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ネオギオンとアクシーズ

「しかし、落ち着かないものだったな」


「ホント、せっかくのお風呂なのにリラックスできないわ」


 ソドム夫妻は、湯から上がり 下着をつけてからボヤいた。


 よくわからないが、大和では風呂上がりに牛乳を飲むらしいので、あらかじめ渡されていたものを飲んでいる。


 貸切風呂を無料で利用できたのはありがたいが、湯船正面にある魔像に見張られているような感じがして不快であった。

 どのようないわれがあって、薄ら笑いした悪魔像を置くようになったのかは知らないが、迷惑でしかない。



「・・・それはそうと、アクシーズをどう思う?」愛妻に尋ねたソドム、とくに策はない。


 昔の大和帝国のように何十万という兵がいるわけでもなく、優れた英雄がいるわけでもないので、棟梁へは黙殺に近い対応をした。


「そうねぇ、私兵団としてはなかなかね。ただ、同じく冒険者ギルドに所属している以上、いくら登録冒険者が多くても勝手に街を襲うこともできないから、数の優位はないのよね。鳥人ハーピーによる空からの攻撃は脅威だけど、それはダンジョン攻略に向かないし、大型の魔物へも通用しないから商売敵にはならないと思うわ」


「所詮は残党といったところか。昔だったら土下座してでもよしみを結びたいと思ったかもしれんがな」ソドムは実際アクシーに来て、かつての強勢を失った帝国に安堵していた。


「あっ、でも神出鬼没な賊相手には相性いいかもしれない」


「そうだな、索敵と機動力は使える。空から監視されっぱなしというのもやりにくかろう」


「ないとは思うけど、修羅国シュラクと組まれたら、手薄な箇所を同時攻撃されて冒険者ギルドもお手上げになるわ」


「確かに、なにか起こってから討伐依頼を出し、兵を整えるギルドでは対処できん」

(さすがルーラ、考えてるなぁ)


「ここはひとつ…」レウルーラは、ソドムの十八番おはこ!と言わんばかりに言葉を止めた。


「デマカセで おだてて友好関係を築くとするかぁ。まあ、弱い立場にあるほど慇懃にした時の効果は大きいからな」

(賊と組ませないためと、タイタンズの憎悪を分散させるためにもな)


「効果が薄ければ、大和流の…」レウルーラは意味深に右口角を上げた。


「土下座までか!?いやいや…、そこまで?」いくら利益の為なら頭を下げることを厭わないソドムでも、土下座は避けたい。



 この半世紀で土下座したのは三度ほど。


 レウルーラと結婚した日にもかかわらず、まだ結婚していないシュラと【お触り10年サブスク契約】を結んだことがバレた時。

 発覚した時はまさに修羅場、まずはレウルーラにゴン詰めされて、言い訳で「いつも宮廷料理というのは幸せだが、自分の立ち位置を知るために、庶民的な茶漬飯を食べたくもなる」と言ったら、今度はシュラが怒り ボコられた。


 もう一つは、かつて 冴子と敵対してたとき、土下座して開戦を遅らせてもらった。


 その見返りとして冴子に【一つ何でも願いをきく】約束をしていたため、冴子が亡命して三番目の妻に収まった時、安請け合いに怒ったレウルーラをなだめるために土下座している。



 レウルーラはソドムが土下座に難色を示しているのを見て、

「場合によって…ね。そこは任せるわ」と言ってあげた。



「ともあれ、今 隙だらけにもかかわらず、襲撃してこないところから、少なくとも敵対心はないだろう。なら、交渉の余地がある」


「ええ、ジオルド殿下だと悪を滅するためならギルドルールを破りかねないものね」

(なるほど、アクシーズを試す為のお風呂だったのか)


「ああ、十分ありうる。彼相手なら、こちらから先手を仕掛けてしまいそうだ。戦い以外の未来が見えん」


「言えてる」クスッと笑うレウルーラ。


 ソドムは彼女を見つめながら、ちょっとした旅行に満足していた。どこにいても誰かしらに襲撃される身なら、あちこち出歩くのも悪くない。 

(ああ、これでトリスの演奏があれば最高なのだが。シュラもいればなお楽しいだろう。プラスして冴子殿もいれば、少し場がまとまる)


「どうしたの?物思いにふけて」ソドムの顔をのぞき込むレウルーラ。


「あ…ああ、皆と離れるのは中々ないのでな」照れくさそうにソドムは視線を逸らした。


「あ、寂しいんだ。トリスさんの気遣い、シュラちゃんの破天荒さ、冴子ちゃんの真面目さと少々の狂気が恋しいのね」


 やや毒のある人物評だが、大凡おおよそ合っていた。


「有給のシュラはともかく、トリスは手元に置くより、吟遊詩人として方方でネオギオンの印象を上げる活動させたほうがいい。冴子殿は前線よりまつりごとと新技術開発に専念してもらったほうが国益になるから仕方がないところなのだがな」


「ええ、手強い敵や難易度の高いダンジョンの時に加勢してもらう今のスタイルでいいと思うわ。そうだ!わたしがリュートを覚えて、トリスの代わりになろうかな」と、レウルーラはリュートを弾く仕草をしてみせた。


 ソドムは思わず身を乗り出し、

「天才か!?美しく聡明な妻が演奏までしたら、今より何倍か幸せだ」と、真に嬉しそうに頷いた。


 ソドムは音楽の話ついでに、妻たちを楽器に例えるならなんだろう・・・などと、どうでもいいことを思い浮かべた。

(レウルーラは・・・煌びやかで美しい音色のフルート。まあ、演奏する楽器はイメージと違っても素敵に違いない。ふむ、冴子殿は正確かつ多彩なピアノ。お転婆なシュラは・・・シンバルかな。なくてはならないが、好き勝手鳴らされても困る・・・どころか全てがブチ壊しになるところがアイツらしい)



「あなたは美味しい料理、わたしは音楽。確かに生活の質が高くなって楽しそう」と、相変わらず仲の良い二人。しばらくして、乾いた服を受け取り、席に戻った。



 席には、デザートの餡蜜を食べているルゼッタとレイコが座っていた。


「湯加減はいかがでしたか?ソドム卿」レイコは立ち上がって笑顔で着席を促し、スタッフに餡蜜を手配した。


「お心遣い感謝する。とてもいい湯でした」ソドムは横柄さを微塵も出さず、礼を言った。


「ええ、連邦系の文化では水浴びが主体だから、普及してもらいたいわ」と、ソドムとレウルーラは友好的に接してみせた。


 そして、ルゼッタとレイコはくだんの討伐依頼を切り出し、ソドムは快諾した。


「人を襲う魔物は倒さねば。だが、シュラが有給で不在なため、海上での戦いでは ちと戦力不足かもしれん」と、左手で頭を押さえるソドム。

「ソドムが指揮、ルゼッタちゃんが操船するとして、作戦行動をとれるのは わたししかいないものね。戦闘時だけ全員出払うという手もあるけれど」


 レイコは、圧倒的武力を持つ彼らが慎重すぎて、話がわからなかった。

「ソドム卿が本気を出せば、魔物などひとたまりもありますまい」と、当然の反応をした。


「大きすぎる力は敵を作る・・・、できればいち冒険者として討伐したい。魔竜になる姿を漁民に目撃され、恐怖が伝播しても困るのだ」

 すぐさま回答するソドム。少しでも間があると、双頭竜デスドラゴンに変化して大暴れしたのは ルゼッタの【魔神のランプ】による強制力があったからで、実はまるで制御できないとさとられる恐れがあるからだ。


 とりあえず、魔界陣は展開できそうだが、影武者シャドーサーバントに今現在の姿を真似させることはできても、過去の姿を真似させることは至難であった。

(魔竜としての武力は、噂程度で丁度いい)



「そうですか・・・。確かに 圧倒的な力を知れば、人類の敵と感じ 戦うことを選ぶ者もでるかもしれません」

(凶悪な暴君かと思っていたが、存外まともなことを言う)

「では、当方から数人の兵をお貸ししましょう」


 冷水と茶、それと餡蜜がきたので、まずは水を飲むソドム。それから礼を述べ、

「念のため泳げる者を頼みます。予期せぬ事があるといけませんからな」


「わかりました」というレイコの言葉を聞いてから、ソドムは餡蜜に取り掛かる。

 

 レウルーラも食べ始め、

「泳ぎは大事よね。わたしたちは公国時代のビーチで浜遊びしてたから問題ないけれど。せめて救助が来るまでは、板に掴まってでも浮いてるしぶとさは必須ね」


 ソドムは、やや顔をほころばせて同意している。

(懐かしいなぁ。水遊び用のショーツとブラジャーを流行らせようと、ルーラ・シュラに着てもらったんだった。綿より水着向きな絹を採用して、理由をつけて水で透ける白 限定で販売して、それが定着し始めた矢先・・・大災害で領地ごと最北端に流れて、今じゃ寒くて海水浴などできない。なんとかビーチを復活させたいものだ)



「それで、どんな魔物なんですか?種類が分れば、対策も出来て勝率も上がります」ルゼッタはワクワクしながら訊ねた。


「報告では、同種の魔物はいないが、イタチ系の見た目をしているとのことだ。大きさは漁船くらいで、水に潜ることもできるが、知能は高くない」と、レイコは淡々と語る。直接ソドムと話すなら言葉を選ぶが、年下のルゼッタ相手だと、つい素が出てしまうのだろう。


「なんか倒すのが可哀そうな見た目そうですね。とはいえ、討伐対象なら情けをかけていられませんが」


「主食は甲殻類や貝類だったため、人を襲うことはなかったのだが、我々のせいで棲み処を追われ怒り狂っているのだろう。奴には悪いことをした」そう語るレイコの声は、やや暗い。


「え、ええ」ルゼッタは気まずくなり、レウルーラに視線をやり、助けを求めた。


「まあ、今回の魔物は被害者みたいなものだけど、対話できるくらいの知能がないと契約交渉できないのよねぇ。・・・シュラちゃんならワイルドな手段でテイムできちゃったりするかもだけど」


「アイツ、有給なんだよな。この辺でエロいバイトしてるんだろうが」と、小さなため息をつくソドム。


「有給?」どうにも連邦系とは噛み合わないレイコ。


「有給休暇のことですね。ネオギオンでは休暇以外に、給料がもらえる休暇が義務付けられているそうです。いいですよね」


「そう・・・なのか。結構ユルい組織なのだな」


「国が直接事業をやったりして利益を上げているので、そのような余裕ができるのだそうです」と、ルゼッタは付け焼刃のネオギオン知識を披露した。


「だから、海運を滞らせる魔物は国益に反する。すなわち、我が民に不利益ゆえ、殺処分させていただく」ソドムの決断に迷いはなかった。


「では明朝、共通の敵を討伐しましょう!」と、レイコは締めくくり、ソドムと固い握手をしようとして、またもレウルーラに弾かれた。





 

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