↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/70

意思を継ぐ者

 しゃにむにバジリスクを追うガーターズは、ついにその姿を捉える。バジリスクは、黄緑色の巨体でノソノソと地上を目指してるので実に見つけやすかった。

 おそらく、砂漠鰐などに捕食されることを恐れ、バジリスクに変化し直したのだろうが、それが仇になった。



「チャ~ンス!」後ろから奇襲するため、シュラは歩みを遅くし、そっと剣を抜いた。


 ルゼッタは地面にバジリスクの血がないことを確認していたので

「自分が回復させてしまったせいで、手こずるかもしれない」と思い直し、逸《はや》るシュラを引きとめた。


「な、なによ!今さらビビったんじゃないでしょうね?」苛立ちを隠さないシュラ。


 感情の起伏が激しいシュラには慣れているので、ルゼッタは気に留めず「まあまあ、焦らないで」という感じで宥《なだ》め、打開策を考える時間を稼ぐ。

(敵に塩を送った失態は仕方がないとして、傷が塞がったヤツを一気に畳み掛けるのは難しくなっただろう。急所である頭や首を狙えば、石化の睨みを食らうのは必至。とはいえ、石化のような強力な能力をホイホイ使えるとも思えない。おそらく、本当に追い詰められたときに使うはず)

 ルゼッタは、ふと バジリスクの特性を思い出し、倒し方を閃いた!

(敵のしぶとさ とシュラさんの性格を上手く利用する事が出来れば、勝機はある!切り札である石化を無駄撃ちさせて、致命傷を与える一手)


「そうではないです。実は・・・バジリスクには弱点があるんですよ」と、ルゼッタは耳当たりの良い言葉を紡ぎだした。


 ちょろいシュラは、即座に機嫌が良くなり、

「ホント!?どこ?どこ?教えて!」とせがむ。


「尻尾が弱点です。どうやら神経が集中しているらしく、剣を突き刺せば気絶すると聞きました」


「なんだよ、も~。大事なことは早く思い出してよね・・・次からさ」と、言いニヤリと笑うシュラ。それから、バジリスクに視線を戻すが、その眼光は獲物を狙う肉食獣のようであり、ルゼッタは「ここからは狩りに集中して、話を聞いてなんかくれないですね」と思った。


 シュラは剣を逆手に持ち 姿勢を低くし、ネコ科の猛獣のように獲物に近づき、絶対に仕損じない距離まで詰めてから、ダッシュした。


 走りながら前方に階段状に薄い防壁を展開して、それを駆け上がり、さらにジャンプして


「奥義・天空捲覗断罪剣《てんくうげんしだんざいけん》!!」と叫びながら腕の力と体重で丸太のようなバシリスクの尻尾に、剣を深々と突き刺した。


 稲妻が一瞬闇を払い、剣は尻尾を貫通して地面で止まり、バジリスクの傷口は紫に変色し、火も付いた。


「ギャオォォ!!」断末魔のような叫びをあげるバジリスク。


 尻尾に乗っかっていたシュラは、火が燃え移るのを嫌い、串刺しにしている剣をそのままにして後ろに跳んだ。

「どうよ!?一撃必殺だ!!」ルゼッタの方を向き、親指を立てて勝利宣言してみせた。


「あとは・・・止《とど》めに喉笛を掻っ切って終了だわな」と、言って振り向いた時にはバジリスクは逃げ出していた。


「えっ?あれ?」と、足元の尻尾を確認するシュラ。そこには確かに尻尾はあった。「どゆこと?」理解が追いつかず立ち尽くす。


「あ・・・トカゲの尻尾切りですね!まさか、こんな芸当ができるなんて!まずは、追いましょう!」ルゼッタは呆然としているシュラの腕を叩いて、走るように促した。


「そ、そうだ。追わなきゃ!!」シュラは我に返り、尻尾に足をかけて、両手で剣を引き抜いた。尻尾が焼ける臭いは、存外悪くない。

(弱点うんぬんは後回し。てか、この肉・・・食えるかな?だ、ダメダメ!まずは走らなきゃ)


 また追跡することになったガーターズ。血の跡があるので見失う心配がないが、知恵ある魔神なので今度は待ち伏せをしているかもしれないと思い、慎重に後を追った。



 

 窮地を脱したバジリスクは、なんとか出口付近まで辿り着いた。


 あとは洞窟から出て、人間の姿になり街に入れば逃げ切れる。

 そして、街でじっくり傷を癒してから洞窟に戻れば、世は事もなし・・・全ては元通りだと踏んでいた。


 今回はたまたま厄介な連中が同時に来たから苦戦しただけであり、本来は負けない戦いであったので、逃げ続ける気など更々なかった。



 バジリスクが地上からの光を見つけたとき、


「ゴラァ〜!待て、このメタボトカゲェェ!!」と、オールバックの赤髪娘が血相をかけて追いすがっているではないか。一気にケリをつけるつもりだから大声をあげてるのだろう、とバジリスクは思った。


「が、遅い…。戦っても負ける気はせぬが、相手をしている間に騎士共に合流されては厄介。ここは、予定通り外に出て人間の姿で隠れるが最善」そう決めたバジリスクは痛む体を顧みず、全力で走り外に出た。



 夕方とはいえ、外は十分に明るい。砂塵舞う中(自らの魔界陣のせい)、目を凝らすと、無いはずの小山があった。



 いや、良く見れば金色の瞳、牙と牙との間からは、チロチロと覗くヘビの舌のように、火を出している地竜《アースドラゴン》だった。




  挿絵(By みてみん)

 相手は二倍ほどの体躯があるため、バジリスクは本能的に石化の睨みを発動させ排除に掛かる。


 ノロい地竜は、避けることなどできず、まともに石化攻撃を食らった。


 が、岩状の外皮をした地竜は石化免疫があり、全く効果はなく、寝起きのあくびを兼ねて大きく息を吸うと、火炎欠伸《ブレス》を吐き出した。

 おそらく、彼にとっての最大級のブレスだろう。相手が一体であり、しかもカウンター攻撃だったため、大きく息を溜めて吐き出す余裕があった。



「ゴォォォ!!」という激しい音を出し、炎がバジリスクを襲った。


 炎に包まれたバジリスクは、悲鳴を堪えて自らの毒液を吐き出して鎮火を狙うも、二度目のブレスで、それが無意味だと悟った。



 そこにダンジョンから飛び出したシュラが横をすり抜け、前方に防壁を展開し、それを蹴って反転し、


「天空捲覗《てんくうげんし》断罪剣!」と言ってバジリスクの脳天目掛けて、必殺の飛び斬りを見舞った。


 バジリスクの頭上に稲妻が落ち、毒により紫に変色した傷口からは鮮血がほとばしり、さらには発火した。脳震盪で気を失ったために、叫ぶ間もない一撃であった。


 ルゼッタの目論見は成功した。元来はシュラと同じような脳筋前衛職に近かったが、修業の一環であるソドムとの座学で、魔物の知識や軍略を学んだため、敵味方の状況を把握して策を練り、結果的に勝つというリーダーの資質が芽生えたのだ。


 まあ、普段は直情的に動くクセがあるのだが、それは若さゆえに仕方がない。


「成敗!!」そう言って、ルゼッタは喉元に深々と斧槍を刺し、そのまま斧槍で気管と動脈を掻き斬った。見事な連携であった。


 首は急所であり、不死者《アンデッド》でないかぎり、大量出血と呼吸困難で必ず死ぬ。バジリスクは「ドサッ」と砂塵を巻き上げて倒れ、静かに息絶えた。


 地竜は敵対行為をしてきた者が死んだのを見届けて、また休眠体勢に戻った。



 白いマントとハイレグアーマーが、返り血で赤く染まったルゼッタ。

「勝った・・・」格上相手に勝てたのがピンとこないが、徐々に喜びが湧き上がってくる。ガーターズのセイントになり、厳しい修行を経ての勝利なので、嬉しさは一塩であった。


 後日談ではあるが、十年後 吟遊詩人に当時の事を取材されたルゼッタは、


「それは厳しい修行でしたよ。朝から魔剣士シュラさんとの稽古、魔術師レウルーラさんには講義と実戦、影王ソドム殿からの座学と・・・休む間なんてありませんでした。あとは、寝る前に模擬戦をしたりするのですけど、なぜかわかりませんが週末は特に激しかったですね。レウルーラさんの魔獣と対戦、ソドム殿の暗黒魔法で倒されたり、シュラさんとの一騎打ちでは気絶するまで打ちのめされたものです。そのおかげで、魔法抵抗と戦いの技術が上がり、簡単には倒されなくなったのですが、そこからは数人がかりで私に稽古をして下さるようになりまして、鬼気迫るものがありました。まあ、傍《はた》から見たら私刑《リンチ》されてるようにしか見えないかもしれませんがね、ハハハ。でも、皆さんが真剣に向き合ってくれたおかげで、今の私があるわけです。・・・ええ、本当の真剣でしたよ、それで死にかけたこともありましたし。アハハ」と、修業時代を笑顔で振り返ったそうな。



 バジリスクを討伐したシュラは、ルゼッタの控え目な喜びとは真逆で、

「魔神バジリスク、討ち取ったぁ~!!」と、大きな声で宣言した。


 まさかの大金星に、めったに褒めない百識が、

『シュラの渾身の一撃、見事である。また、わざと尻尾を狙わせ、天敵とも言える地竜へと追いやるルゼッタの知略も秀逸。弟子の成長ぶりには、余も鼻が高い。・・・鼻はないがな』と絶賛した。


 実際、シュラに激しく追い立てられなければ、バジリスクは人間の姿になって、外の様子を確認してから出たはず。また、人間だったならば、地竜から敵とは見なさず、逃げ果《おお》せたかもしれなかった。


「ありがと、金カブせんせー」

 若干、テキトーな礼を言ったシュラは、報酬金で頭がいっぱいであった。


 一緒に喜んでるルゼッタだが、セイントである立場上、言うことは言わなくてはならない。


「あとは共闘したタイタンズの来着を待ち、セイント同士で分配率を決めなくては」


「えっ!?仕留めたのは、あたし達じゃん。アイツ等に分前なんかないってば」青ざめて権利を主張するシュラ。


「そうもいきませんよ。セイントには誠実・正直さが義務付けるられてますので、彼らがバジリスクに与えたダメージは正当に評価しなくてはなりませんから」と、なだめるルゼッタ。



「左様。ルゼッタ殿、立派なセイントになりましたね」


 現れたのはタイタンズ専属セイントになったクイン。足元には勝手に見張り役を担っていた、ソドムのスケルトンが無惨に破壊され転がっている。

 褒め言葉は、ルゼッタの武勇への称賛と、セイントとしてルールを遵守していることの二つを指していた。



 続いてジオルド達もダンジョンを出てきてガーターズと対峙する。

 焼け焦げて絶命しているバジリスクを一瞥し、状況は説明なくとも理解した。皆 息が荒く、手柄を横取りされた形になったので、怒りで目が血走っている。


 彼らは分前が減ったからというより、魔神討伐の名誉に傷がついたことに腹を立てているのだ。


 猛毒をまともに食らって逃げ出した連中が、まさかキツネ狩りのように獲物を追い立てて仕留めるとは思ってもいなかった。

 とはいえ、絶対優位だという驕りが、彼らの追跡速度を鈍らせたことは自覚してはいた。


 ジオルドは野太い声で、

「討伐大儀、狡賢《ずるがしこ》さは影王譲りのようだな。さて、手柄の配分はさておき、今は私闘時間《ハッスルたいむ》に差し掛かった。せっかくの制度だ、お手合わせ願おうか。人数の違いはあれど、こちらはバジリスクの攻撃を受けて満身創痍、よもや断ったりはせぬと思うが…いかに?」と言い放った。


 ルゼッタは腕時計で時間を確認し、シュラが挑戦を受けると思い、開始合図に使う小さな笛を取り出した。

(狭い洞窟ならば、数の不利を覆せるが、この開けた場所では囲まれると厳しい)


「わかった、胸貸してやるよ坊っちゃん。影王の半身たる魔剣ゾルディティンを所有する大陸五指に入る剣士に喧嘩を売ったことを後悔させてやる!」と、長い啖呵を切るシュラ。

 あっさり魔神を倒してしまったため、暴れたりないようだった。「勝ったら、胸どころか体を貸してやるぜ!?」と、いらぬ挑発をした。


「ふん!だれが叔母の体を求めるか!!まあ、殺しはすまい。負けを認めるなら、ルゼッタには勇者人間養成所で再調整したのち、コキュー島に三年ほど退《しりぞ》いてもらおう」と、条件を示した。

 王族が低俗な冒険者や野盗のように身ぐるみを剥ぐわけにはいかない。


「アハハ、言ってくれるねぇ。てか、そんな条件でいいんだ。じゃあ、こっちは・・・」と言い腕を組み、シュラが意地の悪い笑みを見せた。


 トラブルの予感がしたルゼッタは、シュラを制して話に割り込んだ。

(おっと危ない、シュラさんがトンデモないことを言うと話し合いになりませんからね)


「こちらの要求は、兄上たちタイタンズが、罪を犯していない闇に属する者や亜人を討伐しないことを約束していただく!」と、言ってのけた。無意識ではあるが、ソドムの思想に近い発言であった。


 これは彼らの信奉する光の教団(狂信的な根絶主義者の一派)に従うな、という大胆な発言でもあり、緊張してルゼッタの額には汗がにじみ出る。

 この条件が拒絶されたら、無益な殺し合いに発展しかねない。


「笑止千万《しょうしせんばん》、邪悪を滅して何が悪い。仮に…若い一家の隣に、いくつもの十字焼印がある元無法者が引っ越してきて、穏やかに暮らせるか?将来、そやつは必ず悪事を働く・・・どころか殺されかねない。ならば、早めに摘み取るに限る。亜人や魔物も同じだ、いずれは人間に牙を剥く。なぜ、それがわからん?」


「ですが、意思疎通ができる者を問答無用で殺すのには賛同できかねます!」


 シュラは楽しい戦闘《バトル》がなかなか始まらず、兄妹喧嘩が勃発してオロオロしている。

(何なの?行き掛けの駄賃にチャチャっと稼ぎたいだけなのに。あたしにゃ、主義主張なんてどーでもいいんだけど!早く帰って、粘液洗い流したいのよ!んで、こっちの名物ラーメン食べたいの)


「養成所出たての頃は、悪を滅ぼすと息巻いていたのが、随分な変わりようだな妹よ。あの邪鬼・・・影王に洗脳されたのであろう。痛い目を見たら、極寒のコキュー島で頭を冷やすと良い」


 聖印徒《セイント》クインが、

「そこまで!双方の条件は出揃いました。開戦してよろしいですな?」と、中立的な立場で淡々と話をまとめた。



「待った〜!」シュラが待ったをかける。


「どうぞ」クインは予想していたのか、冷静に対応した。短い期間とはいえ、シュラと共に冒険してきたのだ、言ってくることは想像がついている。


「追加で、改心の王笏を貰うわ!」と言い、綺羅びやかな装飾が施されたジオルドの王笏を指さした。


「構わん。我らに勝つことができたら、喜んで献上いたそう。とはいえ、そのような下品な格好をした連中に負けるとは思わんがな」ジオルドは、二人の軽装備《えろいふくそう》をバカにして笑った。


 取り巻き連中は、相手が王族なので笑うわけにはいかず、堪えるのに必死であった。


 とくにルゼッタのハイレグアーマーの破壊力は凄い。こんな防御力0の格好で危険地帯に来るなど正気の沙汰ではないどころか、「どんだけ出張する娼婦だよ」とツッコミたくなっていた。


「よし、言質もらったぁ!おい ジオルド、話に飽いた・・・戦士なら武器《えもの》で語れ!」と、シュラはソドム的な煽り文句を言って剣を構える。


「また、それか!!」という怒りの言葉を飲み込み、ジオルドは、血走った目で開戦するよう頷いて見せた。

 筋肉隆々の巨躯が怒りを抑えて震えている。何も話さずとも、二つの意味でパワーハラスメントだが、歴戦の強者達に震え上がる者はいない。



 戦闘を申し込んだのはタイタンズ側だが、両陣営 戦う気満々だったため、開戦の笛はどちらが吹いてもよく、今回はルゼッタが吹いて、かつての戦友であるクインに斧槍を向けた。



「ピィ~!」戦闘開始の笛が鳴ると、シュラの頑丈さを知っているクインは味方の剣を強化するため、弱点属性を突ける付与魔法【巨人殺《ジャイアントキリング》】を詠唱した。

(これは好都合、不幸な事故でルゼッタ殿には死んでもらおう)

 そして、近衛騎士の一人が詠唱の妨害をされぬよう、ルゼッタの前に立ちはだかった。


 シュラの獲物は、もちろんジオルド。当然ながら、ジオルドには二人の近衛騎士が脇を固めている。近づけば散開し、包囲して来るのは明らかだった。


 だが、そんなことは関係ないシュラ、「おい、矛盾っていう故事を知ってるかぁ~!?」と叫びながらジオルド目掛けて全力で走りだした!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。