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❝英雄の影❞ 

 ソドム達 三人が去ったことで、ポツンと残された形になったルゼッタとゼイター。そこに図々しくも白獅子男《ワーライオン》が座り、勝手に料理を食べはじめ舌鼓をうった。


「ガッハハ、可愛い娘が あそこまで積極的だとはのぅ。ソドムには悪いことをしたわぃ」白獅子男は豪快に笑って、ハイメガジョッキを上に構え、少しずつ斜めにして開けた大口に酒を流し込んだ。

 獣人たちは口の構造上、人間のように口をつけて飲もうとすると横にダダ洩れになるので、このような品のない飲み方をしている。犬猫のように皿に移したものを舐め取る・・・というのは、元人間にとってやりたくないようだ。


「いやはや、気の毒な事をしました。ワッハハ」と、罪悪感を感じつつも笑うゼイター。


 見知らぬ獣人が来て、若干居心地が悪いルゼッタは、せっかくの旅先グルメを堪能することにし、塩がまぶされた大きめのエビを鉄網に並べ始めた。

 殻ごと焼くワイルドな料理だが、食感と味への隠れた気遣いで、背の継ぎ目から背ワタを抜き取ってあった。殻ごとなので旨味が逃げず、焼けた殻の香ばしさも魅力の一つだ。


 焼いている間に、ルゼッタは炭水化物が食べたくなり、うどんを追加した。大和帝国の食文化が浸透していない連邦では珍しい料理だが、下界に来て半年の彼女は大和料理を結構食べてきている。とくにアクシー港は大和帝国の食が多いので、密かに楽しみにしていた。



 ふと、食に夢中になってばかりもいられないと気づいたルゼッタは、手を止めて叔父へ最近の疑問をぶつけてみることにした。


「あの・・・叔父様、こちらへ来てから連邦王国で習った歴史に疑問を抱くようになったのですが。とくにソドム様は人々を虐殺する邪悪な存在とは思えなんです。それとも、私が魅了《チャーム》か何かの暗黒魔法でもかけられているのでしょうか?」と、青い瞳を真っ直ぐに向けた。


「ふむ・・・。ソドム殿は何と言っていた?」ゼイターはジョッキを置いて、ゆっくりと目を閉じた。


「その話になると、いつもはぐらかされてます。天界《れんぽう》では【五英雄と影王】の戦いは、影王《ソドムさま》が復活させた終末竜《デスドラゴン》が甚大な被害をもたらし、敗れた影王が魔法で無理やり自領を大陸から分断して逃げたとなってます。この悪あがきによって地形変化や大津波が引き起こされ、それらを合わせて大災害と呼ばれてますが、下界《こっち》の人は地殻変動による地震と大津波という認識のようなんです」


「そうか・・・。そうだな、お前も一人前の大人であり、魔神を二体も葬った勇者だ。話していい頃合いなのかもしれないな、連邦王国の闇を」手を組んで、そこに額を乗せるゼイター。


「闇・・・ですか」ルゼッタは固唾を呑んだ。

(ついに語られる一族の闇。なんだかピンときませんが)


「・・・長いぞ。話すと本当に長いがいいのか?」


「お願いします、要約して! 」真顔のルゼッタ。そうでも言わないと、登場人物のモノマネをいちいち交えて語りそうで、その場合 夜が明けてしまうと思った。


「・・・わかった。努力しよう」顔を上げたゼイターは、真の歴史をゆっくりと語りだした。

 遡ること21年前、ソドムのギオン公国が連邦と帝国の板挟みになっていた頃、連邦王都に来ていたソドム公王はシュラと晩餐に招かれていた。


 当時の連邦王は、次男《アレックス》を養子《あとつぎ》として受け容れているソドム公王が来たことを大いに喜び、粗野なシュラをも気に入って娘の様(実の娘だとは知らない)に甘やかした。


 大陸北東を占拠している大和帝国との戦いは膠着状態で、東のギオン公国が最前線になっていて、連邦から逐次援軍を送ってもらいなんとか持ちこたえていた。


 世間で連邦の反転攻勢が囁かれている中での宴は、まさに決起集会であった。


 雑兵ばかりとはいえ二倍の兵力を有する帝国を打ち破るため、連邦は奇策を採用した。


 ギオン公国には陥落しない程度に援軍を送り帝国を釘付けにし、その間に大陸北西を支配している悪魔王《デーモンロード》を討伐して、そこから一気に帝国領に雪崩込む作戦である。


 悪魔王といえば竜王と同じく、人類では勝てない存在として畏怖され、両国ともかかわらないようにしている。

 直近の事例では、大陸中央に影響力のある竜王を相手にして、帝国は一万人もの死者を出して懲りた。


 当時、悪魔王の実力は謎とされていたが、唯一戦ったことがある人物は、

「大地は割れ、雨にかわりて隕石《ほし》降り注ぎ、競うかのように雷落ち、地の狭間より亡者湧き、逃れること能《あた》わず」という詩を残した。

 実際に一夜にして広大な荒れ地が出来上がったので、嘘ではないと言われている。


 それほど世界三強の超大型生物は恐れられているため、両国の主戦場は東であり、帝国も まさか西から北上して来るとは思っていない。


 この詩を残した者は、命からがら逃げおおせたソドム。国家建設の為、莫大な借金を抱えた彼は、竜王の力を得て・・・

「金主を殺せば、借金チャラだ(金貨3万枚、大和での30億円)」と思い付き、「飛躍のためなら、生涯に一度の巨悪はやむをえん」と自らに言い聞かせ、暗殺すべく一暴れしたのだ。


 が、相手が悪かった。


 暗黒魔法の師である金主《ろうまじゅつし》は、竜王を取り込んだソドムと違い 悪魔王そのものだった。人間の姿に変化して気前よくソドムにジャブジャブ金を貸したのは、ソドムを台風の目に育て大陸に混乱をもたらすことと・・・回収する自信があったからだ。

 結果的に、竜王より悪魔王の方が強かったわけだが、ソドムが竜王を取り込んだことを秘密にしていたので、何事もなかったように過ごしていたという。



 悪魔王の大迷宮は、連邦王ファウストの長男ゼイターが、ギオン公国に潜入しつつ有給を活用して攻略とマッピングを行っていたが、その巨大さゆえに踏破率は半分に満たず、精鋭や軍を投入してもすぐには攻略が難しいと思われた・・・その時、シュラが「あたしも行きたい」という馬鹿げた発言をし、この天真爛漫な娘を気に入っていた王が、またも甘い顔をして「では、攻略者の上位十名に金貨1000枚出そう」などと言い出し シュラを喜ばせ、それが作戦に組み込まれた。


 軍が主力で攻略しようにも、ダンジョンの狭い場所での渋滞や、小回りができないために罠にハマるなどの無駄な被害がでる。それならば、いっそのこと冒険を生業をしている連中に任せ、攻略までの間 数万の軍勢は伏せておけば、より奇襲としての効果が期待できるという結論に達したのだ。


 あまりにも手こずるなら、宮廷魔術師長・冴子が軍の指揮を執り、悪魔王を討ち取る手筈にもなっていた。

 悪辣な話だが、冒険者たちが千人挑んで全滅しようがかまわなかった・・・報酬はあくまでも成功した場合のみ払うのだから。冒険者に敵の間諜が混じる恐れはあったが、帝国領への侵攻中に冒険者丸ごと隔離すれば問題ないとして、大々的に冒険者・傭兵を募った。


 

 そして迎えた大迷宮攻略。現地は祭りのように冒険者でごった返し、迷宮横で商売をしている雑貨屋は大繁盛した。こんな書き入れ時は後にも先にもないと思った店主は、ホクホク顔で併設している露店を十倍に増やして対応したという。



 店主というか元締めは、元宮廷魔術師長ザーム。裏では闇の最高司祭だった人物で、実は大迷宮の主である悪魔王。ソドムやレウルーラからは、闇の大神殿で世話になった老師と呼ばれており、ソドムに大金を貸し付けた金主でもある。

 今現在のソドム同様に、昔は闇の最高司祭ゆえに眼が赤かったため、宮仕えでは目を閉じ「盲目の大賢者」として振舞っていた。隠居後、最高司祭の地位も譲り、赤い眼は黒に戻り、この地で雑貨屋をしている。


 連邦王国を離れ、辺境のダンジョン前で雑貨屋に身を堕とした経緯は・・・賭け将棋。連邦王ファウストと将棋をしていた時、盲目である設定を忘れ薄目を開いて王のズルを見破り、どっちが悪いだの言い争いになり、喧嘩別れしたのだ。


 その時、癇癪を起した王が、照明代わりにブラ下げていた【封印の宝珠】を投げ割った。ザームは引継ぎ期間に宝珠の修復はしたのだが、どうにもならず・・・米粒でくっつけて逃げるように去ったという。


 そのザームの店にファウストが来たのだ・・・。ザームからすれば、「ああ・・・、また目が見えぬフリをせねばならんのか」と煩わしく思ったに違いない。


 この遠征前に、ファウストは早々に王座を次男に譲り、新王アレックスは本軍を率いて東に陣を構え 囮を担っている。ファウストは、念願の一冒険者としてソドムらとパーティを組んでいた。


 ザームとファウストの雰囲気は微妙で、品ぞろえや薄汚さを指摘するファウストにザームは青筋を立てながらも応対したかと思えば、賭け将棋のリベンジ戦をやったりと仲が良いのか悪いのかわからない。



 この時のソドムは、連邦との独立戦争を終え、祇園の街を割譲し、不可侵条約を締結していた。帝国との関係は、総督である月山出羽守(偶然、ソドムが竜王と知った。ただし、力を扱いきれない事までは知らない)の養女になったシュラを第二夫人に迎え、親戚となったため敵対関係ではなくなっている。


 旧 死の岬・城塞都市《ソドムシティ》(城壁と岬の地下開発はできていたが、上物の城は予算不足で未完成)に居を構えたソドム。

 連邦の属国ではなくなり、両大国との不可侵条約があるため、闇の教団の頂点であることを世に公表し、邪教徒として迫害されている者や亜人などの庇護者になった。


 表向きは中立なので、冒険者という形で今作戦に参加している。


 ソドム達は、迷宮に挑む冒険者を尻目に、楽して攻略するために雑貨屋で有料の地図を探していたが、ならばいっそ悪魔王《ザーム》なら完全版を持っていると思いつき、慇懃に挨拶して譲るよう交渉したりしていた。

 独立戦争のどさくさで 手を汚して大金をせしめ、ザームへの借金を返し終えていたソドムは、「連邦に倒させる意味がなくなった」と思っていて、攻略に精彩を欠いた。


 一週間経過し、ソドムらが雑貨屋でダベるのに飽きた頃、業を煮やした冴子が、直接攻略すると宣言した。


 その方法は・・・土木工事!!それまでの一週間、近隣の川の流れを変えて溜池を造っていたのだ。そこに数百人の司祭・神官を集め聖水化させ、水路を造りダンジョンに流し込んだ。

 彼女の計画では大量の聖水により、ダンジョンの魔物は死滅もしくは地上を目指すので、それを叩く!これなら、ダンジョンが暗闇でも関係なく、罠も無意味になるという画期的かつ面白みのない攻略法であった。


 本命の悪魔王が出てきたら・・・聖水で弱っているところに、冴子が連邦王国の居城【白堊の城】を召喚して、強力な大砲群と巨大弩《アーバレスト》で倒す算段でいた。


 排水溝に水がグングン吸われるように、聖水は容赦なくダンジョンに押し寄せた。

「先行している冒険者たちは?」という疑問には、「不測の事態への対処や危機管理能力のない者は、最凶ダンジョンでとうに死んでいる。逆に生き残ってる者は、この程度の災難では死にはしません」と、冴子は返答したという。



 大迷惑なのはザームである。彼は大迷宮《アミューズメントパーク》の横で雑貨屋をして儲けているだけではなく、宿屋と治療院を兼ね、武具も売っているのだ、迷宮が攻略されると大損である。

 そもそも、この迷宮を維持するために、罠の設置、悪者の勧誘だけではなく、魔物を連れて来たりしているのだ。そんな手間暇かけた収入源を台無しにされてカンカンであった。



 怒りが爆発するきっかけを作ったのは、シュラ・・・もしくはファウスト。

 シュラが水に飲みこまれている洞窟の入り口をしみじみ見て、

「よく考えたら、あんくらいの出入り口なら悪魔王も大したことないんじゃない?」と、屋台で買ってもらった焼きトウモロコシをかじりながら笑った。


「お~、言われてみればそうじゃのぅ。あの感じだと5m級のザコ悪魔かもしれぬなぁ、ガッハハ」ファウストは焼きトウモロコシを振り上げて、這う這うの体で現れるであろう敵の予想をした。


「お、5mなんてゴミ。あたしは10mの大悪魔《アークデーモン》とも戦ったことあるんだから」ソドムが連邦の支配から抜け、ファウストも王でなくなっているので、完全にため口であった。


「ほう、やるのう。悪魔王など伝説化していて、実際見たことのある者はおらんわけだし、存外 話に尾ひれがついただけかものぅ」と、親子で馬鹿にし、それに合わせて側近がこぞって笑った。ソドムとザームの弟子である店員たちは戦々恐々である。



「ならば、目にもの見せてくれよう!」と、わなわなと怒りに震えるザーム老が竜王並みの巨大な悪魔王の姿になり、水路を蹴って壊し、破壊の魔法で人間達を攻撃した。


 漆黒の肉体は隆々とした筋肉に鎧われていて、そびえ立つ数十メートルある巨体には人類の武器が通用するイメージなど湧かなかった。

 悪魔《デーモン》と一口に言っても、亜人のように様々なタイプがある。大悪魔《アークデーモン》は暗い紺色の肉体に牛のような顔、腕は四本あり魔法より格闘を得意としていて、下級悪魔は一例として山羊顔で二メートルと小型で魔法を得意としているが、悪魔王《デーモンロード》は どれにも属していない。

 左右非対称の角を持ち、背にはコウモリのような翼がある。その巨躯ゆえ踏み散らすだけで人間など殲滅できるほどなのだが、ひとたび飛び立たれたら竜王同様に一方的に攻撃できる、まさに人類の天敵であった。



 このままでは連邦はおろか自分の身内も全滅しかねないと思ったソドムは、嫌々 竜王に変化して悪魔王を食い止め、大規模な戦いに発展した。ソドムは攻撃力を上げるため、影武者に竜王の首を真似させ応戦したのだが、その姿が現在 終末の双頭竜と呼ばれている。

 ちなみに、ルゼッタに召喚され、ジオルド皇子と戦った時に終末竜になったのは、初めて双頭竜になった時の姿を影が真似た・・・というカラクリである。


 

 ソドムの竜王・双頭バージョンと冴子のゴーレム、ファウストらアスガルド一族に追い詰められた悪魔王は、個人魔法《オリジナルスペル》の【破滅《デストラクション》】を唱え、隕石に雷、大地震を引き起こし、無秩序に召喚された魔物や不死者は人間を襲った。

 自身の耐久力に自信があった悪魔王は、より魔法を強力にするためリミッターを外し、自分を守るバリアも展開せず、全てを攻撃に振り向けた。その無慈悲な魔法は、多くの冒険者・連邦軍を殺すにとどまらず、近隣の村々を破壊した。


 とはいえ、皆殺しにしては大迷宮へのリピーターがいなくなるため、ある程度で止めて 迷宮に逃げ込むつもりだったザーム。だが、不運にも術者である悪魔王の後頭部に隕石が当たり 気絶したため、魔法を中断できぬまま被害は増した。

 おかげで、術者側なら逆に安全だと思い、懐に飛び込んだファウストやシュラは危うく潰れる所であったが、ダンジョンに滑り込み 九死に一生を得ている。



 地獄絵図に決着をつけたのは、勇者ゼイター。この気絶を好機と捉え、王家に代々伝わる【封印の宝珠】を使用したのだ。宝珠の力は悪魔王の存在を曖昧模糊《あいまいもこ》なものにし、それを勢いよく吸い込み始めた。悪魔王は舌を出して気絶している無様な姿のまま、宝珠に封印された。


 その光景を見た僅かな生き残りは、歓声を上げて喜び合った。見渡す限りが荒廃しきっているので、機転の利く者・実力ある者・運がいい者のいずれか たった数十人しかいないが。


 だが、残念ながら 不完全な宝珠は敵味方識別できないのか、悪魔王だけでなく竜王までも吸い込み封印してしまう。 


 ゼイターは、何かの役に立てば・・・と持ってきた宝珠の力に内心驚き、味方してくれたとはいえ、人類にとって目の上のたん瘤《たんこぶ》だった竜王をまとめて始末できたのは、良かったのではないか?と、その時点では思った。


 問題はここからであった。不完全な宝珠は、取り込んだ圧倒的な力に耐えられず、暴走して力を世界に放出し、大規模な地殻変動を引き起こした後、四散した。この地殻変動と地震は一週間に渡り断続的に起こることとなる。


 ソドムは竜王の力こそ引き剥がされたが、運良く本人は無事に済んで、レウルーラ達が逃げ込んでいたダンジョンに避難できた。凡人に成り下がったので、運がいいとは言い切れないが。



 ファウストら王族とソドムは、悪魔王が滅びたことにより破滅魔法が中断し、地獄絵図がマシになったタイミングで残存兵をまとめ、東へ向かい無傷の軍を掌握しているアレックス王と合流した。


 そして、余震が続く中 今後の事を協議したが、悪魔王であったザームを怒らせた者・宝珠を壊した者・また、壊れた宝珠を使用した者、これら全てが王族であった事実が知れたら、信を失うどころか反乱が起きて更なる死者が出る、という懸念が生じ、議論は暗礁に乗り上げる。


 ソドムは責任の押し付け合いで結論が出ないことに呆れ、自領が心配なこともあって早く話をまとめるため、「自分が主犯格となるので その方向で物語を作り広めてくれ」と、かつての主家に義理立てて仲間と共に領地へ向かった。


 そもそも論だが、「建国して王になる」という野心を持ったソドムが、悪魔王だとは知らなかったとはいえ、連邦を追放されたザームに 「極東の帝国を侵攻させて、その隙に建国したい」と相談したのが始まりであり、そのことへの贖罪なもしれない。



 ほどなくして、領地に帰ったソドムは嘘みたいな地殻変動により、豊かな南国から極寒の北へと領地ごと移動させられてしまう。

 また、大陸南全体は100mも隆起し南北は分断され、それらが原因で引き起こされた大津波は、大和帝国本土を飲み込み 滅ぼす結果となった。


 

 自責の念に堪えられなくなった元王ファウストは世捨て人になっても己を許せず、ついには獣に成り果てたという。

 極寒の地に流されたソドムは、妻や眷族たちと長いふて寝に入った。



 養父ソドムの勇気ある提案に心打たれたアレックス王は、民に不信感を抱かれないために、涙を呑んで歴史を改ざんすることにした。


 悪魔王によって引き起こされた大災害は、王が懇意にしていた吟遊詩人によって、片田舎で聞いた終末の双頭竜という伝承を軸にして、連邦の守護者たる大天使が全裸で降臨したり、影王が島ごと逃走するなどの面白おかしいエピソードに改変され、連邦王国に流布された。

 この歴史は20年に渡り幼年学校の教科書に載り 民に刷り込まれることになった。



 ・・・そのような内容を知ってる範囲と言葉でゼイターは語った。


「そうだったのですね・・・。ソドム様は全然悪くないのに、忌み嫌われたり襲撃されたりしていたのですか」

(一族の罪を背負っただけではなく、私が下界で生きていけるよう導いて下さった。遡れば、父王とシュラさんを育てたなんて・・・聖人ですか あの方は)


 話の途中、ルゼッタが注文していたうどんを夢中で食べ始めたが、ちゃんと聞いていて感心するゼイター。


「ああ、立派な男だ。つまり、俺は作られた英雄で、彼は その影になった。父への忠義、連邦への貢献、ソドム殿に並ぶものはなかろう」話はともかく、焼けたエビを各人の皿に取り分けた。その恩人に今さっき刃を向けたのだが、彼なりの挨拶なので悪いと思ってなさげである。


「しかも、元凶であるザームへの恨み言もない。連邦で出世できたきっかけは、ザームから見出され引き立ててもらったからだそうだ」無論、借金棒引きのため暗殺しようとしたことは知らないゼイター。


「義理堅いお方なのですね」ルゼッタは、憎しみや非難をしょい込んでも、飄々としているソドムに不思議な魅力を感じている。

 それはともかく、うどんのダシが美味しかったので、どんぶりを傾けて汁を啜った。ちなみに音を立てて麺を啜ることと、器を持つことは連邦王国ではNGなのだが、下界に染まってきた彼女は気にする様子はない。


「今 教えていただいた事実は、すぐには受け入れきれませんが、お話頂いて本当にありがとうございます。それと、私のお爺様にあたる方が、もしかしたら この広い大陸で生きておられるということを知れて良かったです」遠い目をして溜息をつくルゼッタ。


 王族の教育方針で、幼い時には西のタイタン城塞・宮廷魔術師長アジールへ預けられたので、祖父ファウストとは会ったこともなければ、ゼイターのように勇敢な男という認識くらいしかない。


 実際は、粗野でありながら老獪な王で、だからこそ圧倒的な兵力で攻め込んできた帝国に対抗でき、小細工ばかりするギオン公国を逆に利用して王国を守り切った。


〜21年前、勢力図〜

挿絵(By みてみん)


「おう、初めましてだったのぅ、我が孫よ」と、白獅子男がバリバリとエビの殻を歯で毟りながら挨拶し「美形のアレックスに似て良かったわぃ。隔世遺伝とやらでワシにでも似たら、ほれ・・・ゼイターやジオルドと同じ、岩を削り取ったような顔になるとこだったぞ、ガッハハ」と、笑いながらゼイターを指さした。


「え・・・」開いた口が塞がらないルゼッタ。


「獣になったというのは人間辞めた、ということなのですか・・・。お、お会いできて光栄です、ファウスト前国王」急に背筋を伸ばすルゼッタ。

(なんかソドム様が敬語を使っていて変だとは思ってましたが)


「うむ、冒険者になってみたものの、寄る年波には勝てぬでな。一か八かでソドムに頼み込んで人間辞めたのだ。おかげで、現役時代より強くなったわぃ。分類上は不死者《アンデット》ゆえ寿命もないようだし、金剛聖拳も引き続き使えるでな、魔物も怖くないわい。仮に天敵である魔術師や光の司祭がいても、超回復のおかげで 一発受けてからでも、距離を詰めて瞬殺できるじゃろうて。ガーハハハハ」


「ワッハハ、父を超えたつもりでいたが、人間を超えるとは一本取られましたな。明日の手合わせが楽しみですよ」


「おう!ドンと来い!簡単には死なんから、斬りつけてかまわんぞ」


「斬っても斬っても再戦できるとは、理想的な相手ですな。ワッハハ」


「あの・・・さきほどの正史で思ったんですが」陽気な親子の会話に水を差したくはなかったが、ルゼッタは言っておくべきことがあった。


「ん?どうした?」と、ファウストが孫に顔を向けた。


「旧帝国民が多いこの街で、本国ならびに帝を滅ぼした原因が連邦王家と知られると、かなりマズいのではないでしょうか」と、ヒソヒソ声に切り替えるルゼッタ。

「ソドム様の忠義には舌を巻きましたが、帝に対する帝国民の忠節は更に凄まじいのでは?と思いまして。たとえ何十年かかっても、命を賭して復讐して来るかと」どんぶりを空にして、トンと置く。


「ぬ!?」大柄な親子はハッとして顔を見合わせた。


「た、確かに!それをも見越しておったのか、さすが叡王と呼ばれし我が息子。偽史を普及させておらなんだらトンデモないことになっておったわ。ガッハハハ」


「おっしゃると通りです父上。勇者として目立ってる私など、今日あたり寝込みを襲われてるとこでした、ワッハハハ」


「この地では、地殻変動による天災と信じられてるのは幸いですね」ルゼッタは父と違い、脳筋寄りの二人にあきれていた。


「おかげで、この通り酒を飲めておる、ガッハハ。ああ、それと先ほど息子が話した歴史、あれはフィクションじゃからな。確か・・・作家か何かを目指してて、考えついた話だったな?」そう言って、息子とジョッキを合わせるファウスト。

「そうですとも、フィクションでした。ワッハハハ」


「アハハハ・・・」ルゼッタは美しい顔を少し引きつらせ、緊張してたのがバカバカしくなっていた。


 傲岸不遜《ごうがんふそん》・・・いや、厚顔無恥な・・・いやいや、お化けメンタル・怪物ボディを持つ身内に、何と声をかけたら良いのかわからず、酔いと疲れもあって糸が切れたかのように、ドサッと突っ伏して寝てしまった。それはそれで、凄いメンタルである。

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