27. 絶壁登りしちゃうのです
バイクを停めて、土と岩で構成された絶壁を見上げる。ごつい。高さは1キロはゆうにあるだろうな。ここからじゃ頂上はわかんないや。見上げていると首が痛くなってきた。
「シュア君、サポート役は参加者とずっと一緒に居なくちゃいけないの?」
私の突然の質問にシュア君はキョトンとした顔をする。
「ああ、護衛従者ね。必ず一緒にゴールしなくちゃいけない訳ではないから、途中で帰っても問題ないよ。」
私は絶壁を指差し、シュア君にニコッと微笑む。そして深呼吸して一言。
「私、ここ登って行くね。」
無言で私を見つめるシュア君。見つめかえす私。
だってこれしか先頭に追いつく手段ないじゃん。目で訴える。
固まるシュア君に私は余分な荷物を渡す。
少しでも身を軽くしておかなきゃね。革のロングコートは脱ぐ。少々の風は我慢。どうせ走る時には脱ぐだろうし。バイクの荷物入れに残す荷物は水だけでいいかな。
ちょっとして溶けたシュア君は私の意図を理解したようだ。荷物をがさごそして、「はいっ。」とキット○ットの大袋を差し出す。私は袋に手を入れて片手で掴めた分だけをジャージのズボンのポケットにしまった。
「お菓子のゴミはキチンと持ち帰ってくださいね。」
シュア君にレジ袋渡されたよ。そのゴミ何処に捨てるんだか。
荷物の多いシュア君は山裾から山道を途中までクネクネとバイクで走り、行けそうと判断した時点で絶壁登りをすることになった。途中でコースの警備担当者に会って荷物を預かってもらえたらだけど。
ヘルメットをしっかりかぶり直す。プロテクターも確認。
空中を走れるんだから、垂直にだって走れるはずと言う私の考えは当たっていた。シュア君は空に向かって垂直に走った事があるらしい。ただ、さすがにこの距離は無いって。ははは、だろうね。
気を抜いたら落ちるよね。大けがですめばいいけど、下手したら死んじゃうかもね…死んじゃうのはダメだ。きっと宇佐見君はずっと自分のせいと思ってしまう。
怖いことは考えないようにしてと。女は度胸。
キット○ットを1つ取り出してかじる。うん、美味しい。甘い物は元気でるね
頂上まで1500メートルとして、時速10キロでも10分もあれば頂上に到着できる計算だ。そのくらいなら私の集中力も持つでしょ。
バイクにまたがり絶壁を見上げる。上に行けば宇佐見君に会えるんだよね。
「さあ、行くぞ! シュア君、また後でね。」
柄じゃ無いけど、シュア君にウインクして出発だ。
大きく息を吸って自分に向かって叫ぶ。
「登るぞ。頂上目指して、ゴー!!」 Brroooooooonn!!!
少し飛び出た岩を目指して、急な坂道をバイクで駆け上がることをイメージする。岩との間隔は1メートルくらいとる。岩にたどり着いたらすぐに目線を空へ。空の先には山の頂上があるはず。終点があるはず。
両手からハンドルの中心にある思念貴石へ思念パワーを流すことを意識して、バイクから生まれた思念パワーがバイク後方から噴射されているイメージを持つ。ロケットの発射シーン的な感じで。
スピード出しているつもりなんだけど、バイクと私が重力によって地面に引かれているのがわかる。上に行きたい力と下に行きたい力が綱引きしているようだ。いくら地球の重力の3分の2でも重力が働いていることにかわりない。悲しいかなほんのわずかだけしか上に行きたい力は勝っていないようで、想像以上にスピードは遅い。時速10キロなさそうだ。
あきらめるな私。ひたすら空へ顔を向ける。
◇◇◇
「霧島、今度は何してんだ?」
「やり遂げるという強い意志が伝わってきましたね。」
「登るって、絶壁か?」
宇佐見君とラジェールさんは山の頂上の貴賓席で本気か?と顔を見合わせたそうです。
私は絶壁をバイクで登る出発の言葉を言ったときにまた感情を辺りにまいたようで。
まあ、自分に言い聞かせなくちゃならないんだから、かなり気合い入った言葉言った自覚はある。誰かに聞かせている自覚なんて全くないのはいつものお約束です。
◇◇◇
「登れ、登れ。」
自然とつぶやきが漏れる。
気力はそうは続かない。
息を詰め、100メートル無理矢理上昇して、「はあ。」と一息つくととたんにヒュウと20メートルほど落ちる…最初はマジで死ぬかと思った。マジすぎて声も出せなかった。手汗がじっとりして、首の後ろから冷や汗がドバッとでた。怖がっている暇もなく、私は再度空へ向かうしかなかった。
何度か登っては落ちを繰り返して、落ちるのが10メートルほどに減った頃、監視と実況担当の小さいバイクが私から少し離れた場所をウロウロしだした。半分くらいは登ったか?
他のバイクを気にする余裕なんてない。なんか顔を赤くして、手を振り回している青年が一生懸命叫んでいるみたいだけど。
一息つかなければ落ちないのだろうか?
ああ、余計なこと考えちゃだめだ。集中集中。バイクからエネルギーが噴射されているイメージイメージ。
頂上の縁が見えたかも、良い感じ!
先が見えると現金なもんで、元気になる私です。
「さあ、行くぞ-!!」
落ちる距離は更に減って、3メートルほど。それでも建物1階分くらいは落ちるのだから、下手な乗り物より遙かに怖いはずなのに、怖さの限度超えて口元に笑いがこみ上がってきちゃったよ。フリーホールより怖くない怖くない。
あと少しあと少し。
「霧島、こっちだ。」
あれ、宇佐見君が見える気がする。声が聞こえた。
思わず力入ったみたいで、ビュンと残り50メートル地点で加速する。
横目で宇佐見君を見つつ、水中からのイルカジャンプの様に空に飛び出し水平に向きを変える。
おお、頂上だ。地面に止まり周りを見やる。
「つ、着いた…」
ヘニャリとしか言えない笑い顔の私。手は震え、肩で大きく息しないと居られない。本当は座り込みたい。でも取りあえずゲートに向かわなくては。
拍手でゲートに迎えられる。今までのゲートのなかで一番獣人が多そうだ。
ちょっと脳みそ疲れたみたいで、反応がうまく返せない。
歓声がが上がる。後ろを見ればシュア君も絶壁登りをして頂上に到着したみたい。
ネズミ顔の人に名を告げる。
ああ、シュア君にお茶煎れてもらってからマラソン行きたいな。そんなこと考えて、私は地面に座り込んだ。
頭の中で見ている物を文字にするのは難しいです。少しでも伝わっていれば良いのですが…




