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L&P商会

スウィートの街・冒険者ギルド近郊

~旧酒屋・ネオギオンのアジト~


 挿絵(By みてみん)


 ソドム達は基本、冒険者ギルド内の宿屋で寝泊まりし、同・酒場で食事をしているが、特にいい仕事がないので、日中は冴子に任せてあるネオギオンのアジト地下に入り浸り、ダラダラ過ごしていた。

 

 アジトには形式上「L&P商会」という看板が掲げられている。

 意味するところは、「愛と平和」なのだろうが、ソドムに聞いたところで、「生ける者に毒を!」などと即興で答えを変えてくるだろうから、面倒なので誰も尋ねるものはいなかった。


 建物の一階 受付カウンターには掃除人《スイーパー》のローズが待機しており、その先が応接間 兼 冴子の執務室。扉の奥は冴子の寝室がある。


 ローズは港に停泊している戦艦で寝泊まりして、彼女がアジトに出仕している時は、スタグビートルのスタグが船底から甲板に出て留守番をしている。

 もっとも、街中《まちなか》に巨大な魔物がいること自体が異常で、恐ろしくて船に近づく者などいなかった。



「なにぃ~!?ま、魔王が現れただと?」アジトの地下で驚きの声を上げたのはソドム。だが、本当には驚いてはおらず、深々とソファーに身を沈めている。地下の明かりはランプを用いず、暖炉とレウルーラによる魔法の光で照らされている。

 賊の棲み処だった頃と内装はあまり変えてはいないが、主が変わって陰気臭さはなくなっていた。


「まるで風物詩よねぇ」と、ソドムに しな垂れているレウルーラが言うと、「迷惑な連中だ・・・。数年おきに魔術師や闇司祭なんかが、思い上がって魔王とか名乗りだすんだよなぁ。で、今度は何魔王なんだ?」と情報提供者である聖印徒・ルゼッタに聞いた。彼女は向かい合う椅子に座り、


「深淵の魔王という触れ込みで、西のダンジョンから配下の魔物を近隣に放っているようです。特に入り口あたりに出没するヒドラが手を付けられないくらい強いのだとか」


「面白そうじゃん!」ソファーで胡坐をかいているシュラが膝を叩いた。

「ですよね!?行きましょうよ!」と、ルゼッタはテーブルを掴み、身を乗り出した。

 専属セイントになれたはいいものの、まだ冒険に出ていないので、修行の成果を見せられると張り切っているのだ。「ブフォ!」小さく噴き出すソドム、突如ルゼッタのマントが開《はだ》けハイレグレオタードが目に飛び込むというのは、中々の不意打ちであった。だが、その動揺を妻たちに悟られぬよう咳払いして誤魔化し、


「パス!ダメダメ~。ヒドラっていったらドラゴン並みに手ごわいぞ。それにな、駆け出しの魔王なんてのは防衛費に全振りしているから、お宝は見込めないの。将来、被害が増してギルドが高額の懸賞金をかけたら考えよう。もしくは、数年寝かせて、宝をため込んだあたりに奪うか、だな」首を振るソドム、取り付く島もない。


「確かに、ヒドラは数多ある頭から炎吐息《ブレス》を吐くので、相性悪いわね。再生能力もあるから、一つ二つ頭を潰しても復活しちゃうし。それに魔王とかは、性質が判明していない場合はリスクが大きいわ」レウルーラも同意見であった。


「そこは正義のために身銭を切ってでも、討伐しましょう!」熱くロマンを語るルゼッタ。


「ん~、正義な。実に素晴らしい心掛けだ。が・・・、何とかの魔王とやらは、まだ悪さをしていないのだろう?ダンジョンのある土地は、国や誰かの所有地であるなら不法占拠だが、ここ下界ではそれはなかろう。つまり、犯罪者っぽいからといって取り締まるわけにはいかないのと同じで、凶悪犯罪をしてもらわないと正義は成立しない」


 すぐには納得できず、頬を膨らませたルゼッタであるが、「それも・・・そうか」と思い、座りなおした。


「じゃあさ、あたしとルゼッタが魔王のとこにカチコミして、捕まるってのはどう?」と、目を輝かせて奇策を提案するシュラ。


「おい、捕まる演技するくらいなら、ぶっ殺したほうが早いだろ」


「そ、そうかも」


「儲からないことをするより、治安のいい街で怠け・・・いや、待機している方が損失は少ないの。我慢さえできれば、晩飯だけは冒険者定食を食えばいいし」


「安酒と硬いパンにクズ肉・野菜スープで過ごせって?あんなマズイものゴメンだね!」


「私はソドムと一緒なら食事にこだわらないけれど」と、自然に言うレウルーラ。昨晩、皆で試しに冒険者定食を注文してみたのだが、彼女だけはパンを浸したスープを美味しそうに食べていたものである。


「まあ、例えばって話さ」一応、不満の声にも耳を傾けるソドム。


 ジッとしているより、何か依頼をしたいと訴える二人。根負けしたソドムは

「・・・仕方がない、二人でギルド掲示板から仕事持ってきてくれ」と、彼女らの好きにさせることにした。


「りょーかい、行こっ!ルゼッタ!!」跳ね起きたシュラがルゼッタの手を引く。

「はい!では、ソドム殿 レウルーラ様、行って参ります」


「ああ。ルゼッタ、そろそろ堅苦しい呼び方は止めていいんだぞ」


「そうそう、家族なんだから。コイツのことなんてバカでいいわよ!」シュラが生ゴミを見るような目でソドムを指さす。


「ちょっと、シュラちゃん!」旦那を小馬鹿にされ注意するレウルーラ。「せめて、ソドムでしょ」


「う、うん。まあ、雇い主みたいなもんだし、バカはあんまりかぁ」割と素直なシュラ。


 ルゼッタは、深入りしたくないので

「あ!そういえば、ギルドカウンターで、兄のフィギュアが販売されてましたよ!シュラさんの新バージョンも」と話題をそらし、愛想笑いして階段を上った。「ちょ、マジで?造型師、仕事早くね?だいたい能力や技名を何で知ってるんだろな」首をひねりながら、後に続くシュラ。


「忙《せわ》しない連中だ」ソドムはテーブルにある、乾煎りされたカボチャのタネを口に放り込んだ。本当は干し肉にワインといきたいところだが、この物件を買い取ったので、ガーターズは まとまった収入があるまで倹約モードと決めたのだ。

 とはいえ、レウルーラと二人きりで まったりするのもいいもので、神モチ肌を堪能するため、彼女に寄りかかられるにまかせてソファーに寝転んだ。

 プレイは週末限定と自らに課しているが、その時はシュラ達が混じるため、愛というよりスポーツじみていてムードの欠片もなく肉欲に溺れるだけなので、穏やかには過ごせない。さらに行為の前か後には枕投げをして騒ぐのでクタクタになり、泥のように眠って終わる。


 ちなみに枕投げは、魔法と特殊能力禁止で、敵陣の旗を倒すというルールが一応あり、枕を投げて倒す・もしくは持ったまま旗にトライして倒すことにより得点が入る。わざと敵に投げるもよし、枕ごとタックルやパンチも可という格闘技に近いガーターズの遊びであった。


 起源は・・・、ソドムが独身だった頃、義理娘のシュラが家賃節約のため無理やりソドムの部屋に棲みつき、レウルーラとの結婚後も空気を読まず居座ったため、「大人は寝る前に二人で汗を流すものだ」だから出て行け・・・という意味で放った言葉を勘違いして、枕投げ大会になってしまったのだ。


 男親だったため、シュラに性教育をしていなかったのもある。二十歳の時点ではキスで子供ができると思っていたし、ならば・・・と虫の交尾を例にして教えたら、トンボのツガイが連なって飛んでいるのを参考にしてしまい「女の後頭部に男のブツをぶち込まれる」と勝手に恐れていたりと子育ての大変さを知ったソドムであった。

 シュラがやっと理解したのは、大和帝国・出羽守の政略養女になって花嫁修業した時で、レウルーラのモチ肌にも負けない技を習得してソドムの前に現れて結婚を迫ったものである。


 レウルーラは、自分の後輩や娘の手前 自重していたが、イチャつきたくて仕方がなかった。そもそも彼女は十年間犬としてソドムにまとわりついては撫でまわされてきたので、その癖が抜けきらないのだ。人間に戻ってしばらくは、常にソドムに引っ付き、座るにしてもソドムの膝に座るほどだったし、今でもそうしたい。


 

 そんな二人の時間は長くは続かない・・・。


「ソドム様、ご来客ですがお通ししてもよろしいでしょうか?」と、ローズが聞いてきた。彼女は掃除人・エルディック一家の者で、歳は十六 ピンク色の髪は後ろで束ね、色気のない黒いスーツに身を包み、冴子の補佐と掃除を生業としている。もしも、ソドムが逃避行を企てたなら宰相タクヤに報告するのが本来の任務であった。戦闘能力はない、掃除の専門家ゆえに。


 許可を求めるということは、上にいる冴子が認めた人間なので害はないと判断したソドムは、面倒そうに起き上がり姿勢を正した。

「お通ししろ」

(新発見!女のスーツもそそるものがある)


 ガシャリ、ガシャリと金属音を立てて大柄な男が階段を降りてくる。鉄兜に全身板金鎧《フルプレート》、太り気味なために横幅が広い。顔は恰幅のいい商人のように温厚そうだが、鼻がやや上向きで、下の犬歯が発達していることから、豚人《オルク》とわかった。

 オルクは人間の女を買い漁ってる…と、よく聞くのでレウルーラの表情は硬い。女性を蹂躙して食う種族なんぞ、今すぐ滅ぼしたいくらいだが、利益を優先するソドムを立てて、怒りを抑えている。



 ソドムの前まで来た男は片膝を着いて、

「影王《シャドロード》に拝謁いたします。某《それがし》、西のオルク要塞《フォート》ラボクのトントロと申します。この度は、御願いの儀がありまして参上致しました」体格に反して声はやや高い。


「ほう、トン家の者が わざわざご来訪とは、いかがしたかな?」もしかしたら、有益な話かもしれないので、囀《さえず》りくらいは聞こうと思ったソドム。それとは別に葛藤を抱えていた。

(オルク族…見た目は、人間に近いが豚のように美味い!らしいな。もしも、暗殺のために来たなら返り討ちにして、おいしくいただこうか。いや、調理するのはいいが、人型を解体するのは抵抗があるなぁ。倫理的にも人型を食すのは微妙)


※ちなみにオルクは、大和帝国と同じイースタン形式で、名字が先で名前が後ろになっている。トン=トロの場合、トン(部族長の家系)が名字で名前がトロとなる。連邦出身のクゥエル(ルゼッタ)はウェスタンで、クゥエル=ガンダルフ=アスガルドと、名前が先になっている。ソドムは、平民出身なので名字はないが、影王と呼ばれてるので満足している。


「ご存知かもしれませんが、オルク族の始祖オーカスの復活により、我らは知恵と力を得て過酷な下界でも生活できていましたが、最近 魔王なるものが放った魔物ヒドラが暴れており、困り果てている次第。これをなんとか撃滅していただきたく罷り越しました」


「それは難儀であったな。だが、私に頼むのはお門違いというものだ。少し歩いた所に冒険者ギルドがあるから、そこに依頼するといい」明らかに興が冷めたソドムは、カボチャのタネをつまんだ。


「それが…ギルドとは関係がこじれておりまして・・・。オルクフォートに冒険者ギルドを開設するよう圧力を受けているのです」


「便利になっていいんじゃないか」


「ええ、民にもいいかもしれませんが、防衛や治安をギルドに委ねるのが条件ですので、種族の独自性・独立性が失われ、人間の支配下になることを上層部は恐れております」


 レウルーラは考えをまとめ、

「なるほどね、でもギルドを受け入れてしまえば、防衛は楽になるし、人の交流も増えて発展を見込めるわよ。ただでさえ、蜥蜴人《リザードマン》や牛人《ミノタウロス》と小競り合いしてるんでしょ?」と、冒険者ギルドを勧めた。

 まるで冒険者ギルドの手先のようだが、率直な意見であった。


「他の種族とは平和を保って交易していたのですが、仲が悪くなったのは最近のことです。互いに滅ぼそうとまでは考えていないので、堅守していれば被害は少ないです」


「事情は分かった。だが、こちらも色々な案件を抱えているゆえ、返事は少し待ってもらえるだろうか?」


「ハハッ!感謝致します」


「うむ、数日中にはオルクフォートへ使いを出そう」ソドムがそう言い終わると、トントロは慇懃に退出した。



「さて・・・、これで討伐報奨が出ることになったな。とはいえ、飛びつくにはまだ早い。じっくり機会を待とう」


「やるの?勝てない相手じゃないけど、深淵の魔王とやらが横槍入れてくると、厳しいかも。魔王がヒドラを野放しにしている狙いは、それなのかもしれないわね」


「だよなぁ。!?そうだ、戦艦で戦うってのはどうだ?対巨大生物仕様なんだろ?」と閃くソドム。


「唯一の三連砲に、船首の角《ラム》は強力なんだけど、木造船なのよ!魔法で強化はしてても炎吐息《ブレス》を浴び続ければ炎上するわ」


「そうかぁ〜、そうだよな。しかも、俺たち魔人は炎が苦手ときたもんだ。相性悪すぎて割に合わないな」


「シュラちゃんの防壁も火の海では意味がないし、冴子ちゃんの鉄鎧《アイアンゴーレム》も高温には耐えられないでしょうし」


「犠牲覚悟の戦いは避けたいな。せめて、一分時間を稼げればあるいは・・・」

(分前《わけまえ》は減るが、ギルドの緊急招集があれば、集まった雑兵《ぞうひょう》を囮にして時間を稼ぎ、俺とルーラの魔法でケリをつけれるのだがな)


 しばらく悩んだ二人であったが、結局は上の冴子に相談を持ちかけ一時間ほど協議した。


 結論は、保留。そもそも、オルクとの信頼関係はないし、義理もない。やはり、仕事は仲介者であるギルドを挟むのが一番であった。


 話し合いを終えたソドム夫妻は、また地下に戻りイチャイチャの続きを始めた。



 だが、またもや来客!

「ソドム様、ご来客です」


「こ、今度は誰かな?」


「はぁ、深淵の魔王様だそうです」


「なにいぃ〜!!」夫婦は目を丸くし、思わず見つめ合った。

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