18. 特訓です
新しいことを始めるってのは大変なんだと改めて分かった。
翌日から特訓が始まった。
レースまであと2日しかない。
バイクの乗り方の先生にはシュア君とシュリさん、時々ジョンさん、たまーに宇佐見君がなってくれた。
バイクに乗るのは自転車に似ているなんて誰が言ったんだっけ?
自転車には乗れる。でもバイクってちゃんと乗ると足が地面に届かないんだよ。ましてここ裏月では思念パワーを使っちゃうと空中に浮かぶんだよ。
私は怖くてバイクを傾けることが苦手だ。でも傾けられないとバイクは曲がれないのだ。
そして小柄な私がこの黒いバイクにまたがると前傾でしがみついているようになってしまう。しょうがないじゃん、手が短いんだよ。私だって悠々と乗りたいよ。けど、体型的に無理! かといって街からの帰りにシュア君と乗った原付みたいのではレースではスピード不足でして。
手足につけるパワーリストのおもりも増えた。体力アップのためです。
朝のマラソンも続いている。自主的に昼食前と夕食前もすることにした。おもりが重くなったせいか、さすがに息があがる。マラソン選手の高地トレーニングってこんな感じなのかな。身体は重いし、息苦しい。でも無理って程キツくないから走れちゃうんだよね。
そして食事時間以外の空いている時間はひたすらバイクの乗り方の練習。もう日がないし。
バイクで地面を走って曲がるのが上手くならないので、先に思念貴石のコントロールの練習となった。
原付バイクでまずは練習。道の上を少し走って、空気の坂を登るイメージで空中に浮かぶ。そしてそのまま走る。初めは地上50センチくらいのところで。少しずつ地面から離れて距離を伸ばして走る。
空中を走るのは結構いい感じ。
ハンドルを掴んで、その真ん中の辺りの所にある思念貴石に手から温かい熱が伝わるイメージでいると自分の思った高さやスピードでバイクが走ってくれる。気を抜くとガクンと空中から地面に下がっちゃうけど、とっさにコントロールできるようでバイクが転倒したり失速することはない。
ただ高さ1メートルを超えてバイクが浮かぶと怖いんだよね。バイクの自体の高さがあるから目線は結構高くって…
私が高いところをバイクで走るのに躊躇していると周りが気づくと、乗馬をすることになってしまった。
それも宇佐見君と相乗りで…
そりゃあ、乗馬なんてしたことないです。一人で乗れません。でもでも乗馬って相乗りだと、宇佐見君を背にして腕に囲まれ…ああ、近い。近いんですけど、良いの? 宇佐見君。
ホントは横座りでお姫様乗りで乗るものなんだろうけど、高いバイク目線になれるために馬に私もまたがっている。だから完全に宇佐見君に囲まれている状態。照れちゃうよ。
この馬、宇佐見君の愛馬だそうで、真っ黒でなんか態度がでかい。そのくせ宇佐見君だけには言うこと聞くって感じ。私の事は無視っているし。
地球から持ち込まれた家畜などの動物は思念パワーで会話できないそうだ。食用の家畜の気持ちがわかったら食べられないもんね。
それでも会話できなくても何となく意思が通じる感じは動物によるがあるらしい。そう、宇佐見君の愛馬「黒」はその1頭だ。
途中までマラソンコースを黒は走る。そして林から森に入る。
私の様子を見て、宇佐見君がスピードを上げていく。
宇佐見君と2人で密着、いいムードと思うなかれ、最初こそドキドキしたものの、走り出せば身体は揺られそんな余裕は無い。
初めこそ私は両足の太ももで黒のボディをギュッと思いっきり挟み、両手で必死に鞍を掴んでいたが、深い森に入る頃には周りの景色に目を輝かせていた。
相乗りに戸惑う様子も宇佐見君には無く、見事な手綱さばきと黒への声かけで、森を駆けていく。
私が馬の揺れやスピードに慣れてきたのがわかると、走るテンポを変えたり、倒木や巨石を飛び越えさせたりして不安定な姿勢で黒を走らせる。
もともと遊園地の乗り物は好きだし、高所恐怖症でもない。むしろスリルは大好物な私。そこへ深い緑の輝きのカーテンと天井からの光りの輝き、身体に満ちる濃い大気。森の恵みが身を包み祝福している。こんなの初めてで感動。もう目線の高さなんて怖くない。下も含めて周りを見なくてはもったいない。
さらに生の鼓動を伝える黒の体躯。颯爽と手綱をさばく宇佐見君。一枚の写真になりそうな一場面に私も一緒にいるんだ。思わず笑みが浮かぶ。
そんな私を見て宇佐見君も笑っていた。腹黒じゃないよ。かわいい顔できるんだ。
一瞬目が合って、心臓が飛び跳ねた。ああ、やっぱり私、宇佐見君が好きだと自覚する。
……宇佐見君も結構楽しんでいたみたいで、1時間近くも相乗りで乗馬していたんだよね。黒、ご苦労様。
乗馬で高い目線も怖くなくなり、10メートル以上高い所をバイクで走ることも出来るようになった。地面では出せないけど空中なら100キロ近いスピードも出せる。思念貴石のコントロールは短時間の特訓だが、もう問題ない。
ただ、地面はおっかなびっくりでの運転のままだが…
バイクの特訓後にシュアさんに身体をオイルマッサージで癒やされました。
まだ擦り傷は残っているものの、青アザは目だ立たなくなり、打ち身ももう痛くない。ただ新たに乗馬で内ももが筋肉痛になったんだけど。




