断罪の稲妻
「白い・・・。だが、純白というほどではない」死が迫る男は空を見上げて、そう思った。
鎖に繋がれた大剣がボウルの怪力によって振り回され、唸りを上げて満身創痍のシュラに襲い掛かる。鎖によって攻撃範囲が拡がったため、避けるのは難しい。
が、シュラは懲りずに距離を詰めるため駆け出す。2m程ダッシュした時、
「どおぉぉりゃぁああ!!」と、大きな声を上げてジャンプした。
盾でも防ぎきれないボウルの攻撃には、逆に攻めかかるしかないのはわかるが、皆には無謀な突撃にしか見えない。飛んだところで何になるのだと。
ボウルは咄嗟に鎖を手繰り寄せ、剣の柄を握り迎撃態勢をとる。腕には凄まじい負担がかかったが、それで勝てるなら安いものであった。
(飛んだな!なら、着地点に剣を振り下ろして終わりだ!)
勝利を確信したボウルはニヤリと笑い、少し後ろに下がってから剣を構えた。
一方、走り幅跳びのように飛んだシュラは、60cmの高さあたりで、もう一回ジャンプし、さらにジャンプした。その様子は、見えない階段を二段飛びで駆けあがってるようで、あっという間にボウルの頭上5mに達していた。
宙に舞ったシュラは、剣を持ったまま両腕を翼のように広げた。ボウルも含め、これほど高く飛んだ人間を見た者はなく、天使でも降臨したかのような不思議な気持ちになった。当然、シュラのスカートは捲れて白い下着が丸見えであった。
ソドムは見せ場と知っていたので、
「と、飛んだ~!もはや、人間業ではない~!だが、美しいぃぃ!」と実況した。
シュラは落下と同時に技名を叫ぶ。
「天空捲覗断罪剣!!」
と言い放ち、右手の剣を振り上げながら狙いを定めた。
「な、なんだと!?」ボウルは明らかに狼狽した。彼の人生で敵が真上から降ってきたことなどない。
(ど、どっちだ。後ろから斬りかかって来るのか、それとも前か!?え~い!後ろをとるに決まっている!そこを受けて反撃して終わらせてやる!)
ボウルはクルリと後ろを向き、大剣を上に構えた。彼の予想通り、白いショーツは斜め上に見える。
「勝った!」と、ボウルが思った瞬間・・・シュラは自らの横に、見えない壁を展開し、それを蹴りって軌道を変えて、ボウルの背後に回った。
「しまった!」と思った時には、シュラがボウルの皮鎧ごと背中をザックリと袈裟切りにして三点着地していた。
稲妻がボウルの頭上に落ち、斬られた箇所からは発火し、毒が回ったため肌が紫色に変化する。
毒で肌が鬱血したような紫になるのは、焦らせるためのソドムの嫌がらせであり、だからといって強力なわけではない。
「決まったぁぁ~!天空捲覗断罪剣!!」と、ソドムは決まり手を言った。
それに合わせて、技名の書かれたボードを掲げるトリス。ド派手なスゴ技に観客は損得を忘れ歓声を上げた。
実はソドムも驚いている。
(なるほどな、金剛聖拳の防壁を小さく展開して足場にしたわけか。なんちゅ~器用な奴だ)
解説のレウルーラは
「まさに魔剣士!理屈はわかりませんが、高く飛びあがり首の付け根から斬り下ろしたので致命傷です!加えて毒の追い打ちと炎ですから、司祭クラスでも彼を助けることは不可能でしょう」と、淡々と状況を説明した。
ソドムも技の感想を加える。
「ほぼ強制的に覗きという罪を犯させ、それを裁き、罰として死を与える。断罪された者は、罪を抱いて死んでゆく・・・なんとも恐ろしい技!」と、男性目線の見解を述べた。
崩れるように膝を着くボウル。痛みと熱さで もがきながらも、大剣を杖のようにして立ち上がって、シュラの方を睨み、戦う意思を示した。戦いを中断されて死を待つくらいなら、戦いの中で死にたいのだ。
ソドムはボウルの気概に敬意を払い 実況役をやめ、立ち上がって、左拳を前に突き出し親指を立てた。自慢のガントレットが煌めく。
「おぉぉ」と、どよめく観客。致命傷なら、止めを刺すべきか、戦闘を止めさせるべきか意見が分かれる。固唾を呑んで主催者のジャッジを待つ。
シュラがソドムに視線を向けて、どちらにすべきか指示を仰いだ。
ソドムは表情を変えず、親指の向きを下にして、殺すように命じた。それを確認したシュラは再び駆け出して、
「あばよ!」と言ってから、ノーガードであるボウルの腹目掛け、飛び蹴りを食らわせた。
「金剛爆裂脚!!」その蹴りは、金剛聖拳の光のオーラを足裏に纏わせているため、大砲並みの貫通力があり、「バシュッ」という音と共にボウルの腹部の半分を吹き飛ばし、大穴を空けた。
内臓・動脈が大幅にえぐられたため、これでもかという程の血が噴き出し、魔剣の炎は消え果る。その後、ボウルは自らの血だまりに大の字に倒れた。
シュラの妹であるギルマス・ラセツは、姉の無茶苦茶な強さに目を丸くしている。
(人間じゃないのは知ってたけど、空中を駆け上がったり、蹴りで胴を打ち抜くとか・・・ありえない)
トリスは技名のボードを掲げ、
「勝負あり!勝者シュラ!!」と言うなりボードをほっぽリ投げ、弦楽器で勝利の曲を奏で始める。
異次元の強さを目の当たりにした観客からは、惜しみない拍手が送られた。
「みんな、応援ありがと~!夜に打ち上げするから、酒場に来てね!」と、脇腹を抱えながらも笑顔で手を振るシュラ。油断はしてなかったが、思ったより手こずり、満足いく戦いだったのでご機嫌であった。
また、痴漢なんぞ山賊並みに人権はないので、罪悪感は皆無であった。
主催者であるソドムが中央に歩き、勝者を称えてから、ボウルの下へ向かい、しゃがみ込んで何やら祈りを捧げた。
一応ソドムは光の魔法を扱える君主だったこともあり、その所作は様になっていた。それに合わせ皆が黙祷したため、動かなくなったボウルの身体が、一瞬 紫のモヤのようなものに包まれたことには誰も気がつかない。
皆が黙祷を終えたあたりで、トリスが重大な発表をする。
「皆さま、ご来場ありがとうございました。見事予想を的中された方は、払戻金を窓口にてお受け取り下さい。・・・また、残念ながら予想をはずした挙句、仕事道具である武器を質に入れてしまった方は・・・主催者ソドム様の恩情により返却いたしますので、今後の働きでギルドにコツコツ返済して下さい」と言い、最後に爽やかな笑顔をラセツに向けた。
武器返却の件はソドムの指示だが、あえてラセツには言っていなかった。ちょっとギルマスを焦らせたかっただけである。
ラセツは頷いたのか下を見ただけなのかわからない仕草をして目を閉じる。
(全てはヤツの手のひらの上・・・か)
武器を質に入れてしまった冒険者は、棒や石で冒険に行くハメにならずに済んで、胸をなでおろしていた。稼ぎから天引きなるくらいなら、生活できなくはない。今回ばかりは稀代の極悪人である影王・ソドムに感謝したものである。そもそも、酒を奢ってくれたり、面白いイベントを企画するソドムが極悪人とは・・・やはり思えないのが皆の印象であった。なにしろ、今晩も奢ってくれるらしいのだ・・・悪くなど言えないだろう。
冒険者の人気を獲得したソドムは、少しダルそうに立ち上がり
「はい、お疲れぇ。解散、解散」と言って二度ほど手を叩き、イベントの余韻など味わうことなく、足早に妻の下へ向かった。
(片付けはギルドに任せて、俺らは一旦休んで、夜は打ち上げだ。シュラの好きな鳥ムネの唐揚げでも作ってやるか。となると・・・あらかじめニンニクとしょうがに付け込まないといかんな)
「無事終わって良かったわね」と、運営席のレウルーラがソドムを迎えた。
「おかげさまでな」安堵の表情で戻るなり酒を飲むソドム。
近距離だけに届く心話で、
『ドロス、払戻金を受け取ったら早く引き揚げろ!ギルドは、殺る気かもしれん』と伝えた。ドロスは心話が使えないので、
「いやぁ、楽しませていただきました。圏外でも かくありたいものですな」というなり、足早に自らの戦車に向かい、サッサと街を去った。手下どもも慣れたもので、金を受け取って早々と姿を消した。
冒険者たちに武器を返却したら、修羅国の賊どもを包囲するつもりだったラセツは舌打ちをした。
(ここで奴らを殲滅すれば、事実上 修羅国は滅んだかもしれないのに・・・。ソドムが質屋を思いつかなければ、即座に強襲できたのだが。いや、考えようによっては借金で冒険者を縛れたわけだから、依頼だけではなく強制もできる。それも悪くはない、ギルドで質屋を運営するということを提案してみるか)と、悪いことばかりではないので ほくそ笑むラセツであった。




