戦いの系譜 影王の願いと光の勇者
「えっ!挑戦を受けちゃうの!?」
「嘘だろ、そこは一旦離脱して戦闘避けろよ・・・」
遠見の平面水晶で、ガーターズの様子を見ていたソドム・レウルーラは驚き呆れていた。相手は五人、しかも勇者人間養成所上がりの猛者揃い。
連邦の王族だから、殺されはしないと思うが、何らかのペナルティは覚悟しなくてはならない。
「今から助けに行っても間に合わないし、どうしよう」レウルーラは頭を抱えた。
「まさかとは思うが、俺が教えた光魔法で劣勢を覆そうとしているのか・・・。だが、今のルゼッタなら・・・あるいは」前のめりになっていたソドムは、少し冷静になって姿勢を戻した。
「それって、どんな魔法なの?退魔や回復以外に強力な魔法はない印象なんだけど」
「・・・勝利への執念がルゼッタを覚醒させるかもしれん。今は見守るしかあるまい」と、はぐらかすソドム。
しつこく聞けば答えるだろうが、あえて聞かない方が面白そうなので、レウルーラは「そうね。最悪、陛下が何とかしてくれるでしょうし」と言った。
(想定外の展開が来る予感がするわ。ホントに、この人といると飽きなくていい)
矛盾を知ってるか?などと叫びながら突進してくるシュラを見て、「最強の盾である防壁を展開できる【改心の王杓】を前にして、何を言っているのだ?」とジオルドは思いながら、迎撃態勢をとった。
(いや、見た目に惑わされてはいかん。ただの小娘ではなかった!)
彼にとっての叔母・シュラは齢40のはずだが、見た目は20歳そこそこの娘のままで、動きも俊敏であった。影王ソドムとて、とても60歳とは思えぬ若さがあったことから、シュラは人間ではないことを理解していた。また、聖印徒クインから、ソドム・シュラ両名は物理耐性があるのか刃物が通らないと報告を得ており、おそらく人間と吸血鬼の中間のような存在・魔人ではないかと予測していた。
それに加え、バジリスクの尻尾や死骸から察するに、身体能力と魔剣の威力は脅威であった。
(まずは凌いで、反撃は巨人殺が発動してからだ)
ジオルドは近衛騎士と自分の気を引き締めるため、
「小娘と侮るな!竜だと思え!」と気合の入った声を放った。
一方、聖印徒クインと近衛騎士を相手にしていたルゼッタは、強化魔法を唱えるクインを妨害したかったが、斧槍を騎士に弾かれ、逆撃されたのを盾で押し返したところだった。
騎士との実力差は拮抗しているが、斧槍のリーチを活かせば勝機がある。だが、それには大楯を手放し、両手持ちに切り替えないと男相手には力で押し切れない。かといって、盾を手放すと、クインが詠唱を終えて参戦した時の対処が難しくなる・・・。
(このままでは、いずれ押し負ける。近衛騎士を前に攻撃魔法を唱える余裕もない)
チラリと、右側で戦っているシュラの状況を見るルゼッタ。
「うおぉぉぉ!!」シュラは両脇を固める近衛騎士には目もくれず、雄叫びをあげてジオルド目掛けて突進していた。
ジオルドは魔剣の効果を警戒し、王杓で受け流さず、防壁を展開する。
一瞬ガラスのような膜が張られたことに気がついたシュラは、激突直前に剣を納め、両手刀に金剛聖拳の気を集中し、諸手突きを繰り出した!
「猪突猛進撃ぃぃ~!!」シュラは閃いた技名を叫ぶ。彼女の中で忍者ブームは去り、思い付きの技名であった。
「パキッ」という乾いた音がかすかに聞こえたジオルドは、初めてながら防壁が破られたと気がつき、次の防壁を張った。
「矛盾ってのはなぁぁぁ!矛が勝つんだよぉぉ!!」シュラは防壁を突き崩していく。
本当に戦いを楽しんでいるシュラの顔が、ぐんぐんジオルドに迫る。
「これほど強引なアプローチは初めてだ」などという、どうでもいい心の声がジオルドに湧き出て、厳つい口元が緩む。
ジオルドもまた楽しんでいるのだ。
近衛騎士は、この大きな隙を見逃すはずもなく、両脇から「御免!」(横槍失礼します!)と斬撃を繰り出し、シュラの右肩と胴を斬った。
が、未強化の武器では かすり傷しか負わせられず、ダメージはないに等しかった。
二枚・三枚と防壁を張ってもシュラの突進は止まらず、最後は王杓で受けながら、後ろに尻餅をついてしまうジオルド。
ソドムの場合は、激しい連撃で防壁そのものではなく、魔力切れを狙ってきたが、打ち破って来るとは想定外だった。
(ぬう、本当に斬撃が効かんのか。それに手刀に宿すのは金剛聖拳か!?クインからは、蹴りで鎧ごと敵をぶち抜くとは聞いていたが、なるほど金剛聖拳となれば納得できる。しかし、一子相伝で 我が父すら継承していない神業。今では勇者ゼイターしか使い手がいないはず・・・。俺とて王杓の力を借りて、金剛聖拳の防壁を張るのがやっとだというに。影王め、とんでもない化物を飼っておる)
「いいぞ!さすがは勇者の妹だ、存外手強い!!」ジオルドは不敵な笑みで立ち上がり、防壁に頼らず戦うと決めて、肩を回した。剣技には自信があり、己の怪力をもってすれば、物理耐性持ちとて無事では済むまいと思っている。
攻めきれなかったシュラは、同じ手は通じないと思い、後ろにステップして距離をとった。
だがそれは、時間を稼ごうとしていたタイタンズの思惑に乗った悪手であった・・・。
クインの魔法は完成し、タイタンズの武器は青白い光を帯びる。これで、シュラの魔人であるアドバンテージは消滅してしまった。
魔法に詳しくないシュラでも、タイタンズの武器が光を帯びたのを見て警戒した。
(しくった!畳み掛けるべきだったか!昔、元神官戦士のドロスと戦った時、似たような魔法をかけた投げナイフで、痛い目に合ったからなぁ。相打ち覚悟で切り込めないなら、三人相手はキツいかな。少しでいいから隙ができれば、ジオルド狙いでなんとかなるかもだけど)
ルゼッタは、自分もシュラも形勢が不利だと知り、決断を迫られたいた。
「なりふり構わず勝利に執着するか」「被害が出る前に降参するか」
最善は降参することだが、勇者・・・いや冒険者として、強敵だから尻尾を巻くというのでいいのだろうか、という思いがある。
かといって、勝算のない戦いをするのは愚かなことだと、ソドムには口を酸っぱく言われてきた。
(でも、勝ちたい!シュラさんがあんなに頑張っているし、私も厳しい修行に耐えてきた。諦めからは何も生まれない、考えるんだ・・・彼らの強み・・・その逆の弱みを!)
付与魔法が完成した以上、ルゼッタは完全に二対一になってしまったので、斧槍を短く持ち、大楯での防御を優先した。
紺色の鎧に身を包む近衛騎士は共通して、調査聖印徒のように攻撃特化型なので、斬撃が凄まじい。
それに乗じて、クインが槍で無防備な足(全てが無防備だが)を狙って来る。
アイアンゴーレムと同じ素材の大楯は、よく耐えてルゼッタを守った。
(だが、このままでは負ける。勝つために・・・ソドム殿から伝授されたアレをやるしかない。いや、やる!!)
ルゼッタは戦いの最中、短い詠唱で済む魔法を唱え、発動可能な状態になってから、盾と斧槍を前に放り投げた。
「チッ、降参か!?今一歩で始末できたものを!」という、心の声は出さなかったが、舌打ちするクイン。
一度マントを閉じたルゼッタは、一転 勢いよくマントを広げガニ股になり、
「偉大なる神ホルスよ!!」と、ジオルドらにもハッキリ聞こえる声を出した。
大きな声も振り向くきっかけになったが、魔物相手でもないのに光魔法を唱えるのには違和感があり、「いったい何をするつもりだ?」と、つい注目するタイタンズ。
ガニ股になったことに恥じらいを覚えたのか、ルゼッタは両手で股間を押さえた。
男たちは本能的に彼女のエロ下品な姿に魅入ってしまう。
この世の支配者ともいえる連邦王国の王女が、それどころか近衛騎士達に淡い憧れ・・・禁断の恋心すら抱かれていた女性が、何をやっているのか?とタイタンズは思い、頭が真っ白になった。
しかも、スタイル抜群のハイレグレオタード姿なのだから、戦いを忘れ・・・目が離せない。
皆の注目を集めたタイミングで、ルゼッタは腰をクイッと前に突き出し、
「聖光!」と言って、タイタンズに手の平が向くように返し、魔法を開放した。
ほんの一瞬ではあるが、彼女の手から眩い光が発せられる!
これは退魔を専門とする神官戦士が使う魔法で、光で魔物やアンデットを怯ませ攻勢に出たり、その隙に退却したりするのに使う。
人間だと、あからさまにフェイントと見抜かれて、無視もしくは視線を逸らされるので効果は薄く、逆にこちらの隙が大きくなるので実戦では使われない。
が、そこに男の本能が絡めば話が違う・・・と、ソドムは可能性を見出した。ブロンド美女でスタイルのいいハイレグ娘が、露出から一転!Vラインを両手で隠せば、何やら更に見たくなるのが男である。
そうやって無理やり注目させられ、閃光により羞明をきたし、十秒ほど視界を奪われた。
光をまともに見たクインらは一時的に動きが止まり、距離が離れていたジオルド達ですら少し隙ができてしまった。
「痛っ!」同刻、ダンジョンから遠く離れた戦艦では、ソドムがレウルーラに叩かれ「もう!連邦の王女に何てことさせるの!?」と叱られているのは想像に難くないだろう。
敵を無力化させたルゼッタは、続けて【聖炎】を唱え、クインの白いマントに火を点けた。
聖印徒は、冒険を見届けるために、生存全振りの重装鎧を着込んでいるため、倒すのは困難である。そのため、とりあえず足止めを狙っただけで、これで倒せるとは思ってはいない。
この魔法は知性のないアンデッドに発火して燃やすものであるが、ボヤ程度の小さな火なので、生物に対して使っても、手で払ったりして消されて終わりなのだが、視界が奪われてる今なら燃え広がるまでは気がつかない。これもまた、ソドムから教わったセコい使い方であった。
魔法の次は、素早く武具を拾い 隙だらけの近衛騎士の腹に斧槍を突き刺すルゼッタ。首を狙う余裕はあったが、同郷のよしみで致命傷は避けた。
深手を負った騎士は、激痛で立っていられず、片膝をついた。
普通なら出血と痛みで悲鳴を上げてもおかしくない傷だがグッと堪え、戦力外になって尚、ルゼッタに圧力を与えるため、剣を離さなかった。
一気に形勢逆転されたクイン側と同じく、ジオルドも苦境に立たされていた。
「くぅ、悪辣な小細工を!やはり、再調整が必要だな!」ジオルドは目を閉じて頭を振り、見えにくいながらもシュラの動向を目で追った。
走ってくるのは見えたが、途中で姿を見失うジオルド。
「なにぃ!き、消えた!?」眉間にしわを寄せ、ジオルド達は必死に周りを見回した。
が、赤髪の娘は見当たらず「下か!?」と、足元を見るも枯草と土しかなかった。




