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第三章 第四話

次回で最終回です。

読んでいただけたら嬉しいです。

リアクションもらえたら、もっと嬉しいです。

前回はサブタイトㇽの話と章の順序を間違えてしまいました。

すみません。


    8月19日 晴れ

 パパ、ママ、空はこんなにも晴れているのに、私の心はどんよりしています。なぜだかわかりますか? 夏休みが終わったら、学校です。それはうれしいんですけど、学校は東京にあって、つまり、福島から離れなくてはいけないからです。もともと一ヵ月って約束でこっちに来ていたのに、すっかり忘れていました。せっかく友達が二人もできたのに、それは少し寂しすぎます。だから、リュウさんとトモさんに、何かお返しをしようと思いました。たくさんの楽しい思い出をくれた二人に感謝して、お礼をしたいんです。どんなお礼にするかは、まだ決めてません。二人が喜んでくれるお礼は、いったい何でしょうか? でも、東京に帰るっていうことを、泣かずに告げる自信がありません。東京に帰る日、8月29日まで、あと10日しかなくなってしまいました。寂しいです。

 それから……。


    8月21日 曇り

 パパ、ママ、今日はリュウさんとトモさんへのお礼が決まったので、二人にそれを言いに行ってきました。ベンチに座って、トモさんはまたコーラを飲んでいました。二人へのお礼は、ディナーに招待してシェフが腕によりをかけて作った料理をご馳走すること、です。お祭りでB級グルメを食べて感動したことで、思いつきました。リュウさんが「僕、ナイフとフォークでご飯食べたことないよ」って。そしてトモさんが「僕に至ってはナイフを持つべき左手がないよ」って。だから和食を作ってもらうことにしました。そのときに、東京に帰るって言おうと思うんですけど、やっぱり泣いちゃうと思います。だって今も泣いてるんですから。でも頑張って笑顔で言いたいです。

 それから……。


    8月24日 曇りのち晴れ

 パパ、ママ、今日は天気も味方してくれているようです。三時をすぎてから、雲が去って、青空が見えてきました。室内で食べるとはいえ、せっかくのお食事会なんですから、晴れていたほうが気持ちいいですよね。私は、思えばお友達を家に招待するのなんて初めてなので、ワクワクするというのか、緊張するというのか、力が入るというのか、そんな感じでした。私の発案にみんなが協力してくれて、格式を重んじる、と言うより、もっと砕けた感じのお食事会になるように、例えば部屋をバルーン・アートで飾ったりしてくれたんですよ。勉強をしていても、休憩のたびに「あと何時間、あと何時間」って。勉強もおろそかにはしていませんけど、待ち遠しい気持ちって、わかりますよね? 


                 *


「やっと、あと十分になった。こういうときの時間って、ゆっくり進むのね」

「そして楽しい時間は、あっという間に過ぎ去ってしまう」

「ねえ、海。私、変じゃない?」

「大丈夫です。どこに出しても恥ずかしくない、かわいいお嬢様ですよ」

 ふたりを迎えに行ったじいがもう少しで戻ってきて、そしたらお食事会の始まりです。

「私、門の前で待ってても、いいかな?」

 海がうなずいてくれて、私は小走りで門の前に行きました。すぐに車のヘッドライトが、軽い坂道を登り降りして近づいてきて、私は手を振りました。

「こんばんは。招待してくれてありがとう。これ、うちのとリュウんちのばあちゃんが、大丈夫って言ったんだけど、持ってけって」

「友達の家でご飯お呼ばれするだけだって言ったんだけど、年寄りはそういうとこ、こだわるから。お菓子」

「ありがとうございます。すみません、気を使わせてしまって。じゃあ、準備も整ってるので、中、どうぞ」

 そう、今日は砕けたお食事会の日なんです。空はまだ完全に陽が落ちる前のきれいな群青色でした。私たちがダイニングに座ると、海がそれを告げてくれて、数分後、料理が運ばれてきました。ちゃんと和食です。ふたりには、やっぱり慣れない食べ方なので、ちょっと戸惑うのかなって思ったんですけど、運ばれてくる料理を見て、おおーって、おいしそうって。そして食べたら、やっぱりうまかった、思った通りだ、いや、思った以上だって。ほっとしました。

「僕とリュウの好きなものばっかりだ。だからあのとき、聞いたんだね」

「はい。そのほうがよろこんでもらえると思って。おいしいですか?」

「うん、おいしい。こんなうまいのは初めてかも。食材も料理した人の腕も、超一流なんだね。まさにご馳走だ」

 まるで私が褒められたような、そんな気がして笑ったら、海も笑っていました。

 いつもはひとりの晩ご飯も、三人だとやっぱりにぎやかで、マナーはなってないかもしれませんけど、お喋りして、笑って、楽しい晩ご飯でした。

「ご馳走様。お腹いっぱい食べた」

「ご馳走様。おいしかった」

 リュウさんもトモさんもデザートを食べ終えて、私は弱気な自分に頑張れって言いました。

「あの、私、リュウさんとトモさんに、言わなくちゃいけないことがあるんです」

 ここまで言ったら、後はもう頭の中で何度も繰り返した通り。

「実は、私が、福島にいるのは、夏休みの間だけなんです。八月の二十九日になったら、東京に、帰らないと、いけないんです。だから、今日は、今までのお礼って意味も、あるんです。あの、本当に楽しかったです。ありがとうございました」

 ここまで言ったら、後はもう涙が後から後から流れてきて、しばらく記憶が途切れてしまいました。誰かが頭に触れたので顔を上げると、リュウさんとトモさんと海が、心配そうに私を覗きこんでいました。私の頭にあった手は、リュウさんのものでした。

「ちよりちゃん、ちよりちゃんが東京に行っちゃうのは、僕も悲しい。トモも悲しい。でも、東京には、これからちよりちゃんの友達になる人たちが、いっぱいいっぱい待ってるんだよ。ちよりちゃんのお父さんとお母さんも、待ってる。楽しいこと、いっぱいあるんだよ。ちよりちゃんなら、どこに行ったって大丈夫。かわいくて優しくて頑張り屋で、きっとみんな好きになるよ、ちよりちゃんのこと。僕もちよりちゃんと知り合えて、友達になれて、楽しかった。すごく、すごく楽しかった。だから、僕からも、ありがとうって言わせて。ありがとう、ちよりちゃん」

「僕も。ありがとう、ちよりちゃん。楽しかったよ。それに、これが今生の別れってわけじゃないじゃない。今は携帯電話のラインとかメールとか、僕はやったことないけど、あるし、パソコンでもメールのやり取りはできるし。新幹線とか使えば、東京と久澄村は、何時間かなあ? 三時間……三時間半……四時間、四時間はかからないかな。それくらいの距離だよ。手紙だっていい。電話だっていい。僕とリュウとちよりちゃんの間に結ばれた友情の絆は、そんな簡単には切れない。そうでしょ?」

「でも、パパとママは、携帯電話は中学生になるまで、家の人たち以外には使っちゃ駄目だって。病院で何か困ったときとか、家の人に用事があるときだけ、使いなさいって」

 小学生の私にとって親の言うことはほぼ絶対に近い、とリュウさんもトモさんもわかってくれて、ふたりは言葉を詰まらせました。じゃあ駄目かって、そんな顔でした。

「私からも、お願いしてみます。九月から使用許可が下りるように」

「海、いいの?」

「はい」

 私は、私からもお願いしてみようって、そう思ったら希望が湧いてきました。でもすぐに、お願いしたせいで海が怒られたらどうしようって、思いました。だから、

「海は言わなくてもいいです。私がパパとママに頼んでみます。いい返事をもらえるで何度も。最初は駄目だったとしても、リハビリみたいに毎日積み重ねてたら、いつかきっとオーケーしてもらえる日が来ると思うし、もしも中学生まで携帯電話が駄目だったとしても、手紙、書きます。リュウさんとトモさんに、手紙書きます」

 選手宣誓みたいに、私は言いました。言って、自分でも驚きました。

「楽しみに待ってるね」とトモさん。

「なんかちよりちゃん、変わったね。なんか強くなった気がする」とリュウさん。

 私が泣いたせいで空気が悪くなっちゃいましたけど、私と海と、リュウさんとトモさんで、最後は笑って初めてのお食事会が終わりました。


                 *


 やっぱり泣いちゃいました。でも、笑いました。パパ、ママ、ここでもお願いします。携帯電話、まだ小学生ですけど、使わせてください。もちろん、悪いことになんて絶対に使いませんから。約束します。リュウさんもトモさんも悪い人じゃないんですよ。

 それから、リュウさんとトモさんのおばあさまが持って行けって言ってくださったお菓子は、ママなんとかって前に言ったのとお饅頭でした。リュウさんの歌に出てきて、私が前に(15日に)食べたいって言ってた、あのお菓子です。早速明日、封を切って食べてみようと思います。感想を楽しみにしていてください。

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