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第三話 第三章

はじめまして、だと思います。小町翔平です。

自分の小説を「つまらない」と言われるのもきついけど、

読んでもらえないのも、かなりきついですね。

それとも読んだうえでノーコメントなのでしょうか?


気がつくと、もう五月が目の前ですね。なんだかウキウキしてきませんか?


    8月7日 雨のち晴れ

 パパ、ママ、今日は天使のはしごが見られました。と言っても日中はずっと雨。雨だからどうしようか迷ったんですけど、リュウさんとトモさんに会いに行ってきました。

 雨だったので、二人は外のベンチではなく、リュウさんのお店の居間でおしゃべりしていました。前に倒れたときに休ませてもらったところです。店に入るとチャイムが鳴るので、私に気づいたリュウさんが小走りで迎えに来てくれました。私は筋肉痛になったことや、海がバレーボールを買ってきてくれて、レシーブの練習をリハビリに取り入れたことを話しました。トスも教わったんですよって言ったらトモさんが「ちよりちゃんくらいの年齢だと上達も速いから、練習した分だけうまくなれるよ」って。腕が赤くなるのも、元気の印みたいで私は気にしてないのに、海は「一時間くらい腕が赤くなってしまって」って悪いことみたいに言うんですよ。そう言ったらリュウさんが「どっちの気持ちもわかるなあ」って。運動できなかったから運動したい私の気持ちも、腕が赤くなるのを気にかける海の気持ちも、わかるんですね。やっぱりリュウさんもトモさんも、優しい人です。そうしたらリュウさんが「ねえ、ちよりちゃん。8月15日にこの村でお祭りがあるんだけど、夜の6時から9時半くらいまで、外出できない?」って。海の様子もうかがいながら、聞いてくれました。もうわかってるんですね。海はうなずいてくれました。私はふたつ返事でオーケーしました。オーケーしない理由がないじゃないですか。雨がざあざあ降る中、私はとても晴れやかな気持ちで帰りました。

 それから……。


    8月8日 曇り

 パパ、ママ、今日は朝から病院へ行って、心臓の検診を受けてきました。先生に診てもらうのは、こっちに来て三度目です。先生が「おお」って言うから、何か悪いことでもあったのかなってドキッとしたんですけど、まったくの逆で「びっくりするくらい良くなってますよ」って。リハビリも、今までのメニューの次のステップに行っても大丈夫ですよ」って。明日からはジョギングもできるんです! パパとママに、私が走っているところを見せられるように、これからもリハビリ、頑張りますね。

 それから……。

 

    8月12日 晴れ

 パパ、ママ、一昨日からの雨がやっと上がりました。テレビでは久澄村の天気は表示されないので、近くの市町村の天気から予報を予想しなければならないんですけど、天気予報の予想が当たりました。村の周囲は、これから一週間は晴れ続き。つまり三日後の天気予報の予想も晴れなんです。そう、村のお祭りがある日です。花火もあがるそうです。花火ってお盆のときに帰ってくるご先祖様の鎮魂のために始まったそうですね。リュウさんが教えてくれました。でもその、花火があがる話の後で、トモさんが「内緒にしといたほうがよかったんじゃないの」って。リュウさんも「ああ、そうか」って。その後で「言わなほうがよかったかな」って聞くので「そんなことないですよ」って答えたら二人とも、よかったあって。あ、これは9日にも書きましたね。今、見返して気がつきました。

 今日はリュウさんとトモさんと私が共通して読んだことのある小説の話をしました。映画化もされている、有名な小説です。パパとママならピンとしたんじゃないですか? ヒントは、私が五歳のときにねだった魔法使いの本です。リュウさんは小説派、トモさんは映画派で、私が両方好きですって言うと「じゃあ、海さんは?」って二人で声をそろえて。どっちも譲らないんです。私、笑っちゃいました。

 それから……。

 

    8月15日 晴れ

 パパ、ママ、今日はお祭りに行ってきました。リュウさんとトモさんが「今日は晩ご飯食べてこないほうがいいよ」って言ったその理由がわかりました。夜に出歩いた経験っていうか記憶っていうかがほとんどないので、私はそれだけでまたワクワクしました。私は人の多さに驚いたんですけど、村の人以外にも、近隣の村や町から人が来るのだそうです。リュウさんは6時から9時半頃までって言ってたんですけど、私が遅れちゃって、お祭りが行われる神社に着いたのが6時15分を過ぎてしまいました。でも、私が謝ろうとするその前に、リュウさんとトモさんが「その分楽しもうね」って。暮れ始めた久澄村で、お祭りが始まります。


                 *


 人が多いので、ぶつからないように、はぐれないように、リュウさん、トモさん、私、海の順番で縦に並んで歩きました。私も海も浴衣を着ていきました。トモさんの家の前で遠い山並みを背景に記念写真を一枚撮ったんです。かわいいって言ってもらえました。遅れたのは浴衣に着替えるのを手間取ったからだったので、よかったです。

「ちよりちゃん、出店の食べ物は、基本、立ち食い、歩きながら食いだから」

「リュウ、それは違う。最近は場所を見つけて座って食うのが基本だよ」

「じゃあ、私が場所をとっておきますから、リュウさんとトモさんとお嬢様で出店を回ってきてください」

「いいんですか?」

「はい。大体どの辺が空いてるとか、わかりますか?」

 トモさんが詳しく説明して、二手にわかれました。今度はリュウさん、私、トモさんの順で歩きました。でも海も、場所をとる前にかき氷を買って食べてたんですよ。私も、名前しか知らない食べ物ばっかりだったので、あれも食べたい、これも食べたいって。出店で買った食べ物を両手に抱えて、海が待っている、トモさんが教えた、リュウさんとトモさんが秘密にしていた花火の特等席に行きました。でも、おかしいのは、両手で持たなくちゃいけないくらいに食べ物を買ったのに、二巡目に行ってくるって。リュウさんとトモさんが。だから私に、晩ご飯は食べないほうがいいって言ったんですね。私は、わたあめを初めて食べました。それから、焼きもろこし。焼きもろこしはトモさんが、

「これを食べなきゃお祭りじゃない」

って。がぶってかじりついて食べる食べ物なので、家の人たちには下品って言われちゃうかもしれないけど、私も買って挑戦してみました。口の周りにお醤油がついて、やっぱり下品だったかもしれないけど、私はおいしかったので、またいつか食べたいです。

 それと、前に久澄川に行ったときは、十分歩いたら休憩をしなければいけませんでしたが、この日は気がついたら三十分は歩けました。山道との違いがあるにしても。

「トモがそれを勧めるなら、僕はこれだな。食べたこと、ある?」

 そう言って勧めてくれたのはイカ焼きです。もちろん、食べるのは初めてです。

「これはね、顎が疲れるから、ちよりちゃんが一個丸ごと食べるのは無理かも」

「大丈夫です。食べきれない分をもって帰れるように、タッパー持ってきてますから」

「そう、よかった。おいいいよ」

 そして、リュウさんの食べ方を真似て、これもがぶっといきました。確かに噛み切るのと飲みこめるようになるまで噛むのとで、顎が疲れる食べ物だったんですけど、これもおいしかったです。半分は残しましたけど、レンジで温めればまたおいしくたべらるそうです。出店で買って食べたような食べ物を、B級グルメって言うんだそうですね。

 提灯、で合ってるのでしょうか? 吊るされた灯りが連なっていて、にぎわっていて、みんな笑顔で楽しそうで。私も二巡目に連れて行ってもらいました。海はと言うと、海には悪いけど、場所取りのために残ってもらいました。荷物も置いてありますし。その代わりに、かき氷を海の分も買って帰ったんですけど。でも、その場所は、リュウさんとトモさんの秘密の場所だけあって、ちょっと離れてはいるけど、見晴らしのいい場所で、神社の森の横手を少し上がったところにあるので、リュウさんに手をつないでもらって、気を付けて下りないといけなくて。

「慌てなくても大丈夫だよ」

 とリュウさんが言ったので、一歩一歩、転ばないように足を進めました。

「二巡目は、何を買うんですか?」

「お好み焼き、と、焼きそば」

「広島風お好み焼きだったら、両方いっぺんに味わえて、得なんじゃないの?」

「わかってないな、リュウは。別々に買って、別々に食べるのが通なんだよ。わかる?」

「まったくわからん。ちよりちゃんは、なんか気になるの、あった?」

 私は、食べ物ではなかったんですけど、気になっていたものを言いました。

 射的とヨーヨー釣りです。ヨーヨー釣りを、先にしました。こよりをぬらさないようにするのがコツなんですね。でも、それを聞いてもなかなかうまくいかないのがヨーヨー釣りの難しいところ。私が失敗して二回目をやると、リュウさんとトモさんも、それじゃあって参加して、今度は三人でトライ。これならうまくいく、と思ったんですけど、三人とも駄目で。難しいですねって言ってたら、出店のおじさんが、一個好きなの持ってっていいよって。お言葉に甘えて、ひとつもらいました。次は射的です。銃の構え方を教わって、銃の先にコルクを詰めて、よおく狙いを定めて。……結果は言うまでもなく、そんな簡単に的に当たるわけはなくて、でもいいんです。私は楽しかったです。トモさんがキャラメルをとったんですけど、後でみんなで食べようって。

 出店の二巡目では、結局リュウさんも焼きそばとお好み焼きの両方を買って、海に頼まれた分も買って、私も買って、海の分のかき氷も買って、食後のデザートにってチョコバナナを買いました。チョコバナナはバナナをチョコでフォンデュしたような食べ物と言ったらわかりやすいかもしれません。ような、じゃないのかもしれませんね。

 海が待っている秘密の特等席に戻ると、気持ちのいい風が吹いて、森の中だからか、夜になったからか、お祭りで出店がいっぱいだからか、独特の、不思議な匂いがしていることに気がついて、すう、はあと深呼吸をしてみました。

「夜って昼間と違う匂い、するでしょ」

 そう言うと、リュウさんも深呼吸しました。トモさんも、海までもがしました。

「なんでですか?」

「なんでかなあ? 気温が下がって、地面の熱が放射されるから、とか」

 それが正解かどうかはわかりませんでしたが、ああ、そうかも、と思いました。

「ボウゾモゾモギガンガジャイ?」

「口の中のものを飲みこんでから喋れよ、トモ」

「もうそろそろ時間じゃない?」

 海が時計を見ました。あと六分で八時半だそうです。花火はいつも八時半頃から打ちあがるそうなので、あと少しです。リュウさんが、それまで待つ間に、余興をすると言いました。

「何をするんですか?」

「歌を歌う。ううん、ゴホン、手拍子お願いします。聞いてください」

 ワン・ツー・スリー・フォー。そうカウントして、リュウさんは歌い始めました。私、出だしから笑っちゃいました。本当は上手なのにわざと音をはずして歌っているのか、これで精一杯なのか、判断がつかなかったんですけど、トモさんが、やっぱり笑いながら、

「下手くそー、下手くそー」

 って合いの手みたいにやじをヤジを飛ばして、私、最初に笑った後で、失礼だったかな、笑っちゃまずかったかなって思ったんですけど、ヤジを飛ばされたリュウさんも笑ってて、ついには海も我慢しきれずに吹き出して、そうしたらリュウさんも満足気で。最高の余興でした。

「どうも、ありがとうございました」

「新曲だな。福島は星がきれいって件があったけど、どの都道府県で見ても、星はきれいだと思うぞ」

「うっせえや。福島の星は一味違って、よそよりきれいに輝いてるんだよ。その辺の風情ってもんがわからんのか。かわいそうに」

歌い終わったリュウさんはトモさんにそう笑って返して、またお好み焼きを食べだしました。初めて聞いたママなんとかは何かと尋ねたら、福島の有名なお菓子の名前ということでした。小さくて細長くて甘いんだと、リュウさんとトモさんに教わりました。もし機会があったら、ぜひ食べてみたいです。

 そのとき! です。

 ヒュウウウウ、ドーン、パパパパ。

「わあ」

 緑から赤へ、そして金色に、打ち上げられた花火が色を変えて、夜空に開きました。遠くでも、ため息のような歓声が上がりました。少なくとも、私にはそう聞こえました。

 大きいの、三つ並んだ小さいの、三色の花火、どれもきれいでした。

 三十分間、打ち上げられた花火は、最後の最後にひと際大きく鳴り咲いた花火で幕を下ろしました。

「はあ、終わっちゃったね」

「うん。小学生の頃なんかは、花火が終わったら夏友やんなきゃって、思ったね。僕とリュウがちよりちゃんと同い年だった頃は。今でも全国でも夏友なのかな?」

「私、聞いたことないです。何ですか? ナツトモって」

「え! 海さんは知ってますよね」

「いいえ、存じ上げておりません」

 リュウさんとトモさんは、顔を見合わせて目を丸くしていました。ナツトモとは、夏休みの友の略で、夏休みの宿題のことだそうです。そういう名前の問題集を、宿題として出されるのだそうです。

「全国区じゃなかったんだ」

「そう言うな、リュウ。あんなにもきれいな花火の後じゃないかよ」

「そうだな。じゃあ、ちよりちゃんに質問です。今日は楽しかったですか?」


                *


 もちろん、私は「はい」って返事しました。こんなに楽しいことばかりなのに、楽しくないわけがないじゃないですか。

 リュウさんとトモさんを家まで送ってから、じいの運転で帰りました。合わせて一時間以上は歩いたのに、まだまだ元気だったんですよ。順調に回復していることがわかって、うれしいです。福島に来てよかったです。パパ、ママ、ありがとう。

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