↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/70

深淵の魔王とエンカウント!

「ねぇ、ラセツぅ〜。儲かる仕事ある?」シュラは冒険者ギルドのカウンターに もたれ掛かり、ギルマスである妹に特別な儲け話がないか聞いた。


「いちいち聞かないで、そちらの掲示板を確認して下さい。公私混同はなしですから!」と、ピシャリ。ギルマスであるラセツは、他の冒険者の手前 なめられないよう振る舞わなくてはならない。


「ケ〜チ!」悪態をついたシュラは、ふてくされてチンタラと掲示板に向かう。「すいません、すいません。後で言って聞かせますので」と、謝りながらシュラの背を押すルゼッタ。


「ルゼッタ様、いや・・・ルゼッタさんが謝ることではありません。育ての親であるソドム殿が悪いのですから」


「ははは、そこら辺はわかりませんが」と濁したルゼッタ。


 最初は成金か傲慢な貴族かと思ってソドムの印象は最悪であったが、接しているうちに、見る目が変わってきていた。古い慣習をぶち壊す合理的な発想や卓越した剣技を目の当たりにしたからだ。

 連邦では影王《シャドーロード》として恐れ憎まれていた存在だが、下界での存在感は希薄で、人柄は気さくで優しかったりする。

 妻が三人いることには怒りを覚えたが、事情を知ればソドムが望んだわけではないので軽蔑する感情はなくなった。むしろ、みんな楽しそうなので羨ましかった。

(天界、いや…連邦では討伐対象となる暗黒魔法の使用には抵抗があるけれど、ソドム殿は食事前に、光の神ホルスへ感謝の祈りを捧げ、光魔法も扱えるので、権威を振りかざすだけの連邦の司祭《なまぐさぼうず》よりずっと好感が持てる)


 掲示板前の冒険者はまばらであった。「あれ?人少ないなぁ〜」と、シュラたちが様子を見ていると、先に来ていた冒険者が とある依頼を見るやいなや、イソイソと受付カウンターに足を運んでいる。奥の食堂を兼ねている酒場も人が少ない。


 これは儲け話があるからに違いないと、期待に胸を膨らませる二人。


 挿絵(By みてみん)

 目を引く案件は「深淵の魔王を討伐せよ」というものであった。オルクのトントロはまだギルドに来ていないので、他の者達からもクレームなどがあったのだろう。


 それともう一つ、付随する特殊な依頼があった。・・・要約すると

「深淵の沼地を突破するアイテムが、東のアクシー港にあるので持ち帰れ」という内容であった。


「?」シュラはピンときていないが、わかったふりをして「なるほどね」と言い、腕を組んだ。


「魔王が沼地に囲まれた地形に居を構えたため、誰も攻略できないからみたいですね。そういえば、探索に行った調査聖印徒《ハイランダース》も、鎧を脱いで身軽にして向かったと聞きました」ひざ下までの泥沼なので、渡れないことはないが、渡り切った頃には疲れ果てるともルゼッタは聞いていた。


「じゃあ、天沼矛《アメノヌボコ》ってアイテムを持ってきた奴が、報酬&一番乗りってわけか」


「はい。ですから、皆さん足早に出発したのかと」


「なる、アクシー港で聞き込みして、ギルドの名の下にアイテムを借りるわけね」


「です。アイテム入手単体でも報酬は金貨5枚と高いですから、ランク帯にかかわらず、こぞって参加してるのかもしれません」


「自分で攻略できなくても、権利を売ることもできるってか。魔王の討伐報酬は金貨100枚、例の暴れヒドラは・・・なしかぁ」


「天沼矛《アメノヌボコ》で沼を土に変えれたとしても、足場は悪そうですから、沼地に生息する魔物やヒドラとの戦いは厳しそうですね。なのにヒドラには討伐報酬がないのは痛いです」


「うん。それに、ソドムが言ってたけど、駆け出しの魔王は財宝を期待できないから、苦労の割に実入りが少ないかも・・・しれないけど」


「行くんですよね!!」ルゼッタはガッツポーズをしてみせた。


「当ったり前でしょ~!」シュラは拳をルゼッタの拳に「コツン」と当てて足早に受付に向かった。

 勝手に依頼を受けて、事後報告する気なのである。二人は最初からそのつもりだった。諸経費や国への送金を引いても、一人当たり金貨20枚なら、小言は言われるだろうがダメとは言わない・・・と思われた。そんなことより、強敵と戦いたいという思いが強かった。


「え、お姉ちゃんたち・・・こんな細かい仕事引き受けるの?」ガーターズなら魔神討伐を選ぶとばかり思っていたので、少し意外に思った。

(もっとも、霧の魔神ケイトは太陽光を遮っているので攻略以前に、辿り着くための準備を要するし、熱風の魔神パズズは対策が見つからず放置状態。今回の魔王討伐は手軽なのは確か)


「他の冒険者に出遅れたかもしんないけど、天沼矛は治安圏外で鉢合わせた時に奪えばいいって話じゃん」と言って、剣を振る仕草をした。


「ソドム殿に影響されてズル賢くなったみたいね」


「賢く、だろ?」

(早めに出発して自分たちで見つけた方が確実なんだけど)


 冒険に出たくて仕方がないルゼッタは「では早速ソドム殿に報告に行きましょう」と言ってシュラを急かした。


「おう!行こう〜!」右手を景気よく上げてシュラはアジトに向かった。途中、メタボな男とすれ違ったが、トントロとのやり取りは知らないので互いに目も合わせなかった。

「マジ!?魔王が来てんの?」アジトで冴子に来客を聞いたシュラ。「やったぁ〜!最速でミッションクリア!?」飛び上がって喜んでから、肩と手首を回し戦闘に備えた。

「えぇぇ、こここ心の準備がぁ・・・」士気が高かったルゼッタだが、相手の傾向も分からず戦いに臨むのには抵抗があった。が、体は戦いを求めて熱くなっている。


 戦う気しかない二人に冴子は、

「一応は来客として扱ってますから、いきなり攻撃しないで頂戴。関係が決裂したらその限りではないけれど・・・」と釘を刺した。

(魔王を名乗るくらいなら、ここの戦力くらい承知しているはず。それでもなお 戦いを挑んでくるのは、前連邦王ファウスト叔父様とゼイター公爵、あとはジオルド殿下くらいね。少しでも戦う気があるのなら、私とソドム夫妻に挟み撃ちにされる状況は作らないはず)


「そ・れ・が!討伐報酬が金貨100枚って決まったの!」


「!?そ、それはソドム殿に伝えたほうがいいですね。生かして帰す価値があるかどうか、彼に決めてもらう必要がありますから。では、二人とも私について来てください。一応、ここも街なので、合図したら聖印徒であるルゼッタが討伐命令を下すのよ」


「はい!」コクリと頷き、ルゼッタはバイザーを下ろし大盾を構えた。冒険任務であるため、斧槍にはネオギオン・ガーターズの紋章入りの旗を括り付けてあった。このようなことをちゃんとしておかないと、ただの殺人になり、立証するのが難しくなる。また、なんとかガーターズと一緒になれた彼女の誇りでもあった。


 そっと石段を下りる三人、だが冴子が重装備なため「ガチャガシャ」と騒がしい。

 一人だけ一階に残ったローズは「伝説級の猛者に包囲される魔王は可哀そう」と、敵に同情している。彼女の見立てでは、ガーターズの一人で十分だと思っていた。



「だから、甘めぇ~んだよ!!いいか、魔王として名乗り出るってことは、世界を相手に戦争するってことだぞ。それを居抜きの迷宮と沼地程度で守りきれると思ってたのか!?おめでたい野郎だなぁ」と、ソドムの怒声が聞こえてくる。お説教はまだ続いた。


「俺がかつて連邦王国と大和帝国という二大国を相手に立ち回ったのは知ってるな?大事なのは外交力だ。従順に見せかけたり、利を与えたりしてノラリクラリと戦争を回避しながら、領地の一部にアンデットを解き放ち危険地帯と喧伝し人々を遠ざけつつ・・・十年かけて断崖を蟻塚のようにくり抜いて密かに難攻不落の要塞を作り上げたのだぞ。後半は両国とも戦争はしたが、それとて外交の手段にすぎん。それで不可侵条約を結ぶこともできた。話が長くなったが、お前も亜人を味方につけるなり工夫して頑張ってみろよ」と、ソドムは魔王の肩を叩いた。

(それで、せいぜいお宝を貯め込んでくれ。討伐報酬がデカくなったあたりで回収させてもらうからな)


 階段を下りる音に気がついたレウルーラが手を挙げる。

「あら、戻ったのね。今、魔王さんの相談に乗ってたとこなのよ」

 気まずい雰囲気に立ち入ったシュラたちは「ど、ども」的な挨拶しかできないでいる。


「そ、沼地で暴れてるヒドラ。そいつを守護者《ガーディアン》として期待してたそうなんだが、制御できなくなって困ってるそうだ」と、冴子に言うソドム。


「召喚じゃないなら、屈服させたわけでしょ。それが今さら逆らうものかしら」と冴子は召喚専門のレウルーラに疑問をぶつけた。


「それがね、大和の昔話に出てくるような【キビ団子】で服従させていたみたいなんだけど・・・」と、気の毒そうに魔王を見るレウルーラ。


 魔王は溜息混じりに、

「大和が海に呑まれたため、世界で唯一となった もちきび農家さんが下界の片隅にありまして、そこから きび団子の原料を仕入れさせてもらってました。ですが不幸にも、暴走賊に焼き討ちされて、一家は惨殺。やむなく、ストックしていた きび団子でやりくりしていたのですが、想定外にも・・・ヒドラがそれぞれの首にキビ団子を与えねば言うことを聞かないため、あっという間に底を尽いてしまいました」頭を抱えてうな垂れている姿は、先物取引に失敗したかのような悲壮感があった。


 深淵の魔王ムスカ、歳は50、白髪混じりの長髪は拡がった額から後ろに流している。自慢の漆黒のローブは泥にまみれ、何の偉業もなしに詰んだため青白い顔をしている。全てを魔獣だよりににするつもりだったのだろう、接近戦に備え、体を鍛えた感じはしない。


 少し前の彼は田舎貴族の宮廷魔術師として金には困っていなかったが、平和に過ぎてゆく日々に退屈し、人生一度なのだから歴史に自らの爪痕を残したくなり出奔した。そして、たまたま見つけたキビ団子に可能性を感じ、その品種と自らが考案した魔力を込めた秘薬とを混ぜ合わせ、魔獣を従えることに成功し、再生能力と炎を吐くヒドラを僕《しもべ》としたことで自信をもって魔王と名乗った。


 それが今、魔王となったものの、立ちはだかる高く分厚い壁に、世の深淵を垣間見たところであった。


 

 シュラは「ちょっと失礼」と言いながらソドムとレウルーラの横に行って囁いた。

「あのさ、魔王の討伐報酬が金貨100枚に決まったよ!」


 二人は表情を変えず、狭い範囲の心話で

『本当か!?よし、討伐だ!!』


『え、散々アドバイスしたばかりなのに?』


『そん時は・・・討伐報酬がなかったからなぁ』


『でもまあ・・・義理もないし殺《や》っちゃおっか』


 シュラは二人の結論を聞いて、おもむろに頭をかいた。それが討伐の合図で、ルゼッタが魔王に斧槍を向け、


「深淵の魔王、聖印徒の名において貴様を討伐する!」と宣言した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。