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episode2-11 ~対峙の時~ 完

 ついに橋の破壊を許してしまった。

 そして、姪であるリナが現場で目撃されたと言う。

 その事実は、最後尾の桐江准将にも届いていた。

 准将の顔つきは……一見して変化は無い。

 ただ、

(知枝(ともえ)、頃合いだ。“あの方”へ取り次いでくれ)

 自分の鼓膜だけを震わせるよう、口の中でそう呟いた。

 その振動は託宣データに変換され、妻の知枝にのみ知らされる。

 知枝は、手早く儀式を執り行う。

 ややあって、それまで知枝の姿を映していた託宣(たくせん)イメージが曖昧になってゆく。

 知枝が完全に霧散すると、その粒子のようなイメージの欠片が、すぐさま密集。

 別の人物の姿に変化した。

 それは、痩せ細った中年の男だった。

 元々色素の薄いブロンドは、織り交ざった白髪を目立たなくしている。上品に流してある為、小汚なさは皆無である。

 枯れ木のような首から下は、豪奢な緋色の法衣によって、地位相応の貫禄を得ている。

 ムーハイル・トルストイ。

 つい先日、シャトラ枢機卿(すうきけい)に就任したばかりの男だった。

 枢機卿も准将も、今はお互い、公に身を晒している状態だ。

 今は、当たり前の礼を交わす事すらできぬ。

 密談の後ろめたさとは、このようなものなのだろうと、准将は頭の中だけで自嘲を浮かべた。

《この度のご協力には、感謝します。桐江准将》

 トルストイ枢機卿は、それでも小さく会釈を見せた。

 桐江准将もまた、それに(なら)う。

(私は、女王護衛軍総司令として、和禰国(わねこく)にとっての利を取ったに過ぎません)

 トルストイ枢機卿の穏やかな面差しが、ますます柔和に緩んだ。

《そう言って頂ければ、ありがたく存じます》

 桐江准将の元へ、部下が報告にやって来る。

 それに応対する合間の、口を閉ざせるタイミングで、トルストイ枢機卿への報告を続ける。

(我が軍の吉井敬吾大尉は、騎士ルカ・キリエ率いる騎士隊と共に海の底へ)

 橋の被害は甚大だった。

 そこから先は車を乗り捨てて、自分の脚で走れる者だけで進むしか無いようだ。 

 祝福の弱い、一部の後衛は置いていくしかなかった。

《そうですか。海に落ちましたか》

 トルストイ枢機卿は、変わらぬ穏和さで、それだけを確認した。

 桐江准将は、目の前の部下に頷くと同時に、

(はい、首尾よく(・・・・)落ちました)

 そう告げた。

《わかりました。次の段階に入り次第、またお教えください》

(承知致しました)

 そして、トルストイ枢機卿のイメージは、泡沫(うたかた)に霧散した。




 車の外からは、水の中に封じ込められた音だけがした。

 重く静謐(せいひつ)な、地上にはありえない音。

 護衛軍車が引き連れてきた、無数の大気の(たま)が蠢く音。

 車内では、三人の発する呼気の音だけがした。

 テレサの操る吉井車両は、無事ではあった。

 津波に打たれた外傷はほとんどない。

 車体のあちらこちらが歪んではいるが、浸水の気配も無い。

 車を、丸々としたドームのような大気が包み込んでいるからだ。

 吉井大尉が自車に張り巡らせた符を降臨点として、空気が生じた為だ。

 この量であれば、当分は車を手放さずには済むだろう。

 だが、共に落ちた別隊の護衛軍達は、そうもいかない。

 執聖騎士に匹敵する超人達と言えど、ヒトと言う名の陸棲生物だ。

 直ちに車を放棄し、水面へ目掛けて一目散に昇ってゆく。

 橋に戻るには、テレサ達も車を棄てなければならない筈だが。

「我が隊は、このまま海中を行きます」

 吉井大尉は、あっさりと言ってのけた。

「こっ、このまま!?」

 三人のうち、最初に叫んだのはテレサだった。

「はい。端望会(たんもうえ)で不測の事態があった際、この海中ルートを利用する手はずとなって居ます。

 彼らが津波を呼んでくれたお陰で、海に落ちる口実を作る手間が省けました」

 ごく当たり前のように言うが……。

 ……確かに、フロントガラス越しに広がる光景は、海の底にしてはひどく平坦な地形ではあった。

 ちょっと深いプールだ、と言われれば、ルカであれば完全に信じ込んでいただろう。

 つまり和禰国(わねこく)政府と言い宮廷と言い、ここから一〇〇キロ余りの海底を、あらかじめ万一の事態の為に(なら)していた事になる。

 和禰最大の要人を護る為、と言うお題目にしても、オーバーな処置だが。

 テレサは、言われるままに車を走らせた。

 水の抵抗は感じるが、それなりに舗装された“海底道路”は揺れも泥濘(ぬかるみ)もほとんどなく、快適に進むことが出来るようだ。

 ――む? ちょっとまって。それなら、どうして――。

「橋に沿って走れば、祭壇の地下搬入ドッグに辿り着くようになって居ます」

 テレサが些細な疑問を覚えるとほぼ同時に、吉井大尉が淡々と述べてゆく。

 今は、大尉の方針に気持ちを集中しなければならない時だ。

「ほんとは、何隊かといっしょに行動する予定でしたよね?

 わたしたちだけで祭壇にはいっても、大丈夫でしょうか?」

 吉井は、相も変わらず“迷い”という感情が欠落したかのように即答する。

「敵は、先の津波でこちらの先発隊が全滅したものと信じ切って居る事でしょう。

 つまり我々は、彼等に対して幽霊(ゴースト)として立ち回れる、唯一の隊になって居るのです。

 このルートの存在を知って居るのは、護衛軍のごく一部の者だけですので、待ち伏せの心配もほぼ無いでしょう」

 ――んんっ? やっぱり、なんかおかしいぞ?

 またも、テレサの思考は、違和感の引力に捕まるが、

「橋を破壊された以上、桐江准将は、旗下(きか)の人員を半減させてでも、陽動作戦を敢行するでしょう。それも、予定通りの時間に。

 混乱に乗じて潜入すると言う、当初の方針に、そう違いはありません」

 実際、吉井大尉は、物量と言う前提を無視してとんでもない事を口走っているのだが……桐江聖次郎が現場に出てしまっている以上、あながち間違いとも言い切れない。

「しかし、万全を期するなら――」

 吉井敬吾の目が、獲物を品定めするアナコンダのように、滑らかな移ろいを見せた。

「我が隊の健在を、他の護衛軍に見られたのは(まず)かったかも知れません。

 あの中にも、まだ裏切って居ない上獅子(かみしし)派が、居ないとも限らない」

 啓太人格の時の丸々とした目つきとは真逆の、射抜くような目で、吉井敬吾は、海面へと這い上がってゆく同胞達を見上げる。

「彼等が津波に流されていれば――更に言えば、半数以上が死亡していれば――我が隊はより完璧に消息を絶てたのですが」

 あまりにも自然に、些事のように言うので、ルカもテレサもミネッテも、彼が何を言ったのかが理解できなかった。

「騎士キリエ。先程、我々が津波に巻き込まれない様に計らって下さった事には感謝します」

「当然の義務です」

「しかし、他の隊まで、“天”に保護させた理由をお聞かせ願いたい」

 ルカには、二度、同じ事を訊かれたようにしか思えず、

「……当然の、義務であります。

 あの津波の規模では、死者が出る可能性すらあった(ゆえ)

 同じ答えを繰り返すしか無かったのだが。

「? 解せませんね。

 結果的には、我が隊はほぼ無傷で海中への潜入を果たしました。

 しかし、車両五台分の余分な面積の降臨点を取ったとなれば、我が隊が無傷で済む程の充分な因果減衰が起こらなかったリスクもあった筈です」

 遠くを見るほど、近くの景色はぼやける。

 降臨点を広く(遠く)取るほど、降臨する奇跡の規模は弱まりやすい。

 奇跡運用の基本だ。

 ルカがそんな初歩を弁えていなかったとは、吉井大尉も考えてはいない。

 だからこそ、彼の中では矛盾が生じてしまうのだ。

 ルカのように、優秀かつ万事が偏執的なまでに徹底している男が、なぜ、味方を助けると言う無意味な事(・・・・・)の為に、自分達を危険(リスク)に晒したのか。

 それが、吉井敬吾には本気で理解できなかったのだ。

 ミネッテは、小さく唇を引き結んだ。

 他人の負の感情に対して敏感にならざるを得なかった彼女は。

 むしろ、そんな言動を取る吉井大尉から、全く負の感情を感知できなかった事に震える羽目になっていたのだ。

 おそらくは。

 吉井大尉の考えは、“自分さえよければ良い”という、ありきたりなものでは無い。

 他人を犠牲にして自分を利する。

 普通、犠牲にする側の人間は、自分の行為を正当化する為に言い訳じみた理屈をこねくり回すものだ。

 盗むのは、自分がそれを手にするだけの正当な理由があるから。

 殺すのは、被害者に落ち度があったから。

 例え、そこに付加される“理由”に正当性が無かったとしても。

 “悪”と称される行為には、まず自分自身を妥協させ、納得させるプロセスが必要となる。

 しかし、吉井は、そうした最低限度(ボトムライン)の自己暗示すらも無縁の存在に思われた。

 かといって、“世界は自分を中心に回っている”と言うような傲慢さも皆無だ。

 吉井敬吾の物腰の丁寧さ、慇懃(いんぎん)さは、本心からのものである。

 それくらいは、ミネッテにも分別がつく。

 そして恐らく、ルカとテレサにも、吉井敬吾の誠意もまた本物である事はわかっているのだろう。

 だから、おそらくは……。

 この男(よしい)は、誰にでもあるはずの利他の心を本当に知らない、という事になる。

 なってしまう。

 元々持っていた物を捨てたのと、

 最初からそれを手にした経験が無いのでは、意味合いが大きく違ってしまう。

「……自軍の人員保守は、執聖騎士団の――(いや)戦人(いくさびと)の普遍的な規範です」

 ルカ・キリエにしては珍しく、目上の者に対する若干の反発がこもっていた。

「しかし、女王護衛軍では、その様な規範は無いのです」

 ルカに対する反発というよりは、どこか訴えかけるような吉井の声音だが。

 そんな事、あり得ない。

 ルカは、呻きそうになった。

 騎士にしろ護衛軍にしろ、世界中のどんな軍属も、人類全体から見れば“宝”だ。

 世界全体における彼らの質と量が、競合種との生存競争を勝ち残れるかどうかのファクターなのだから。

 当然、護衛軍でも、その普遍的なルールは入隊時に教え込まれる。

 それを理解出来ない人間が、護衛軍の大尉にまで上り詰める事はおろか、入隊すらおぼつかない筈だ。

 確かに、自分の命と秤に掛けた結果、やむなく他人を見捨てる事はあるし、それであれば緊急避難の範疇として容認される。

 だが助けられる(・・・・・)味方を、不確かな策の為に見捨てるという選択肢は、戦士達には無い。

「……まして今回、私と彼女達の任務は、女王護衛軍に助力を行う事です。

益々(ますます)、見捨てる事は出来ません」

 気づけば、ルカの抑揚はほとんど苦し紛れのものになっていた。

 社会通念的に――何より道義的に――ルカの言っている事は正しい筈なのに。

 吉井敬吾の顔には、薄い笑みだけが浮かんでいた。

「語っても、益体(やくたい)の無い話でした。

 今ある状況だけが、我々の全てでしたね」

 どこか、残念そうだった。

「そっ、そっ、そうだ、敬吾さん! 敬吾さんたちのおうちは、何人家族ですか!」

 ……。

 ……、…………。

 これまでとは別の意味で、場の空気が停まった。

 フォローを入れるにしても、前後の脈絡が無さすぎる。

「テレサ君……」

 彼女が何を口走ったのか、ようやく咀嚼できたルカが、気力を抜き取られたような顔をした。

 だが、

「妻と、七歳になる娘が一人。二世帯住宅で父母と祖母も居ます。

 娘の写真を見ますか?」

 と言いつつ、既に懐に手を入れていた。

「みたい! みたいです」

 思いのほか好感触だったことに戸惑い半分・嬉しさ半分。

 テレサは、二つ返事で応じた。

 儀式起点の符を取り出すように、無駄の無い所作で、それは渡された。

 写真には、和風の庭園が写っていた。

 しなやかな赤松が主木(しゅぼく)として庭に君臨し、濃淡様々な緑・黄・朱が、野放図に入り混じったイロハモミジを、衛星のように(はべ)らせている。

 そんな風景をバックに、吉井大尉と、その服の裾をつまんでいる小さな少女が写っていた。

 となれば、念写したのは彼の妻だろうか。

「わー。かわいい! ほっぺがふっくらしてる!」

 目元は父親似のようで、ルカとミネッテには不機嫌そうに見えたが、

「ひかえめな笑いかたをする()なんですね」

 吉井が、意外そうに目を丸くした。

 敬吾人格で見せた、はじめての表情だ。

「分かるのですか? 彼女が笑っている事を」

「はい。ほんとは笑いたいけど、ちょっとはずかしがってますよね?」

「この写真を見た大抵の人は、娘がむくれている様に見えるそうなのですが」

「……」《……》

 ルカもミネッテも、気まずそうに押し黙った。

「桐江准将や自分の母でさえ、そう言っていたのに、貴女は鋭い方だ」

「わたし、笑顔が三度のごはんより大好きですから」

 テレサは、飽きもせずに写真の娘を眺めて、

「大人になったら、きれいな微笑みかたのできるレディになりますよ。

 みんな、その時にわかるとおもいます」

 吉井大尉は、静かに微笑んで、

「有り難うございます。

 しかし、大勢の人に彼女の魅力に気付かれてしまうと、父親としては少々困りますがね」

 出会ってからはじめて冗句(ジョーク)らしいものを口にした。

 テレサは、

 一瞬、目線を沈めてから、

 何かを確認したかのように頷くと、いつもの柔らかな笑みを浮かべた。

「娘さんを、ほんとうに大切になさっているのですね」

 吉井大尉の面差しには、やはり迷いがない。

「この世で唯一、自分の命よりも大切なものです」

 それは、ごくごく普通の、父親の言葉だった。

「きっと、伝わっていますよ」

 ――そして。

 それから続く言葉を、テレサは静かにしまい込んだ。

 一方で、ミネッテは。

 目眩を覚えたかのように、表情を曇らせていた。

 恐らく、テレサもミネッテも、今のやり取りで吉井から受けた印象は同じだったはずだ

 テレサはそこに、明るい兆しを見出だした。

 ミネッテはそこに、更なる怖れを見出だした。

 ――他人を不確かな作戦の為に見殺しに出来る心と、普通の父親の心。

 ――この人は、どうしてそんな二つの心を同時に持てるのだろう。

 ――本人には何も、違和感が無いのだろうか。

 ミネッテには、それが恐ろしかった。

 仮に、吉井の父親としての顔が作り物の仮面であったのなら、それはただの偽善者だ。

 ミネッテもそこまで恐怖を覚えなかっただろう。

 確信犯こそが、何より恐ろしい悪意だ。

 発した本人が悪意と自覚出来ないものこそが、真に危険な――冷たく容赦の無い悪意である事を、ミネッテは誰より身に染みている。

「どうしたの? ミネッテ。だいじょうぶ?」

 よほど、瞬間的に憔悴したような、病的な顔をしていたらしい。

《あ、うん、何でも……無い》

 もし、この人(よしい)に今の考えを読み取られたら……そう考えると更に身震いが走る。

「本当か? サポートチームとて、作戦行動中に不調を隠す事は許されんぞ」

 ルカが、不正を取り締まる警察官のような目になった。

《いえ、本当に大丈夫です。昨日、テレサの夜食に付き合わされて胃が重いだけですから!》

 口下手な彼女にしては、うまく言い繕ったつもりだった。

「えー? 昨日はたいして食べてないよぅ?」

 テレサは口を尖らせて抗議した。

 抗議、してくれたのだろう。

「何だ。それならば、無理も無い」

 ルカは、本気で騙されたらしい。

「君達では、胃の容積が違い過ぎるからな。自明の理だ」

 ごく自然に失礼な比較をしてのけるが、テレサもまた、細かな事には拘泥しない。

「むー。グラム単位の話はむつかしくて、よくわかんないです」

 そして吉井は、

「だが、食生活もまた自己管理の範囲内です。

 貴女はまだ若いが、お気を付けて」

 やはり、非の打ち所の無い善良さで、たしなめた。

 やはり、ミネッテにはそれが恐ろしい。

《……、…………ぅ……、……》

 とうとう答えに詰まる。

 何か言わなければ。

 何か言わなければ。

 何か言わなければ。

 迂闊な事を言ったら。

 迂闊な事を言ったら。

 迂闊な事を言ったら。

 吉井が逆上して、テレサとルカに何かをするのでは無いか。

 ミネッテはもはや、何の落ち度も無いはずの吉井大尉を、犯罪者と同列にすら感じていた。

 それを恥じる気持ちは、差し迫った不安によって押し込められている。

 未来を知れるミネッテだが、それはあくまでも“自分が何もしなかった場合”の未来に過ぎない。

 トイミの霊が「何を言えば良い未来に繋がるか」と言うことまで教えてくれるのであれば、これまでの人生、苦労は無かっただろうに。

《……ぁ》

 完全に硬直していたミネッテが、不意に口を開きかけた。

 彼女にまた、別の変化が起こった事を、吉井大尉は目敏(めざと)く観た。

「今度は、どうなされました」

 ミネッテは二秒、口をきけなかった。

 だが、伝えなければならないし、

 よく考えてみれば、今の緊張から逃れるだけの口実になり得た。

《外部から、私に託宣が降りました》

「何だって」

 ルカが、反射的に聞き返したのも無理は無い。

 託宣の降臨には距離の制約が無いとは言え、送信する相手の所在を把握している必要がある。

 とすればミネッテを知る誰かからの交信という事になる。

 今回の任務関係者の中で、今、この時にミネッテに託宣を送る理由のある者はいないはず。

 となれば、相手はプライベートな知人の可能性が高い。

 だが、作戦行動中に私的な託宣を送受信する事は、騎士団はおろか、人間としてのモラルの問題である。

 これまでの職務態度を鑑みて、ミネッテがそんな事をするとは俄かに思えなかったが。

《送ってきたのは……朝田たまこさん、だそうです》




 同時刻。

 輝路(きじ)クイーンホテルは警察によって封鎖されていた。

 軍刀のように背筋を張り詰めた刑事が、足早に一階フロアを蹂躙して行く。

 先程、このホテルの客室で殺しがあった。

 被害者は、一人の宿泊客の為に雇われたヘルパーの女性だった。

 凶器、および儀式戦術の詳細は不明。

 遺体は心臓から背中を、太い槍(ランス)のようなもので一突きにしたように穿たれていた。

 だが、その胸の空洞は、焼きごてを押し付けたかのように焼けていたという。

 現場に火の痕跡は皆無。

 そして。

 被介護者であった少女――小野黒花の姿は、何処にも無かった。

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