22. 思ったようには走れません
「いやあ、近寄らないでえ。」
私はレースの始まりと共に情けない声を出していた。
周りにバイクに乗っていない獣人さんがたくさんいて轢いてしまいそうなんですよ!
思わずがっくりと首を落としそうになる。もし本当にしたらそれこそ獣人さんを轢き殺しちゃうんですけど!
石畳の道は市からずっと続いている。しばらくは道なりに王都を抜けて行くことになる。だからこそ、両側に建物は建っていて密集していて轢いちゃいそうなんですよ。
賢いバイク乗りはスタートの合図と同時に全力疾走して獣人の塊から距離を取っている。私は青空になびくピストルの煙幕に一瞬見惚れて遅れを取っちゃいました。
バイクランはおよそ30キロの距離。スピードさえ出せればあっという間の距離だ。でも獣人さんに囲まれた今は時速10キロといった所か…でも普通の人間と比べたらこれだって驚異的スピードなんだろうけど。
あ、のろくてバイク倒れそう(泣き)
「なんでバイクランは地面に付いていなくちゃいけないのよ。空中走って良いならこの人達のこと抜いていけるのにい。」
愚痴が自然とこぼれていく。獣人さんに阻まれてシュア君と並んで走ることも出来ない。先を行くシュア君を見失わないようにするのが精一杯だ。
同じように何台ものバイクが獣人さんに囲まれて埋もれているのがせめてもの救いだ。
ごつい獣人のお姉さん方なら私だって、多少のケガはしょうが無いですよ、で抜け出そうと思うけど、結構美人さん多いの。それも華奢系やら肉感的魅惑系やらが…ケガさせちゃ申し訳ないレベルの方ばかり。だから私の声は止まらない。
「近寄らないでえ。」
◇◇◇
「霧島のやつ、叫んでるな。近寄らないで、か。初っぱなから面白すぎだ。」
「練さま、そんなこと言ったら霧島殿がかわいそうですよ。あんなに必死でまわりに訴えているのに。」
「あれじゃ、感情振り回しているのを面白がって、周りの獣人どかねえぞ。」
離れた塔のバルコニーにいる宇佐見君とラジェールさんにまでしっかりと私の嘆きは伝わっていたのでした。もちろん周りの王都の獣人たちにもね。
◇◇◇
5キロほどで王都脱出でした。助かった。
郊外に出て、石畳以外を走るという選択肢が出来たのだ。まあ、ちょっとでこぼこで土埃はたつのだけど、おかげで側に寄る獣人さんは殆どいない。
スピードを少し上げる。とりあえず、今いる走っている獣人さんの塊から距離を取らなくちゃね。
シュア君には追いつき、今は隣で走っている。道なりに走るだけだから、私のペースに合わせてくれている。
80キロ出してみた。うん、なんとか地面走っている。石に乗り上げると反動で結構振り回されちゃうけど。土埃吸っているだろうなあ。きっと鼻の中は赤茶色だわ。
獣人さん達の塊を追い越して、石畳の道へ戻る。石畳の道は国道のようなものか。
「シュア君、お尻が痛いよ。」
「夜に姉さんに揉んでもらってください。でも他の所も痛くなると思うよ。」
「はあ、そうだよね。まだまだあるんだよね。」
空を見れば青い空のずっと上のほうにバイクがいるような。
「レースの監視兼実況だね。」
とシュリ君。
「実況なんて出来るの?」と驚けば、「霧島さんみたく周りに感情を強く巻き散らかせることのできる役人がいるんだよ。」とのこと。伝わった感情を更に中継して王都まで伝えるんだって。伝言ゲームか。
バイクに乗って機械音とかでうるさい中、シュア君と話できるのは裏月の感情を乗せて会話するをしているからです。こういう時、便利だね。
石畳の道をシュリ君の指示通りに走り、空中OKの所まで来ました!
道にいきなりゲートがあってチェックポイントにもなっている。バイクを降りてテントのようなところに行く。名前を猪系獣人さんに伝える。猪です。豚ではないです。
シュア君は他の獣人令嬢達の情報収集に走り、私はその隙にトイレ休憩です。
さあ、令嬢さんに追いつきますよ。
ここからしばらくは地面でも空中でも好きな方を走って良いので、空中に浮かぶことにした。
バイクのスピードを上げて、空気の坂を走り上がるのをイメージして実行すると。うん、浮かんだ。
「100キロ出すぞお。」
空中なら強気な私です。




