魔剣士シュラの秘密
かつて大陸で迫害された闇の教団が北と南に分かれた。
苛酷な北へと逃げのびた一部の民は、干潮時だけかろうじて渡れる小島を見つけ 定住し、生活基盤が安定すると、闇の神殿を建立した。
食糧はギリギリで娯楽もない日々、彼らは ただ生きていることに疑問を抱き、こんな面白みのない地に追いやった連中への憎しみが日に日に増していた。
たった数十人のコミュニティであるが、「暗黒魔法が頼りにならないなら、異界への扉を開き、悪魔どもを解き放って大陸の連中へ復讐してやろう!」と戦いを決意した。
扉を開くというのは、召喚魔法などよりも高度である。異界から無理矢理やって来た悪魔王くらいしか前例はなく、天才魔術師などもいない彼らには土台無理な話であった。
そこで、禁忌ながらも生贄を供えて魔法儀式の底上げすべし、という考えに行きついた。
ただ、苦楽を共にした仲間を死に追いやるのは難しい。また、疑心暗鬼を招きかねないので・・・、来た対象が無作為に選ぶ「後払い方式」を思いつき採用した。
試行錯誤の末、数ヶ月後には彼らの願いは叶い、漆黒の亜空間が現出した。
ついに扉が開き、民は誰が生贄に選ばれるかドキドキものであったが、・・・悪魔は現れない。
しかも扉は閉じたり、違う場所へ出現したりと不安定であった。
何日、何か月か様子を見たが悪魔は現れない。数年経っても現れないので、段々人々は関心を失い、十年過ぎた頃には皆の黒歴史的な扱いになり、遂には忘れる者さえ出始めた。
民は疲弊し、改宗して大陸に移り住む者が増えて、組織は風化し、神殿と扉は小島ごと放棄された。
失敗した理由は、異界で扉が開いた場所が、マイナーな地域だったらしく、悪魔たちが気づかなかったことにあった。しかし、こちら側の人間にはそれを知ることはできない。
その後、不安定な扉から稀に悪魔が現れるも、島には後払いの生贄がいない為、悪魔は島を出て人間を襲った。
契約上、犬や猫ではなく、まずは人間を食わねばならず、手っ取り早い人間の集落を食った。ただ、派手に暴れたことにより、団結した人間の逆撃で滅ぶこともあった。
そこで、悪魔たちは考えた・・・、人間は国家や街に属していると厄介なので、彼らの集団から外れた山賊などをつまみ食いすれば揉め事に発展しないだろう、と。
というわけで、悪魔たちは賊を中心に食ったが、狩りを楽しむために反応が面白い一般人を襲うこともあり、人類の脅威なのは変わりない。
悪魔たちは この異世界で、他種族との争いを減らす為、主食の変更にも着手した。基本、人間を捕食するのを減らして、島から出ずに狩れて、枯渇しにくい獲物を養殖し始めた。
魔物・巨大キプリス・・・いや、巨大フジツボを食うことにしたのだ。
この巨大フジツボは、港などに増殖すると重みで桟橋が壊れたり、接岸の邪魔になるため、人間には嫌われている。
とくに船底にくっつかれたら、船が使い物にならなくなるため、幼生キプリスが海を漂ってる時点で、漁師に銛でブチ殺されているほどだ。キプリス・ダメ・ゼッタイなので、まさに取り付く島もない。
そのお味は・・・、というとエビやカニのような甲殻系の味がして、実は旨い。
本体は人間よりも大きく、硬い殻に守られているため、人間にとっては戦ってまで得たい食材ではないが、悪魔たちは集団で火球をかけ壺焼き状態にして、あっという間に皆のご馳走にしてしまうのだ。
もちろん乱獲は厳禁で、動けないフジツボが交尾できる範囲を考慮して間引くのがポイントであった。
壺焼きパーティーした後も殻は残るのだが、それにより島が拡張することは歓迎すべきところなので一石二鳥である。生存戦略的にも、竜や人間と争わずに済むという利点もあった。
なんとか根付いた悪魔たちであるが、ぶっちゃけ・・・元の世界に帰りたい。
なので、神殿付近に不定期に現れる扉を待ちながら、神殿でウロウロしたり踊って過ごし、いざ扉が開いたなら、イス取りゲームのように我先にと扉へ飛び込む!方針を取った。まあ、それもまた彼らの娯楽なのかもしれない。
寿命のない彼らは割り切って屋台を営む者、博打をする者、踊る者など様々で、新たな悪魔が現れると、ストックしていた賊を与えて もてなし、現状を説明してあげていた。
それでも暇なので悪魔退治で富と名声を得ようとする人間を誘致することを思いつき、「神殿にいる悪魔は死ぬと金銀財宝を残し霧散する」と、捕まえていた人間に吹聴して逃がした。
この試みは成功し、欲に目がくらんだ人間が挑んでくるようになった。冒険者との戦いは、暇つぶしと食料にはなったが、弱くて余興としてはイマイチであった。
だからといって、大々的に喧伝したら、国とやらの討伐隊が来て滅ぼされてしまう・・・という新たな悩みができた。
最終的に、丁度良い修行先・ほどよい小遣い稼ぎ、といった絶妙なフレーズで腕に覚えのある冒険者を誘い出し、受付窓口・宿屋も完備して、テーマパーク化を図り、あまり人間を殺さず、リピーターを作ることを心がけ、なんとか成功することができた。
課金ではあるが、悪魔特効武器を貸し出したのがウケた理由の一つである。これにより、人間に勝てる可能性をチラつかせ、結局は何人かを食わせてもらい、お帰り頂くのだ。
そんな悪魔たちの遊びも、二十年前の大災害による大時化により、大陸から孤立したため、途絶えることになる。
近年、荒れ狂う波が治まり、再び干潮には小島から大陸へと渡れるようになった。いや、大陸北部の人々からすると「渡れるようになってしまった」と言うべきか。残念ながら、気まぐれに悪魔がアクシー近郊に現れはじめたのだ
「ソドム卿、なぜ二人は大悪魔の横に整列しているのだ!?」と、走りながら怒り調子のレイコ。
「パーティーメンバーが揃うのを待っているんだろう!」と、ソドムが答えて ルゼッタの横に並び、レウルーラもそれに倣った。シュラは「早くしてよ!」とばかりにレイコへ手招きしている。
踏まれたら人生終了する・・・そんな黒々とした巨体を見上げながら、レイコはガクガクと震える足を「動け」と手で叱咤して、どうにか列に並ぶ。
視線の先ではアクシーの民が、悪魔討伐を期待して応援している。整列するソドム達と応援する民という構図は、まるで演劇でも始まるかのようであった。
「ルゼッタちゃん、笛!」と、レウルーラが開始の合図を求め、ルゼッタは聖印徒の笛を持っている自分が仕切るのだ(初耳)と知って「あ、はい!では・・・」と、うろたえながらも「ピィ~!!」と、力強く笛を吹いた。
体格差ゆえに急所を狙われることがない大悪魔は余裕がある。小蠅のような戦士は無視して、まずは一番危険な魔術師を倒すつもりでいた。
四本の腕で身を守りつつ、強力な火球の魔法を叩き込めば勝負は決まる。十人を爆殺できる魔法ゆえ、魔法抵抗が高かろうと火に弱い人間なら無事では済まない。
あとは残敵を蹴散らすだけの一方的な戦いなると踏んでいた。
開戦の笛と同時にガーターズは散開し、まずはソドムが仕掛けた。
無詠唱の魔界陣【威風凛然】を展開した後、暗黒魔法【悪魔乃目隠】で1秒ほど視界を遮った。
しかも、【悪魔乃目隠】のタイミングが絶妙で、なんとか詠唱を終えたあたり狙って視界を奪い、ターゲットを見失った大悪魔は火球を放つのが遅れた。
【威風凛然】の神経毒は不死者系でない限り有効で、少し毒耐性がある大悪魔でも呼吸困難になり、動きが鈍って完全に出鼻をくじかれていた。
無差別範囲攻撃のため、ルゼッタとレイコそれとアクシー民の一部が巻き込まれ膝を着き、抵抗力の低い者からバタバタと倒れていく。観客である民は謎の毒攻撃に混乱はしたものの、棟梁レイコが戦っているわけだから、見捨てて逃げ散る者はいない。
「やることなすこと、エゲつない・・・。でも、そこが素敵!」そう思いながら、レウルーラは無事に召喚魔法を完成させた。地面に眩い魔法陣が浮かびだし、そこに大きなクワガタが現れた。
船の警護をしていたスタグビートルは、元々遠目で見ていたので、状況を理解しており、レウルーラの命令で大悪魔へ突進した。
「ガヅッ」という鈍い衝突音の後、スタグはノコギリのような大顎で大悪魔の足をガッシリと挟み込んだ。
人間を易々と引きちぎる大顎は、さすがの大悪魔でもダメージが大きく「グォォォ~!!」と、トラバサミに引っ掛かってしまった獣のように叫び 体勢を崩した。
「もらったぁぁぁ~!!」シュラが空を駆け上がり(金剛聖拳の防壁を足場にして)、大悪魔の頭上まで跳んで宙返りし、更に上に作った足場を蹴って、落下速度を上げた。
「天空捲覗断罪剣!!」と叫び、脳天目掛けて下突きを繰り出した。派手な雷エフェクト、降下により大きく捲れるミニスカートに騒めくギャラリー達。
「おい、アレ大丈夫なのか!?」ソドムはレウルーラの方を振り返る。
「ど、どうかしら・・・。肌色のTバックはいているのかも。そもそもTバックはレンタル下着にはないタイプなんだけど・・・」勝ちを確信している夫妻は、シュラが下着をはいているのか いないのかを心配をしていた。
『甘い!』と、大悪魔は心話上両腕でシュラ自体を白刃取りした。
シュラは、剣と鞘を横にして辛くも圧死を防いだが、身動きできない。その間、大悪魔は下両腕で火球の魔法を完成させ、レウルーラへ打ち込んだ。
放たれた手のひらサイズの火礫は真っ直ぐ飛び、対象に当たると轟音を立てて爆発した!
焼き畑農法のように、草が焼けた臭いが辺りを覆う。
「ありがとー、さすがルゼッタちゃん」レウルーラは、毒状態を押して長盾と防壁で火球を完全に防いだルゼッタを褒めた。
レイコは喘息のように咳をして動けないが、修行と称して暗黒魔法や毒を受けてきたルゼッタは、多少免疫ができたのか、どうにか動くことができたのだ。
「ゴホッ。いえいえ、敵が器用にも防御と攻撃を同時にするとは思いませんでしたが」とはいえ、ルゼッタは苦しげである。
ソドムは、シュラの攻撃が防がれ、追撃すべき戦士二人が魔界陣で動けないと気がつき、焦って【威風凛然】を解除した。
(しくった!ヤツには あまり効いてねぇが、味方は戦力ダウンしてたか)
レウルーラは咳込む者が減ったことで、毒が解除されたと気がつき、次なる魔物を召喚し始めた。月山九兵衛レイコは、謎の咳が止まったので、陽動のため無傷の足へ斬撃を食らわす。ルゼッタも続こうと思ったが、詠唱中のレウルーラを守るため、盾を構えてとどまった。
大悪魔は、フリーで動き回るサムライよりも、ルゼッタの大楯が厄介だ思い、潰しきれないシュラをポイッと投げ捨て、「ならば質量で!」とばかりに両右手の拳を固く握り締め、大きく振りかぶった。
シュラは「うわぁわぁぁ~」といいながら、ドチャっと地面に落ちた。物理耐性のおかげで打撲程度で済んだが、すぐには戦線復帰できそうもない。
ギャラリーは、百人斬り・チビドラ・魔剣士などの異名を持つメインヒロイン・シュラの敗退に肩を落とした。
盾を構えるルゼッタは、岩石が二つも降ってくるような威力を想像してゾッとした。真正面からの攻撃なら吹き飛ばされることにより、ダメージは軽減されるかもしれないが、振り下ろされたなら地面に叩きつけられ死ぬかもしれない。
ソドムも援護するため、レイコと共に足を狙ったが、魔法剣でない為に効いていない。
(ただでさえショボい暗黒魔法は、悪魔相手に効くはずもない。斬撃も効かぬ・・・あ!閃いた!!)
「レイコ殿、俺と同じ場所を狙え!!」そう言って、ソドムは姿勢を低くし、滑り込むように鉤爪の内側めがけて刃を刺し込んだ。レイコも真似して爪の生え際を狙いて突いた。ソドムの閃きは、爪と指の間に針を刺す・・・という拷問の応用であった。
(悪魔が泣き叫ぶのを見れる日が来るとは・・・笑える絵だな!)
「ザクッ!」という感触はなく、剣は思ったように深々と刺さらず、ソドムとレイコは「あれ?」と、顔を見合わせた。
どうやら、人間の構造と違い、内部では骨のように爪が続いていて、根本は太くなっており、そこで歯が止まっていたようだった。
二人は「ヤバい・・・ヘイト稼いだかもしれない」と思い、武器をうち捨てて転がるようにその場から離れた。
「ソドム、時間稼ぎありがとう!」なんとか詠唱が間に合ったレウルーラは、真っ黒な魔獣を召喚した。
魔法陣から現れたジェットブラックの魔獣は、状況を理解できずキョロキョロして、そびえ立つ大悪魔を見上げて・・・恐怖のあまり逃げ出そうとクルリと反転した。
魔獣はニワトリに蛇状の尻尾がついているコカトリス亜種で、サイズ的にはダチョウ 二羽ほどしかない為、本能的に逃げようとするのも無理はなかった。




