えず沈黙したまま完成品をテーブルに戻す、瑠璃旺。
生唾をゴクリと飲み込む、琢磨。
「春樹」
「はい」
「瑰達に完成したとな」
「はい!」
「やったッ!」
両手の拳を振り上げて歓喜する、琢磨。
「やったな」
と拍手を送る、永承。
「おじいさんのお墨付きだぞ」
両手の親指を立てる、基季。
「良かったですね」
と両手の親指を立てて拍手する、春樹。
「これからが本番だぞ。気を引き締めてかかれよ。ちょっとした油断が、大きなケガを生むことになるからな」
「はい!」
力強く返事する、永承と琢磨と基季と春樹。
「春樹、電話してこい。明日、届けるとな」
「はい」
瑠璃旺に促されて、椅子から立ち上がり部屋を飛び出していく、春樹。
翌日の昼。
空港の正面玄関から、大学生らしいラフな恰好でスクエアバックパックを背負った春樹が、出てくる。
「帰りの飛行機は何時だ?」
路肩に停めた車に凭れ掛かって待っている瑰が言い、春樹が返した。
「三時です」
瑰、腕時計を見て
「二時間もあるのか」
「どっかで昼飯でも」
「そうだな」
と、助手席のドアを開けた。
「生誕50年特別仕様車のカローラですね」
ホワイトパールクリスタルシャインのトヨタカローラを舐めるように見つめている春樹が、言った。
「詳しいんだな」
「はい、車については。……運転、俺が」
「免許証は」
瑰が言うと、春樹が上着のポケットから運転免許証を取り出した。
「こんなこともあろうかと」
「抜け目のない奴だ」
瑰の手から車のキーを取って、春樹は運転席にそそくさと乗り込んだ。
「しっかり掴まっていてくださいよ」
と言うなり、急発進する。
「スピード落とせ!」
「はい安全運転で!」
と言いつつも、荒っぽい運転でビュンビュン猛スピードぶっ飛ばしていく春樹であった。
一方……。
一成は、駅のホームで、執事に頼まれた人物の到着を待っていた。
そこへ、特急Sおおぞら3号がホームに滑り込んできて、停車した。
ドアが開いて乗客達が、降車してきた。
その乗客の一人に、一成は歩み寄った。
「江口深冴さんですか?」
「はい、江口です。執事の大橋さんから」
「はい。本多一成です。荷物、お持ちしましょう」
「あ、すみません」
荷物を載せた折り畳み式のキャリーカートを深冴の手から取って引っ張っていく、一成。
美里が、ツーボックスの荷台の扉を開けて、一成が、キャリーカートを載せた。
「峯岸美里です。宜しく」
「こちらこそ。……永承さん、頑張ってるんですね」
「え?ええ。頑張ってますわ」
美里が、訝しげに小首を傾げて言った。
「数年間、あのお屋敷でコックとして」
「お辞めになったの?」
「ええ、二年前に。今は、札幌にある料理教室で講師をしてます。執事の大橋さんから、コック長が急用で休みを取ったから、代わりに、お坊ちゃまのバースディパーティの料理を作って欲しいと頼まれたんです」
「そうでしたの」
運転中の一成が、バックミラーに映る、後部の席に美里とともに座っている深冴をチラリと窺った。




