大自然を楽しみ尽くせ!マリンスポーツはお好き?
「百識様なら、あの魔物をご存知かもしれない!」勝利に沸く中、レウルーラは身近に知恵者がいることを思い出し、甲板のルゼッタのもとへ向かった。
尋ねられた百識は、相変わらず素知らぬふりをしていたようで、
『むぅ、あれは羅虎といったかのぅ。百年前くらいか・・・大きな個体がいたとかで、悪魔王が魔界石の欠片を試験的に与えたが、知能の低さもあって魔界陣が使えず、放流されていた気がした。そうか・・・まだ生きておったか。となると、簡単にケリがつくとは思えんな』と、めんどくさがりながらも知っていることを話した。
「直撃しましたので動物なら死んでるとおもうのですが・・・」ルゼッタは胸元の百識に私見を述べる。
『甘い!そなたらは、余がおらぬと・・・』その心話を遮り、
「あっ、サムライが斬り込んだ!」レウルーラが うっかり持ってきた平面水晶を見て、新情報を伝えた。近くにいたレイコは、反応して近寄り水晶を覗き込む。
「こ、これは凄いな!離れている場所が鮮明に見える!」と言って目を輝かせた。それと同時に、刀を主に突き刺しているサムライの身を案じる。
「ガキッン!!」という刀が折れる音までは聞こえないが、映像を見ているレウルーラたちは刀が折れたのを見た。
煙で見えにくいが、背泳ぎしている羅虎の腹には鉄板があり、それにより砲撃と刀のダメージが少なかったようである。
主は突然の爆発に驚いたものの、先にアメノヌボコを盗んだ人間どもが、懲らしめても挑んで来るのに怒った。
主は左手で素早くサムライの胴を掴み、鉄板に叩きつけた。その衝撃で気絶したところに、右手に持っていた岩を両手に持って、サムライに激しく打ち付けた。
それも何度も何度も人間の頭ほどある岩を狂ったように振り下ろす主。先のハーピーがミンチになったのは、この容赦ない攻撃によるものであった。
「ぬぅぅ、主めぇぇ、許さんぞぉぉ!必ず、我が手で殺してやる!!」怒髪天のレイコ、無意識に剣の柄を持ち、怒りに震えていた。
騒ぎを聞きつけたソドムも甲板に来てレウルーラ達と惨状を見たが、絶命しているのにもかかわらず、攻撃は一分ほど続いていた。
「おい、金カブ!知能が低いのに道具を使っているぞ」と、理不尽にもクレームをつけた。
『知るか!だが、元々は貝などを石で砕くくらいはしてたらしい。エプロンのようにかけている鉄板は・・・、ヤツがいることにより海の魔物が寄り付かないことを感謝した漁民が与えたのかもしれんな』
「えっ!?ブローチが喋った?」事情を知らないレイコは、当然の疑問を抱く。「そこ?部下が死んだのに立ち直り早っ!」っとガーターズは思ったが、「心話を初めて体感したものなら驚くのも当然か・・・」と思い直した。
「驚かせてしまいすいません。こちらはモウサの森の王・金カブ先生です」と、ルゼッタが紹介した。
『百識だ、何度言えばわかる小娘!!』
「待て、まずは討伐だ。これより、ヤツの前を通過して第二作戦を実行する。説明は航行しながらブリッジで行う。レイコ殿もこちらへ」まずは討伐優先、ソドムは主義を曲げてレイコを司令塔へ招いた。
「承知した!お前たち、錨を上げろぉ~!」と、レイコは部下に命じ、続いてソドムが水兵に指示を出した。
「錨を上げたらロープをほどき、もやい結び(先が輪っか状)にして、そこにロープの端を通してくれ。引っ張れば輪が絞まるようにな。大取物になる、頼んだぞ」そう言って、ガーターズ+レイコの4人で司令塔に入った。
ソドムとレウルーラはソファに詰めて座り、レイコを無理やり座らせた。もちろん、ソドムとレイコを引き離すために、レウルーラが真ん中に陣取る。
レイコは、室内が見たことがない技術ばかりで、好機を得たような・・・潜入してしまって後ろ暗いような複雑な気持ちであった。
「では、トローリング作戦を説明する」半尻ぎみのソドムが、操船を再開したルゼッタにも聞こえる声で言った。
「ほう、引き縄漁法・・・釣りを作戦にするとは、面白きことを思いつくものだ」と言いながら、レイコはテーブルに投影されている 上空から見下ろした画像に興味津々であった。
(この中心部が自船。テーブルに直接描かれている何重もの円は、距離を示しているのか。おお、円の端に写っているのが、我が水軍と主か?となると、それが砲の射程だな)
「作戦はシンプルだ。現地点から北上し、ロープを持った餌を牽引して、主の鼻先をかすめ・・・ロープを厄介な鉄板に巻き付けて引っぺがす!」
レウルーラは思っていた作戦と少し違うので、
「ロープで縛りつけて、集中攻撃するんじゃないの?」と聞いた。
「最初はそのつもりだったが、どうにも鉄板が邪魔で、手こずっているうちに、こちらの被害が増してしまう」
「ロープを鉄板に巻き付けた後は、どうするのだ?」レイコも作戦に疑問を持った。
「それだけでいい・・・」と、ソドムは自信ある笑みを見せた。
「全然イメージ湧かないんだけど」レウルーラでもソドムの思考を読みかねていた。
「大丈夫、鉄板さえなんとかすれば、勝つのは容易だ」と、作戦を説明すると言いながら、ザックリとしか伝えないソドム。レウルーラは「また面白いことを思いついたのね」と察したので、あえて追及しなかった。
ソドムは、レウルーラとレイコを甲板後尾に連れて行き、仕上がったロープをレイコに渡して、海へと突き落とした。
「バシャッン!!」海へ放り出されたレイコは、水しぶきを上げ、十年ぶりくらいに塩水を堪能した。驚きも束の間 溺れそうで怒りの抗議すらできない。衣類に水を含むだけでも、泳ぎにくくて危険だというのに鎧を着ているのだ、溺れるのは当然であった。ロープのたるみがなくなって、船の推進力で引っ張られてから、ようやく安定して呼吸できるようになった。
「貴様ぁぁ!!」レイコの部下は棟梁を助けるよりも、不届き物を斬らんと刀を抜いた。とても敵わない相手と分かっていても、彼らの忠義心が恐怖を上回り、斬りかからせた。
だが、ソドムは当然そうなると思っていたので、【魔界陣・威風凛然】を展開していた。無色・無臭の神経毒により、水兵は呼吸困難になり膝を着くことになった。迷惑な話だが、操船しているルゼッタとマリンスポーツ中のレイコも毒に侵されて苦しんでいる。
「まあ、落ち着け。順を追って話す、いいな?」そう言うと、ソドムは魔界陣を解いた。いきり立っていた水兵たちは、理解できない能力を受けて、すっかり戦意を失ってしまった。
「これから船でレイコ殿を牽引して主に近づく。そして、主が獲物としてレイコ殿を掴み・・・腹に乗せたところで、レイコ殿がロープを鉄板に括り付けて離脱してもらう。そうすれば、船で鉄板を引っぺがすことができるだろう!」ソドムは手振りを添えて作戦を伝えた。
レウルーラは「さすがね、ソドム」と感心している。
「ちょっと待てぇぇ!これでは生贄ではないか~!」時折 口に海水が入る中、レイコは当然ながら抗議した。
ソドムは、驚いた表情で、
「それは違う、どちらかというと餌・・・いや、ルアーに近い」と言ってのけた。
「そうじゃない!ゴボボ・・・この私になにさせるのだと言っている」レイコ、かなり必死である。苦境を見ている水兵たちも、勇気を振り絞り抗議した。
「いくつもの鉤縄を投げることも考えたが、そんなことをやっている間に逃げられてしまう。それよりも、餌として捕まった人間が、捕食される前に直接ロープを巻き付けたほうが確実だ」
「おい!今、餌って言ったぞ!!ゲホッゲホッ」レイコはロープを握る力が想像以上に必要なので、腕に巻き付けて負担を減らすことを思いつき、文句を言いながら作業している。
「落ち着かれよ。初めはルゼッタに頼むつもりでいたのだが、操船する者がいなくなるわけにもいかず、さきほどレイコ殿が何でもすると言ってくれたので、この人選になったまでのこと」と説明した。
「いやいや、恐ている訳では無いが、別に私より身軽な者でもよかろう」部下の手前、ハッキリと言えないが保身に走るレイコ。
「これには二つ理由がある。レイコ殿の大鎧は祖父の物を白く塗ったものだろう?ならば大業物である以上 防御力は折り紙付き・・・魔物に掴まれたくらいで怪我はせんでしょう。もう一つは、餌は男より女の方が好まれるからだ」
何でもすると言ったレイコであるが犬死・・・いや餌死はごめんである。「そんなの同じだろう!」と抵抗した。
安全圏にいるソドムは人差し指を左右に振り、
「違うんだな、これが。一般には知られていないが、女は肉質と骨が柔らかい、そして断末魔が甲高くて食欲を刺激して好評だったりする。それに比べて、男は硬いだけでなく臭いもあって好まれない。あとは、男は鎧を着ている場合が多いため、丸ごと食べる魔物にとって硬いイメージを持たれている。ましてや、肉自体も精液の匂いが染みついていて、臭くて苦っぽい。どうしても男を食べるなら、去勢して何年かしてからだろうが、それでも肉質は女にはかなわないだろうな」と、竜王として人間を食べたことがあるソドムは長々と座学のように説明した。
「ぅぅ、しかし鎧のままでは離脱できても溺れてしまう」涙こそ我慢できても、顔が引きつるレイコ。
「そこは大丈夫よ、わたしが絶対に助けて見せるから!それに、一人で魔物を倒せる大チャンスじゃない!あのくらいの強さなら、魔神に匹敵する名声が得られるわよ」レウルーラが「任せなさい!」と親指を立てて、自信満々に頷いた。
「いや・・・しかし・・・」昨日会ったばかりの連中に命を預けるのは不安で仕方がないレイコ。
(昨日から何度も暗器付きの手で弾かれてるのに、信用なんてできない!殺す気だ、コイツら)
「ああ、言い忘れていた。せっかくの黒髪だが、長いと歯に引っ掛かって食後感が悪いんだった」
「バッサリと・・・セミロングくらいまで切った方が良かったかしら」他人事なのでソドム夫妻は、いらぬ後悔をしている。
「おい!ガボボ・・・それ完全に餌前提ではないか!」
「似合うと思うんだがなぁ。レイコ殿は大和美人だから、それにちなんだ桜色に染めるのもアリだな」
「うんうん、食いつきよくなりそう」
レイコは状況と手柄を考え、観念して夫婦へのツッコミを止めた。確かに一人で魔神級を倒したとなれば、その武勇は勇者に匹敵するだろう。そうすれば、部下の忠誠度も上がるというものだ。
(にしても、コヤツ等ぁぁ!・・・決めた!グイグイ割って入って家庭崩壊させてやる!何としても生き残って、ソドム好みの髪型にしてなぁ!)




