無礼千万な来訪者
「芋煮会とは何・・・だと?そうだなぁ、野外で昼間に里芋や根菜と肉を煮込んだ鍋を食す・・・的なイメージはあるが、俺もよく分からない」ソドムは首を捻り、隣のレウルーラに訊ねた。
「そ、そうね。芋煮鍋を作って、お酒を飲んだり、子供は原っぱで遊ぶ・・・みたいな?」レウルーラも自信がなく、帝国で花嫁修業したシュラに質問をパスした。
「いやいや、もともと聞いたのあたしだし。・・・そういえば、むかし参加したかもだけど、よく覚えてなくてさ。何となく始まって、グダグダ過ごした気がする。メイン食材とかイベントがあるわけでもなくて、食事会みたいな?あ、芋煮の味は普通に豚汁だったような・・・」そう語るシュラから、ガーターズは記憶に残らない程度の会なのだと察した。
馬鹿にしているわけではないが、なんだか申し訳ない気持ちになったシュラは、主催者のレイコに話を振った。
「ごめん、悪気はないんだけどさ。で、芋煮会って何なのキュウちゃん?」
少し困ったレイコだが、
「・・・定義など考えたことはないが、概ね そのような感じだ。晴天を選び、親しい仲間で材料を持ち寄って鍋を作り、酒を酌み交わす・・・ささやかな集まりだ」と答えた。
(思い返せば、それほど楽しみなことでもなく、盛り上がるわけでもない・・・謎の会かもしれぬ)
「いや、シュラ殿・・・豚汁と一緒にされては困ります。里芋が煮えることによるトロみなど、季節ならではの味わいがあるのです」と、羽黒が熱く異を唱えた。別段どうでもいい内容なので、シュラは怒らず「ほうほう」と頷きながら酒を飲んだ。
「笑止、海衆の芋煮は豚肉を入れての味噌仕立て。これでは豚汁と言われても仕方がない。それに比べて我ら山衆の鍋は、牛肉を入れての醤油仕立て。これこそが芋煮というものだ」湯殿は背筋を伸ばし、目を閉じたまま「何を愚かな事を・・・」と言わんばかりに主張した。言い争いにおいては、冷静な方が第三者からの支持を得やすいと心得ているのだ。
ガーターズは、味噌派と醤油派がいるから大鍋が二つあったと理解した。
客人の前なれど、怒りを抑えきれない羽黒は、
「これは心外。ならば、せっかく客人がいる今、食べ比べて頂きましょうぞ!!」と、白黒はっきりさせることを望んだ。
月山九兵衛レイコは、面倒なことになってきたので、
「いい機会だ、貴殿らも自らの支持する味にこだわらず、相手側の鍋を食べてみるのもいいだろう」と、話に割って入って味勝負を提案した。
(普段は仲の良くても、芋煮の味は譲らないとは不思議なものだ)
かくして各派閥幹部に、二種類の芋煮が振舞われることになる。
そして、「人による」「同じくらい」「どっちでもいい」という月並みな結論で幕を下ろした。
「う~ん、どちらも美味しいからよくね?」
「そうですよ、郷土料理って感じで二種類あってもよろしいかと」と、シュラとルゼッタの大食いコンビは笑顔でおかわりを頼んだ。
一方ソドムは味よりも民の表情に注目した。
「ここらでは肉は貴重だろうから、大盤振る舞いに皆喜んでいるようだ。このような金の使い方は為政者として模範とすべきだな」と、ソドムは褒めつつ味対決の話をうやむやにしようとした。彼としてはタダ飯タダ酒に満足しており、滞在を伸ばそうかとさえ考えていた。
(正直、どちらの芋煮もイマイチだな。肉の下処理がなってない。切身は一度お湯に通して、脂とアクを落とさないとギトついてダメだ。ソースのように乳化させるならまだしも、汁として飲むとコテコテ脂のあとに塩気がガツンときてイカン…などと食通ぶって楽しみをブチ壊すのは無粋か)
「庶民には高い肉だが、冒険者ギルドを受け入れてからは肉の流通も増えつつある」レイコは褒められたことに照れながら、最近は海賊・暴走賊の討伐が功を奏して、物流が良くなり食糧事情が改善したことを話した。
「な・・・なるほど。食肉が出回ることはいいことだ。冒険者や肉体労働者は、肉の摂取が活力につながるからな。肉には困っていないスウィート的には、アクシーから魚介を輸入できれば嬉しいところだが」
「それも間もなく解決するだろう。今ごろ、主力艦隊が海賊の本拠地を攻撃している。修羅国の暴走賊がアクシーに攻め込んで、主力艦隊が引き返す・・・と思わせ、油断しているところを叩く手筈だ。海賊どもは得意の海戦をする前に、夜明けとともに奇襲されて一網打尽・・・になっているだろう」レイコは首を掻き切る仕草をして、ニヤリと笑った。
スウィート近くのリザードマン集落を攻撃し、返す刀で海賊を殲滅する作戦であった。
(そんなわけで手薄な今、お前たち化物共とは戦わぬよう外交の秘術を尽くしてきたわけだ)
「忍による情報収集・流言で賊どもを手玉に取ったわけか。なんにせよ、賊がいない社会は大歓迎だ。地域の血液とも言うべき商人が活発に動けると経済が回り、民の生活も向上するというもの」商売人気質のソドムは真に喜んでいる。
そんな影なる働きをしている忍に、砲撃三連をブチかましているルゼッタは気まずそうに視線を落とし、チビチビ酒を啜っている。
遅れて、希望者には白飯と漬物が配られた。ソドムは「え、汁物で飯を食べるのか?」と、カルチャーショックを受けたが、シュラとルゼッタは染まりきっているのか、「ご飯おいしいです」と、普通に食べている。レウルーラに至っては、ご飯を芋煮に投入して猫飯にしていた。
アクシーズは、ソドム達が めちゃめちゃ庶民的なイベントを楽しんでくれているのに驚いた。竜王・影王などと恐れられているソドムや取巻きが、評判と真逆でいい奴だとは思わなかったのだ。
「よっしゃ、食後の運動に稽古つけてくるわぁ」意気揚々と立ち上がるシュラ。
「おい、殺すなよ・・・」と、ソドムが釘を刺す。
「もち、ステゴロで十分!親父に修道僧の技を習ったから、早速試したいんだよね」
「金剛聖拳は禁止だぞ、あれも死人が出る」
「ゔっ!まあいいか、体は頑丈だから、剣相手でも問題ないし」そう言うと、湯殿に手合わせする相手を見繕うように頼んだ。
快諾した湯殿は、レイコから「我らの武威を示すのだ」と、猛者をあてるよう耳打ちされて、目を細めた。
高尚な主義主張を掲げても、国家や地方軍閥は力ありきなのだ。なめられないよう、腕っぷしの強さを誇示しなくてはならない。
戦うことが好きなだけのシュラは、政など考えずに、鼻歌混じりで拓けた原っぱに向かった。「ま、待ってくださいシュラさん!わたしも行きます!」と、鍛練好きのルゼッタが後に続いた。
戦いぶりを遠目に見ているアクシーズ幹部だが、素手のシュラに投げられたり蹴り倒されている自軍に頭を抱えたかった。
ルゼッタはというと、明らかに人間の跳躍力を逸脱して、数メートル上にジャンプしているので目を疑ってしまった。
なんとか平静を装っていたレイコが「今、ルゼッタどのが飛んだぞ!?いや、跳んだか・・・」と騒いだ。
当然、目撃した者は皆驚いた、こんなに跳躍する者などみたことがない。
これならば、巨大な魔物の喉や顔面を攻撃できると思い、大陸に伝わる数々の英雄譚も誇張ではないと思えてきている。
説明するのが おっくうだったソドムは「最近の戦士は、あんな感じではないのか」と、適当に答えた。
(金剛聖拳の防壁を踏み台に・・・ならば、俺は影武者に踏み台になってもらえば、高く跳べる。が、だめだな。人一人分高く跳んだところで、叩き落されちまう)
「にしても、ルゼッタちゃん強くなったわよね。あの子が魔人になったら、シュラちゃんといい勝負したりして」ルゼッタの成長ぶりにレウルーラは感心していた。
「ハッハハ、次世代勇者が闇堕ちはしないと思うぞ。まあ、シュラと比べて実戦経験がまだまだ少ないし、冷徹さが足りない。優勢に戦えているのはハイレグアーマーの力かもしれんぞ」
「冷徹ねぇ。かといって容赦なく敵を倒すために、殺人を強要するわけにはいかないから、そのへんは本人次第ってところかしら」
アクシーズ幹部は、次元の異なる二人の会話が理解できなくて全然頭に入ってこないでいた。
一緒に行動してきたレイコだけは、魔人とやらになると、物理耐性がついて、不老になるのか・・・と、おぼろげながら察してきている。
ソドムとレウルーラは、酒を飲みながら まったりと過ごすことにして、ボ~と子供たちの悪魔ごっこ(鬼ごっこ)を眺めていた。
ソドムは、「悪魔神殿が近くにあるから、鬼ごっこも変化するのか」などとボンヤリ考えていた・・・。
「うぁ〜!悪魔だぁ〜!」という大人の叫び声で、ソドムは我に返った。
(おいおい、随分ハードな遊びだな)
「さすが大人、迫真の演技ね!」
と、レウルーラも思ったが、どうやら様子が違って、アクシーの女子供のみならず、男までも逃げ惑っていた。
逃げてきた方向に目を凝らすと、悪魔の群れが長槍兵と交戦しているのが見て取れた。
おぞましくも、悪魔の後方には捕まった数人の人間が連行されているようだった。
「なにぃ!!悪魔どもめ、昨日の血を嗅ぎつけて来おったか!!」月山九兵衛レイコは立ち上がって歯噛みした。
こちらから悪魔神殿へ討伐隊を出したことはないのだが、悪魔たちは人間の血肉を求めて狩猟にやってくる。非常に稀だが、天災のようなものであった。
「いかん、10m級の大悪魔まで来ておりますぞ。サムライを殿に、非武装者は速やかに避難させなされ!」羽黒は、顔面蒼白ながらも的確な進言をした。
四本腕の大悪魔は巨体と怪力の持ち主で、人間を殺すなどニワトリの首を捻るくらい容易だろうと、誰もが感じた。下級悪魔ですら、人間より二回り大きいので、太刀打ちするのは難しい。だからこそ、できるだけ関わらないというのがアクシーの方針だった。
少しズレたソドムとレウルーラは、「慌てなくても芋煮を分けてやれば大人しくなるだろう」と思い、彼らの狼狽具合を不思議そうに見ている。
「ソドム卿、芋煮会はお開きです。早急に避難されよ」と、九兵衛は平和ボケしている二人の肩を揺すった。
(本当は戦ってくれと言いたいところだが、客人に泣きつくわけにもいかぬ)
ソドムはその手をポンポンと優しく叩き、
「月山殿、このような時は・・・面白くなってきた、と余裕を見せるべきですな」と言って、グイッと酒を飲み干した。隣のレウルーラも実に楽しげである。
レイコは表情にこそ出さないが「なんと頼りがいのある男だ」と、すっかり心を奪われた。
「では、ここは我らにお任せあれ・・・。おーい!シュラ、ルゼッタ!!いい模擬戦が来たから、四人で戦うぞぉ~!」いつも戦いは人任せで、追い詰められないと前線に出ないソドムが重い腰を上げた。散々奢ってもらったので、少しは恩返しをしようと思ったのだろう。
「わ、わたしも行こう!」正直、レイコは怖かったが自分の支配地域で外部の者に頼りっぱなしというわけにもいかず、参戦することに決めたのだ。
「了解!ほら、ルゼッタ行くヨ!!」勝手に戦おうとしていたシュラだが、みんなで連携して戦うのも楽しいだろうと思い直した。
「行きましょう!って、ギルドの依頼じゃないですから、討伐報酬はありませんよ!」喜々として走るルゼッタ、すっかりガーターズに感化されて、この窮地を楽しんでいた。
(標的は大悪魔ですね!今こそ天空捲覗断罪剣を披露するチャンス!!それにしても、お金でしか動かなそうな皆さんが、いざとなったら しっかり人助けするなんて流石ですね)
余裕の大悪魔は足を止め、右上の手を挙げて、配下へ交戦停止を命じ、下両手で腕を組み、仁王立ちして小さき者たちを見下ろしている。
青黒い巨体は、それだけでも威圧感があるのだが、固有特性で対峙したものを恐慌状態にする禍々《まがまが》しい気を纏っていて、足軽たちは戦意を失い、積極的にガーターズとの交代を望みジリジリと下がった。
シュラとルゼッタは大悪魔の足元まで駆け寄ると、その横に並んで武具のチェックと柔軟体操をして戦闘に備えだした。
レイコは走りながら、眼前の異様な光景に驚き、シュラ達の保護者?であるソドムを叱りつけた。
「ソドム卿!!彼女らは何をしているんですか!?」
(話し合いが通じぬ怪物の隣で悠長な!!)




