17. レースに参加するらしい
ラジェールさんはすでにあらかたの情報を持っており、主催者の王宮とも相談済みで、すんなり私の「優勝者は皇子の婚約者になれるレース」への参加は決定されたのだった。
もともと宇佐見君とラジェールさんはレースの進行担当で、あちこちの部署との連絡や調整をしており、私が参加するにあたって警備の強化をすれば問題ないらしい。
参加者がある程度限られるとはいえ、優勝者というだけで王族の婚約者として認めてしまうこの国は懐が広いというか、楽しいことが単に大好きな国民性のせいというか…日本人としては何とも言えない世界だと思う。
そして、ラジェールさんの顔を見ているだけでは、レースへの私の参加に賛成してくれているのかわからないんだよなあ。ライオンさんの顔で表情の違いがわからない。話し声もあまり感情を載せないらしく、裏月語を使われると淡々とただ言葉の意味だけが伝わってくる。
あ、シュリさんは私に日本語で話しかけてくれるし、解説してくれるからレースについての説明は問題ない。ラジェールさんは日常会話は日本語で問題ないらしいが、専門的な話になると裏月語なんだよね。
==konnkonn==
ノックの音と共にウサ耳メイドさんがラジェールさんの執務室に入ってきた。
どうやらバイク屋のジョンさんが屋敷に来たらしい。
私達はバイクの所へと向かうことにした。
屋敷の玄関前にジョンさんと一緒に貴石付きバイクは居た。
宇佐見君とシュア君がバイクに触れたりまたがったりしている。
惜しいことに、私の姿を見て宇佐見君がちょっと安心してような顔をしたのに私は気がつかなかった。
獣人の中でもかなりイケているラジェールさんとジョンさんが2人で並んで立っていると、ワイルド感がめちゃくちゃ漂ってくる。それになんとも色っぽいし。作務衣っぽい和装がなんとも似合っている。まだまだお子様な私でさえ妙にドキドキしちゃう。
バイクは蹴飛ばしたのと比べればだいぶ小さい。原付よりは大きいけど。キラキラ光る黒いボディが印象的だ。
…これに私が乗るの? 結構、前傾姿勢になるよね。バイクに乗ったこと無い人には抵抗がバリバリにあるんだけど。
レースに出ると決心したのは自分だけど、ちょっと後悔がわきあがる。
周りではなんか盛り上がっている?
宇佐見君のこと、恥ずかしくてちょっとまだ私直視出来ないんだな。なんとなく視界にいれるだけにして辺りをうかがう。
ジョンさんが私を手招きして、バイクの横に立たせる。
黒いヘルメット(うさぎのミッ○ィーみたいな絵が頭の後ろ側に大きく描いてあるよ)とプロテクターを渡される。ははは…用意がいいことで。
『おう、キレイになったな。お前さんはケガしないようにこれ付けて乗れよ。プレゼントだ。サポートはシュア殿らしいな。あいつがサポートならどんな運転しても付いてきて来てくれるから思いっきり運転していいぞ。がはははは。』
ジョンさんが笑うと食べられそうだし、私は思わず色んな意味で苦笑いするしかない。
サポート?
小声で呟き、首をひねると、宇佐見君が説明してくれる。
「レースの参加者は女性のみ。参加者はバイクを用意しなければいけないから、自然と参加者は金持ちの家の娘ばかりだ。貴族とか世話を焼かれている生活をしている者が多いから、レースには一人従者を連れて参加してよい事になっている。お前の場合、シュアがちょうどいいだろう。」
…宇佐見君、普段とまったく変わらないね。それなら私もふつうに接しなければ。
「レースに参加するだけなのに、世話焼かれるってなんで?」
「レースのことまだ全部聞いていないのか? レースは朝7時のバイクランで始まり、森を抜けて山を登るサバイバルランして、最後は本人のラン、マラソン10キロだ。ゴールは早くて夕方だ。昼ご飯の準備やバイクの調整、コースの案内をするのが従者だ。従者なしで参加するのもたまにいるけどな。」
そう言って私を見る宇佐見君。はい、私はもちろん従者ありでの参加でお願いします。
何だかレース、思っていたより過酷なんじゃない。体力自慢の獣人レースだからかな。ちょっと先を考えず言ってしまった自分が憎い。
ここ裏月でシュア君は私のお世話係として側にいるから単にいい人ポジションだけど、よくよく考えればすっごい何でもできるチートな人なのねえ。
だてに皇子の従者していない。ワンコだけど。
皆に『お前なら出来る』『何とかなる』『観光できるよ』なんて言われて、バイクの操縦の練習を始めた私です。
期待されること少ないから、頑張ってみようかななんて思っちゃった。
そう、優勝はしなくてもいい。あのミケにさえ勝てればいい。
参加することに意義があるって言うじゃない。
さあ、がんばるぞー。




