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翌日の昼。
昼食を済ませた志音が、ダイニングルームからホームにやってきて、階段を上っていった。
少しして、ひふみが弱った足腰を庇うようにしてダイニングルームからやってきて、備え付けの住宅用エレベータの乗場操作パネルの上昇の矢印タグのボタンを押した。
その後、瑰と美里と一成が、昼食を済ませてダイニングルームから出てきた。
エレベータの箱に乗り込んでいるひふみの目前で、ドアが閉まった。
「エレベータか……」
「おばあさん専用のエレベータだぞ」
「永承は乗るなって言ってたが、俺達は客だ」
「電話したのか?」
エレベータに行こうとしている瑰を制止するように、一成が言った。
「永承に」
「うん、昨夜遅くにな」
立ち話をしている二人の背後に忍び寄ってくる、黒い人影。
「何か言ってたか?」
「通じなかったよ」
「徹夜で突貫作業をしてるんだな」
「だろうな」
腕が伸びてきて、魔の手が美里の尻に触れようとしたその瞬間!
「いててて」
目にも止まらぬ早業でその魔の手が掴まれ、捩じ上げられた。
「誰だ貴様!」
英雄の息子・伊織が痛そうに顔を歪めて叫んだ。
「聞きたければ、先に名乗るんだな」
と言って、伊織の背中で締め上げているその腕に、更に力を加えた。
「この家の主だ!」
「俺は客だ!」
瑰が、怒鳴り返した。
伊織が、黙視している一成と美里を睨みつけて、
「おい!貴様ら!こいつを何とかしろ!」
「俺達も客でな」
「何だとッ!」
「主なら客に対する礼儀を弁えろ!」
と、瑰は突き飛ばすようにして伊織の腕を離した。
前のめりによろめく、伊織。
そこへ騒ぎを耳にした執事が、慌てたようにダイニングルームから飛び出してきて、
「お坊ちゃま!」
「何だこいつらは!」
伊織が、痛む腕を摩りながら怖ろしい剣幕で怒鳴った。
「お帰りのご予定は、明日ではなかったのでございますか?」
「親父はッ?」
「外出なさっております」
「仕事かッ?」
「はい、さようでございます」
「昼は?」
「すぐにご用意いたします」
伊織、感情を剥き出しに興奮状態でその場を立ち去り、ダイニングルームに飛び込んだ。
執事が、その後を追って立ち去った。
冷静沈着に二人を見送っている、瑰と一成と美里。
「庭でも散歩しましょう」
そう言って、美里は開け放たれたままの正面玄関の扉から外へ出て行った。
正面玄関の前に、ボディカラーがイエローのフェラーリ488GTBが駐車されてあった。
「お坊ちゃまの愛車のようね」
美里が、フェラーリを舐めるように見回しながら言った。
「ターゲットは父親じゃなく」
「倅のようだな」
同じように愛車を見回している瑰と一成が、言った。
固定電話のベルがけたたましく鳴った。
藍華が、洗い物をしていたキッチンから出てきて、電話の送受話器を手に取った。
「もしもし」
「祖母さん?俺」
瑰からの電話だった。
「どうしたの?何かあったの?」
「永承は?」
「作業部屋で仕事をしてるけど」
「電話するように言って来て」
「ええ」
と電話を切って、藍華は部屋を出て行った。
廊下の壁に取り付けられたブラケットライトが、人の動きを感知して点灯した。
その下を、藍華が通り過ぎていった。




