敵の敵は味方じゃなく、やっぱり敵?
閃光でシュラを見失ったジオルドと近衛騎士は、雄叫びが聞こえる空を向いて思った。
「白か・・・」
頭上2mには、黒いミニスカートがめくれ、ガーターベルトと白いショーツが丸見えのシュラがいた。
「奥義・天空捲覗断罪剣!!」
シュラは、落下しながら技名を叫んだ!
一瞬ではあるが、シュラの尻と太腿に意識を持っていかれたタイタンズは、僅かに対応が遅れた。
達人同士の真剣勝負は、一秒に満たぬ隙でも命取りになりかねない。
ただでさえ初動が遅れたのにジオルドの真上を取られてしまい、正面に降り立つのか、背後を取るのか予想がつかず、右往左往するタイタンズ。
まるで駆け出しの冒険者が、強襲されてオロオロしているかのような醜態を晒す羽目になった。
「どのような手段で高く跳べたのかは想像はつかないが、今さら着地点は変えられない以上 戦いで飛ぶのは悪手」と、冷静に思い直した彼らは、ジオルドの裏を取ると確信した。
歴戦の兵であるタイタンズの立て直しは早い。
暗黙裡に、着地したシュラの背後にいる者が剣で突き、あとの二人が斬り伏せる、という作戦で構える。
シュラは横に防壁を張り、それを蹴って軌道を変え、着地を狙っていた騎士の後ろを取り、剣を振り下ろす。
空中で軌道を変えるという、人間にはできない まさかの行動に、騎士は受け流すことができず、背中を袈裟斬りされた。
稲妻(見た目だけ)が彼を襲い、魔剣ゾルディティンは鎧のない箇所に深手を負わせ、毒と火を付与した。
戦闘不能になったわけではないが、傷の治療だけではなく解毒と消火が必要なため、一時的に戦力外になってしまった。
近衛騎士が比較的軽装備なのは、素早く強力な斬撃を繰り出すためで、致命傷だけ避ければいいという思想に基づく。戦闘が継続できないほどの傷を負ったら、勇者人間の特殊魔法【帰還】で離脱すればいいのだから。
ただ、今回はダンジョン攻略が目的だった為、帰還先がダンジョンの入り口・・・つまり、ココに設定してしまったということが問題であった。
いつものように逃げれない・・・というのは、精神的負担であり、最悪の事態がタイタンズの頭をよぎった。
シュラは躊躇なく魔剣を手放し、トカゲのように四つん這いになり、もう一人の騎士に素早く這いよって、蛇のように体を巻き付けたかと思うと、騎士の効き手首を両手でむんずと掴んだ。ジオルドは援護しようと王杓を振り上げたが、密着されているので手出しができない。
シュラは、立ったまま抵抗する騎士の腕を太ももで挟み込み、そのまま力いっぱい腕をネジリ折った。そして、騎士が倒れる前に素早く離れ、魔剣を拾ってジオルドに向けた。
「チェックメイトってヤツ?ルゼッタの覚悟を甘く見たわね」
「覚悟!?あんな下品で卑怯なマネがか?」
(にしてもこの女、高く跳び、軌道も変えられるなどバカげている。だが、一撃受けて、接近戦になれば力がものをいう・・・そう考えれば脅威ではない)
「アハハ、勝てばいいのよ勝てば。ソドムっぽく言うなら、武略ってヤツね。だいたい、女の色気に惑わされるなんて修行が足りないのよあんた達」あきれたように両手を挙げる仕草をするシュラ。
ジオルドは視線を落とし、ほんの少し沈黙して
「武略か。勝つためには何でもする、確かに間違いではない。負ければ全てを失うからなぁ!ならば、お遊びは終わりにしようか・・・」そう言うと、ジオルドは王杓を上に掲げて【聖光】を唱え、先端の十字架に光を付与して、宙に大きく弧を描いた。
一瞬の閃光をシュラは腕で防いだ。
「何それ、アハハ。芸がないわねぇ。同じ手がコッチに通じるわけないし」と、シュラは笑った。離れているルゼッタは、チラリと気の毒そうに兄を見た。ジオルドは、「おめでたい連中だ・・・」とだけ言った。
「あっ!」ルゼッタは何頭かの蹄の音が聞こえたので、その方向に目を凝らす。
(不味い、援軍か!?)
シュラも、その方向を見た。土煙を挙げながら数騎が接近してきているのが分かった。
(あっちゃ~、まだ手下がいたのかよぅ。ちとヤバいかな)
騎馬に囲まれることを予想したシュラは、現実的な一手として、ジオルドを牽制しつつルゼッタと合流し、互いの背中を守ろうとした。
「理解したか?貴様ら資金難のネオギオンと違って、こちらは自領から資金調達出来るゆえ、人件費を気にせず行動できるのだよ。そもそも、パーティーに人数制限はないからな。冒険者同士での戦いも想定されるダンジョン攻略に、二人で来るなど狂気の沙汰。我がタイタンズは、個々の強さはもちろん、潤沢な資金力があるからこそ、最強の派閥なのだ」と、ジオルドは左手を広げ勝利宣言のように語っている。
シュラは危機的状況ながら、「儲けを度外視して人件費じゃぶじゃぶ使うなんて、ソドムだったら気絶するね」っと思った。
騎馬が現れたタイミングで後退したクインが、
「アレキサンドリア様、ご加勢お願い致します」と慇懃に地竜の参戦を願い出た。
小さき者のチャンバラには無関心で、目を閉じて休んでいた地竜だが、主であるジオルドの仲間からの要請は無視できず、重い腰を上げて敵と目される小娘たちを見た。
(話の流れから、あれはジオルド様の血族。はたして焼き払って良いものやら)
「しまったぁぁ~!コイツの存在忘れてたぁぁぁ!!」と、シュラは内心は絶叫しているが、左手を腰に当て「ついに動くのね・・・」と言わんばかりの虚勢を張って見せた。
「ここからが本番ってところでしょうか・・・」ルゼッタは、まだ余裕があるシュラが傍にいるためか、絶望はしていなかった。
(ブレスは、シュラさんの防壁と私の盾でしのげるとしても、あの巨体での物理攻撃は厳しいですね。地竜の弱点を狙おうにも、タイタンズと同時に戦うのは不可能・・・)
味方である騎馬がジオルドの下に参集したので、
「どうだ、もはや勝てぬとわかったであろう。おとなしく武器を置け、今なら健闘を称え・・・討伐報酬の配分には色を付けてやらんでもない」と、ジオルドは降伏を勧めた。
(こんな狂犬を相手にして無用な損害が出てはかなわん。影王とシュラは金で転ぶと聞いたことがある。命はとられず、金が手に入るとなれば、ルゼッタをコキュー島に流すくらい気にしないだろう)
「ハッ!舐められたもんね。家族を金で売る?ふざけんじゃないわよ!」と、啖呵を切ったシュラ。
(しまったぁ~!反射的に断っちゃった・・・。別に殺されないなら、お金貰った方がよかった?)
ルゼッタは、初めてガーターズへ加入しようとした時、箸にも棒にも掛からなかったことを思い出し、共に過ごした今では家族と思われていることに感動した。
(シュラさん・・・。お金が大好きな貴女が、私を優先してくれるなんて!)
「・・・そうか、残念だ。ここからは、貴公らを一流の戦士と認め、本気で戦わせてもらう!覚悟しろ!」そう言うと、ジオルドは王杓を高く掲げた。
彼が王杓を振り下ろせば、それを合図に地竜がブレスを吐き、騎士が突撃するだろう。
万が一、ガーターズが耐えた場合の為、クインが竜車の上に備え付けてある巨大弩を向けていて、槍ほどの大きさの矢を放ち決着をつける手筈であった。
この連携攻撃は対巨大生物用であるため、隻眼巨人や飛竜といえども無事では済まない。ましてや、人間では・・・助からないだろう。
完全に追い詰められたと感じた百識は、離脱するか迷っていた。
カブトムシ並のコンパクトな姿で暮らし、力を蓄えてきた百識。今なら一時的に本来の姿に戻ることができた。
といっても、大きなカブトムシになるだけだが、スタグビートルと同じ馬車くらいのサイズに変身すれば、娘二人を乗せて逃げることはできる。しかも、全属性の耐性があるので、止められるものはいない。
ただ、一つ問題があった。完全に力を取り戻していないので、その姿は五分くらいしか保てないと思われた。ルゼッタの時計を見るに、私闘時間はまだ十五分はある。
(困った・・・。こやつらが、邪神のようにトークで繋いでくれれば、無事に逃げきれたものを。後先考えずに挑発に乗りおって・・・。いや、待てよ!あったではないか、逆転できる伝説魔道具がな)
『おい、小娘!あの伝説魔道具を使うのだ!』
「急にどうなさいました!?金カブ先生」ルゼッタは、百識の意図が分からず、左乳首に止まっている金色のカブトムシに聞き返す。
百識が近場にしか届かない心話を使っているため、事情を知らないタイタンズは、ルゼッタが おかしな言動をし始めたと受け取って、少し哀れみ攻撃を踏みとどまった。
『どうなさいましたではない!照明代わりに使っている【魔神のランプ】の出番だと言っている』
「あっ、あの擦っても魔法の灯りしか効果がなくて、魔神が出てきたことはないです。おそらく、契約を結んだ魔神がいないから…というのが冴子様の見解でした」
『ふむ、それはおかしい・・・。自然に発動しないように、ひねりがあるかもしれん。胸の谷間やワキに挟むなど試してみろ』
「そ、そんなことできません!」
『ごちゃごちゃ言ってる場合か!?このような伝説級のアイテムを創るようなヤツなど、狂人と相場が決まっている。あらゆることを試してみよ!』
「そうだよ、それで助かるなら安いもん。やってみ?」と、目を輝かせて迫るシュラ。
(金カブ先生がここまで言うんだから、魔神とやらが出てくるのは間違いない。フヒヒ、勝ち誇ったジオルドが悔しがるのが目に浮かぶわぁ)
「え、え~」なかなか煮え切らないルゼッタだが、観念したのか斧槍を左手に持ち替えて、ティーポット型のペンダント【魔神のランプ】を手に取った。
(勝つことへの執念・・・でも、なるべくなら変な擦り方はしたくはない。まずは胸の谷間で・・・)
しょーもないやり取りを打ち破るように、どこからともなく、「ポゥ!」と火の付いた鏑矢が飛んできて、ガーターズとタイタンズの中間地点に突き刺さった。ということは、賊ではなくギルド冒険者からの宣戦布告である。
両陣営が防御態勢をとり、辺りを見回すと・・・およそ100m先に鏑矢を放った聖印徒が旗を靡かせ立っていた。
そして、何もないはずの荒れ地から「ムクり」と、武装した兵が土埃を払いながら立ち上がり、空には五体の鳥人が旋回している。陸空合わせて二十はいると思われた。
よほど自信があるのか、彼らの大和鎧は目立つ赤紫で統一されていて、リーダー格の鎧だけカラーリングが逆で 白に一部赤紫なので、更に目を引いた。
※鳥人とは、人間の腕部分に羽が生えたような亜人で、足首が猛禽のような鉤爪になっている。
繁殖力・筋力が人間より劣るため覇権を争えず、大陸中央の竜王山脈でひっそり暮らしていたが、大災害で山脈が崩壊しため、下界各地に散っていた。
その鳥人の一部族であるガサ族は、大和帝国残党である月山出羽守の子孫と同盟を結び、アクシーズに参加していた。
「ぬう、囲まれたのか!?」ジオルドは、クインに尋ねた。
見晴らしの良い、竜車の上から敵の全容を見ることができ、
「はい、赤紫の旗に金の蠍・・・アクシーズ本隊です!!」と、敵対派閥に包囲されていることを伝えるクイン。
(これだけの人数が迫って我々が気が付かないわけがない)
「これは・・・最初から、待ち伏せていて我らが消耗するのを待っていたようだな。実に根気強い連中だ、ゆえに油断ならん」憎々しげに敵リーダーらしき者を睨むジオルド。
ちなみに、土に潜伏していた部下が、人知れず地竜に潰されていて、内心イラついているアクシーズ・月山九兵衛。
「我らアクシーズは、タイタンズとネオギオンに決闘を申し込む。卑怯と言ってくれるなよ、そもそもパーティーに人数制限はないからな!」と、口上を述べた。
仮の王冠をかぶっている筋骨たくましい男がジオルド、赤髪の女戦士がシュラだと一目でわかった。
(コキュー島で凍死したのかと思っていたら、生きていたのか百人斬りのチビドラめ!)
月山九兵衛レイコは、大和帝国の大陸侵攻軍総督の孫娘で、大災害で本国が滅んだ後に、大陸での帝国残党をまとめ上げ、亜人と協力して北東部に影響力を持つようになった。
名前の九兵衛は歌舞伎の屋号みたいなもので、本名は玲子という。歳は三十前で未婚、長い黒髪は後ろで束ね、口元に紅を塗る程度しか女らしさを出さないが、シンプルさが逆に魅力的であった。冴子とは、かなり遠いが親戚。
盾は持たず、代わりに大和鎧の肩部分が二の腕を包むように大きい【盾無鎧】を着込んでいる。
武器は代々伝わる黄金造りの太刀、祖父がシュラの金剛聖拳を受けきった業物である。
その祖父から「大将が率先して戦うなど、匹夫の勇」と繰り返し言われているので、訓練以外で抜いたことはなかった。
ジオルドは不敵に笑い、
「卑しい連中め!金の匂いを嗅ぎつけて現れおって。だが、わざわざ潰しに行く手間が省けたわ!」と、殺す気満々であった。
「うちのシマをのそのそドラゴンが歩いていれば気づくだろ!?こんな辺境まで来てシノギを奪うとは・・・強欲なのはそっちだろう!」売り言葉に買い言葉の九兵衛たち。
シュラは能天気なもので、
「お~、キュウちゃん久しぶりぃ!昔は毎日遊んだもんだよね、元気してた?」と、命乞いするわけでもなく、友好的に返した。
二十年前、押しかけ女房としてソドムに嫁ぐため、九兵衛の祖父・月山出羽守七兵衛の養女という形をとったシュラ。
花嫁修業として帝国領に三ヶ月滞在した際、当時 少女であった九兵衛レイコと、寝る前に戦闘訓練やったものである。
「あれが遊び?」声に怒気が混じるレイコ。
(毎日、寝技の練習とサンドバックにされてきただけなんだけど!)
孤児だったシュラが養女になり、ソドムに遊んでもらったことをレイコにやっただけで、イジメてるつもりはなかった。
が、イジメられたほうの記憶と恨みは残るのだ。
「そうね、みんなまとめて殺んであげるわ!」
タイタンズ聖印徒のクインは、互いに殺し合いを望んでいることを確認したので、ルゼッタと共に「ピー!」と笛を吹いた。
(残り時間は十分弱、人数では負けているが、練度はこちらが勝り、地竜もいる。殿下のおっしゃる通り、捜しに行く手間が省けたというものだ)




