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恐るべき修羅国、ソドムの危機

    挿絵(By みてみん)


 西の街・ムーアに攻め込んだ修羅国の暴走賊。だが、街へ侵入を果たした者達は内外から挟撃されて、まさかの全滅。以前、タイタンズのジオルドに蹴散らされた時の損害もあり、その数は全盛期の半分以下になって、もはや組織の体を成していないと思われた。


 それがスウィートの街に突如現れた。


 賊などというものは、己の欲を優先し人の迷惑など顧みない。それゆえ、仲間との友情などなく、もはやライバル・・・というより商売敵に近い。自営業者が集まったような軍団なので、自己の利益と互いに利用することばかりを考えており、人間関係は希薄である。多数死者が出ても「自分でなくて良かった」くらいにしか思わず、仲間の復讐を考えるものなど皆無であった。


 とはいえ、冒険者に比べ個人の戦闘力が劣る修羅国としては、数が揃わないと始まらない。組織立って動ける人数になるまでは、「好きにしろ」という指示があり、彼らはやることが無くなった・・・。


 そんな時にスウィート郊外で決闘が行われると伝わったので「暇つぶしと小遣い稼ぎ」のために来たのであった。その数およそ百人、ひと暴れできる人数で現れたので、完全に油断していた街側が騒ぐのも無理はない。彼らとて歓迎されるとは思っていないので、参加交渉が失敗したら一戦する腹積もりではいた。




 ギルドマスター・ラセツは、当然ながら賊は敵だという認識しかない。戦う場合の段取りとして、市民を街へ逃がし門を閉じてから、聖印徒と冒険者で迎撃するのだが、騎馬を相手に平原で戦うのは明らかに不利であった。

(馬鹿な・・・。大敗して霧散したと思っていたが、百人規模で現れるとは!街の壁から出てきた我らは、言わば むき身の貝同然。数倍の兵がいても騎馬相手では損害は大きいだろう。コイツの言う通り、決闘の観戦に来たのなら被害はなく、現金収入が見込めるのだが、割り切れるものだろうか・・・お互いに)  ※コイツ=ソドム


 予想されたギルマスの反応に、ソドムは大きく息を吐いて自らがリラックスしてみせて、


「ラセツ殿、撃退しようにも冒険者たちの多くは武具を質にいれてしまって戦力にはならないぞ・・・。ならば、無理に血を流すより、山賊相手に儲けたほうが得ではないか?」生真面目なギルマスを説得にかかるソドム、儲けを考えるとニヤけてしまいそうだったが、頑張って平静を装った。

(せっかく苦労して準備したのだ、中止されてはかなわない)


 ラセツは「やられた!コイツの狙いは冒険者の武装解除か!!そして、無法者どもを客として招き入れ、更に儲けるつもりか!」と、今になってハメられたことに気がついた。この場にいる警備の聖印徒で戦えないことはないが、非武装者を狙われると被害は甚大である。それが遠因で、将来・・・街が陥落することもあり得る。


 彼女は激情を抑え、冷静に利益を優先する決断を下そうとした。その時、ソドム的発想が頭に舞い降りる。「そうか!修羅国の連中もボウルで一儲けするため、武具を質にいれたならば・・・、試合後に殲滅することができる。強盗、強姦、殺人の何らかをやっている外道との約束なんて守る必要はない」と結論づけた。


「不倶戴天の敵ですが・・・、市民を戦いに巻き込むわけにもいきません」ラセツは、昔からソドムに一杯食わせられてきたので、小気味良かった。


「よし、そうと決まったら市民らをなだめてくれ。暴走賊は主催者である俺が交渉しよう」言うやいなや、スタスタと賊に向かったソドム。



 単身敵陣へ向かい、戦車チャリオットに乗っている賊の代表と五分ほどで話をつけて、なんと・・・彼を連れて戻ってきた。その白髪の男は副首領で、少し前にソドムらと交戦した者であった。


 やけに簡単に話をつけてきたことに驚いたラセツ。一応、ギルド代表として形式上は歓迎した。


 男の腰には魔導書と短剣があり、身軽そうな革鎧を着込んでいた。ギルドへの報告と同じ特徴だったこともあり、ラセツは少し信用する気になっている。重要人物が人質にきたようなものだからだ。


 その副首領は意外な挨拶をしてきた。


「お久しぶりですな、ラセツ殿。今日だけは過去を水に流し、共に楽しみましょう」白い総髪に無精髭の老人は、とても友好的であった。


「お、お前は・・・山賊ドロス!・・・殿。生きておられたのですか」二十年ぶりに知人と会ったラセツの表情は、憎しみと懐かしさが同居していた。

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 ドロスという老人の経歴はソドムよりも複雑で、若き日は光の教団に属し、退魔専門の神官戦士として魔物や邪教徒との戦いに明け暮れていた。

 その後、大和帝国による無慈悲な侵攻を目の当たりにし、無辜の民を救えぬ神に疑念を抱き世捨て人になり、竜王山脈の麓で山賊に身を堕とす。

 リーダーの資質があったため、瞬く間にゴロツキをまとめ上げ、彼の手下は百を超えた。だが、大所帯になると、彼らを食わす為に苦労は尽きない。


 そんな時、楽に稼げそうな旅の貴族が通りすがり、襲撃してみたら・・・


 それが不運にもソドム一行であった。


 魔人であるソドムとシュラには山賊程度の攻撃は通用せず、大暴れされて手が付けられなかった。当時、四十だったドロスだが、手下の被害を減らすため、自らソドムとシュラに剣を向けた。元神官戦士だっただけあって二人相手でも善戦できた。

 しかし、昔と違い信仰心が薄れていたため光魔法が弱くて仕留めきれず、その間にレウルーラが召喚した巨竜ゴモラによって数十人を焼き殺されて軍門に下った。ソドムは、どこか気質の似たドロスを気に入ったらしい。


 ソドムの配下になってからは側近として付き従い、数々の功績を残した。その一例としては、現・連邦王国魔術師長アジールとハンドレッド伯爵に挑発されたギオン公国が、百倍の国力差がある連邦王国に宣戦布告した独立戦争が挙げられる。

 伯爵は、帝国・連邦間の貿易を中継しているギオン公国が目障りであり、アジールは宮廷魔術師長・冴子を追い抜くためにも公国討伐の手柄を欲しての挑発であった。


 さすがに連邦相手には勝てないとわかっているソドムは、連邦王国とは直接対決を避け、ハンドレッド伯爵のみに狙いを絞った。あくまでも妻を売春婦呼ばわりした伯爵との私戦を強調し、攻め滅ぼした後に伯爵領を連邦に割譲して和睦する計画であった。


 ソドム公爵は、連邦軍とは交戦せず離れた伯爵領を奇襲するために、ドロスとアレックス(現・連邦王)たち数人だけを伯爵領に潜入させた。はっきり言って無謀極まりない作戦であった。


 作戦名は「イナゴ作戦」という。


 この難しいミッションを彼らはやり遂げた。ドロスは現地で元部下の山賊を集め、アレックスは次期連邦王という威光で義勇兵を募った。容姿端麗なアレックスは、血統も相まって市民にはウケが良かった。ましてや連邦王の息子なのだ、成り上がりのメタボ中年である伯爵とは勝負にならない。


 その時ソドムは、降伏を装いユルユルと連邦王の下へ向かい、降伏条件の協議をしたが、まあ・・・話をひっくり返したり蒸し返したりしてノラリクラリと時間を稼ぎ、連邦本体を足止めしながら、アレックス達の勝利を待っていた。


 伯爵領で即席の軍団を編成したアレックスは、ハンドレッド伯爵の第三の都市を奇襲し攻略。

 ギオン公国を焚き付けるだけ焚き付けて、連邦王国の奥地にある自領は安全だと思って、油断しきっていた伯爵軍。突如、領地に湧いて出た敵は、まさに寝耳に水で、対処は後手後手になった。


 この伯爵、竜王が不活発なのをいいことに(すでにソドムに吸収されていた為、存在していない)竜王山脈を密かに開発して、金銀鉱石や木材などで巨富を得ていて、エルドラドの街も大いに潤っていた。

 連邦王国には報告せず貧しい寒村のフリをして富を独り占めしていたため、ソドムらに奪われても連邦に訴えることができない。


 その間、ゼイター侯爵(勇者ゼイター・現在は公爵)はソドムが伯爵領に攻め込むと読み、そのためには彼の領地を横断しなくてはならない為、国境線を固めて襲来を待っていた。十年間自らが鍛え上げた公国軍(タジムと名を変えて、連邦騎士として公国軍の指導のために赴任していた)との戦いが楽しみなのと、自分が十年不在だったためになまった自軍にはいい経験になると思い、今か今かと待って・・・待ったまま終戦を迎えることになる。


 第三都市を制圧した公国軍は、また募兵し民間人の協力も得て第二の街を攻略。そして、そこでも募兵・・・さらに膨れ上がった軍で、アレックスは第一都市エルドラドへと侵攻した。

 背に腹は代えられず、ハンドレッド伯爵は連邦に援軍要請を出すも、援軍として名乗り出たアジールは狡猾で、共倒れを狙ってゆっくりと歩を進めた。


 結末は、エルドラド陥落寸前に伯爵軍の将軍が町全体の財宝を盗んで逃走し、軍は内部崩壊。頃合いを見て、アジールが救援に駈けつけ、公国軍を追い払い連邦王国の勝利に終わった。

 将軍は森に潜んでいた所を民衆に見つかり殺された。ハンドレッド伯爵は、その混乱に乗じて姿を消した。


 正確には街の財宝を持ち逃げした将軍が、待ってましたとばかりに、ソドムの手の者に襲撃されたのだが・・・。


 これら全てはソドムとハンドレッド伯爵の計画であった。すでに大富豪であった伯爵は身の安全を保障してくれるソドムの武力を欲し、ソドムは裕福なエルドラド市民の財を欲した。

 そこでハンドレッドは、伯爵軍の負け戦の真っただ中に

「市民は安全な城に避難、財宝は一か所に集めて預かり厳重に守る」という触れを出し富裕層の財産を集めた。

 この任務には、あえて強欲かつ臆病者の将軍を任命し・・・予想通り持ち逃げしたところを賊に扮したソドム配下に襲撃させ財を横取りし・・・将軍だけをわざと取り逃がした。

 

 残念ながら市民らに捕まった将軍は、市民の憎しみを一身に受け、リンチされて殺されたという。

 

 その時に得た巨富で、ソドムは戦艦を造り、コキュー島の壮麗な城も造れた。

 つまり、ドロスは腹心中の腹心であった。二十年前にソドムが眠りにつく時に、彼は眷属にはならず「思うところがある」と言って引退し、島を去った。

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「しかし、ドロスよ。老後に困らないだけの金を受け取ったはずだろ?なんで、セコい山賊稼業なんかやってるんだ?」と、かつての雇い主ソドムが聞いた。何をやろうが個人の自由であるが、ソドム的には覚悟のない一般人を襲う賊は好きではない。


「はぁ、昔のしがらみってヤツでしてね。老骨にムチ打って現場に立ってる次第です」少し濁した返答をするドロス。冴子はバイザーを上げて、


「山賊相手に爆炎魔法を使われて、不覚をとるところでした・・・この前は」と、率直な賛辞を述べた。


「ああ、アレですかぁ。四賢者には失礼なくらいの魔法でお恥ずかしい。魔人あなたがたには有効だと思ったのですが、全く効果がなくて驚きましたぜ」と、おどけて見せるドロス。


「ですがヒヤリとしましたよ」


「まったくだ。魔術師には警戒して、先手を打つのが基本。まさか、魔術を使えるものが山賊に協力するとは思ってもいないからな。中年から魔術を習得するのは大変だったろう」ソドムは正直な感想を述べた。


「なんの、お別れしてから二十年経っておりますからなぁ。人が変わるには十分な時間ですぜ」段々と山賊っぽい話し方になるドロス。退役後、時間があり潤沢な資金もあったドロスは、老後への備えとして自らに資金を投じ、なんとか中級魔術師くらいにはなれた。このくらいになれば、食いっぱぐれることがない。


「意外に努力家だったのね」レウルーラはイタズラっぽく笑った。


「ああ!レウルーラ様は変わらずお美しく」そう言うと、遠慮なく彼女の全身を眺めるドロス。嫉妬深いソドムだが、身内であるトリス・タクヤ・ドロスには寛容で、咎める様子はない。レウルーラは自分の容姿に無頓着なので、誉め言葉には別段なにも思わない。ただ、一般的な返答をするのが正解だという事はわかっている。


「相変わらず、口が上手いのね」


「いえいえ、本心ですとも。はっはは」

(マジでこの方々は年を取らないな。間近で見ると驚くぜ)


「まあ、こっちで酒でも飲もう。そういえば、初めて会った時も決闘を観戦しながら一杯やったもんだな」と言い、ソドムはドロスと肩を組んだ。


「そうそう、あの時の女傭兵たちは思ったより強くて、部下が随分と殺された」苦笑いするドロス。


「しまったぁ!賭ければよかったなあの時」ソドムは若干過去を悔やんだ。


「確か、十人くらい斬られたドロスさんが諦めて弓隊を使ったんじゃなかった?」レウルーラも新婚旅行時の事を思い出し、会話に入る。


「ええ、相手の人数・・・四人に合わせて四人ずつ挑ませたんですが、負ける負ける。余興のつもりが、損害が大きくて参りましたよ。はっはは」ドロスの笑い声は先行して歩くラセツへ十二分に届いた。


 ラセツは山賊が現れた時から不機嫌であったが、更に機嫌が悪くなっている。


「その節は、お世話になりました!あの時にアナタの首を挙げていれば、今の修羅国はなくていい世の中だったかもしれないと思うと、不甲斐ない自分に腹が立ちますよ」振り返って、「キッ」と睨みつけるラセツ。


 当時、ラセツは女性だけの傭兵団(四人しかいない)を結成して、新婚旅行中のソドムの護衛を務めていたが、ドロス率いる二百人の山賊に囲まれ、見世物のように戦わされた苦い思い出があった。

 護衛対象のソドムは貴族だったので、身代金目的の山賊からは丁重に扱われ、酒まで振舞われたが、一介の戦士である彼女たちは酒の肴として強制的に戦わされたのである。

 途中、ドロスが弓矢で戦いを止めさせた時に、「宴もたけなわ」とばかりにソドムが参戦し山賊を掃討したのだが、命がけの興行をさせられたラセツとしては恨みしかなかった。それが今敵対している修羅国の副首領なのだから腸が煮えくりかえって当然である。


「おっと、あの時はるかられるかだったから、恨みっこなしですぜ」加害者側からすると、過去の出来事に過ぎないので軽くあしらうドロス。


「ええ、そうですとも。あの時はなにもかも未熟でしたから、何も言いますまい」ラセツは、プイっと向き直りスタスタと歩き出す。ソドムらには見えない彼女の表情は、あまり人前では見せないラセツスマイルになっていた。

(そう、今は違う。お前たちが欲にかられ武具を質に入れたが最後、生殺与奪は思いのまま。昔とは立場が逆転するのだよ)

 


 ドロスは歩きながら側近を呼び指示を出した。山賊の賭け金を代表に任せ、試合が始まるまでは屋台で飲み食いを許可したのだ。

 当然、山賊が会場でウロつくことに皆が騒然としたが、ギルマスからの説明と圧倒的数の優位があるので、少しづつ落ち着いてくる市民。


 山賊達は屋台に群がった。彼らにとっては賭けで儲けるより、屋台のメシのほうが魅力的であった。なにせ、お尋ね者の彼らは街に定住している人間と違い、いつも煮る・焼く程度の簡単なキャンプ食なので、ちゃんとした料理に飢えていた。

「うめぇ~!!」「もう一つくれ!」という声が方々から聞こえてくる。

 ギルド側としては将来必ず戦う事になる敵なので駆除したいが、冒険者にとっては あくまでも攻撃されたから戦うという場合が多いので憎しみで暴発する者はいなかった。


 昔の山賊と違い、全財産を装飾品に変えて持ち歩いていないので、いくら倒しても金にならない・・・つまり、戦う理由がなかった。

 これは、ドロスによる山賊改革の一つであった。一昔前は、ソドムやシュラのように金目当てで山賊狩りを楽しむ輩が多く、狙われる機会が多かったが、今は修羅国として一括管理して、必要な時に引き出せるシステムを導入した。

 猜疑心の高い一匹狼たちに金を預けさせるため、「死亡時は五割を記載された相続人に渡し、残りは修羅国全員に預入金額に応じて振り分ける」としたため、預けていれば金が増えるので皆が預けた。

 ただ、ドロスとしては管理に限界を感じ、「だれか」を通してギルドに金を預ければ楽なのではないか・・・と思い立ち、リスクを承知で今回やってきたのである。


 全然関係ないが、ドロスの改革の二つ目は、拉致した人間の扱いであった。昔の山賊は強姦した後に殺して証人を残さず終わりであったが、より良い生活にするために奴隷制を用いた。

 ただの奴隷ではない、最初に値がつけられたら、労働で自分を買い戻すことができるものであった。正直なところ、山賊だって、泣きわめいたり絶望している女より、小綺麗で生き生きした女を抱きたい。

 だから、選択肢を与えるのだ。飯炊き女なら一日働いて銀貨一枚、売春なら・・・値付けは本人次第だが銀貨二枚から金貨一枚、望むなら暴走賊として働いてもいい。皆が売春を拒めば・・・相場が上がるので「じゃ、早く帰るためにやろうかな・・・」という者が現れる。

 このように多少は希望があるので、明るくはなれなくとも絶望するほどでもないのがポイントであった。

 ただし、飯代や化粧品代はキッチリいただくので、修羅国としても儲かるようにできている。

 どうしても働きたくない者はどうなるのか?・・・強姦・虐殺などという蛮行はせず、サッと豚人オークに売り払うことにしていた。売られた後にどうなるかは、彼らも知らないし、知りたくはなかった。




 ソドムはドロスの山賊改革を聞きながら、運営席に落ち着いた。当初は酒など飲まず、サッサと試合を始めるつもりだったが、再開の宴となったので朝から酒を酌み交わしていた。


「それはそうと、負け戦の翌日に敵地で博打とは、肝が据わっているのを通り越してるな」ソドムは一番聞きたかった昨日の戦に話を振った。


「あ~アレですかぁ。うちの王が門をぶち壊したら小部隊が街に侵入し、撃退されたフリをして、街の軍をおびき出して包囲殲滅、からの残党が逃げ帰るのに交じって再突入するという作戦だったんですがね。・・・しょせんはゴロツキの集まりですから、我先にと略奪に加わって言う事なんて聞きゃしない。修羅国は山賊ではありますが、一応は軍隊なので命令違反して死んだ奴らなんぞどうでもいいですわ」と、ケロリとしているドロス。


「あは、軽いわね。裸王らおうとかいう首領は死生きてるの?」レウルーラは少し笑いを堪えて訊ねた。


「門を壊す以外は頼んでないですが、命令違反して突入した連中に腹を立てたんでしょう、敵前逃亡してきた奴を片っ端から殺してましたよ。自業自得なんですが、違反者にとっちゃあ、行くも地獄 退くも地獄って状態でして。俺はバカバカしいから途中で帰ったわけですがね」飄々と語るドロス、自軍の崩壊など全く気にしてなどはいない。


 レウルーラは裸王について詳しく聞きたかったが、なんとなくそんな雰囲気ではないので聞くのを躊躇った。


「そうか、まあ命令違反では話にならないからな。で、今日はどっちに賭けたんだ?」ぶっきらぼうに訊ねるソドム。


「そりゃもちろん、シュラちゃんですぜ。戦いぶりを見たことがあれば当然ですがね」と、ドロスは即答した。自身も戦ったこともあり、この前の戦いでは魔人の弱点である炎すら防がれたので、それ以外の選択肢はなかった。そして、ドロスは言葉を続けた。

「ついでながら、俺の手下もシュラちゃんに全額です」と、当然のように言った。


 隣に座るラセツがギロっとドロスを睨んでから、質屋の様子を見た。遠方からでも山賊どもが武具を手放さなかったことがわかり、「流石にそこまで馬鹿ではないか」と肩を落とした。


「ほう、さすが分かってるな」と、頷いて見せるソドム。ラセツとは違う意味で内心は落胆している。

(おい!それじゃあ俺の儲けが減るだろが!あ~しまったぁ、山賊にドロスがいなけりゃ、奴らはボウルに全賭けして丸儲けだったのに!)


「うん、分かってる」とニッコリ微笑むレウルーラは、ソドムの腕に抱き着いた。


『ねぇ、これって山賊分は損するパターンよね』と、彼らだけにしか届かない心話でやりとりし始める。

『ああ、敵に塩を送るはめになっちまった』

『だよね』

『とはいえ、一般人は皆ボウルだから利益が減るだけで、黒字には変わりない』

『そうね・・・、まさかドロスがいるなんて思わなかったし、気を取り直して楽しみましょ』

『だな、今さら悩んでも仕方がない』ソドムは諦めて酒をあおり、気持ちを切り替えることにした。


 

「よし、では試合を始めるか!」そう言うと、ソドムは立ち上がり会場のトリスに手で合図する。




 控室代わりだったテントは撤去され、改めて闘士が中央に呼び戻されて、試合が開始された。


 会場の盛り上がりは尋常ではない・・・単純に娯楽としての決闘が見たいだけではなく、金儲け・・・それに若い女がミニスカートで戦うというお色気要素があるのだ、盛り上がらない筈はない。


 開始早々、定石通りシュラが距離を詰め、素早い斬撃でボウルを圧倒する。相手が大剣という性質上、一旦振り回されると防ぐのが難しいので、懐に入った方が逆に安全なのだ。 

 もちろん、それを予測していたボウルは大剣で受けたり、腕に巻き付けた鎖でなんとか受け流して隙を伺っている。


 ソドムとレウルーラは、厚紙を法螺貝のように丸めたもので声の通りを良くして、実況と解説を行った。

「お~っと、シュラの凄まじい乱撃にボウルは打つ手なし。じりじりとさがることしかできない!」と、人格が変わったように熱く実況するソドム。


「しかし、シュラちゃんは永遠と攻撃できるわけではありませんから、スタミナが切れる前に致命傷を与えないと強烈な一撃を食らいますよ。彼女の魔剣ゾルディティンは強力ですが、ヒットさせないことには本領を発揮できないですからね」冷静な解説をするレウルーラ。


「確かに息が上がって剣の振りが遅くなってきた気がします。お!?」実況している最中に、決定打を狙って剣を振り上げたシュラへ、ボウルが体ごと突進して彼女を吹き飛ばした。

「体当たりが決まったぁ~!」と言った瞬間には、シュラが左手の小盾うらに忍ばせている苦無を投げつけて追撃を阻止した。

「さすが、シュラちゃん。ただではやられずナイフを投げましたね」

 だが、ボウルは小さな怪我などお構いなしに大剣を振り上げグルリと振り回す。

「大剣を振り回すも、シュラのナイフがグサグサと刺さっているぞ!」熱く語るソドム。


「いえ、あの構えは必殺技・超絶竜巻斬り!ヤバいですよ、シュラちゃんピンチ!!」レウルーラも熱くなっている。


 大剣を振り回したボウルは、二周目に

「オラァ!超絶竜巻斬りぃぃ!!」と横薙ぎに払った。それと同時にトリスが技名のボードを頭上に掲げた。

 わかりやすい演出に観衆は「おおおおぉぉぉ!」と興奮した声をあげ勝負の行方を凝視した。


 強力な一撃は魔人であっても、無傷という訳にはいかない。シュラは盾を構えた・・・のはフェイントで、大きくバックステップして、やり過ごしてから隙だらけの大男に斬りかかる。


 つもりであったが、モロに斬撃を食らってしまう。「ゴシャ」っという鈍い音と共に弾き飛ばされ、何メートルか転がるシュラ。観客は驚きの声をあげて目を背ける。


「超絶竜巻斬りが見事に決まったぁぁ!盾はすっ飛び、斬撃は胴にクリーンヒット!解説のレウルーラさん、後ろにかわしたはずなのに当たりましたねぇ、なぜでしょう?」

(物理耐性あっても、あの一撃はキツいな。木刀で脇腹殴られた感じか)


「してやられました、見事なギミックです。腕に巻いた鎖、あれは女戦士の素早い剣撃対策と装って、実のところ剣とつながっていて、ヒット直前に剣を手放しリーチを伸ばして当てたんです。短絡的な蛮勇を見せつけていたのも、彼の緻密な計画のうちだったわけです」と、淡々と解説するレウルーラ。隣にいるラセツは、生死不明の姉を見つめ、ただ口をパクパクさせている。


 ラセツから来場を禁じられていた子供のミネルバは、どうしてもシュラを応援したくて、同僚に頼み込み連れてきてもらいコッソリ観戦していたが、まさかの叔母のピンチに「うそ…」と呟き、血の気を失っていた。

 酒場では喧嘩沙汰など珍しくないものだから平気だと思って来てみたものの、身内の それも可愛い女子が大男に大剣で斬りつけられる場面を見ればショックを受けるのは当然であった。だからこそ、「来るな」と言い含めたわけなのだが。


 一般人や冒険者たちは最悪な事態に心を痛めつつも、ぐったり倒れるシュラのパンツの色を確認してから、払戻金の使い道に心を躍らせた。


「へっへへ、油断したなお嬢ちゃん。冒険者で生き残るには力だけじゃなく狡猾さも必要だってことだな。とは言っても、この一撃を食らえば骨はバキバキ折れて、内臓もぐちゃぐちゃで返事なんてできないだろうがよ」と、ボウルはジャラジャラと鎖を引っ張り大剣を手繰り寄せている。ホクホク顔で鎖を巻きとっている姿は、投網をたぐる漁師のようであった。


「油断してねーし!最初は苦戦してみせるっていう台本なんだよ!」そう言って、よろめきながらも立ち上がるシュラ。そろそろ本気を出してもいいと思い、走りだせる構えをとった。

 死んでもおかしくない一撃でも屈しない彼女を見て、会場はどよめいた。

 

「お〜っと、シュラが生きていたぁぁ!そして、戦いを諦めていない!何なんですかね、あのタフさは?」前のめりで実況するソドム。

(アホ!台本言うなよ!)


「実は彼女、勇者ゼイターの妹なんです。光の神ホルスの加護があるのでしょう」


「それは凄い!あ、あの構えは勝負に出るみたいです。え〜、魔剣ゾルディティンの一撃が見られるか楽しみですね」


「そう!あの魔剣はコキュー島に封じられし影王の剣で、完全復活を阻止するために勇者の妹シュラが戦いを挑み、奪い取った物です。半身ともいえる剣を失った影王は、力の大半をなくして、今では生活のために冒険者になってます」と無茶苦茶な解説をぶっ込むレウルーラ。

 実は敵の多い夫を守るために腐心してひねり出したストーリーであった。

(だいたい世界の敵っていう極悪人役を引き受けるなんて、お人好しにもほどがあるのよ・・・)


 レウルーラの解説に合わせて四方にいる聖印徒が、魔剣うんちくが書かれたボードを掲げて、魔剣の強さと影王は無害であることを喧伝した。


「え、そうなの?」と反応してしまったソドムだが、華麗にスルーされた。昔、最強の竜王だった感覚が抜けず、なかなか危機意識が戻らないソドム、馬鹿なのである。


「勇者ゼイターでも滅ぼせなかった影王ですが、皆に危害が及ばないように五英雄である私 魔術師レウルーラと勇者の妹シュラが目を光らせているわけです」言い終えてから、じとっとソドムを見つめた。


 観客はざわついた。全然凄みのないソドムが影王と知ってはいたが、どうもピンとこなかった。ただ、今の解説で力を失ったと聞いて少し納得はできた。が、そんなことより全財産がかかった試合が大事であった。


 大半のものがシュラに立ち上がったことに、心で舌打ちをしていた。



 そんな解説など興奮状態のボウルには聞こえやしない。

「やせ我慢しやがって!!もう一発食らえば減らず口もなくなるだろうさ」と言い、また大剣を振りかぶるボウル。

(え!?ちょいマジかよ?死ぬだろ普通。めっちゃ手ごたえあったぞ。いやいや・・・、見たところノーダメージじゃねぇ。力で押し切ればなんとかなる!力こそパワー!この一撃に全てを賭ける!!)


 今度は最初から剣を手放し鎖を持ち、遠心力を利用して一層強力な一撃を狙うボウル。もしかしたら、観客を巻き添えにするなど考えもしなかった。ただ、戦士の勘で敵の一撃を食らったら死ぬと思ったので勝負に出るしかなかった。


「うおぉぉぉ~!真・超絶竜巻斬りぃぃ~!!」


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