赤紫備えのサムライとハーピー
かつての侵略者・大和帝国。人口増加の歪が社会に暗い影を落とし始めた頃、臣民の目を外征に向かわせ、土地と食料を得ることで一挙に問題を解決しようとしたのが、三十年前の侵略戦争だった。
極東の島国から来た侵略者は、大陸の人間より体格が劣っていたが、将の作戦能力と半農である雑兵の数で戦を優勢に運んだ。
征服の途中、竜王のナワバリを侵害したため、熱烈な歓迎を受けて数万の犠牲を出し、続く連邦との決戦に破れたため、得た領地は不毛な大陸北東地域のみであった。当初の思惑と違い、貧しい土地に大兵力を駐屯させることになり、逆に本国から食料支援を受けねば戦争を継続できなくなった。
大陸では、人間と竜王・悪魔王・大天使が棲み分けていることを知りながら、その力量を見誤った結果であった。もし、竜王を尊重していれば歴史は違っていたかもしれない。
大和といえば侍…、武勇のみならず、魔法もつかう戦のスペシャリスト。戦場では雑兵を束ねる小隊長としても活躍した。
大災害後の混乱期、帝国が霧散した中、サムライ達は月山氏を盛りたて、旧大和帝国民を守るために刀を振るった。
アクシー港を拠点にした月山氏は、食料と女を奪いに来る賊を追い払いながら、近隣の魔神とその眷属を駆逐し、勢力を拡大した。
その過程で、飛翔能力があり意思疎通できる亜人・鳥人と同盟を結んだ。これにより、索敵範囲が広がり、賊に対して迅速に対処できるようになり、治安は安定した。
鳥人とは、腕に羽根があり、足首から先は猛禽のように鉤爪がある亜人で、ぱっと見は人間と変わらない。
人間と鳥のいいとこ取りのような種族だが、鳥に比べ筋肉や骨密度が人間寄りなので、その重さゆえにドラゴンなどと同じく魔力によって浮遊力を補って飛ぶため、鳥ほど長く飛べない。
また、人間の長所である武器・道具を操る【手】は、羽根と一体化してるため羽ばたきで忙しく、武具を持てない。仮に空中で弓を構えても、その間羽ばたきが止まり、落下して狙いが定まらない残念さがあった。
最弱の亜人、それがハーピーである。
時は流れ、冒険者ギルドの台頭により、人間同士の不毛な戦いが増えたため、月山氏は思い切ってギルドを受け入れ、アクシーズと名乗るようになる。
人間と争わずに済むため、その余力を高波が治まった海に向けた。海が穏やかになり、漁業・海運業が息を吹き返したはいいが、同時に海賊も復活したのが問題であった。
相手は海戦の猛者、サムライを船に乗せただけで勝てるほど甘くはない。
ハーピーによる索敵ができても、船での戦いを得意としないサムライの助けとしては いまいちで、初戦は手玉に取られて敗北した。
敗戦で失意の中にいた月山九兵衛玲子は、ある時 何気なく隼の狩りを見て「ハーピーも同じような急降下攻撃をしたら・・・」と、思った。
しかし、それでは槍で迎撃されて死傷率が高いと思いなおし、急降下してアルコール度数の高い酒を投下して、同時に魔法で着火すれば、火災を引き起こして敵を混乱させることができる、と閃いた。
帆船ならば、火が燃え移れば死活問題、そうでなくとも消火しないと船が沈むので敵戦闘員を減らすことが見込めた。
あとは、訓練あるのみであった。ハーピーの戦士たちは、急降下から離脱するまでの練習と、技術供与としてサムライが火礫を教えて、その発動訓練を日夜行った。
生存競争を勝ち残るために、才能のあるなしは言ってられない。サムライが扱う魔法は、魔術師でいうところの初級魔法なので、根性で覚えてもらうのがアクシーズの方針であった。
その甲斐あって、アクシーズはハーピーを乗せた船団を結成して海賊を壊滅させ、ギルドの依頼も海ルートを活用して安全に急行し攻略するスタイルを確立させた。
地盤が固まったアクシーズ。月山玲子は、他の派閥を叩いて版図を広げたいと思い始めていた…その矢先、竜車アレキサンドリアがシマに入ったという報告を受けて小躍りした。同時にアクシー港に帆も櫂もない変な船が寄港していると報告があったが、それは黙殺している。
「タイタンズ本隊がノコノコ現れたか!不倶戴天の連邦が我が庭先に来るとは、なんという僥倖・・・。奴らの狙いを探り、殲滅してくれる!」レイコは、そう言って部下を集めた。
そして現在、根気よく地中で待ち伏せて、タイタンズが疲弊したところを包囲したのであった。
「者ども、掛かれぇ~!!」黄金造りの太刀を抜き、号令をかける月山九兵衛レイコ。
(魔神討伐の手柄などいらぬ、欲しいのはジオルドの首一つ!)
それに応え、赤紫備えのサムライ達が包囲の輪を縮め、ハーピーが地竜に殺到した。
いや、一体だけがガーターズ目掛けて急降下して、地上5mで得意の酒瓶を投下した。すぐさま鳥人は、急浮上しながらシュラに火礫を放つ。
アクシーズにとって一番危険なのは地竜、次にチビドラ・戦士シュラだ。
地竜には鳥人が集団で視界を遮り 攻撃されそうなときに散開し、また視界を塞ぐことで時間を稼ぎ、シュラには火攻で無力化を狙い、その間に最大の目標であるジオルドを殺す作戦であった。
あとは、ヤバい連中をまともに相手せず、私闘時間の終わりを待てば作戦終了なのだ。
「あ・・・」瓶が割れて飛び散った酒に火が付いた。「あちゃぁ~!!」と叫び、火だるまになった鳥人。
まさかの・・・宙を駆け上がったシュラに瓶をキャッチされ投げ返された。「ごめん!つい投げ返したぁ!」と、惨状に驚いたシュラが空中で謝る。
真下にいたルゼッタは、焼鳥が落下して来たので、大楯を斜めにして受け流した。傾斜をつけることによって衝撃が和らぎ、鳥人としてもまともに鉄板に当たるよりはダメージが少なくて済んだ。
続いて着地したシュラは「ん、焼けた匂いが・・・美味しそう」と呟き、それを聞いたルゼッタが「確かに・・・って、何言ってるんですかシュラさん!」と叱った。
(さらに危険な状況になった。ただの兵なら問題ないが勇者人間である近衛騎士とサムライ相手では、シュラさんがいても勝てはしない。それに地竜までいるんでしたね・・・)
奇襲が失敗したので、サムライ数人がガーターズに迫り、このどさくさに政敵を葬ろうとクインが巨大弩をルゼッタに向けた。サムライと交戦し始めたら、クインの弩をかわすことはできない。
百識が再度ルゼッタに忠告しようとした時、ルゼッタは【魔神のランプ】を股に挟み込んで擦り、魔神の召喚に成功していた!
ティーポット型のアーティファクトから白い煙が噴き出たかと思うと、ルゼッタの周りに拡がり・・・やがて収縮して形を成してゆく。
煙が晴れると、そこには魔神が佇んでいた。
それを見たジオルドは豪快に笑い、シュラは怒り、レイコは恐れた。




