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episode2-15

 道なりに海中を行くと、徐々に巨大な建物が見えてきた。

 そのふもとまで近付くと、綺麗に均された上り坂が、建物の中に延びていた。

 車両を迎え入れる為の、搬入口。

 上陸を迎撃されるか、

 と言う吉井大尉らの懸念は外れ、搬入口は無人だった。

 橋で潜入班が壊滅した事と、桐江准将の襲い来る、正面戦力に人手を割かれている事が理由だろう。

 居るかもわからない侵入者に回す人員の余裕は、占拠者達にはない。

 あとは、どこまで見つからずに潜り込めるか、だが。

 まず、ルカが祈る。

 自分達三人の、生体的な気配が最低限に抑えられるように。

 呼気は浅く緩やかになり、体温は低下する。

 隠身としては付け焼き刃だが、無いよりは良い。

 索敵に際して、その鋭敏な五感に頼りがちな前衛を欺くには充分だ。

 あとは、ミネッテの予知で、敵と鉢合わせる瞬間を先読みするだけだ。

 三人は、通路に足を踏み入れる。

 当たり前だが、通路には隠れられる遮蔽物がほとんど無い。

 雑庫などの部屋のドアがまばらにあるが、中に占拠者が居ない保証はどこにもない。

 ミネッテの予知で、ドアを開けた結果を知る事は出来ない。

 ドアの向こうから何者かが奇襲してくる未来ならば、予知できる。

 だが、こちらからドアを開けた場合の未来を予知するには、ルカ達が実際にドアを開けなければならない。

 それでは本末転倒になる。

 ミネッテが観れるのは、あくまでも受動的な未来だけだ。

 真っ直ぐ、朝田たまこ少佐の監禁場所を目指すしか無い。

《前、来ます! 二人!》

 それだけで敵とは断定できない。

《彼らは見回りをしているそうです》

 もう少し待ち、相手がどのようなリアクションを取るか、予知する。

《気を付けて! 斬り付けて来ます!》

 テレサと吉井が動いた。

 テレサは壁に手をつき、接地。

 ――。

 曲がり角から、女王護衛軍の服を着た男が二人。

 一人は居合刀を所持。

 もう一人は、忍者が使う近接用の刀を所持。

 しかし、二人共、ほんの一瞬だが、呆けたように硬直した。

 テレサが壁伝いに送り込んだ空白の想念が、彼らの意識を支配したからだ。

 コンマ数秒だけの放心。

 テレサは、居合刀を持つ左の男へ踏み込む。

 背後に回り込むと男の口を押さえ、もう片方の手で側頭部を軽打。

 的確に意識を刈られた居合刀の男は、眠るように崩れ落ちた。

 テレサが、失神した男を支える傍ら、

 小さな水音が弾けた。

 生ぬるい液が散る。

 二人組のうちもう一人、短めの忍者刀を持つ男。

 彼の顔面に符を押し付け、頭部を破壊出来るだけの発破を降臨。

 最小限の音で、即殺した。

 無惨に半壊した彼の顔面を掴み、その体を持ち上げて亡骸を確認。

 それが済むと、通路の隅へ、何の感慨もなく投棄した。

「……、…………」

 ルカは、もはや何も言えなかった。

 テレサに当たったか、吉井に当たったか。

 左に居たか、右に居たか。

 男達の命運は、それで決まったようなものだ。

「意識を取り戻したら、応援を呼ばれるのでは」

 吉井が、テレサの非合理的なやり方を、暗に批判する。

「この人たち、見回りをしてたようですから。

 定期連絡が途絶えた時点で、あちらの本部に気づかれるはずです」

 いずれ、潜入は察知される。

 失神させようが、殺そうが、見回りに遭遇した時点で避けられない事態だった。

 朝田たまこの情報によると、本部への定期連絡のサイクルは、一班二時間ごとであるらしい。

 この広い施設を少ない人員で見回るのだから、スパンも長いのだろう。

「彼が起きれば、自分達は退路を断たれる可能性もある」

 吉井は、あくまでも遭遇した者を根絶やしにする気でいるらしい。

 新たな符を取り出し、テレサに重圧的な視線を向ける。

 それを受けながらも、テレサは静かにしゃがみこむと、コンクリートの床に手をついた。

 床は見えないナイフで切り取られたように、ひとりでに、長方形の空間を作り出した。

「ごめんなさい。しばらくの辛抱ですから」

 昏倒した男を棺のような穴に納める。

 床だった塊が、また勝手に変形し、蓋となって男を閉じ込めた。

 見た目は、元通りの通路にしか見えない。

「武器は取りあげましたし、寝そべった状態から、この厚みのコンクリを壊せる人もそうはいないとおもいます」

 吉井は、ゆっくり頭を振る。

「非効率的ですね。この先、巡回兵に遭遇する度、それを?」

 テレサはただ、頷いた。

「どう考えても、殺した方が利に適っている」

 それだけを言うと、吉井は歩みを再開した。

 ルカとテレサも、静かにそれに従う。

 敵本部に潜入を察知されるまでに、どこまで潜り込めるか。


 朝田大地は、部下の一人である藤村と肩を並べて弓を引いていた。

 矢は持たずに。

 この国に固有の和弓は、柳のようにしなやかで、華奢だ。

 一見して、とても二七〇〇ジュール超のエネルギーを生み出す器には思えないだろう。

 足を八の字に踏み開き、重心を整え、

 ゆっくりと弓を持ち上げ、徐々に目線の高さへ。

 弦を引く。

 放つ。

 想像上の矢を見据え、静止。残心。

 初めて弓を手にした時から、毎日続けてきた基本動作。

 そして、手の指先から足の爪先まで、最も最適な動作を行えるようにする為の、調律作業でもある。

 その精度は、ミクロン単位に及ぶ。

「大会は、来月だったな」

 朝田大地が、ふと、思い出したかのように呟いた。

 全国弓射選手権。

 和禰国(わねこく)で、最も精密な弓射を行える者を決める大会。

 例年、朝田と藤村はそれに出場していた。

 共に、五位以内にランキングされるほどの腕前を持つ。

 始めこそ、藤村もランキング圏外で、朝田の足元にも及ばなかった。

 だが、

「二年前は藤村に負けたな。

 ケチが付きはじめたのは四年前からだ。

 だが、一昨年や三年前は、俺が勝っている」

「つまり今年は奇数年だから、大尉が勝つ、とおっしゃるのですね。

 そうはいきません。

 奇数年のジンクスも、来月には破って見せますよ」

 二人は、穏やかな笑みを交わしあった。

「言ったな。

 来月は必ず返り討ちにしてやろう」

 唯一心配なのは、朝田も藤村も、来月にはこちらの世界に居ないかもしれないと言うことだ。

「さしあたって、藤村。

 あの扉から入ってきた奴を何人射殺せるか勝負するか」

 朝田が矢をつがえ、この大部屋の入り口――観音開きのロートアイアン扉に向けて、ゆっくりと照準を定めた。

 たった今、F-3ブロックを巡回していた、河上と松田のロストが報告された所だ。

「いいですとも」

 藤村が、朝田に倣って弓矢を構えた。

「当然、頭を射ち抜くぞ」

 一見して何事も無いやり取りだが、これこそが朝田と藤村の儀式戦術でもある。

 次に視認した相手の頭部を、必ず射る。

 そう自らに誓う(インプットする)事で、

 人間の頭部を最速で射る事。その事象にのみ特化した構造に、精神を作り替える。

 これにより、天から奇跡的なバックアップを受け、知覚と身体能力が飛躍的に強化される。

 結果、彼ら本来の筋力・反射神経を遥かに凌駕した早射ちが実現する。

 命中精度は、避けられない限りは、一〇〇パーセント。

 長年競い、敬い合う朝田と藤村だからこそ、その降臨規模は莫大なものとなる。

 これは、二人が肩を並べて初めて成り立つ、秘伝の儀式なのだ。

 彼ら二人の矢に奇襲を受けて対応できる人間など、桐江聖次郎准将を含む、人類トップスリーしか居ないだろう。

 代償に、敵味方の区別がつかなくなるが、今の場合は問題になるまい。

 二人のやり取りを見ていた――朝田たまこ含む――人質達は、固唾を飲んで扉を見る事しかできない。

 誰であろうと、扉を開けて入ってきた人間の頭がいちじくのように爆ぜる事は、必至だった。


 三度、見回り兵に遭遇した。

 いずれもツーマンセル。

 テレサが計三人を倒し、後の三人は吉井が殺した。

 朝田たまこの監禁現場まで、あと少しだ。

 どう甘く見積もっても、最初に倒した見回り兵達の沈黙が、敵司令部に知れている頃だろう。

 これまでの所、敵の応援は来ていない。

 立てこもり犯達からすれば、潜入者の戦力は不明だ。

 被害者全てが、助けを呼ぶ暇さえ与えられずに沈黙しているのだから。

 下手に動くよりは、各持ち場の守りを固めるつもりなのだろう。

 たどり着いたのが吉井隊ただ一個、たったの三人と言う事実が露見すれば、大挙して押し寄せてくるのだろうが。

 そうなれば、いかにミネッテの予知とテレサの秘術があっても、生存は厳しいだろう。

 だが、それはそのまま、敵の全戦力が人質の身辺に集中する事も意味する。

 部屋に踏み込む際、ミネッテの予知は使えない。

 彼女のそれはあくまでも受動的なものであり、自分達が予知を踏まえて行動した結果を予知する事は出来ない。

 どの敵(・・・)が、何人居るかも定かでは無い。

 そんな火中に、もうすぐ飛び込まなければならない。

 少なくとも、部隊長の朝田大地は、人質の側に居るだろう。

 その妻・たまこから渡されたデータによると、朝田大地は上倉一刀流の師範であると言う。

 不死身のルカであっても、儀式思考を編む為の脳が両断・大破すれば、流石に死ぬ。

 朝田大地に接近戦を挑むのは極めて危険。剣の間合いに入られる前に制圧する必要があると判断。

 吉井が、淡々とした手つきで符を取り出す。

 次の突き当たりを右に曲がれば、人質の囚われている大部屋は、すぐそこだ。


 次、部屋に入ってきた人間の頭を射砕く。

 人間の頭を、射砕く。

 朝田大地と藤村にある思考は、その一点のみ。

 今、彼ら二人の人格は、射る為だけの存在に貶められている。

 だからこそ、彼らは、弓射と言う概念そのものと同化している。

 上倉一刀流の道は、弓の道にも通じているのだ。

 朝田を強大な剣豪として評価している者ほど、その弓の腕を侮り、遠距離戦に持ち込もうとする。

 上倉一刀流師範の肩書きが、致命的な疑似餌である事にも気づかないまま、犠牲者は頭に一矢を撃ち込まれて絶命する。

 藤村と、この戦術を編み出してから、矢を外した事は一度もない。


 正面に、両開きの大扉が見えてきた。

 この先に、朝田大地の部隊が待ち構えている。

 ミネッテの予知に、異常はなし。


 朝田と藤村は、既に、走り来る者達の足音を聴いていた。

 人数は、三人。

 だが、人間の頭に弓を射る、と言う一念にのみ支配された二人には、それが敵襲であると言う事さえ理解できない。

 弓の弦も腕の筋肉も、ぴんと張りつめて静止している。


 テレサが先頭に出る。

 そして、人質と下手人の潜む扉へ、飛び込む。


 扉が打たれ、固定具のねじ切れる凄惨な音が、大部屋にけたたましく鳴り響いた。

 極限まで最適化された朝田・藤村の知覚は、体感時間を何倍にも長くしている。

 時間が、無風の小川のように緩やかになる。

 矢は、

 放たない。

 人間の姿が見えているわけでは無いからだ。

 扉が弾け飛び、朝田達めがけて飛んでくるのみ。

 朝田と藤村は、各自横跳びに跳んで、これの軌道から退避。

 弓を射る事に特化した精神状態とは言え、最低限度の生存本能は残してある。

 今の二人に、小手先だけの牽制は無意味である。

 扉が吹き飛ばされた混乱に乗じて踏み込んで来るなら、その時に頭を射砕くだけ。

 依然、それ以外の全ては眼中に無かった。

 例えば、扉に何枚もの符が貼り付いている事など――、

 普段の朝田と藤村なら、決して見落とさなかっただろう。

 ――広域発破、降臨。

 鼓膜を突く、破裂音。

 放射状に暴れる、黒煙。

 扉が凄まじい力で引き裂かれ、四散。

 肌を焼く熱波と、誰かのおびただしい血潮が舞い狂う。

 巻き込まれた何人かの人質が、一様に甲高い悲鳴を撒き散らす。

 藤村は、頭蓋を割られて即死。

 朝田は、弓ごと左手を引き裂かれている。

 ――仕留め損ねたが、問題ない。

 吉井は、符を手に突進。

 だが。

 儀式起点であろう、水晶玉を掲げた男が、朝田を庇うように躍り出る。

 その水晶玉は、明らかに武器としては不向きな物だ。

 自衛能力の低い兵が前に出てくると言うことは、自滅も辞さないと言う事だ。

 罠の可能性を斟酌する猶予は無い。

 吉井は先手を打って、水晶玉男の顔面に掌を叩き込んだ。

 符を押し付けるように。

 発破。

 水晶玉男の頭部はいちじくのように弾け、身体は前のめりに倒れた。

 ――次は、

 殺した男には微塵の興味も示さず、吉井は次の符を取り出す。

 そして、弓と片腕を裂かれて屍鬼のようにふらつく朝田へと、

「違う、吉井さんッ!」

 いつになく鋭い声で、テレサが叫んだ。

 瞬きをひとつすれば、既に彼女の背中と白金の清流を思わせる髪が視界に現れていた。

 体当たりで吉井を撥ね飛ばしたテレサ、

 その前には、朝田。

 生きている左手に、抜き身の剣。

 水平斬り。速い。亜光速レベルだ。

 テレサも最速で鎌を構え、剣を弾く。

 だが、テレサの腕力で跳ね返されたにも関わらず、朝田の剣は、もうテレサの鼻先に迫っていた。

 恐ろしく速い。

 テレサはこれも、鎌の柄で食い止める。

 朝田の剣が、鎌の柄を滑った。

 テレサの動体視力をして、それを視認した時にはもう、

 朝田の剣は、テレサの脇腹を刺していた。

「……っ!」

 テレサは、とっさに跳び退いた。

 腹から抜けた剣が、横薙ぎに空振った。

 そのまま留まっていたら、テレサの胴体は輪切りにされていた。

 血が一度だけ噴き出してから、傷と服の綻びが塞がる。

 後ろにルカが居る限り、ある程度の致命傷は考えずに済む。

 何合かの剣も、ルカが祈ってくれているお陰で逸れてはいる。

 だが、安堵の暇はおろか、体勢を正す間すら許されない。

 既に朝田は亜光速で踏み込み、上段に剣を振り上げているからだ。

 テレサは悟った。

 詰み、であると。

 鎌の柄で、上段を守る。

 朝田の剣が、鎌の柄を叩く。

 そのまま、人間の関節では不可能に近い、あらぬ軌道を描いて下段へ。


 ――秘剣。

 読んで字のごとく、他人に秘め続けた剣。

 人生最後と決めた戦いで、弓を失った時、

 生涯最後の敵にのみ振るうと決めた剣術。

 三十年余りの時を、朝田の頭の中にのみ留まり、具現化される事の無かった剣。

 人生で一度きりと決めた剣術にもたらされる奇跡的エネルギー量は、尋常なものではない。

 その使い手は、物理的制約にさえも縛られない超越者と化す。


 朝田が、逆袈裟で斬り上げた。

 雷速の威力はそのままに、でたらめな太刀筋が絶え間なくテレサを襲う。

 捌ききれない。

 風切り音。

 血が、大きな散華を描いた。

 テレサの首が、斬り飛ばされた。

 白金色の後ろ髪が切れて、羽毛のように舞い散る。

 テレサの首は、無情に床へ落ちる。

 胴体が前のめりに倒れ、最前まで脳から送られていた信号の名残で痙攣する。

《ぁ……ぁ……?》

 吉井は、朝田の矛先が向くより早く跳びすさり、四方に符をばらまく。

 迂闊に近づけば、即、焼き殺す構えだ。

 そうすれば、

「御命、戴く」

 朝田が、無防備になったルカへと斬りかかるのは必然。

《ああぁあアぁアァあアアぁ!》

 ルカはただ、左右の手に持ったロザリオを交差させ、テレサを見る。

 血溜まりの中、頭と胴体の分かれた、彼女の身体を。

《やだ、テレサっ、テレサ! ああぁああアァ!?》

 ――女が死ぬ前に、首を繋げさせる気か?

 ――誰がさせるか。

 事実、ルカが儀式思考を編むよりも、朝田の剣がルカの頭頂へたどり着く方が、どうやっても速い。

 ただし。

 朝田の身に、何も起こらない限りは。

 ルカの視界から、朝田の姿が消えた。

 横。

 移動したのではない。

 衝撃に打たれ、矢のごとき勢いで身体を放られたのだ。

 デスクの残骸に突っ込み、床に伏す。

 朝田を横から打ったもの。

 それは、ひとりでに床から抉れた、バスケットボール大のコンクリート塊だった。

 今、テレサの顔は床に転がっている。

 すなわち、接地状態にある。

 にわかに血流を失い、急激な血圧低下の中にあって、テレサの脳は地にそれを命じてのけたのだ。

 ――戻り、接合しろ!

 テレサの頸部切断にまつわる、あらゆる演算を終えたルカが、治癒の思考を天へと送りつける。

 すぐさま光が射し、両断されていたテレサの首が繋がる。

 血がろくに巡るより先に、テレサはよろめきながら立ち上がった。

 首と共に切れた髪まで、戻してやる猶予は無かった。

 首がつながる際に降臨した治癒エネルギーの名残が、ある程度の長さにまで回復させたのだが。

 腰の高さまであったテレサの髪は、今は胸にかかる程度のセミロングになっていた。

 朝田は、その姿を呆然と見るしか出来ない。

 腕が折れて、剣も飛ばされた。

 いや、朝田が自失している理由はそれだけでは無い。

 確かに、首が切断されても、脳死するより先に治療が間に合えば救命は可能だ。

 また、頭部だけになっても充分な儀式思考を行う事も不可能では無い。

 しかし。

 自分が斬り殺される寸前の状況下で、それほど高度な儀式治療に集中してのけたこの男は、何だ?

 儀式医がそんな状況下にある中、文字通り自分の首を差し出すかのように戦い抜いたこの女は、何だ?

「何と言う無謀を働くのだ、莫迦(ばか)者が!」

 ルカが、今更我に返って怒鳴った。

「うっ、やっぱり叱られるのね……」

「当たり前だ! 一歩間違えれば死んで居たのだぞ!?」

 死を恐れずに戦えるのは、自分達、上獅子(かみしし)の忠義者の特権では無かったか。

 それとも、死を恐れていないのでは無く――。

 朝田が一つの結論に達しかけたその時。

 もう、戦う術の無い彼の前に、

 吉井敬吾が踏み込んできた。

 朝田がこの世で最後に見たのは、

 符を握り締める吉井の掌だった。

 軽快な発破音と、重苦しい破砕音の混ざったものが響いた。

 朝田大地の頭部は、極点に濃縮された爆炎によって砕け散った。

 朝田たまこの、悲痛な呻きがやけに大きく聞こえた。

 彼の魂が上獅子のもとに行けたのか、誰にも知る由はない。

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