第三章 第一話
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7月26日 晴れ
パパ、ママ、今日は初めて久澄村の人と話をしました。と言っても、本を買いに行って、ちょっとお話しただけなんですけど。……実は私、驚いた拍子に倒れちゃいました。でも心配しないでください。その本屋のお兄さんたちがすごく優しくしてくれたおかげで、すぐ平気になったの。心臓が弱いことを話したんだけど、それを秘密にしててお願いしたら、大丈夫って。でもそれが過保護って言うか、変な同情だったりしたなら、いやだなって思ったりもします。でもでも、その本屋のお兄さんはリュウさんとトモさんって言うんですけど、本、読み終わったら感想聞かせてって、言ってくれたんです。私は早く感想が言いたくて、この日記を書くほんの一分前まで読んでたんですよ。早く読み終えて感想が言いたいです。そしたら、また新しい本を買ってもいいですか?
先生に言われた通り、リハビリもやってます。疑うんなら、海に聞いてみてください。メニューの倍、やろうかと思って、止められたくらいなんですよ。パパもママも、疑ったりはしないでしょうけど。こっちに来て、東京より空気がきれいだからか、退院して順調に回復しているからか、なんだか少し体が軽くなった気がします。
それから……。
7月29日 晴れ
パパ、ママ今日は大ニュースがあります。とってもとってもびっくりで、うれしいニュースです。今日、友達が二人もできました。前に話したリュウさんとトモさんです。はっきり言うと(書くと)失礼に当たるかもしれないので、ちょっと遠回りな言い方(書き方)をしますけど、私は心臓が弱いけど、リュウさんにもトモさんにも弱いところがあって、でも三人でそれぞれの秘密を共有しあって、それで本当の友達になるんだって、今友達じゃないなら、これからなるんだってリュウさんが。二人の秘密を知ったら、パパもママも驚くかもしれないけど、それは最初だけで、すぐに「ああ、この人たち、いい人だなあ」って思うと思います。本当に優しい人たちなんですよ。私、申し訳なくて泣いちゃったんですけど、そしたらすぐに笑わせてくれました。帰りの車の中で海にどう思うか聞いてみたら、「きっといい友達になれますよ」って言ってました。あ、でも、年齢は離れてるんです。二人とも二十歳で、だから前にお兄さんって書いたんです。あ、あと、本屋なのはリュウさんだけで、トモさんの家は隣でスーパーをやっているそうです。誤解を招く書き方をしてしまったので、訂正します。また近いうちに会いに行こうと思っているので、そうしたらまた、報告します。楽しみに待っていてください。
病気のほうも、異常なしです。安心してください。もっと元気になって、今度パパとママに会う時には、走り回れるくらいになってるかも。それはちょっと言い過ぎですね。
それから……。
7月31日 晴れのち夕立
パパ、ママ、今日は初めて、福島のゲリラ豪雨を経験しました。東京じゃないから、正しくはゲリラ豪雨じゃなくて、夕立、なのかもしれませんけど。やっぱり雷は苦手です。心なしか、東京より福島のほうが雷の音が大きいように感じました。気のせいかもしれないけど、東京と福島とでは、地形も違うし、福島のほうが北にあるし、そういう関係で本当に雷の音が大きく聞こえるのかもと思いました。
今日は、二日ぶりにお友達に会いに行きました。午前中のリハビリを終わらせて(ちゃんとやりましたよ。早く遊びたいからってずるなんてしてませんよ)から、お昼ご飯までの自由時間に、海に乗せて行ってもらったんです。
*
「こんにちは」
私が挨拶すると、リュウさんもトモさんも挨拶を返してくれました。
ふたりはトモさんのお店の前のベンチに座って、山を見ていたそうです。何を話してたのか聞いたら、何にも話してなかったって。ただ並んで座って山を見てたって。毎日顔を合わせてると、話すこともだんだんなくなってくるんだって。
リュウさんは、このベンチ汚いからって、前に休ませてもらったお店の居間に案内しようとしてくれたんですけど、
「私もこのベンチに座りたいんです」
ってリュウさんの隣に座っちゃいました。ふたりには、服、汚れるよって気遣ってもらったんですけど、私も仲間入りしたくて。海がちょっと困った顔をしたので、悪いことしちゃったのかなって思ったんですけど、それなら後で謝ってもうしないようにすればいいやって、思ったんです。
「トモ、アイス三人分。ちよりちゃんには僕がおごる」
「いいです。ていうか駄目です。私も自分の分はちゃんと払います」
そう言った後で海を見たら、うなずいてくれました。リュウさんもトモさんも、私が食が細くて、なるべく間食はしないほうがいい、そして一日のカロリーを計算して食事をとってるって事情を知らないから、仕方ないですよね。海が説明すると、
「ああ、ごめんね。そういう事情があるんだ。海さんもすみません」
ってリュウさんは謝ったんです。謝るべきときにちゃんと謝れる、それは人として大切だと思いました。そして、大切なことをちゃんとできるリュウさんは、やっぱりいい人だったんだとも、思いました。
ベンチには、パラソルってあるでしょ? 海水浴とかで広げる、あれ。あれがあったおかげで直射日光は浴びなかったんですけど、日陰でも十分に暑くて、アイスはとてもおいしかったです。でも後でお昼を食べられなくなったら困るしってちゃんと考えて、アイスは半分だけにしました。
アイスを食べて、お喋りをして、遠くの山並みを見ていると、なんだか時間の過ぎる感覚がゆっくりなので、え、もうそんなに時間過ぎたの? て驚いたりもしました。
「そうだ、ちよりちゃん。動物、好き? 苦手な動物とか、いる?」
「苦手……、いえ、あ、でも、蛇とか蜘蛛は苦手です」
トモさんに聞かれて答えると、トモさんはリュウさんと目を合わせ笑いました。
「じゃあ、犬は好き?」
「はい」
「じゃあ、トモ、紹介しようよ」
「うん。ちよりちゃん、こっち来て。海さんも」
トモさんの手招きについていくと、スーパーの裏手にある玄関の前に、中型犬がいたんです。それも四匹も。尻尾を振ってわんわん吠えて、はじめは怒ってるのかなって思ったんですけど、トモさんが、お座り、って言ったらみんな吠えるのをやめてちゃんとお座りして、私はしゃがんで話しかけました。こんにちはって。
「四人全員の頭撫でてあげて。よしよしって」
「はい」
言われた通りによしよしって頭を撫でたら、ほっぺをぺろって舐められました。
「トモ、名前、教えたら」
「うん、そうだね。ちよりちゃん、右から順に、ラン、リン、ルン、レン。白っぽいのがラン、茶色いのがリン、クロが混じってるのがルン、一番小さいのがレン、だよ」
「となると、もし五匹目を飼うとしたら、名前は?」
「ロン、ですか?」
「残念。五匹目の名前は、ポンチャマ・ジンバブエ・メリケンサック」
「ロンが正解」
「僕は五匹目をロンって言いながら、心の中でポンチャマって呼ぶぞ」
「うちの家族に変な名前つけるな。リュウのばあちゃんをポンチャマって呼ぶぞ」
「ごめん。僕が間違ってた」
「だろ。ラン、リン、ルン、レン、ちよりちゃんにこんにちは、は?」
「え、できるんですか?」
「いや、できないけど、気持ち」
私は笑って、またみんなの頭とか首とかを撫でさせてもらいました。そしたら、リュウさんが面白いんですよ。
「ちよりちゃん、実はトモの家で焼肉パーティーをやるたんびに、このかわいいワンちゃんが一匹ずついなくなっていくっていうのは、ここだけの秘密だからね」
「おい、リュウ」




