31. キャナリアさん
凜と正面に向けられていた視線がすっと私に向けられた。
えっと言う声が聞こえたかと思うのがふさわしいビックリ眼。
そのとたんに上がるスピード…追いつかれてやばいと思っちゃったみたい。イヤだあ。引き離されちゃうよ。
私も引き離されないようにスピードを上げて走る。
うわっ、速っ。
ちょっと息はあがっているようだが涼やかな声が聞こえてきた。
『私はキャナリア パンジェールです。1位は譲りませんわよ。』
わあ、格好いい。同性ながらあこがれちゃう雰囲気を持っているよ。勿論異性だって彼女の魅力は分かるだろう。
凜として、気品があって、透明感があって、細やかな気遣いが出来そうな感じ…素敵なお姉さまなのだ。
さてさて、第一印象はバッチリなキャナリアさん。性格はどうなんでしょう。
「ディ皇子のことどう思ってますか?」《皇子に好意を持ってますか?》
私の体力が後どの位残っているか分からないので、とっとと本題に入らなくてはならないのよ。
護衛従者が居ればあと残りがどの位の距離なのかとかわかるんだろうけど…私は独りだ。
私がキャナリアさんに話しかけたのに気が付いたアライグマの実況さん、近づいてこようとしているがキャナリアさんの護衛従者らしきスラッとしたプレーリードックみたいな人に阻まれて近寄れないでいる。プライベートを守ることも護衛従者の仕事です。おお、良い仕事してます。ナイス ブロック!
あれ、でも今まであの従者どこにいたの? 忍者みたいな獣人ですぞ。
『お会いしたこともない方に好意は持っておりません。これから好きになります。私は皇子を支える人になりたいのです。』
そう言うと、また私を置き去りにして引き離そうと走り出す。
ひええ、インターバル走になっているよ(泣)
私は必死でついていく。ああ、背中の水が飲みたい。
皇子を支えたいって気持ちには共感できる。同士だね。
でも、何か違う。
「そうだよね。会ったこと無い人が好きかどうかなんてわからないよね。でも、皇子は努力家だし、口は悪いけどやさしいし、良い奴だから側に居ればきっと好きになると思う。」
そう、わざわざ好きになる必要はない。
キャナリアさんが国のことを考えている良い人なのはわかる。けど、そのおまけで宇佐見君を好きになって欲しくない。単に私のワガママなんだけど。
『貴女は皇子に知り合いなのですね。ああ、感情を辺りにばらまいていた方ですか。』
再びキャナリアさんの目が見開かれる。若干スピードが落ちる。
うう、そうです。感情のコントロールできない私です。
辺りは雑多な草木が生い茂っていた景色から田園風景へと移っていた。
それと共に時々畑の中からこちらを伺う獣人さんの姿もチラホラ見かけるようになってきた。街が近くなってきたのか。
◇◇
『2人のお嬢さんで先頭が争われています。何か話しを始めた様です。皇子のことを話しているのでしょうか。おっと、護衛従者が邪魔をして近づく事が出来ません。ランが始まってすでに半分ほどの距離が過ぎています。王都郊外まで来ています。皆さん、先頭の2人を盛大に迎える準備をしてください。くれぐれもレース参加者のじゃまはしないように。』
◇◇
あれから無言でキャナリアさんが前へ出ると私が追い越して前へ出て、私が前へ出るとキャナリアさんが追い越して前へ出るということを繰り返している。
キャナリアさん、悪い人では無い。美人さんだし。
宇佐見君にふさわしい人とわかれば納得して婚約者と認めるはずだったのに。
私はまだ走っている。
苦しいし、手足は重いのに。
キャナリアさんも苦しそう。
苦しいのは皆同じか。
「霧島さ~ん。」
後ろからバイク音がして、振り返ればシュア君が居た。
「やっと追いついた。がんばっているね。絶壁作戦大成功だったね。」
ニコニコ笑顔のワンコになっているシュア君です。差し出してくれた水がうれしい。
「皇子もラジェールもみんな応援しているよ。」
あ、笑顔でキャナリアさんの心を砕く作戦ですか。私に最後まで走らせようって作戦ですか。
『私は私のために1位になりますわ。貴女も最後まで手を抜かないでください。』
私が迷いながら走っているのなんかキャナリアさんにはお見通しだったみたい。
キッと鋭い目を向けながら口元は笑っている。
ライバル認定されて嬉しい自分がいる。ランナーズハイなのかもしれない。
ここまで来たんだ。私も1位を狙っても良いよね。
大きく息を吸い込んで
「私も貴女に負けません。」
と返事した。




