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おなじみ!?最凶魔法炸裂!!

 手当たり次第に食パンをヒドラの口に突っ込んでいるシュラ。

 が、命懸けのアスレチックは疲労が激しく、四本目あたりからペースが遅くなった。


 それに反して、ヒドラは弱っていない。むしろ、初撃でカチ割られた中央の頭が再生し、余裕すら感じられる。



 ルゼッタは焦った。このままでは完塞《かんさい》が間に合わず、シュラが捕まるのは時間の問題だと思ったからだ。



 彼女は意を決し、斧槍を逆手に持ち、左手に数個のパンを無理やり抱えて、船から飛び降りた。



「てぇ〜りゃ〜!」ルゼッタは斧槍をヒドラの口に突き入れ、暴れる首にしがみついて、パンを無理やり食わせた。

 手にヌルリとした唾液がついて、不快さで思わず口元がゆがんだ。

(シュラさんは、このヌメヌメをよく我慢できてますね。なにか特殊な訓練でもあるのでしょうか。勇者人間養成所では、さすがにこんな状況を想定した訓練はありませんでしたから、正直つらい・・・)



 遠見の平面水晶で 二人の戦いを見ていたレウルーラは、

「こんなの上手くいきやしない」と頭を抱えた。

(予定通り、すぐに救出するか…。しかし、本当に勝ち目がないなら、ソドムが何らかの合図がある思うし)



 二人の奮戦《じかんかせぎ》にて勝ち筋を見いだしたソドムは、長い儀式魔法が完成に至り、ニヤリと笑った。


「時間稼ぎご苦労!お前らそこをどけ!」



「はぁ?もうすぐ勝てるのに何なの!?」不満爆発で、シュラが怒声を発した。


「そうですよっ!あと2つなので、待って下さい!」と、ルゼッタも戦いながら食い下がる。


 ここまで無様な戦いをしているのだ、ソドムの魔法でケリを着けられたら堪らない。



 二人の必死の形相に押し切られ、ソドムは魔法を一時中断した。

 その表情は悔しさはなく、目には哀れみさえ見て取れる。

(まあいい、痛い目に合わないと学ばないからな。と・く・に、シュラはな!)



「これで決まりだぁあぁぁ~!!」シュラが最後のパンを殴りつける様にヒドラの口に押し込み、勝利宣言をした。勝鬨を聞いた見物人たちが、「どうやら勝ったらしい」と、勇ましくも愛らしい二人に惜しみない拍手を送る。


 困難な作戦をやり遂げた二人は、すっかり満足してヒドラからズルリと落ちた。


 落ちるに任せ、泥沼に腰まで浸る二人。


 涎《よだれ》・泥汚れなんかは、達成感に浸る彼女らには関係ない。「やったね!」と、拳を合わせ勝利を喜びあった。



 ルゼッタは落ちた衝撃から、血か 焦げたような臭いを鼻腔に感じていた。

 が、それは勘違いで、恐る恐る見上げると、ヒドラの口からプスプスと煙が漏れ出ていたので、コゲの臭いだと知った。


 さらに、完全に喉を塞がれていたはずのヒドラは苦しそうにしているわけでもないのでルゼッタはショックを受けた。


 口の食パンは、じんわり出る火炎ブレスで焼かれるか、丸呑みされて期待した効果を失ってゆく。喜びあっているうちに再生が進み、事態は悪化していたと悟る二人。



「ウソ…、ルゼッタが考えた”パン詰まらせてウッ!”作戦は失敗!?」シュラは想定外の出来事に立ち尽くしてしまった。



「そんな作戦名つけてません!」

(ああ・・・なんてこと。パン屋さんに頼み込んで朝一で焼き上げて頂いたパンが・・・)

「作戦は成功したはずなのに・・・なぜ平気なの!?」下唇を噛んで悔しがるルゼッタ。



 船首から戦いを見ていたソドムが、


「勉強不足だったな」と言い、したり顔をした。


「ヘビなどの丸呑みスタイルの連中は、下あご辺りに気管口があって、それで呼吸しているのだ。でないと、捕食時に窒息死してしまうだろう。じっくり考えてみれば解る理屈さ」


 二人は、ハッとして「確かに!」と思ったが、何やら無性に怒りがこみ上げて来て「それを早く言え!!」と、心で叫び、肩を落とした。



 しょうもないやり取りはともかく、苦労が水泡と帰し、作戦失敗を認めるルゼッタ。このガッカリ感で、ドッと疲労が溢れた。


 泥で重くなった体を斧槍で支えつつ、戦うしかないと腹をくくった。


「シュラさん、こうなったら・・・」


「うん。”ひたすら切り刻む作戦”しかないようね!やったろうじゃないのぉぉぉ!」シュラは剣を両手で持ち、スブズブとヒドラに歩み寄る。



「もういい、俺が決める!お前たちは下がっていろ」ソドムは言い放ち、儀式魔法を中断して闇最高司祭固有魔法【邪神の加護】を唱えた。

 信者の士気を高めるため、上空に邪神に扮したソドムを大きく投影するだけの魔法だが、角骸骨に禍々しい漆黒の鎧、不気味に発光する赤き眼は、見物人向けのハッタリとしては十二分であった。二転三転する戦いを楽しんでいた見物人たちでも、この展開には驚き、邪神降臨に気絶する者も現れた。



 熱心な信者ではないが、加護の影響を受けたシュラは、万能感に支配され、高揚して再度突撃しようとしたが・・・

「シュラ、ステイ!!」と、ソドムに命令されて凶暴なシュラがピタリと動きを止めた。


 ルゼッタは、ソドムが眷族に命じるのを見たのは初めてだったので驚いた。

(こ、これが始祖の力なの・・・。普段、皆に命令せず、なすがままに酷い扱いされているのは、ソドム卿の優しさというわけですか)



 ソドムは、上空の邪神が杖を振るうタイミングで、中断していた儀式魔法を発動した。


「くらえぇぇ!暗黒転生《ワードオブデス》!!」紫のマントを靡《なび》かせ、黄金仕立てのガントレッドをしている左手を大袈裟に前に出し、さっき思いついたカッコイイ呪文名を叫んだ。


 ソドムの手から放たれた黒煙は、真っ直ぐにヒドラに当たると、その巨体を包み込んだ。


「沈め!!」ソドムが左手を力強く振り下ろすと、モヤに包まれたヒドラは、力なく前のめりに倒れ動かなくなった。


 やがて、モヤが晴れてヒドラの死体を見た者は、喜びソドムを称えた。熱狂的ガーターズファンは、シュラとルゼッタの活躍があってこそだ!とばかりに二人に労いの言葉を叫んでいる。

 

 ソドムは称賛を独り占めできなかったことが少し悔しかったが、まあ主役となれたことに満足した。

(ふぅ、上手くいったか。儀式魔法は隙が大きく 射程が短い・・・戦闘中唱えるもんじゃないからな。前は焦って味方であるシュラに命中させちまったこともあったし。あの時ゾンビ化させていたら、皆に袋叩きにされるところだった。幸い魔人になってくれたから笑い話で済んだが)



 遠目にヒドラ討伐を確認したラセツは、

「ガーターズがヒドラを倒したぞ!これより残敵の掃討に移行する。警備の聖印徒とカッパーランク冒険者もダンジョンに突入して手柄を挙げよ!」と、号令した。

 待ってましたとばかりに、サポート役に甘んじていた冒険者たちがドッとダンジョンへ殺到する。普段の警備任務などでは目立った手柄をあげ辛いため、このようなチャンスを待っていたのだ。


 このラセツによる駆け出し冒険者への配慮であるが、異例中の異例で よほど今回の勝利が嬉しかっただと伺い知れた。


 だが、見物人に娘《ミネルバ》が紛れ込んでいるのを見つけ、「また、悪影響が!」と思い、苦い顔をした。

(お姉ちゃんが無事だからよかったものの、下衆《ソドム》の戦い方は好かん。化物には化物をぶつけるというギルドの方針とて、そろそろ限界を迎えるのではないか?ネオギオンが影響力を拡大すれば、コキュー島からの軍事力を背景に、スウィートを併合しようとするのではないだろうか。まあ・・・、雇われギルドマスターの私が心配してもしかたがないことなのだが、金主《オーナー》に会って直接 今後の展望を聞いてみたいものだ)

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