15. 思念貴石付きバイク
店と言っても壊れたバイクが転がっているからわかるのであって、薄暗い所に何かの部品や工具が落ちているだけで、全く何の店なのか見た所分からない。
もう一度店の人を呼ぼうかとシュア君と見合わせたときにその獣人は現れた。
『ああ、誰だ?』
脳みそを揺さぶられるような低音が響く。ああ、なんてイケメンボイス。日本語で無いのに良い声ってわかるんだなあ。
お顔は犬? いやオオカミさんでした。顔だけね。あの口からあの声が出るとは信じられないね。身体は全くの人間型。絶対腹筋割れていそうだし、腕にぶら下がれそう。醸し出す雰囲気から20代独身ってとこかな。
『ジョンさん、お久しぶりです。練皇子付き従者のシュアです。』
『ふん、今日はそっちの肩書きの身分かい。そっちのは…ああ、さっき俺のバイクを蹴り飛ばしたやつか。向こうの人間か?』
あー、名前は犬みたいでしたねえ。ニヤリと笑うジョンさん、犬歯が尖っていて怖いですけど、ワイルドで格好いいとは。今の私は微妙な顔しているんだろうなあ。
『こちらは霧島透子さん。練さまのご友人です。』
しれっとと言う言葉がまさにピッタリな表情でシュア君が答える。私は横でジョンさんに頭を下げるしかない。
思いっきりガバッと頭を下げるて言う。
「ごめんなさい。」《バイクを壊してごめんなさい。》
今の私には何度も頭を下げて謝ることしかできない。
『あー、頭上げてくれ。バイクはあんたが蹴り飛ばさなけりゃ、あの子供にぶつかっていた。だから、いい。むしろ、子供を助けてくれて感謝するのはこっちだ。だいたい、あの猫娘が無理矢理「試す」とか言って乗るからいけねえんだ。猫のほうに修理代は請求するから気にすんな。……うわさには聞いていたが人間てのはすげえな。』
そんな簡単に許してくれるの?
バイクを弁償しなくていいのは助かった。でも人間ってすごい発言されても、自分の何がすごいのかわからない。
ジョンさんとシュア君の会話によると、ジョンさんは臭いとか話し方で獣人では無いってわかったそうだ。ちょっとよく見れば分かるって。
あー、昼ご飯一緒した皆さんは疑うことを知らない純粋にいい獣人さん達だったんだなあ。
そしてこっちに来てまだ日が浅いため、私の身体の筋肉は獣人並、それ以上の力を発揮できたみたい。重力さまさまだね。
そして思念パワー、これの私の力は時々すごいらしい。時々がポイントなんだけど。国中に感情を伝えてしまうだけでなく、バイクを蹴った瞬間にも力を使っていたようで。そのため200キロ近くあるバイクを片足で蹴り飛ばすことが出来たんだとか。…そうだよねえ、普通に考えれば足が折れていてもおかしくないよね。足は筋肉痛だけど。
ん? バイクって機械だよね。機械にも思念パワーって効果あるの?
そんなことを聞けば
『あー、俺のバイクには思念貴石が取り付けてあるからな。』
思念貴石、一見石炭のような真っ黒い石だが、もっと硬くて、結晶構造のせいなのかほぼ四角い形で見つかるらしい。そしてなんだかの方法で(国家機密だって)機械に取り付けて思念貴石に思念パワーを与えると、思念貴石が思念パワーをエネルギーに変換し、ガソリンや電気の代わりに使うことが出来るそうで。
簡単に言えば、バイクを走らせるのに最初少しガソリンを使うだけで、後は思念貴石に思念パワーを与えれば走ることが出来るってこと。スピードも思念パワーで変えられるって。さらに驚くことに思念パワーを強く安定して出せるなら、空中を走ることも出来るって。
私が蹴ったとき、思念パワーが作用して、蹴った方向に走って跳んでいったみたい。
ミケの思念パワーが足らなくてバイクの制御が出来なくて、あんな事故になったそうで。
ここ裏月では、思念パワーって本当に字のごとく力になるんだね。
魔法みたい。
『嬢ちゃん、レースに出るって本気かい?』
ジョンさんが真面目な魅惑ボイスとともにグルルという微かなうなり声を響かせて質問してきた。
…さっきは思わず言ってしまったけど、レースって私でも出られるものなの?と目線でシュア君に聞く。
『いいバイクがあれば良いんですけどねえ。他は何とかなると思うので。』
『さっきの猫娘が優勝になったら腹立つしなあ。よし、でかいバイクは修理に時間かかるから無理だが、もう少し小さいバイクなら安く貸してやる。一番でかい思念貴石を付けてな。嬢ちゃんなら少し練習すれば使いこなせるんじゃねえか? 猫娘の邪魔してやれ。面白い物見せてくれよ。』
『…あのう、私、バイクなんて運転できないんですけど…』
案の定、私の声、二人には聞こえていないみたい。
ジョンさんとシュア君はなにやら相談を始めてしまった。
少しすると迎えの時間だからと、ジョンさんから借りたような原付バイクにシュア君と二人乗りをして店を出る。まだ身体が痛いから歩かないですんだのは助かった。
乗ってきた馬車と街外れで再び合流し、私は馬車へ乗り換えた。シュア君は原付バイクのままだ。
まだ身体が痛い私は、一人馬車の中でゴロンと寝転がり、揺られながら宇佐見君の屋敷へと戻っていく。
「どうなっちゃうんだろ。皆、他人事だと思って楽しんでいるよね。裏月の国民性かぁ。」
気が付けば呟いていた。
ミケに負けたくないって思ったのは本当だ。
自分が納得できるほどのいい女と宇佐見君には結ばれてほしい。
皇子なんだから。
そしたらここでの一週間は良い思い出にして、あきらめることができる。
うん、そうだ。
ーーこのときはそう思ったんだよね。
簡単にあきらめられないから小学校から好きな気持ちを4年間も引きずっていたのに。
なかなかメイン二人が絡めません…相性は悪くないんです。




