13. 口は災いのもと
子供のいる場所までは3メートルくらい。
地面を蹴れば、驚くほどの跳躍力で2歩で子供を抱き上げる。
…自分に自分でビックリだ。わずかな時間で思考する。
さっき馬車の中でパワーリストとアンクルを外したんだっけ…
子供を抱き上げた瞬間、突っ込んでくるバイクを避けるように上に向かって再びジャンプした。そしてバイクのボディを左足で思いっきりキックする。視界の端の誰もいないゴミ置き場に向かって!
===DOooooWWWWWWoooooonnnn===
===ZZuuZaazzaaaaaZZZZZZzzzzz===
私達はバイクと反対の方向に吹っ飛んでいく。
子供を抱きしめたまま、とっさに丸まって私は地面に背中からダイブする。
変な像がある広場を横切るようにして地面をすべり、帽子屋の屋台にぶつかって私の身体は止まった。
「痛たたた。」
そう言いながら横たわった私は子供を抱きしめて、ブルブルと震えていた。
腕の中の子はキジにゃん色の猫獣人の男の子だった。耳がすっかり垂れている。
「……、※うええ●ー×ん※※」《こわかったよお。》
「こわかったね。ケガはない?」《死ななくてよかったね。ケガはない?》
声も身体も震えが止まらない。これじゃ全然安心させられられないや。
「※××、●○※※?」《ねえちゃん、大丈夫か?》
方々から声がかかる。
私達を取り囲んだ人の一人が、キジにゃん君を私からそっと引きはがしてくれた。視界の端に人影。ああ、お母さんが来たんだね。良かった。
同時に目を見開き駆け寄ってきたシュア君が私を抱き起こす。
「頭は打っていませんか? ケガは? 骨折がないか調べさせてもらいます。」
シュア君はそう言うと真剣な目で、私の身体のあちこちを確認し出した。触られて恥ずかしいと思う暇もなく。
その横でキジにゃん君を抱きしめたお母さんが『ありがとう、ありがとう。』と頭を下げていた。私は「良かった、良かった。」と微笑みをかえした。
大勢の人達に囲まれて、『よくやった。』『すげーな、ねえちゃん。』『感動したー!』などなどと声をかけられていたが、その囲みの一角がくずれ、誰かが近づいてくる。私でもわかる仕立ての良いドレスと言っても良いような服を着ている令嬢って人だ。護衛だか従者を従えている。
そのお嬢様は両手を腰に当てて、偉そうに私の目の前に立ちふさがる。
私もシュア君に支えられて立ち上がる。私はほこりだらけだし、ボロボロの格好だ。
「※※R●●○※c※・※aー×※」《私の名はミケチャーン ジャージル。》
猫みたいな名だ。そして猫耳だ。他は人間にしかみえない。
わあ、すっごいつり目だあ。髪の色は三毛猫色。こっちにもツインテールっているんだ。
私よりちっちゃいのに偉そう。
『迷惑をかけたわね。申し訳ないと思っているわ。店の修理代と治療費は払うから屋敷に請求してちょうだい。』
見た目通りの高飛車猫女だ。上からの物言いにムカッときたんだけど。
今、私、神経高ぶっているんだよね。すっごく、気に障る。
「私は霧島 透子。あなた、申し訳ないではなくて、ごめんなさいって言うべきなんじゃない?」
グルッと周りを見れば、壊れた屋台と散らかった品物だらけ。とても商売出来ない状態の屋台ばかり。
けが人がいないのが不思議なくらい。
なんか偉そうな身分かもしれないけど、こっちだって引きたくない。
『そうね、ごめんなさいと言うべきかしらね。言い慣れていないものだから。失礼したわ。』
つーんという音が聞こえてきそうだ。
はあ、人間気が立っていると能力以上の力が発揮されるようで…私の言葉、しっかり伝わっているとみた。そしてあなたの言葉、しっかり理解できるんですけど。
『レースに出るから、いい性能ってうわさのバイクの試運転に来たんだけど、しょせん下町の暴力的な機械ね。こんなに扱いにくいとは思わなかったわ。』
言葉を感じるって、脳内で知っている言葉に変換してくれるんだと感心しながら、彼女の腹立しい言い訳を聞いていた。
『これに乗らなくたって優勝は私でしょうし。皇子のフィアンセになる私のちょっとしたおふざけと思ってちょうだい。』
『…おふざけですまないでしょ。何が優勝よ。』
我ながら低い声がでた。
「あんたがフィアンセなんて論外よ!!!」《宇佐見君は渡さないわよ!!!》
『『『『『お お おおっー!!』』』』』
外野が騒いでいる。みんなして顔を赤くして興奮している。両手を振り上げる人、両手を頬にあて身悶えする人、遠い目をしている人までいる…私また何か大声で感情を巻き散らかした?
ミケも顔を真っ赤にして私を直視している。両手をグーで握りしめて。
『ならレースで私に勝ってみせなさい。貴方になんか負けないんだから。オーホホホ。』
悪役がしそうな笑い声、本当に使う人を初めてみたよ。
ミケはクルッと後ろを向くとスタスタと帰って行った。従者だか護衛はペコペコと頭を下げてから、慌ててミケを追って行った。
あー、なんかドッと疲れてきた。もう立っているのヤダ。再び地面に座り込む。
頭使いたくないせいか、周りで色々言っているのは分かるけど、意味を感じようとしていないせいか、何を言っているのか理解できない。単なる音にしか聞こえない。もう、身も心もクタクタです。
「霧島さん、お水をどうぞ。」
「あ、ありがとう、シュア君。」
「また叫んだねえ。周りが盛り上がっているよお。」
水の入った器を受け取り、一口飲んで、私はキョトンとしていた。
「え、何言っているか分かんなくなっちゃったかな? みんなで君のこと応援するって言っているんだよ。さっきのも国中に伝わったねえ。レースでるの?」
レース? 応援ってレースの?
『皇子を渡したくないから、レースに出て、あの胸くそ悪い猫女に勝つとはよく言ってくれた。昼飯おごってやる。』
ふいに横から声がかかる。
呆けている私を、熊みたいな体格のおっさん達は引きずるようにして「山と海の恵み亭」という食事処に連れて行ったのだった。




