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映える  作者: シズ
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15/25

面接

 コーナーは、里佳が言い出した。


「うちの彼氏、募集していい?」


「募集?」


「応募してもらって、面接すんの」


 仁科がノートを開いた。開いて、すぐ書き始めた。


「毎週やる?」


「毎週は無理でしょ」


「隔週」


 仁科はそう決めた。恵那には訊かなかった。恵那はその週、一度も来ていない。


 フォームは和彦が作った。


 項目は仁科が決めた。名前、年齢、住んでいる場所、仕事、身長、それから「強み」。


「学歴、入れます?」


「入れる」


「入れるんですか?」


「入れないと、書いてくる人が出るから」


 仁科は定規を置いた。


「欄があるほうが、揃う」


      *


 一週間で、四百十二件来た。和彦は全部を表に入れた。入れると、並べ替えができる。年齢順、身長順、それから「強み」の文字数順。


 文字数順に並べたのは、仁科だった。


「長い人から見る」


「なんでですか?」


「長い人は、来る」


 一次に残ったのは十二人だった。選んだのは仁科と里佳で、和彦は数を数えただけだった。


 四百十二を十二にする。三十四人に一人になる。和彦は残らなかった四百人のことを、少しのあいだ考えた。考えて、それから表を閉じた。


      *


 面接は部屋でやった。机を挟んで、里佳が正面に座る。横に仁科が座って、ノートを持つ。和彦はカメラを回した。


 一人につき十五分だった。


      *


 部屋は八月で、暑かった。窓を開けると外の音が入る。閉めると機材の熱がこもる。和彦は開けたり閉めたりして、途中で諦めた。


 面接に来る人は、みんな汗をかいていた。ハンカチを出す人と、出さない人がいた。出さない人は、手のひらを膝で拭った。


      *


 最初の人は、二十六歳の会社員だった。


 緊張していた。声が少し高くて、途中で一度、噛んだ。噛んだところで里佳が笑って、その人も笑った。


 十五分のうち、後半の八分はうまくいっていた。


 終わりに、仁科が席を立った。


「ちょっと、外まで送りますね」


「あ、はい」


 二人が出ていった。戻ってきたのは、仁科だけだった。


      *


 二人目のときも、同じだった。


 三人目のときは、仁科が先に立った。相手が立つ前に、ドアのところで待っていた。


 和彦はカメラを止めて、機材を片づけていた。片づけながら、その動きを見ていた。


 見ていたが、何も思わなかった。仁科は送っているのだと思った。


      *


 その日、和彦は最後まで残って機材を片づけた。


 椅子を戻して、机の位置を直す。床にペットボトルの輪の跡がついていて、指で擦った。擦っても消えなかった。


 廊下に出ると、鍵の音がした。誰かが戻ってくる音ではなかった。


      *


 その回は、伸びた。


 九十万を越えた。コメントは一万を越えて、そのほとんどが応募者への感想だった。読むと、名前を覚えている人がいた。


  〈一人目の人、いい人そうだった〉


  〈本間さん、楽しそう〉


  〈次も見たい〉


 次も見たいと書いた人が、二千七百いた。


      *


 二回目の募集は、六百件を越えた。三回目は千を越えた。和彦は表を作り直した。列が足りなくなって、横に足した。足すたびに、表の幅が変わる。


 仁科が定規で線を引き直した。引き直す音が、部屋の中で続いていた。


      *


 四回目の収録の日、和彦は数字を確かめた。これまでに面接したのは三十七人だった。


 成立したのは、ゼロだった。和彦は、その数字をしばらく見ていた。喉のあたりに、何か引っかかる感じがあった。


「これ、成立しないんですね」


 和彦は仁科に言った。


「しないね」


「三十七人です」


「うん」


「成立したら、どうなりますか?」


「終わるでしょ、コーナーが」


 仁科はノートを閉じなかった。閉じないまま、次の行に日付を書いた。


「終わったら、次の企画を考えなきゃいけない」


 和彦は数字を出した。このコーナーの離脱率は、二十八パーセントだった。ほかの企画の平均も、二十八パーセントだった。


 同じだった。和彦はその数字をもう一度確かめた。二回とも同じだ。おかしなところは、どこにも無かった。


 和彦は肩を回した。首の後ろが固まっていて、鳴らすと痛かった。目の奥が重い。


      *


 和彦は表を閉じた。


 閉じてから、椅子の背にもたれた。天井の蛍光灯は一本切れている。切れたままで、誰も替えていない。


 仁科は送っている。それだけだ。和彦はそう思った。思ってから、水を飲んだ。ぬるかった。


      *


 五回目に、断った人がいた。断ったのは仁科のほうだった。三十一歳の男で、書類の文字数がいちばん長かった人だった。


「今日は、うちが送らないので」


「え」


「駅、そこなので」


 男は少し立ち止まって、それから帰った。


 和彦は機材を持ったまま、その様子を見ていた。


「送らないんですか?」


 和彦が訊くと、仁科は「うん」と言った。


「あの人、目が」


「目?」


「なんでもない」


 仁科はノートを鞄に入れた。入れてから、髪を一度耳にかけた。


「選べるうちは、選ぶよ」


 和彦は、その言葉の意味が分からなかった。分からないまま、うなずいた。


      *


 六回目の日、和彦は仁科の手を見た。


 ノートを持っている。ペンは動いている。面接のあいだ、一度も止まらなかった。相手が喋っているときも、里佳が笑っているときも、同じ速さで動いていた。


 和彦はその手をしばらく見ていた。見てから、カメラに目を戻した。


      *


 六回目のあと、里佳が言った。


「うちのこれ、いつまでやるの?」


「決まってないです」


「誰か選ばなきゃ終わんないよね」


「そうですね」


「じゃあ、選ぼうかな」


 里佳はそう言って、笑った。笑ってから、続けなかった。


      *


 七回目の途中で、里佳がカンペから目を上げた。


「ねえ、なんか来る人、全部似たり寄ったりじゃない?」


 カメラは回っていた。


「似たりって?」


「同じこと書いてくるし、同じこと言うし」


 仁科が手を上げた。上げたのは、指を二本だけだった。


「そこ、使わないで」


「はい」


 和彦はタイムコードを控えた。四十七分十二秒から、五十秒ぶんだった。


 里佳はそのあと、同じ話をしなかった。


      *


 次の回も、成立しなかった。


      *


 その月、コーナーは八回になった。面接したのは六十四人。成立はゼロ。応募は累計で四千件を越えた。


 和彦は四千という数字を打ち込んだ。打ちながら、その数を分母にした計算をしそうになって、やめた。


 やめた理由は、自分でも分からない。指はキーの上に残っていた。


      *


 五時四十分に、打ち上げが始まった。


 恵那は来ていない。この二週間、一度も来ていなかった。


 大野が袋を提げてきて、里佳が缶を配った。仁科はノートを鞄に入れてから座った。座ってから、缶を一本取った。


 その日は、開けた。


      *


「九千百」


「はい」


「里佳、いつ誰か選ぶの?」


 大野が訊いた。


「選ばないよ」


「なんで」


「うち、そういうんじゃないもん」


 里佳は笑った。


 仁科は何も言わなかった。缶を持って、口をつけて、それから机に置いた。


 置いた場所は、置く前と同じところだった。


      *


 その週の欄に、和彦は打ち込んだ。


   打ち上げ  九千百円  大野立替  八月七日


   交通費   一万二千八百円  杉本立替  八月五日


 交通費は、面接に来た人に渡した分だった。八人ぶんで、一人千六百円。金額は全員同じにした。


 揃うほうが、変に見えない。


      *


 九月に、応募者の一人からメールが来た。


 三回目に面接した人だった。〈その後、どうなったか教えてもらえますか〉と書いてある。丁寧な文で、最後に「動画は毎回見ています」と付いていた。


 和彦は返事を打った。〈今回はご縁がありませんでした。ありがとうございました〉。


 打ってから、それを三回読み直した。読み直しても、直すところは無かった。


  〈彼氏募集コーナー #8〉


  十六分二十秒/再生 905,000


  〈次も見たい〉

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