14. 陽気な熊さん達
「山と海の恵み亭」は市が開かれている広場から50メートルほど行った所にあった。
宿泊も出来るようで2階建てで結構大きい店だった。でも格式ばっているわけではなく、木がふんだんに使われていて清潔な感じだ。
店に入ると食堂になっており、中心にはツヤツヤした木の幹がデンと巨大なテーブルを突き破って立っていた。その巨大なテーブルは店の常連さんの指定席のようで、私はその一角に座らされた。
何も言わなくても飲み物が運ばれてくる。
『いやあ、若いっていいなあ。』
『誰にも渡さないって、俺も誰かに言って欲しいぜ。』『ホント、ホント。』『宇佐見君って皇子のことだろ。すげえファンなんだなあ。』
『姉ちゃん、ほとんど人型みたいなのに力あるなあ。みんな動けなかったのにな。』『跳んでたよな。』
熊さん達が私に話しかける。
『思念も強え。制御が下手くそだけどな。がはははは。伝わってくるこっちが小っ恥ずかしいぜ。がはははは。』
私のことを褒めているんだか、辱めているんだか。悪い人達ではないみたいだけど。
うまく言葉に感情を載せて返事出来そうになかったので、私はだんまりだ。余計なことをしゃべってはいけないしね。
『まあ、ケガしているじゃない。』
おかみさんらしき犬耳獣人さんが私の傷の手当てをしてくれる。手足の擦り傷のほかに、左肘近くが浅いけど5センチ程切れていて、まだ出血していた。気が高ぶっているせいだろう、痛みは感じない。
切った所を水で洗うと、揉んだ薬草をペタッと貼られ布きれでグルグルと巻かれる。
ボンネットも脱がされそうになったけど、シカッと押さえて死守した。完全な人間とバレちゃまずいまずい。
熊さん達は次々と馬顔マスター(顔が長いのよ)に注文をしていた。
泡だった白いビールのようなものを熊さん達は美味しそうに飲み始めた。にごり酒か?
私の前にはリンゴジュースみたいな物が運ばれた。キノコがたっぷり入った山盛りのニョッキが主食だろう。ほかはメインディッシュというよりは酒のつまみにしか見えない料理ばかりだ。
この人達、私をダシに酒が飲みたかっただけなんじゃないの?
まあ、食べてみればどれも美味しいんだけど。
屋台の片付けをサボっているらしき熊さん達は4人。
某ランドの下半身丸出しで赤いチョッキの黄色い熊みたいならかわいかったけど、ここにいるのはどちらかというと某ランドのカントリーベアに近い。
がたいは大きいし、声も大きいし、毛がフサフサ…はっきり言って、こわい。迫力ありすぎ。人間の本能が逃げろって言っている。
食べる瞬間の大口…牙だよ。牙。肉裂いてるよ。ひええ。声に出しては悪いと思って、心の中で叫んでます。
異世界だって実感しまくりだよ。
でも、迫力あるけど4人とも良い熊なんですよ。すごく楽しそうに飲んだり食べたりしている。
『大活躍して腹減っただろ。食え食え。』
そう言って背中をバンバン叩いてくる。ちょっと只でさえ打ち身で体中痛いんですけど。
でも、進んでおじさんの相手出来るほどのスキル、私にはありません。身をすくめて愛想笑いをするのがやっとです。
お腹もふくれたし、もう帰りたいとシュア君を見れば、馬顔マスターと和やかに話ししていた。知り合いか?
「人気者は大変だよね。屋敷に帰る前にバイク屋さんに寄っていこう。…壊しちゃったし。」
「…」
そうだ。私、あの大きなバイクを蹴り飛ばしたんだよね。
今更ながら、よくあんなことが出来たものだわ。
「ごちそうさまでした。」
感謝の気持ちをこめて、ぺこりと頭をみんなに下げて店を出る。
『また来いよ。』って片手を挙げて、店の皆が見送ってくれた。
まだ私の身体はあちこち痛いけど、自力で歩ける程度には回復した。幸い骨折は無かったし。美味しいご飯様々だ。
バイク屋さんは広場に戻り、「山と海の恵み亭」の2本隣りの路地にあった。路に面して歪んだバイクが置いてあったので、すぐにわかった。
…異質だ。ここ裏月は基本、中世くらいの生活水準なのに。バイクはハイテク技術の塊にしか見えない。ここでバイクを扱うって人は科学者と言って良いんじゃないの?
そのバイクを私は理由はどうあれ、壊したんだもんね。謝らなくては。
『すみませーん。』とシュア君。
「こんにちは。」と私も店の中に向かって声をかけた。




