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二枚の画用紙に描かれたエメラルドとダイヤが鏤められたペアのネックレスとブレスレット。
「ダイヤの遺伝子を受け継いだようだな」
画用紙の絵を見ている瑠璃旺が、言った。
「基季のお祖父さんですか?」
「ああ。美術鑑定士にも見破れない贋作の描き手だった」
十人掛けの円卓の椅子に腰掛けて話をしている、瑠璃旺と永承。
「キングと仕事がしたい」
「ええ?」
永承が言うと、瑠璃旺が呻き声をあげるように言った。
「祖父の最後の言葉です。祖父が亡くなった後、祖母が話してくれました。何故、キングと」
「名字の梠和は、フランス語でキングという意味でな。いつからかそう呼ばれるようになったんじゃ」
「祖父はエース」
「一成の祖父はスペード。美里の祖母はクィーン」
「まさか、お二人は」
「ハハハハ(と笑って)紅一点だったからだ」
「琢磨の祖父は」
「クラブ。春樹の祖父は、ジャック。春樹同様に、最年少だった」
「トランプから」
「ああ。覚えやすいだろう」
「はい」
「おじいさんッ」
扉から顔を覗かして、琢磨が呼んだ。
「完成したのか?」
「いえ、まだ」
「うん」
と、瑠璃旺は席を立って、部屋の中に入っていった。
琢磨が扉を閉め、カチッと鍵をかけた。
防音された15畳ほどの部屋は、窓が一つと隣室への鍵のかかった扉と、そして、中央に置かれた円卓と十脚の椅子があるだけの、他には家具らしきものは何一つない殺風景な部屋だった。
永承は、卓上に置かれた二枚の画用紙を手に取って、そこに描かれたジュエリーを懐かしむように眺めた。
廊下を歩いてきた藍華が、部屋の扉の前で立ち止まり、デジタルドアロックの暗証番号のボタンを押して、扉を開けた。
ビクッとした表情で、永承がこちらを向いた。
「瑰が電話をくれって」
「何かあったんですか?」
「ううん」
藍華が、首を横に振った。
二枚の画用紙をテーブルに戻して、永承が廊下に出てきた。
壁のブラケットライトが点灯した。その明りの下で、永承は携帯電話を掛けた。
「一浪して、札幌の大学に入学したから、留年でもしてなけれあ、四年生のはずだが。息子の伊織がどうかしたのか?」
「脅迫状は父親宛てだが、ターゲットは息子の方じゃないかと思ってな」
「あり得るな。素行の悪い遊び人だからな。……小樽?小樽の郵便局から郵送されてきたのか?」
「小樽で何かあったのか?」
庭園の中に設置された、屋根を四方へ葺き下ろし四隅に柱を立てた壁のない寄せ棟造りの東屋の中で、瑰と美里と一成は休憩していた。
「いや、何も。……心当りはないな」
瑰と美里は椅子に座って、テーブルに置かれた携帯電話から流れてくる永承の声を聞いている。
二人に背を向けるようにして柱に凭れ掛かっている一成が、振り返って言った。
「例のブツは、完成したのか?」
「いや、まだ」
「掛かり過ぎじゃないのか?」
瑰が、言った。
「キングが監視しているから、慎重なのさ」
「キング?」
「俺のことはエースと呼んでくれ。クィーン」
「幼い頃、祖母のことをそう呼んで、母によく叱られたものよ」
美里が懐かしそうにそう言った矢先に、
「人が来るぞ」
一成が、小声で言った。
透かさず瑰が、スピーカーを消して携帯電話を耳にあてて
「じゃな」
と、電話を切った。
執事が、銀の盆にハーブティを入れたガラスのポットと三人分のガラスのティカップを載せてやってきた。
「お茶をお持ちしましたよ」
執事が、銀の盆をテーブルに置いてティカップにハーブティを注ぎ始めた。
「いい香り。ラベンダーですわね」
香ってくる匂いを嗅ぎながら、美里が言った。
「はい。ラベンダーには心身をリラックスさせる癒しの効果があるのでございますよ」
「この時期の北海道と言えば」
「早咲きのラベンダーは、もう色づき始めていますよ」
と言いながら、三人の前にカップを置いた。
「先ほどは大変失礼いたしました」
「それを言いにわざわざ」
と、一成が言った。
「お部屋の方に伺ったのですが、どなたもお部屋にはおいでにならなかったので、こちらではないかと」
「心尽くしのおもてなしに感謝いたしますわ」
と、美里が笑顔で会釈した。
「当然でございます。永承君のご友人様達なのですから」
突如、執事を呼び声がして、メイド服姿の家政婦が、足早に息せき切ってやってきて
「お坊ちゃまがお呼びです!」
「どうかしたのかッ?」
「お坊ちゃまのフィアンセが」
「予定は日曜日じゃなかったのか?」
「お坊ちゃまがお呼びしたそうです」
「すぐ行く」
と、執事は三人に声もかけず手ぶらのままに家政婦ととともに駆け戻って行った。




