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やっぱり朝はアレです

 爽やかな朝、普段と変わらず7時くらいに目覚めたレウルーラ。痛飲しても0時には就寝し、7時には起きるのが彼女のルーティンだった。以前 ルゼッタから「規則正しい生活ですね」と感心されたものだ。


 同室のシュラは有給なのにもかかわらず早起きして朝練に行き、ソドムは対照的に爆睡している・・・まるで這って逃げている態勢のままで・・・。



 レウルーラは、長い黒髪を梳かし身なりを整えて、同じ二階の広場が見える窓から、連邦王一族の朝練を眺めていた。


 十分強い連中なのだが、器質的に鍛錬が好きなのだろう。

 武器を持っただけで強くなった気でいる怠惰なゴロツキとは大違いだ、それゆえに強いというのもある。


 そのメンツは、ゼイター、ルゼッタ、シュラ、獅子男《ワーライオン》ファウストと配下のジム・カノン・タンクだったかで、配下の獣人の名前はうる覚えであった。


 レウルーラは「なんとも豪華なメンバーだ」と思いながら、見ごたえのある模擬戦を見ていた。

 ファウストだけが僧兵《モンク》という縛りでステゴロにこだわっているが、他は武装しての模擬戦だ。

(そういえば、シュラちゃんにも忍者ブームがあったわね。図《はか》らずも親子は似るのかしら)


 普通と違うのは、木製では折れるという事で、鈍《なまく》らの鉄製武器を採用して、思いっ切り打ち合っている点だ。


 激しい模擬戦では、聖拳による防壁と物理耐性があるシュラ・鉄《アイアン》ゴーレムと同じ素材で作られた逸品である大楯を所持しているルゼッタの両名でも出血し、獣人であるジムに至っては腹に大穴を空けられていて、石畳は血の海・・・真昼間だったら衛兵を呼ばれてしまう有様であった。



 心行くまで模擬戦《あそんだ》ファウストは、娘と孫娘に金剛聖拳の気《オーラ》を熱心に教え、ゼイターは発展形である防壁の張り方をレクチャーしているようだった。

 レウルーラは、「一子相伝というのは、どうしちゃったのかしら」と思いながら、家族団らんの稽古を飽きもせず眺めている。


 一見無意味な観戦だが、味方の動きを知っておくことは、いざという時の連携で役に立つので重要なのだ。


 戦いを見ている彼女であったが、いつの間にか飽きて、頬杖をついて今後の事に思いを巡らせていた。

(ソドムが魔竜《デスドラゴン》になれるのは大きいし、ルゼッタの【魔神のランプ】も実用性が証明された。ただし、魔竜は無差別殺戮向きで、手加減できないのが問題ね・・・制御不能だった竜王と同じで扱いにくい。興味深いのは【魔神のランプ】、L&P商会に戻ったら冴子ちゃんと解析して、量産もしくは分割できれば、召喚魔法より便利かつ強力なものになるはず)


 ソドムが疲労で起きられないため、一人で朝食…というのも淋しいので、頃合いを見て シュラ達と合流してタオルを渡し、皆で酒場(食堂を兼ねる)に向かうレウルーラ。

 猛者一行は、四人がけテーブルをつなげて陣取り、ホットドッグ(クズ肉のミンチ使用)とドリンクという朝食セットにプラスして肉を追加しだした。


 さすがに酒は飲まないが、オレンジジュース片手に大いに盛り上がった。


「あれ?シュラさん、腰に金貨が!」ルゼッタは、シュラが腰につけている革袋に光るものがへばりついてる事に気がついた。


「えっ!?お金!お金!?」シュラは、スペアリブほどあるデカい手羽元をむしり食いながら、ゴソゴソ腰のあたりを手で探り、金貨一枚をゲットした。

 一人旅でもしない限り、金を持ち歩かないシュラは、金貨を得て大喜びだ。


「やった!これで美容院代どころか、装備のカスタマイズできる〜」と言いながら、金貨に頬擦りする。


 レウルーラは何故か注意深く様子を見て、

「しかも それギザ金じゃない?いいなぁ~。実は わたし、硬貨集めが趣味なのよ」と羨んだ。


「え、そうなん?イマイチ違いわかんないけど」不思議そうに金貨を見つめるシュラ。


「もし、よかったら・・・、わたしの金貨2枚と交換してくれない?」そう言うと、レウルーラはチャリッと金貨を手に広げた。


「ハイ、のったぁ~!!」シュラは素早く2枚の金貨を奪い取り、「ど~ぞ」と言いながらギザ金貨を渡し、ご満悦である。

(お宝系は結局足元見られたりで、買いたたかれるから、確実に儲けたほうがいいのよねぇ)


「ありがと。さて、わたしは行くわね。ソドムに朝食を持っていかないとだし」そう言うと、ホクホク顔を見られないようにして、そそくさとレウルーラは席を立った。



「あっ!お金で思い出した!親父!!」シュラは世紀の閃きで思わず手を叩き、父ファウストの方を向いた。


「なんじゃ?食べ足りないのか?」と、ファウストが訊ねる。


「い~や、そんな小《チッ》さい話じゃない」首を横に振りながらも、シュラの視線は獲物を追うように父から離れない。


「ほうほう、何かな?」面白そうな話なので、ファウストだけでなく、皆が身を乗り出した。ジムたち獣人は、野生の勘なのか・・・少し毛が逆立ち 争いごとが起きる気がしていた。


「・・・お父様、あたしをこの世に来させてくれて、ありがとう」と、しおらしい言動をするシュラ。


「ぬ?お、おう。もっと早くに存在に気付いておれば、存分に可愛がってあげれたんじゃがのぅ」突然の感謝に、しどろもどろになる白獅子男。


「まったくです、父上。私など一緒にいながらも、十歳の女の子だったので遠慮して、剣の稽古くらいしか接点を持たぬようにしてましたぞ」と、ゼイターは妹だったことを知らなかったことを悔やみつつ笑った。


「まあ、それが当然の対応だろうな。子供相手に他人がアレコレしても問題だからのぅ、ガッハハ」


 証人多数の中、言質を得たシュラはニヤリと笑い、立ち上がって歩きながら、

「それで・・・お父様。二十年間 放置されていた あたしですけど、その間の誕生日や祝い事 それと月々のお小遣い・・・を!耳を揃えてお支払いいただきたいのです!認知された以上、娘としては請求する権利はありますよね?」と、言い終わった時ににはファウストの後ろに回り込み、抱き着いた。周りから見れば愛情表現だが、付き合いが長いルゼッタは「逃がさない為だ」とわかった。


「おお!そうであった、そうであった。シュラには、その話をしようと思っておったのだ」ファウストは自らの頭を叩き、目を丸くしてゼイターを見た。


 ルゼッタは、連邦の姫であったが、幼いうちにタイタン城塞のアジールに預けられたため、それほど贅沢な暮らしをした記憶はない。勇者人間養成所を出てから、数年 王都でマナーや武道を学び、多少は姫として扱われたものの、二十年の総額は金貨500枚くらいだとはじき出した。

(でも、シュラさんの事だから金貨2000枚とか貰えると思ってるんだろうなぁ。すっごく期待してる顔だし)


「お父様・・・、ちゃんと考えてらしたんですね」シュラは機嫌よく体を左右に揺らして、ファウストの言葉を待った。


 ゼイターは、ルゼッタと同じ結論のようで、

「王族とは言っても、連邦は一旦他家へ養子に出して、あえて贅沢はさせないのは、知ってるな?アレックスのように。だから、金貨何千枚などと期待はせんことだ」可愛い妹を傷つけないよう、言葉を選んだ。


「え~!?そうなのぉぉ~」シュラは甘えた声で、ファウストを揺らす。


「ガッハハ、困った娘よのぅ」笑いながら、ファウストはシュラの腕をほどき立ち上がった。



 取り巻き連中は、何かを察して「ご馳走様でした」と言い残し、足早にギルドを出た。


 シュラが「何だろう?」と、彼らの背中を見ていると、


「すまん、お前が二十年寝ているうちに時効になって、請求権は消失しているんじゃ」ファウストは太い手でシュラの肩をガッシリ掴み、言い聞かせた。


「アレ?難しい言葉でわかんないや。ルゼッタ、どゆこと?」身動きできないシュラは、青ざめた顔だけルゼッタに向けた。


「え~とですねぇ・・・、簡単に言うと 期限切れで払う必要がない。つまり、払わないっと言ってます」なんとも気まずい役回りのルゼッタ。


 彼女は・・・言い終わると逃げた。


「はぁ~?・・・いや、ならソドムに養育費払えよ!」絶望しつつも、今度は顔を紅潮させ食い下がるシュラ。


 対するファウストは動じることなく、ヤレヤレといった感じで、

「それも、時効なんじゃ。ソドムから教育されていると思うが、順法精神あってこその国家。わし自らが破るわけにはいかんのだ。そもそも、国王でなくなった儂に金などないわい!な?息子よ」と、開き直り 息子を巻き込むファウスト。これが、この男の図太さと老獪《ろうかい》さなのだ。


 ゼイターは、これからの展開を重々承知していて、何も言わずにスタスタと逃げ出した。


 あとは、「戦」の一文字のみ。

 

 震えるシュラの肩から 怒りをビンビン感じるファウスト、つい実の娘であることを忘れ、肩を外さんばかりに力を入れていた。実際、これで宮廷魔術師の肩を外してしまったことがあるので、今回もやりかねなかった。


 シュラは逆に「ドチャり」と崩れ落ちる程 全身の力を抜いて、野獣の手からスルリと脱し、


「なんてね、冗談だよ冗談。あたしにとっては、親 兄弟がいるってわかっただけで十分。そりゃ、お金は欲しいけどさ・・・あんま使い道ないんだよね。その辺はソドムに影響されたのかも・・・、ルーラも生活費あればいいタイプだしさ」と、イタズラっぽく笑った。ただ、みんなをビビらせたかっただけのようだった。


「こりゃ参った。・・・だいたい儂ら冒険者は金にならない無益な戦いはせん。まして、かわいい娘を殴るはずなかろうて。それにしても、さすがはソドムが育てただけがある、いい子になってくれた。アレックスも随分とまともに育ったしのぅ」一本取られたファウストは、腰の皮袋を無造作に取り、シュラに渡した。


「なによ?」今更なので、期待もせずに受け取るシュラ。

(ん、さっきの朝練で普通に殴られたんだけど・・・まあいいか)

 が、意外とズッシリしているので驚いた。話の流れから ぬか喜びになる可能性があったので、恐る恐る中を見た。


「うぉ!金貨じゃん!親父、貰っていいの!?」大喜びしながら、一応は確認を取るシュラ。重さからして何十枚はあるだろうと思った。彼女は、確認取りながらも両手でガッチリ掴んでいることから、絶対に返す気はないのだろう。


「足りんかもしれんが、今までの小遣いだ」と、目を細めるファウスト、なんだかんだ娘に甘い。人間ほど顔の筋肉が発達していない為、感情表現は目が主体となっている。


「も~、サプライズはソドムだけで十分だよぅ。それにこんな大金貰えない。ソドム達といると面白いし、お金もかかんないからさ。それに、今日からバイトでガッツリ稼ぐんだ」と言って、金貨一枚だけ貰って、皮袋を返した。


「裸になるバイト・・・と小耳に挟んだが、そんなことせんで、この金を受け取ればいいじゃろう?」娘の無欲に驚き、つい頭を撫でるファウスト。

(何かにつけてソドムソドムソドム。よほど好きなのだな。あの男は、したたかで強く・・・なにより、仲間を大事にする。嫁ぎ先としては優良物件だな。しかし、気難しい あの冴子までソドムと結婚するとは、世の中わからぬものよ)


「い~の、自分で稼いだお金で、みんなに奢るのがいいんじゃない。裸って言っても、紐パン穿《は》くからギリ問題ないし」と、局部のラインを手でなぞって見せた。


「・・・そうか、まあよい。ならば・・・今度、どこぞであった時は思う存分奢らせてもらうとしようか。ガッハハ」身を削ってでも家族を思う姿に、心打たれたファウスト。とても幸せそうであった。


 金と権力があるものは、欲がない者を逆に好む傾向があったりする。「お金ちょうだい!」と群がる者より、清貧な者を応援したくなる・・・そんなところだろう。


「そうする。あと、本気の戦いは いつか敵同士になった時までとっておくよ」


「ネオギオンに属している以上、それはないだろうがのぅ。まあ、戦いになった時は全力で相手してやろう」


「だね、お互い戦うの好きだから・・・」二人は拳を合わせてから、ギルドを出て行く。



 詰め所では、非常事態で叩き起こされた聖印徒たちが、臨戦態勢で仲裁のタイミングを窺っていたが、災害級の戦いが回避されたので、安堵して武器をしまい、モーニングを食べるために、酒場にワラワラと向かう。

 彼らからしたら、よそ者で 厄介事を引き起こすプラチナランクのガーターズには退去してもらいたいのが本音であった・・・怖くて言えないが。


   ~ アクシー郊外 ~


 正午前、アクシーの街・治安圏外 雑木林にルゼッタの姿があった。ギルド関連ではなく、個人的な目的で、人気《ひとけ》のない場所に一人で来ていた。


 何となくルゼッタの行動を予想していたレウルーラは、【遠見の平面水晶】を使い彼女の動向に目を光らせていた。そして、街を出てしばらく歩き、針葉樹に背を預けている彼女を見つけ出し声をかけた。


「ルゼッタちゃん、な~にしてんの?」と、木陰からヒョッコリ顔を出す。


「ひゃ!こここ、これは、違うんです!実験ですよ、実験」一人でよがっていたルゼッタは驚き、慌てふためいて宝物である【魔神のランプ】を落としそうになりながらも、必死に言い訳をしていた。


 レウルーラは、しばらく じぃ~と見ていたが、ニコッと笑い「わかってるわよ、発動条件の確認をしていたのよね」と言った。


「もう・・・意地悪しないでくださいよ」魔神ソドムを召喚する練習だとわかってくれていたことに、ホッとするルゼッタ。

(目撃者がガーターズで良かった。傍《はた》から見たら、森で一人 ペンダントを擦り付けたり、股に挟んだりしている ただの変態ですからね・・・)


「あっ、親子喧嘩はどうなりましたか?」


「聖印徒からは、無事和解したって聞いたわ。たぶん、みんなをからかっただけよ、悪いとこだけソドムに似たの」


「良かった・・・。正直、ハラハラしましたよ」

(なんて迷惑な・・・)


「ねぇ、それ貸してちょうだい」そう言って、レウルーラは改めて魔導具を手に取り、魔力探知や鑑定魔法で調べ始めた。


「これは契約者でないと発動できないみたいね。しかも、必要魔力はチャージ式。わたしが魔力をこめる訳にはいかないから、肌見放さず じわじわルゼッタちゃんの魔力を吸わせるしかないみたい。どのくらいでチャージが終わるかわからないから、前回みたくピンチの時だけ使うことをおすすめするわ」と、アドバイスした。


「ありがとうございます!それで・・・発動条件はぁ~?」礼のあとに俯《うつむ》きぎみななって、モジモジしながら質問するルゼッタ。

(でも、チャージが足りないなら、動作確認はできないか)


「あ〜、残念ながら私には分からなかったわね。スウィートに戻ったら冴子ちゃんに見てもらいましょう!それまでは、変なことして発動するしかないわね」


「わ・・・かりました」


「まあ、冴子ちゃんに渡すと、斜め上の結果になりかねないけど」


「あははは、なんとなく分かります」ルゼッタは伝え聞いた冴子の狂魔術師《マッドメイジ》ぶりが頭に浮かんだ。


「ともかく、この無法地帯から出ましょ」と、レウルーラはルゼッタの手を引いた。


「そ、そうですね。弱体化したとはいえ、修羅国《シュラク》は脅威ですからね。すいません、私のために危険な場所に」ルゼッタは、レウルーラと共に走って街へ向かった。

 走りながらルゼッタは、

「それにしても、凄い旦那様を捕まえましたよね、レウルーラさん」


「ありがと。今はだらしなく寝てるけど、いざという時は必ず仲間を守る頼りになる人なの。なんだかんだ優しいから、慕ってる民を見捨てず冒険者に成り下がってるし」

(確かに、優しくて金策上手、先見性もある…夜も強く、今では再び力を取り戻した最高の伴侶だわ)


 当初、ソドムを嫌悪していたルゼッタが、崇拝?に近いほど好印象になったことが嬉しいレウルーラ。何かご褒美をあげたくなり、金銭ではなく体験をさせようと思いついた。


「ねぇ、しばらくシュラちゃんがいないから、操船とか大砲の試し打ちしてみない?」


「え〜!よよよ よろしいのですか!?カッコイイな、と見てたんですよ。それに船では私の仕事が少なくて落ち着かなかったもので。失われし技術、火薬を用いた大砲も是非使ってみたいです!」息を切らしながらも はしゃぐルゼッタ。

「でも、勝手なことをして、ソドム様にしかられませんか?」


「大丈夫、他勢力相手に喧嘩売ったりするわけじゃないからね。あくまでも操船・砲撃練習なんだから。それに、私とソドムは対等な関係だから、叱られたことないわ」


「なるほど。あ、船の動力はソドム様の溢れるほどの魔力では?」


「あ〜、三十分くらいなら私の魔力で動かせると思うわ。それと、様はいらないわよ、民以外からはソドム卿って呼ばれるのが好きみたいよ」


「ソドム卿…ですね、そうします」

(楽しみだな~。それに本当のパーティーになれた気分で嬉しい)

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