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勝者なのに叩かれる理不尽

「なんだよ、メッチャ強い魔法あんじゃん!」と、シュラが船首のソドムに泥を投げつけた。怒っているわけではなく、むしろ一撃で仕留めた痛快さに、笑みがこぼれている。


「そうですよぅ。わたしたちが馬鹿みたいじゃないですか!」と、ルゼッタまで便乗して泥を浴びせる仕草をした。

 結果的に無傷で討伐できたのだからいいのだが、なんだかモヤモヤする終わり方に納得できないでいた。



「待て待て、今の魔法は深淵の魔王にもかけた暗黒転生だ。ハッタリのために余計な動作を加えただけのな」ソドムは泥をかわしながら、二人の怒りを押しとどめる様に両掌を「まあまあ」と、突き出した。役目を終えた上空の邪神は霧散してゆく。


「本来なら相手の承認が前提の儀式魔法だから、詠唱は長いし手順も複雑で、なにより対象が動き回るようでは外しちまう・・・実戦で使えるもんじゃない。お前たちの足止めがなかったら、使おうなどと思わなかった」



 この説明で、確かに めんどくさい魔法だと記憶していた二人「・・・あ~」と、納得した。

 光の信徒であるルゼッタは禍々しいこの魔法を、当然良くは思ってはいない。


「ワードオブデスって格好いいネーミングするから、新魔法かと思ったわぁ」暗黒転生なら、コキュー島が困窮していた時代、希望者に散々かけたのを見てきたシュラ。

 そういえば、自分もこの魔法をかけられて魔人になったと思い出す。



「ともあれ、俺たちネオギオン・ガーターズの活躍で街の不安が取り除かれたわけだから、このまま船で民衆のところまで向かい、横付けして勝利宣言といこうか」そう言って、ソドムは操縦席のレウルーラに合図を出した。


 窓越しに意図を理解したレウルーラ、また力仕事であるレバー操作しなくてはならずウンザリした。本当は左右のレバーを前進と後退にして、船体をその場で旋回させねばならないのだが、疲れるので右レバーだけを倒し、右車輪のみ動かして 緩やかに方向転換させた。


「まずはシャワー浴びないと・・・ですねシュラさん」ルゼッタは気持ちを切り替え、船の横に歩き出し、昇降機を下ろした。


「うん、これがホントの泥仕合ってやつね。作戦的に覚悟はしてたけど、酷い有り様よ」と、シュラは互いの汚れっぷりを笑いながら後に続いた。


「ですね。ただ、この船がなかったら、泥まみれのまま歩いて帰るわけですから、冴子様の発明の数々は素晴らしいと思います」


 レウルーラは、二人が乗り込んだのを確認して、船が見物席に向いたのを見計らい左のレバーを倒し、船を前進させた。


 彼女は、船が真っ直ぐ進むに任せて操縦席を離れ、リュートを抱えて皆を出迎え、勝利の曲を奏でる。


「いいね!様になってきた」と、ソドムは上機嫌に妻を褒めちぎった。


 演奏の師であるトリスもレウルーラの腕前に、大きく頷き 自らも曲に合わせ弦楽器《リュート》を奏でる。


 が、「お前は運転な」と、ソドムに言われ、師弟のセッションは短命に終わった。



 先にシャワーを浴び始めたシュラは、陸上を優雅に進む船を気に入り、

「そうか、これからの冒険は歩きじゃなく、この船で楽々行けるのかぁ!!ソドムの料理も食べれるし、寝ながら移動も出来るじゃん。夜だって、野営よりず~っと安全だし!」と、改めて船の性能に感心した。


「ですです。ダンジョン探索とかで人手がいる場合でも、シルバーランクの方々を安全に目的地まで連れて行けます」ルゼッタは、シュラがシャワーの水を止めたタイミングで、タオルとバスローブをドア越しに投げ渡した。

 濡れた体に羽織るバスローブをチョイスしたのは、まだ敵中であることと、見物人のなかにガーターズが疲弊するのを狙った暗殺者がいないとは言い切れないため、即応できるよう気を払ったのだ。


 この会話を聞いたソドムは「おっ、ならば手柄に飢えた雑魚《シルバー》どもをダンジョンに連れて行って、先に放てば罠を踏んだりしてくれるな。冒険者は自己責任、兵士と違って保証もいらないどころか、移送運賃も貰えるのではないか?」と、ロクでもないことを閃いていた。


 


 しばらく勝利に酔いしれた一行だが、

「まだやることがあった…身なりを整え凱旋だ。あと、せっかく準備したアレを甲板に上げなくてはな。おい、トリス!操縦はいいから手伝ってくれ」と、ソドムが指示を出した。


 浮かれたガーターズは真顔に戻り、いそいそと祝杯の準備に取り掛かる。

 終始、雑な扱いを受けているトリスだけは、胸中に暗い炎を宿していた…。




 外輪船 愛しのレウルーラ号は、沼地を横切ってギルマス・ラセツらがいる作戦本部に現れ、


「喜べ!これで脅威は去ったぁぁ!!」鎧を着込んだソドムが、ド派手な意匠を施された剣を掲げて、野次馬たちに勝利宣言をした。


「みんなぁ~、祝杯だよ!!」そう言うと、シュラ達は赤ワインが入った皮水筒を船から投げて配りだす。



 まさかの勝利でお祭り騒ぎの見物客たちは、皮水筒を受け取ってすぐに酌み交わす者、器がなくて回し飲みする者など様々であった。


 回し飲みを好まない潔癖気味のソドムは、少し顔をひきつらせたが、気づく者などいやしなかった。


 難破した時のために常備している水代わりのワイン樽を、劣化する前に いっそ市民に配ってしまうというソドムの知恵に、レウルーラは感心している。

(ホント、面白いことばかり思いつくひと)


 さすがに樽の中身全部を皮水筒に入れては手間だし、コストがかかるため、ソドムはシュラと一緒に樽を船外に落とした。

 酔っぱらい数人がキャッチしようと殺到したが、成人一人分の重さはあろうワイン樽になぎ倒されて、皆に笑われる。



 ラセツはギルドマスターとして、数人の聖印徒と正式な礼を言うべく、ソドムらを迎えたが・・・

 無遠慮に迫りくる操縦者のいない船に追い散らかされ、

「おい!バカどもぉぉ!!船を止めろぉぉぉー!!」と叫びながら逃げた。


「あ〜、すまんすまん」とソドムがテキトー謝罪をするものだから、皆の笑い者になった。



 カンカンに怒っているラセツであるが、認めざる得ないソドムの実力を目の当たりにして、甘んじて道化役になり、ワインを受け取ってガブ飲みして見せて、また笑いを取った。


 それはそうと、無断で見物に来たミネルバをしかるため、辺りを見回したが、すでに逃げたようなので、軽く舌打ちしたラセツ。

(ミネルバのガーターズ好きには困ったものだ。本当に冒険者になりたいのだろうか。にしてもソドムめ、ドラゴン級を難なく倒すとは恐ろしい男だ。ヤツは本当に終末竜《デスドラゴン》か それに準ずる存在なのかもしれない。まあ、この手の情報は、TRPGやフィギアの説明書きが早くて詳しいから、新作が出たら能力を確認しなくてはならないな)



 ガーターズを注視しているのはギルドだけではない。本戸家 商人も露店営業にかこつけ力量を測りに来ている。


 彼らは、アクシーから自分達を運んできた外輪船の真の性能と、ソドムらの強さに舌を巻いた。


 代表であるカタリナは、割烹着姿で やき鳥を焼きながら、代々つながりのある月山家・アクシーズよりも、ネオギオンに重きを置くべきだと強く思った。

(実力・技術力があるネオギオンは伸びしろがある。派閥の同盟といっても、将来 力の差がひらけばアクシーズは滅びるかもしれない。わたしがネオギオン側について、本戸家が二勢力に別れて争うことになっても、勝者側が同族を助命することもできる。当主には、このことを進言しなくては)



 見物人には各亜人族も混じっており、人口比率的に亜人はまだまだ目立つので、隠密とは・・・言い難い。


 とくに人間より二回りも大きい牛人《ミノタウロス》は、外套《フード》姿でも二本の角と隆々たる筋肉は隠しきれない。

 ミノタウロスの部落に、亜人同士の小競り合いを憂いた冒険者ギルドが、しきりに治安維持を提案してくるので、ギルド及びネオギオンが頼りになるのか族長ブフ家の氏族ギャノフが視察しに来ていた。



 鳥人《ハーピー》も腕と一体化している翼があるためわかりやすい。

 ゆえに、トラブルに対処できる最も剣技に優れたキールという男が派遣された。

 追い払った蜥蜴人《リザードマン》をネオギオンが保護する姿勢を見せているので、次に攻撃されるのではないかと内情をさぐりに来たのだ。



 当の蜥蜴人《リザードマン》は、自分たちの棲み処をかけた戦いなので戦えるものは冒険者登録して、シルバーランク冒険者たちと共にダンジョンへ向かっており、さすがに見物者はいなかった。



 人間と見分けがつきにくい豚人《オルク》は、トン家のトロ自ら応援に駆けつけており、

「ソドム卿~!討伐感謝しておりますぞ~!一族をあげて、ネオギオンを盛り立てますぞぉ!!」と、叫んでから配下数人と簡易橋へ向かった。彼にとっては、直訴によってソドムが動いてくれたと思い、感謝に堪えないのだ。

 オルク族は恵まれた体躯と重武装な上、空中の鳥人《ハーピー》に対してもクロスボウで強く出れるのだが、足場の悪い場所での戦いは苦手で、ヒドラには手を焼いていた。


 ヒドラの後釜として蜥蜴人《リザードマン》が棲みつくのは良くは思ってはいないが、リザードマン達の恨みがハーピー族に向いているため、当面の衝突はないとみており、ダンジョンの残党を片付けてギルドを受け入れれば平和が訪れると期待していた。




 それぞれの思惑が絡み合う・・・ことなど知ったこっちゃないシュラは、ルゼッタと一緒に船から降りて、一目散に屋台に向かった。


「おっ、焼鳥だけじゃなく、焼鰐《やきわに》もあるなんて珍しい。ルゼッタ、食べたことある?」そう言うと、あれやこれやと注文し、店員が以前船に乗せた本戸家なのをいいことに「支払いはL&P商会ね」と勝手にツケにした。


「ワニなんて・・・食べれるんですか?絶対に美味しくなさそうです」この流れは断れない・・・と思うルゼッタだが、せめて質問に質問で返して切り抜けようと試みた。


「そうねぇ、蛇みたいな味かな」


「いや、蛇食べたことないんですけど・・・」


「そう?なんだかんだお嬢様なんだな。んと・・・、強いて言えば鶏肉に近いかも!ま、食べてみなよ」と、シュラは受け取った焼き鰐を持って、グイグイとルゼッタに迫った。


「あ、ありがとうございます」ささやかな抵抗はしたが、圧に負けて言葉尻が小さくなる。


 ルゼッタは嫌々受け取り、「確かに鶏肉っぽいけど、淡白というかパサついてそう」と思いながら、目を閉じて 歯で鰐肉を串から外し、噛み締めた。

 育ち的に、こんなワイルドな食べ方はしたくなかったが、下界に住むうちに慣れてはきていた。

 お味はというと、空腹とタレの助けもあったが存外うまくて、何度か頷いてしまった。


「ま、大々的に畜産できない下界ならではの食文化じゃないの?知らないけど、ククク」ソドム譲りの適当なことを言って、シュラも肉にかぶりつき、旨そうに食った。



「あ、あれれ・・・シュラさんは、焼き鳥なんですね」シュラの串は、鳥皮がパリッと焼かれ、肉には脂と肉汁が滴っているので、さすがに気がつくルゼッタ。


「これ?あ、ホントだ。ルーラたちの分も一緒に買ったから、何にも考えずに食べてたわ~」シュラは横取りされぬよう、さり気なく食べきりニンマリと笑う。


 未練がましいルゼッタの目を見たシュラは、

「ソドムがよく言うじゃん、体験は大事だって。もしかしたらルゼッタは将来 王位継ぐかもしれないっしょ。んで、国が困窮した時にさ・・・鶏肉がないなら鰐肉を食べればいい って、食べたことがあれば言えるじゃん」と、ドヤ顔で言った。



「はぁ・・・ありがとうございます」ルゼッタは、わけのわからない例えで煙に巻かれたのか、気のない返事をして、とりあえず礼を言った。



「おいおいキミたち、腹が減ったのはわかるが、立ち食いは はしたないぞ」と、言ってみたソドムだが、焼き鳥の脂とタレが火に炙られた匂いには勝てず、船はトリスに任せ、レウルーラと共に船から降り、焼き鳥とワインを味わった。




 能天気な連中に業を煮やしたラセツ。

「おい、ヒドラを倒したからといってクリーンナップ作戦が終わったわけじゃない。さっさとダンジョン攻略組の援護にまわれ!」と怒鳴り、空になった皮袋でガーターズをしばいてまわった。

 いや、影王をぶっ叩いてはダメなのは重々分かっているのだが、彼の行動と発言、それと見た目が年下であることから、つい手が出てしまっていた。


 当の影王ソドムはというと、普段からシュラに叩かれ慣れていることもあってか全然怒っておらず、

「了解した、これよりガーターズも掃討戦に加わるぞ!」と、仕事モードになるよう皆に命じた。


 が、一人・・・シュラだけがボンヤリと沼を見て、立ちつくしている。


「ちょっと、シュラちゃん。仕事よ、シ・ゴ・ト」シュラの様子がおかしいので、レウルーラが怪訝な顔をして声をかけるも、シュラは沼を指さすだけで動こうとしない。




 ようやく、言葉を発したかと思えば…


「なんと、ヒドラが起き上がり、仲間になりたそうにこっちを見てる!」などと世迷い言を吐《ぬ》かした。

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