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主砲、斉射三連!!

 明朝、港にネオギオン・ガーターズとアクシーズが主討伐に集結した。


「皆、聞いてくれ。今作戦は船がないとどうにもならないため、冒険者ギルドからの協力は期待できずにいたが、たまたま船で来訪していたネオギオン・ガーターズの方々が共に戦ってくれることになった!」と、月山九兵衛レイコはソドムたちを紹介した。

 シュラがいないので、茶化す者がおらず 今作戦に参加するサムライたちは静まり返っている。


 早朝の海は晴天で、風と波は穏やかだった。


 アクシーズの船は帆船ではなく、ガレー船(漕ぐタイプ)なので、風の影響はなく、うねりもない今日の天気は水をキャッチしやすく都合がいい。


 船の形状は、少し変わっていて、マストがないためか甲板がのっぺりと何も無い。せいぜい、小屋《はつれいじょ》が後方にあるだけだった。

 これは、甲板で戦いやすく、平時には貨物を積み交易船になれるという利点と、もう一つ理由があったが、今回はネオギオンに手の内を明かしたくないため、わざわざ説明はしなかった。


 戦力は、偵察要員で鳥人《ハーピー》が一人、躑躅色の鎧を着けたサムライが十名、漕ぎ手が十名。レイコもそうだが、戦闘に参加する者は完全武装であった。溺れることより、相手の攻撃力が脅威なのだろう。

 編成でハーピーが少ないのは、ハーピーのみで構成された 派閥のゴールドランクパーティー「レッドホット イーグルス」が独断で出撃し、ほんの一時間前に敗北の報が入ったからだ。

 これでハーピーとの相性が悪いと証明された。死者は一人、残りは謹慎させられている。



 敗報を受け、ギルドの葬儀担当職員二人が息を切らせて到着し、真っ先に祈りを捧げた。レイコの話の途中であったが、筵《むしろ》を被せられてる遺体に皆で黙とうをした。


 祈りが終わると、職員はアクシーズの感情を気にせず、遺体の状態確認を始める。  


 その損壊ぶりは目を背けたくなるもので、頭と胴体はグシャグシャ・・・ミンチ寸前の有り様であった。



 職員は小さな声で「こりゃダメだ、大腸までやられてやがる」と言い、肩を落とした。事情を酌んだソドムは、彼らの横にしゃがみこみ「腕や足は原型を保っているな・・・。タグがあったのは幸いか、遺族にはそれで説明した方がいいだろう」と言って、光の神へ祈りを捧げた。


 職員は担架に遺体をかき集めるように乗せて、急いでギルドの火葬場へと向かった。街では火葬が主流なのだが、理由としては伝染病予防と不死者予防(不心得者がゾンビとして利用しかねないため)がある。とくに伝染病は司祭でも治せない場合があり、未然に防ぐのが良いのだ。



「ソドム卿、知ってはいましたがお優しいのですね」と、ルゼッタは微妙に褒めた。するとソドムは照れる様子もなく「ギルドにも事情があるのだ」などと噛み合わない返答をした。



 影王が祈りを捧げる光景を見て、アクシーズは心打たれた。思わず咽び泣く者までいた。恐ろしい竜王・・・いや魔竜《デスドラゴン》が、ライバルの死者を弔うなど想像もしてなかったのだ。


 そして、その影王《デスドラゴン》と対等、・・・いや それ以上の関係性を結んだ棟梁レイコにも驚かされた。



 もちろん、これにはカラクリがある。昨夜、レイコはソドムの宿に訪れ、「頼む!明日は部下たちの前で格好をつけさせてくれ!・・・下さい!!」と懇願し、金貨を握らせていたのだ。


 ソドムは、程度によるので明言は避けたが、今のところは大人しくしていた。


 レイコは親しげにソドムの肩に手を置き、

「先に当方の船が沖に出て、ノコノコと現れた主《ぬし》を足止めする。そこにネオギオンの大砲で打撃を与え、我が水軍が角《ラム》アタックしてから皆で斬りかかる作戦だ」と伝え、次にソドムの発言を促した。


 ソドムは、意識して気難しそうな表情を作り、

「とはいえ、大砲の命中率は絶対ではない。一斉射撃三連を二回行うが、もしも外した場合の策はあるゆえ、猪突せずに待機していてもらいたい」と言ってから、少し笑みを見せて皆を安心させる。


 続けてレイコが、

「それでは作戦を開始する!愛しのレウルーラ号に乗り込む者は 私と共に残れ」と命じ、アクシーズ側からの助っ人・計四人とガーターズだけになった。


「えっ!?」ガーターズは棟梁自ら乗船すると思っていなかったので驚いた。

 とくにレウルーラは「これは!」と警戒を強めた。世の男性は女性の容姿に魅かれ、世の女性は男性の強さ(財力)に魅かれるのが常。

 ソドムのような圧倒的な強さがあれば、富など思うがまま(手段を択ばなければ)なのだから、狙われて当然だと彼女は思っていた。


「レイコ殿になにかあると大変ですので、陸で朗報をお待ちいただけますでしょうか?」レウルーラは遠回しに拒絶した。


「お気遣いなく、そちらも大きなリスクを負うのに、依頼者が隠れるわけにもいきますまい。むしろ、水兵として何でもお申し付け頂きたい」と、覚悟を示した。


 何でも!?ソドムは、その言葉に反応し 後の作戦に組み込めると ほくそ笑んだ。それはそうと、国家機密ばかりの司令塔《ブリッジ》には立ち入らせたくない。


「それは助かる。ただ、あの通り奇抜な船ゆえ機密ばかりだ・・・。甲板以外は立ち入りをご遠慮して頂くが、よろしいかな?」と、やや屈辱的な扱いになるという事を説明した。


 なにしろ、船に水車の羽根板がついたような外輪船など世界に一隻しかないうえ、その動力や仕組みはネオギオンの一部しか知らない国家機密。さらには、【遠見の平面水晶】の画像をテーブルに映し出し、周囲の索敵と目標との距離を測れるなどという技術を見せるわけにはいかなかった。


「お構いなく、先ほど申した通り、水兵として扱っていただいて結構」レイコは顔色を変えず即答した。彼女の狙いは、まず影王と信頼関係を築くこと。下手な小細工がバレて、滅ぼされる愚はしないつもりだ。


 ルゼッタは配置に安心したようで、

「では、わたしが操船と砲手がんばります!」と宣言する。せっかく練習したのだから、当然であった。

(レイコ殿の「何でも」という発言にソドム卿が反応しましたねぇ。良からぬことを考えてる気がしてなりません。そう、わたしのような恥ずかしい格好させるとか・・・)


 レイコは、「聖印徒なのに信頼が厚いな」と驚いた。専属といえ、普通の聖印徒は戦闘以外 客人に近い扱いなのだが、ガーターズでは完全にパーティーメンバー状態だからだ。


「ルゼッタ殿、頼みましたぞ。圧をかけるわけではないが、大砲でキメめてくれると、最小限の被害で済むからな」


「任せてください!的が動かなければ当てれますので!」と、元気に言ったルゼッタだが、言いながら「あ、敵が止まっているはずないんじゃ・・・臨機応変な投擲とは勝手が違うんだった!」と思い、責任の重さに青ざめた。


「問題ない。会敵したら投網で一時的にだが動きを止める手筈だ」


「よかったです!あとは、レウルーラさんの指示通りに、方角と角度を調整するだけですね」


 このように万全の態勢で連合軍は港を離れた。


 沖に出たあたりで、偵察のためハーピーが飛び立った。


 しばらくして、海上で旋回したので、そこに主がいるのだろう。ハーピーは羽ばたきを止めてまで「寝る」ジェスチャーをしたので、アクシーズには主は寝ているということが伝わった。


 アクシーズの船は忍び寄るように接近し、投網を投げるタイミングを計り、ネオギオンは反撃されないよう射程ギリギリの1kmで水夫たちに錨《アンカー》を下ろさせた。


 当然、レウルーラも水晶からの画像で主を確認し、方角と角度をルゼッタに伝え、ルゼッタは砲撃態勢に入った。上からの画像では、茶色い魔物は背泳ぎの体勢で寝ていると思われた。

(なんだか、食後のお昼寝みたい。それとも戦い疲れたのかしら)


 ソドムは艦長として、どっしりとソファーに座り、時を待った。

「油断して寝ているようだな。まあ、こちらも普段の戦闘と違って、遠くで決着がつくというのも妙な気分なんだがな」プカリと浮いている主を画像で見て、どうでもいい感想を言った。

「どうだ?この魔物について何か知らないか?」


「ん~、こんな魔物は文献でも見たことないわね。カワウソが長生きして、こんな大きさになっただけなのかも」召喚魔法が得意なレウルーラが知らないのだ、取るに足らないものなのかもしれない。もしくは、目撃者がことごとく屠られてきたのかもしれないが。



 アクシーズの船に乗っている聖印徒が準備完了を報せるため、槍に括り付けた派閥の旗を振った。躑躅色に金の蠍が刺繍されている旗は、非常に目立った。


 それを確認したレイコが、ルゼッタより借り受けた斧槍旗を振り返した。こちらは黒地に金の竜が刺繍されているネオギオンの旗である。


 ソドムは両者の旗を目視して「了解した」と手を挙げて、甲板の水兵に次弾装填準備を促す。


 レウルーラは、携帯型遠見の平面水晶を使い、画面を拡大して 投網が放たれたことを二人に伝え、ソドムが攻撃命令を下す。


「主砲、斉射三連!撃てぇ~!!」右腕を前にかざし、格好をつけるソドム。本当に、コレをやってみたかったのだ。むしろ、このために参戦したようなものである。


 ルゼッタは三つのレバーを次々下ろし砲撃した。砲塔から爆音とともに三発が発射され、それぞれ少しズレて着弾する。目標が大きな攻城戦でもない限り外れて当然なので、少しづつ着弾点をずらして、微調整して当てていくのが砲術の基本であった。

 レウルーラは一番手前に落ちた砲弾が命中したことを伝え、今度は全弾それに合わせるため角度調整をしていく。


 外で水兵たちが、教わった通りに装填作業を済ませたのを確認したルゼッタは、ソドムに頷いて見せ、指示を待った。装填までブリッジでできるのなら、安全かつ人手もかからないのだが、技術的に難しいらしい。


「第二射、撃てぇ~!」と、ソドムが命を下す。横でレウルーラは、真剣に・・・かつ楽しんでいるソドムを惚れ惚れと眺めいている。


 水兵(レイコも含む)たちは、遠くで激しい水柱が立っているの見て、ネオギオン兵器に舌を巻いた。なにより、こんなに激しい轟音は人生初だったため度肝を抜かれている。



「全弾命中!目標沈黙・・・おめでとう、勝ったわね」レウルーラは画像を見て勝利宣言をして、隣のソドムと手を合わせた。

「やったー!」と、一番喜んだのはルゼッタ。彼女は小走りでドアを開け、あまり状況が分かっていない水兵たちに勝利を伝えた。


「おお!やったか。あとは、離脱した水軍が戻って止めを刺すだろう」目標が浮いているのならば、船で体当たりして、腰にロープを括り付けたサムライが直接斬りかかる手筈であった。

 レイコは、アクシーズも討伐に関わったことにより名誉が守られたのでホッとしていた。

(これで世間の評判も悪くなることはない。ネオギオンとの友好関係も印象付けることにもなろう)


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